日常の終わりと全ての始まり1
その場所を一言で言い表すなら『赤』。壁は赤く染まり、床は池ができたかのように赤い液体が溜まっている。その床には原型がわからない肉の塊が落ちており、塊からは今もなおペンキが流れ出していた。
そんな中で一際目を引くモノがあった。『白』、それを言い表すにはこの言葉以外では不可能だろうといえる。それだけ場所とモノは違いすぎるのだから。
・・・どうしてこんな事になったんだろう。
血溜まりの上で髪と肌を赤くして、火照る体と笑みを堪えながら少女は自身の運命を呪った。
時は現在。
私は街から結構離れた場所に来てしまっていたので、袋から取り出した干した果実を食べながら、のんびりと歩いていた。
予定よりも離れちゃったから街にたどり着くまで時間がかかるし、少しでも空腹を紛らわせないと買い食いしちゃいそうだからね。この果物は必要経費としておこう。
そうやって言い訳をしながらだけど、街に近づくにつれ自然と歩く速度が上がっていた。早くご飯を食べたいのもあるんだろうけど、なんか嫌な予感がする。ただの思い違いならいいんだけど。
街は壁に囲まれているせいで、外からは中の様子がわからない。それでも何か起こったとわかるぐらいに慌ただしい。入り口のあたりでは何人かの兵士が集まっており、出入りする人を調べているようだ。
急いで中に入りたいところだけど、行列ができているのですぐには入れそうにはないな。普通ならね。
私は門から離れた場所に行き周囲に人がいないことを確かめた後、犬になる。これなら昼の時もそうだったけど確認なしでは入れるはずだ。
そういえば出るときはギルドカードを見せたので、朝からずっと外に出ていて帰って来てないことになってるんだろう。冒険者ならよくあることだろうし別にいいか。
中に入ると門に人が押し寄せてきてる。どうやら同じ方向から来ているようだ。そしてその先は、・・・うん、考えてる暇があったら走らないと。この人ごみの中で流れに逆らって移動するのは大変だ。犬の姿だから多少はマシでも、逆にこの姿だから危ないこともある。
ある程度進むと人が減ってきて、進む速度も速くなってくる。そしてこの騒動の原因がわかってくる。火事だ。近づくにつれ、気温が高くなるのとは違った火の近くにいるときの熱さと、遠くで煙が上がっているのがわかる。
現場に辿り着き周りを見渡してみると、すでに何軒かの家が燃えている。その燃えた家に魔法や水を使って消火作業をしている人たち。泣き叫んでいたりピクリとも動かない者もいる。
火種となった家はすでに燃え尽きているのか、すでに炭となり風を通しやすくなっている。
その家の横には私が利用していた宿屋、セシアさんとミシアさんの家がある。すでに大半が焼けているが、それでも必死に動き回る姿が見えた。あの二人だ。
消火活動とは違うが、周りの家に火が燃え移らないように家を壊している。ここまで大きくなった火事はこの方法が一番効率がいいだろう。
魔法を使えばいいとも思うが、魔力だって有限だ。天候を操作できるレベルの魔術師でもない限り、この火事は止められないだろう。
今の私も外で色々実験したせいで水の魔力はほとんどない。だけどできることがある。水の魔力はないけど、ほかの魔力はある。だったらこの魔力を使う。火を消す方法は水をかけるだけじゃないんだから。
やることは簡単だ。土の魔法で土を生み出し、風の魔法で地面から集めた土と合わせて家の上空から落とすだけ。どうせ壊す予定なんだから、土の重みで家が壊れるなんて知ったこっちゃない。
一番外周の被害が少ない家は、火の魔法で火を操作し取り除く。すでに炎と言っても過言ではないが、魔力量でごり押す。取り除いた炎は、すでに燃え尽きた家の中で操作をやめる。すると魔力という火種を失った炎はすぐに消え去った。
次々と被害が抑えられていく光景に人々は唖然としながらも、すぐに作業を再開し始める。どこからか高名な魔術師が来たんだろうと希望を見出す人もいた。
だけどさすがに私も魔力が限界だ。犬の姿だからか魔法を使っているとは気づかれないけど、人の姿よりも魔法を使うのが大変なんだよ。それでもある程度は落ち着いた。後は他の人に任せて、私はゆっくりさせてもらおうかな。
そう思ったが、不意に私の耳に話し声が聞こえた。そしてその話で私は気づいてしまった。この事件の犯人に。この事件の原因に。
これを聞いてしまったら、私に休むという選択肢はなくなった。私にとって絶対に見過ごすわけにはいかない事だから。
・・・まずは犯人をどうにかしてその後原因を排除しないとね。
暗くなりつつある町の中、私はその声の主をつけていった。