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第四話{鉱山村脱出編~鬼さんこちら 蹄の鳴る方へ~}

間幕世界観紹介『魔法の道具』


 魔力が込められたアイテムをマジックアイテム。または、魔力の込められた物品等と呼称される。


 魔術師ソーサラーワンド指輪リング

 妖精使フェアリーテイマーいの宝石等、魔法の使用に関わる物全般はこれにあたる。

 他には、神官プリーストの持つ聖印ホーリーシンボルや、魔動機師のマギスフィアがこれに該当する。



 それだけでなく、マナの結晶である魔晶石。魔法によって鍛えられた魔剣。更にはかけると眠れなくなる眼鏡に、足の速くなるブーツ等、魔法の品とされる物は多く存在している。



 それらは便利な効果をもたらす為、冒険者も数多く使用するが、物品にかけられた魔法を解除されたり、魔法の物品がある事を探知する魔法や道具によって探知される等、決して弱点が無い訳ではない。魔法の品と言えども、万能の品ではないのだ。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 早朝。ウサダは宿を出て、昨晩の騒ぎもあって昨日とまるで違う雰囲気の漂う村を歩き、村長の元に向かった。

 敵がオーガならば、確認すべきことがある。

「……怪我人や行方不明者がどれだけ出たのか確認するため、点呼を取りたい」

 ウサダの頼みを、村長は引き受ける。

 ウサダが宿に帰って他の三人を呼ぼうとした所、宿屋の屋根の上からハーモニカの音色が流れてくるのが聞こえた。

 ローテンポで、物悲しく、それでいて、心を落ち着かせるような優しさを感じさせる唄……【レクイエム】だった。

「……起きていたのか、ヴェレッタ」

 屋根の上にいるヴェレッタに、ウサダが問いかける。

「ああ……おはよう、おっさん」

 ヴェレッタは演奏を止めて、ウサダに挨拶をする。その声に何時もの活発さは感じられず、どうにも本調子では無さそうだ。

「村全体で点呼を取る様に頼んでおいた。ヴェレッタ、お前達も集合だ」

「ああ……わかった」

 ヴェレッタは屋根から飛び降りると、三階の高さだというのに綺麗に着地した。

「……今日はずいぶんと元気が無いな」

 ウサダは、答えが分かりきった質問をする。

「…………負けちまった、よな」

 ヴェレッタは、とても弱い声で呟く。

「そうだな、俺達は負けた。そして、ロングストライドの気紛れで生かされた」

 ウサダは、なんて事の無いような調子で言う。

「…………なんで」

 ヴェレッタは今にも泣きそうな顔で俯く。

「何で、おっさんは平気なんだよ」

 ヴェレッタの問いに、ウサダは煙草の火をつけて、煙を漂わせながら答える。

「確かに俺は負けた。だが、生きている。そして、俺は自分には負けていない。だが、お前は奴に負けて、たった今、自分にさえ負けそうになっている」

 ゆっくりと煙を吐きながら、ウサダは続ける。

「『敵が自分より才能がある、強い、数が多い、よくある話だ。だが、結果を恐れるな。お前が正しいと思う方向に舵を取れ。真に恐るべきは、己の弱さに負ける事だ』……お前は、奴だけじゃなく、己にすら負ける気なのか?」

 ウサダはヴェレッタに、”ウサダの格言”を聞かせる。

「………………嫌だ」

 ヴェレッタはしばらく黙り込み、そして、顔を上げて呟く。

「負けるのは二度とごめんだ! 誰かの気紛れで生かされたり、奪われて何も出来なかったりなんてのは! もう嫌だぜ!」

「……そうか。なら、負けない為に自分が出来る全てを尽くせ。そして、例え負けても己に負ける事だけは絶対にするな……。分かったな?」

 ウサダは無表情で、しかし、内心では感心しつつヴェレッタに言う。

「ああ! ……ありがとな、おっさん」

 ヴェレッタは元気良く答え、ウサダに礼を言った。

「にしても、おっさんは凄いよな。色んな事を知っているし、負けても立ち直れる、それだけじゃなくて俺の手を引いて立ち直らせた。まるで歴戦の戦士って感じだな」

 ヴェレッタは素直な感想を言うが、それに対してウサダは肩をすくめて答える。

「買いかぶり過ぎだ。俺はただ、無駄に年を食ったウサギだ」





 朝、村の広場に村人全員が集まってくれた。

 村人は皆、夜通しの消火活動で憔悴しているが、結果的に命を救われたケントや、消火活動や蛮族退治の功績、村長の後押しもあって、全員を集める事に成功した。

 その中には、旅の神父や商人と護衛も居て、点呼を取ってみた所、ロングを含む三人が行方不明だという事だった。

 ウサダは全員が広場に居る事を確認し、大型のマギスフィアを取り出すと、あるコマンドを入力する。

『……コマンドワード入力【マナサーチ】』

 それは、周囲に存在する魔法の込められた物品を調べる魔法で、その範囲はマギスフィアの性能に依存する。大型の物であれば、周囲50mまで探知する事が出来て、此処の広場全体程度であれば十分に調べられる。

『検索中………検索中………検索終了。結果表示。該当する物品の位置を表示します』

 無機質な声と表示で、魔法の結果をマギスフィアは使用者に知らせる。そして、帽子で隠れたウサダの顔は、その結果を見て怪訝な表情になる。

「……ちょっと良いか?」

 ウサダは他の冒険者三人を集め、こっそりと作戦会議を行う。

「サーチ結果が出た。俺達以外は誰も魔法の道具を持っていない。……旅の神父ですらな」

 その言葉に、ヴェレッタとカタリーナは見て分かるほど驚く。

「ちょっと待てよ。確か神官プリーストの持つ聖印ってのは魔法の品じゃなかったか?」

「確かにそうね……一人で布教活動をする程の神父が、まさか神聖魔法の一つも出来ないなんてないだろうし」

 二人が首を傾げる。信仰する神の象徴シンボルである聖印は、神官ならば誰しも一つは持つ品物で、それは教会で洗礼を受けた魔法の代物である。そして、それを所有しなければ、プリーストは神聖魔法の行使は出来ない。

 そこで、レイチェルが小さく手を上げて発言をする。

「そう言えば、昨日は怪我人の応急処置等もしていたのだけど……その場所に、あの神父は居ないようだったわ」

 その発言に、ますます謎は深まる一方であった。

「奴らはガンを好む傾向があったので、マギスフィアが無いかどうか一か八かサーチしたが……逆に神父にも何も反応が無いのは妙だ」

 ウサダはそう言い、神父を顎で指しつつ提案をする。

「……少し、探りを入れてみるか? はっきり言って不気味だ。盗まれたのか最初からないのか知らんが、味方なのか敵なのか正体を見たい」

「そうだな、本当に神父じゃないなら、何者なのかは調べときたい」

「確かに。正体は知りたいね」

「そうね、知っておいて損はないはずだわ」

 ヴェレッタ、カタリーナ、レイチェルはそれに頷き、そして、どうやって探りを入れるべきかを考える。

「そういえば、ヴェレッタ。まだ昨日の怪我が治りきっていないな」

 ふと、何かに気が付いたようにウサダはヴェレッタを見る。

「ん? ああ、たいした怪我じゃねぇよ」

 ヴェレッタは気が付いていないようだったが。その視線の意味に気が付いたカタリーナがこう言った。

「なるほど、神父にこの怪我を治して欲しいと頼むのか。それで、正体を見極める」

「ご明察。満点だ」

 ウサダはカタリーナにぽむぽむと拍手を送る。

 そこに、話が一段落したのを見て取ってか、村長がやって来て言う

「皆様、何か分かったでしょうか。流石に皆疲れております。いなくなった三人の事が気になりますが、一度お開きにしてもよろしいかな?」

「今この村は、非常に危険な状態にあります。差しあたって解散は少しだけ待っていただきたい。協力してくれますか?」

 ウサダは頭を少し下げて言う。

「そうおっしゃるなら……。しかし、旅芸人さん方はどうにも事情がお有りのようだ」

 村長は一応了承するが、やや怪訝な表情をこちらに向けてくる。

 ウサダは仲間達を一瞥しアイサインを送ると、それに頷いたのを確認してから村長に訳を話す。

「驚かないで聞いてほしいのですが……私達はこの村が蛮族に狙われている可能性を知った上で、此処に蛮族退治に来た冒険者なのです」

 村長は少し驚いた顔をしたが、実際に蛮族が居た事、そしてそれに応戦出来た事から、むしろ納得がいったという様子だった。

「なるほど……わかりました。村の者には私が話をしましょう。他に協力出来る事ならなんでもおっしゃってください」

 村長はそう言って、ひとまず冒険者から離れようとした所に、カタリーナが話しかける。

「ちょっと待ってください。一つ……いえ、二つお願いしたい事があります」

「はい、なんですかな?」

 村長は振り返る見る。カタリーナは村長に用件を伝える。

「村の皆の前で、旅の神父と話をさせてください……。そして、もしも何かがあったら、村人を静める事も」




 ウサダ、カタリーナ、怪我をしたヴェレッタは、村の全員が見守る中、集団から呼ばれて出て来た神父と向き合い、話す。

「さて、何用かね?」

 神父はまるで呼ばれる事は想定内かのように落ち着き払った態度で、用件を聞く。

「……彼が怪我をしているのですが」

 ウサダはヴェレッタを指して神父に言う。

「いやー昨日の騒ぎに巻き込まれてこの有様でね」

「治療をお願いできませんか?」

 ヴェレッタが怪我を指差し、カタリーナが治療を頼む。

「その傷は銃創のようにも見えるがね?」

 神父はわざとらしく首を傾げる。

「治していただけませんか? 彼は蛮族に撃たれながら懸命に戦った勇敢な戦士です」

 無表情のまま、ウサダが神父に頼み込む。

「いてててー傷が痛むー」

 ヴェレッタはやや大げさに痛みを訴えて、神父を揺さぶろうとする。

「…なるほどね、宿に救命草がある。それで治療しよう」

 神父は得心したように言い、予想外の提案をする。カタリーナは露骨にビックリした様子を見せて。

「あれれ? 治癒魔法で治すのでは?」

「嫌だー俺はお薬は嫌いなんだー!!」

 ヴェレッタはどうにかして神父の正体を明かすべく、まるで本当に薬を嫌がる子供のように演技をする。

「何時になっても子供っぽくて困ったものです」

 ウサダは演技に乗ったのか、それとも演技に呆れたのかわからないが、肩をすくめながら言った。

「すまないが、私は魔法は使えないのだよ」

 神父は肩をすくめ、何故かあっさりと事実を明かす。

「……何故?」

 問いただすウサダの双眸が、僅かに鋭くなる。

「信仰が足りなくなってしまったからかね。ある一時を境に、私は神の声が聞こえなくなったのさ。聖印ももう持ち歩いていない。不要な物になってしまったからね」

「信仰を失うとは・・・・・何か、あったのですか?」

 カタリーナは理由を聞くが、神父は。

「色々ね……まぁ、君達も冒険者なら、深くは聞かないで欲しいな」

 一般論を諭しながら、その質問を回避する。

「魔法が使えなくても、救命草を使って神父を続けるとは流石ですね。今でも怪我した人たちを治すのが生きがいなのですか?」

 ウサダは別の切り口から質問をする。一般論は御尤もだが、今の状況では神父が何者なのかを把握しなければ危険だ。

「いいや、過去の習性だね。説法を目的にしなければ、救済を口にしなければ、街も渡り歩けない。それだけさ」

 神父はそう答える。”昨日は怪我人の治療に付き合っていない”にも関わらず。

「……昨日、俺達はほとんど徹夜で怪我人を治した。だが、神父殿の姿は一度も見ていない」

 ウサダは煙草に火をつけて話し始める。

「昨日はなぜ救助活動に参加しなかった? ヴェレッタを治すくらいは出来るんだろう?」

「酒を飲みすぎていた、と言ったら信じてくれるかね?」

 神父は表情を変えずに、言い訳をする。

「そうか、よくある話だ。人間ならな」

 ウサダは煙をゆっくりと吐く、そして、神父に向き直りつつ問う。

「神父殿、もう一度神に誓って答えて欲しい。あなたは人間か?」

 ウサダの真っ黒な瞳が、神父の目をまっすぐに見据えつつ、誓いを求める。

「私は人間だよ。何に誓ってもいい」

 神父はまったく動じる事無く。目を逸らさずに誓う。

 数秒、そのままの状態が続く。やり取りを見守る冒険者達、村人達にも緊張感が漂いだす。

「……分かった。神父殿を信じよう」

 ウサダは帽子をかぶり直して言った。ウサダの目には、彼は嘘吐きだと映らなかった。

 神父はそのウサダの判断の結果を聞いてから、逆に冒険者に尋ねる。

「ところで君達は、蛮族を探しているのだろう……。それも、全員を一箇所に集めて、帰そうとしない。となると相手は、人の姿に化ける事が出来る輩だね?」

 村が少しざわつく。

「……それで?」

 瞬きひとつせず、ウサダは神父を見る。

「君達が昨晩戦った相手は、オーガかな? もっと言えば、その名は……」

「……ロングストライドと名乗ったけど、知り合いなの?」

 カタリーナが神父の変わりにその名を言い、心当たりを尋ねる。

「やはり彼なのか! どうやって彼から生き残った。まさか倒したのか?」

 その名を聞いて、今まで殆ど表情を動かさなかった神父の表情が一変する。

「……見逃されたのよ」

「そう、あいつの気まぐれで、俺達は生き残れた」

 カタリーナとヴェレッタが言う。カタリーナは密かに、ヴェレッタは見て取れるほど悔しそうに。

 神父は納得したのか、息をゆっくり吐きながら言う。

「そうか……。確かに奴は気まぐれだ。それも、自分の計画を狂わせる要素を敢えて残す。生かされたなら、見込まれたのだ……私と同じようにな」

「ゲームの為に見逃された、という訳か」

 ウサダの言葉に、神父が頷く。

「ロングストライドと神父さんがどういう関係なのか、奴が何者なのか、それを俺達に聞かせて欲しい」

 ヴェレッタが神父に尋ねるが。

「話すのは構わないが…相手がロングストライドなら、この村からの脱出が先決かもしれない」

 神父は質問を聞きつつも、答えない。

「どういう事だ?」

 ヴェレッタの言葉に、神父は説明を始める。

「蛮族には現在、大きく分けて二つの勢力がある。一つは組織的に人間への報復を企む者。そして、もう一つは一般的に知られる蛮族らしく、気ままに振舞うものだ。ロングストライドは前者に所属する」

 此処で一旦言葉を区切り、人差し指を立てながら。

「彼が計画の為に此処に来て、そして悠々と立ち去ったなら、それはこの村にはもう価値が無くなったという事だ。蛮族にとって、価値のない人間は……何だと思うかい?」

「……食料か」

 ヴェレッタの答えに、神父はこう言う。

「その通り。つまり、この村から村人全員で離れる事が先決という事だ」

 そこへ、話を聞いていたのか、やや騒々しくなる村人達の中から村長が現れる。

「静かにしてくれ……さて、神父さんに冒険者さん。話は聞いておりました。急いで村の者と共にカシュカーンまで向かいましょう」

 ざわつく村人達を一声で静かにさせつつ、手早く話を進める。

「でもどうやって離れる? 旅なれた俺達はともかく、この村の住民は?」

 ヴェレッタが村長に尋ねる。

「ご心配なく。村には荷馬車が四台。最低限の食料や水を持って、着の身着のままで全員詰めれば乗れるぐらいの大きさはあります。ただ、肝心の馬車を引く馬が少ないので、皆様方の乗って着た馬を借りて、ようやく足りるのですが……」

「俺達の馬を借りるのは問題無い。……だが、村人達は此処を離れる覚悟はあるのか?」

 ウサダは村長に心配そうに尋ねる。稼ぎ場所から離れて旅をするのは、並大抵の覚悟ではない。

 しかし、村長はご心配なく、と前置きし。

「この大陸で人の理が通じるのはカシュカーンだけです。この大陸に住まう者は皆……当然、私や村の者達も心得ております。それに、実際に蛮族が村に出て、そして危ないとわかれば、此処に居る方がむしろ危険ですから」

 そう答えた。村人達の様子を一瞥すれば、やや騒がしかったものの、今は全員が覚悟を決めた瞳をしている。

「……話は纏まったようだね。さて、早速準備を進めよう。君達も宿に行って荷物を取ってくるといい」

 神父はそう言って、自分も準備を始めようと宿に向かおうとする。それをカタリーナが呼び止める。

「ちょっとまって、聞き忘れていたけど、あなたの名前は?」

「名乗っていなかったね。ネイサンだ。お前達は?」

 ネイサンと名乗った神父は聞き返してくる。

「ネイサンか、よろしくな。俺は決闘者デュエリストヴェレッタ。こっちは俺の姉貴分のカタリーナで、このおっさんが……」

「ウサダだ。さっきは疑って悪かった。よろしく頼む」

 冒険者達も、此処に居る全員は自己紹介を済ませる。そして、此処にいないもう一人はと言うと。

「あら、話はまとまったようね」

 ネイサンの死角から、何時の間にかこっそり接近して後ろに立っていた。今まで村人の中に紛れて隠れていたレイチェルだ。

「……そして、そこの美人がレイチェルだ」

 神父の背後を指さし、ウサダが紹介をすると、ネイサンはくるりとレイチェルの方向を振り返り……一瞬、ロングストライドの話題以外で動じなかった彼の表情が、見て取れる程に動いたのが見えた。

「ふむ。よろしくね」

 だが、ネイサンは直ぐに表情を戻して、挨拶を返す。

「まぁ、気を取り直して、早速準備を初めようぜ」

「村の者達と馬車はこちらでまとめておきますので、皆様は自分達の準備を進めてくだされ」

 ヴェレッタが仕切りなおし、村長が村人側の準備のまとめを引き受けて、それぞれはそれぞれの準備を始める。






 準備の途中、レイチェルの残弾が少ない事に気がついたウサダは、自分のベルトから予備の弾丸を四つ抜き取り、差し出す。

「返さなくて良い。無駄にしないと信頼している」

「うふふ、信頼してもらえてうれしいわ」

 レイチェルは自分のポーチに弾薬を入れ、ジェザイルに弾丸を込めてゆく。







 馬車は村にあった三台が幌馬車で、商人が乗って来た一台は木材と金属パーツを組んで出来た丈夫な馬車。馬車は先頭に商人の馬車、その後ろに村長が乗った幌馬車が一台、その一台を囲むように左右にもう一台ずつという、上から見れば三角の形、もしくは十字の下の線が無くなったような陣形になっている。

「姉ちゃん、そっちは任せた。おっさん、遊撃頼りにしてるぜ。ネイサン、遊撃の足は任せた。ダンサーさん、何時もの狙撃、頼りにしてるぜ」

 ヴェレッタは各々に声をかけて、自分の持ち場につく。ヴェレッタは進行方向を向いて左側の馬車、カタリーナは右側の馬車、レイチェルは先頭の馬車に乗る。一方、ウサダの乗って来たポニーは馬車を引くのには使えなかったので、小柄なネイサンが手綱を握り、その後ろに乗ったウサダがガンを何時でも抜ける体勢で構え、馬車を後方から追って行く。必要に応じてポニーは位置取りを変えつつ戦闘を行える、遊撃の構えである。

「レイチェル嬢やカタリーナ嬢でなくて申し訳ない。むさ苦しい二人乗りだが、神父殿よろしく頼む」

「ああ、よろしく、ウサダ」

 自嘲気味に言ったウサダだが、ネイサンは表面上はそこまで気にした様子を見せていない。

レイチェルは先頭を走る商人の馬車の屋根に上り、前方を中心に警戒をしつつ、この位置から全方向にジェザイルによる狙撃を行えるように構えている。

 ヴェレッタとカタリーナは幌馬車の後ろのスペースから身を乗り出し、後方とそれぞれ左右の方向を警戒している。

 出発の準備が整い。警備の割り振りが決まり、太陽が昇りきったあたりの時間に、四台の馬車は出発する。灼熱の太陽が照り付ける中、狭苦しい荷馬車で汗だくになりながら、鉱山の村から離れてゆく。

 カシュカーンまでの道のりはおよそ二日。危険なレーゼルドーン大陸では、その間に何もないとは考えにくい。馬車のきしむ音を耳に、時に村人は不安を口にだし、時に抱え込み、太陽はゆっくりと落ちてゆく。

 祈りが天に届いたのか、それともただ運が良かっただけなのか、移動を開始してから日が落ちるまでに敵襲は無く、緩やかに時間が過ぎてゆく。

「そうだ、あんた、ハーモニカが上手だったよな。ちょっと歌ってくれないか?」

 少しでも緊張を和らげたいのか、村人の一人がヴェレッタに頼む。

「そうだな、あたりに敵さんもいないし、一曲演奏させてもらうか」

 ヴェレッタは警備がしばらく暇になりそうな事を確認しつつ、短い曲を一つだけ演奏し始める。

 アップテンポで軽快なメロディーに、村人達の不安は少しでも取り除けたのか、演奏が終わると小さく歓声と拍手がヴェレッタに送られる。

 そうこうしているうちに、日は沈みかけ、岩場の多い場所に馬車はたどり着く。

 あらかじめ村長からは、ただでさえ村人達は憔悴しているので、夜はしっかり休みたいと申し入れがあったため、そろそろ野営場所を決めて休まなくてはいけない。

 目を凝らし周囲を見渡すレイチェルは、ふと、岩場の中で気になる物を見つけ、それを他の全員に伝える。

「はいはい、みんな聞いて下さいー。あちらの方に安全に休めそうな洞穴がありましたよ」

 手をパンパンと打ち、見つけたそれを伝える。先頭の馬車を駆る商人がレイチェルに方向を聞くと、レイチェルは【フラッシュライト】で、その方向を指し示す。

 指し示した先には、確かに洞窟があり、それなりに奥が深い。大人数では安全に野営を行う場所を見つけるのも一苦労だが、あの洞窟が安全であれば、非情に野営に適した場所になるだろう。

 馬車は一旦、洞窟の前で足を止めて、レイチェル、ネイサン、ウサダが中を確認したが、蛮族や危険な野生動物が暮らしている痕跡もなく、今晩の野営の場所が決定した。



「はい、おまちどう様」

 洞窟の前で焚き火を行い、カタリーナと村で食堂を経営していた人達が、料理を振る舞う。

「やっぱ姉ちゃんの料理は上手いな、野営中の癒しだぜ」

 ヴェレッタは夢中になって自分の分の料理を食べる。

「……カタリーナは食堂を経営できるんじゃないか?」

 ウサダは表情こそ動かさないが、美味い料理を食べて、心なしか嬉しそうにも見えなくはない。

「……」

 ネイサンは静かに祈りを捧げた後、無言で食べ始めるが、特に味に支障を感じてはいない様子だ。

 村人達も状況が状況だけに和気藹々とは行かないが、不安の多い旅路の中、束の間の団欒に腹だけでなく心も満たしている。

 食事の時間が過ぎれば、沈みかけた日も落ち、月明かりと星の輝きが静かに地を照らし始める。

 旅人や辺境の村では、夜更かしの習慣は無い。せいぜい鉱山の村では酒飲が酒場に集まる位であり、旅人は日の光を無駄にしないように行動する為、暗くなったら行動をしないのが基本だ。

 それだけでなく、ただでさえ憔悴している状態の為か、村人達は食事が終わり、夜が降りてくるや否や直ぐに洞窟で寝支度を整えて眠りについてしまった。

「夜の見張り番は交代でしよう」

 ヴェレッタは仲間達とネイサンにそう言う。

「演奏と料理で疲れただろう。先に俺がやろう」

 ウサダが先に見張りをする事を名乗り出る。

「じゃあ、私もウサダさんと一緒に月でも見ているわ」

 レイチェルも、ウサダに乗っかって名乗り出た。

「それじゃ、先に仮眠を取っているわ」

「OK。三時間経ったら起こしてくれ」

 カタリーナとヴェレッタはそう言って、洞窟の奥に入ってゆく。

 ネイサンは冒険者達を一瞥し、少し考え込んでから、こう言う。

「私は彼らに付こう。君達二人なら問題はなさそうだからね」

 それは、暗にヴェレッタとカタリーナが見張りをするのに必要な危機感知の能力に不安が有る事を言っているのだが、戦力の配分として理にかなっているのは間違いなかった。

 反論もないので、ネイサンは手を軽く振ってウサダとレイチェルに見張りを任せると、洞窟の奥に消える。

「了解」

 ウサダは煙草に火を点け一服しつつ、洞窟の入り口に構えて見張りをする。

 レイチェルも同様に、洞窟の入り口周辺に気を配る。




「……」

 見張りを開始して数十分、月を眺めて思いに耽るウサダの様子を見て、レイチェルが静かに声をかける。

「……何か、思うところがあるのかしら?」

「……自分は昔と何ひとつ変わっていない。そう思っただけだ」

 ウサダはレイチェルを振り返らず、月を見ながら答えた。

「なるほど、あなたも場数を踏んできたようね」

 レイチェルはくすくすと、軽く笑いながら話す。

「レイチェル程じゃない」

 ウサダは肩をすくめる。そして、ヴェレッタを短くなった煙草で指しつつ。

「あいつは若い。だが、良い戦士になる。俺よりもっと、もっとだ。何かあった時は、年寄より、あいつを優先してやって欲しい」

 そう、レイチェルに頼む。

「うふ、カッコつけちゃって。でも、嫌いじゃないわよ、そういうの」

 レイチェルは軽く茶化しつつも、軽く手をあげて了解の意を伝えた。

 村人達の寝息がかすかに木霊する洞窟内で、二人は夜空を見上げて語り合う。

 二人の見張り中に、何かが起こることはなく、交代の時間が訪れる。

「……時間だ。呼んで来る」

 ウサダはレイチェルを持ち場に残して、ヴェレッタ達を呼びに行く。

「ほら、時間よ」

「はっ! なんだ姉ちゃんか……」

 ウサダが交代の時間を告げに洞窟内に向かった頃には、既に起きていたカタリーナがヴェレッタを叩き起こしていた所だった。

 ネイサンは特に何も言わずとも起き上がり、持ち場に向かった。

「……後は頼んだ」

 それだけ言って、ウサダは寝床に潜り込み、寝返り一つせず眠り始める。

 カタリーナはヴェレッタが起きた事を確認すると、ネイサンに続いて持ち場に向かう。寝ぼけ眼で目を擦りながら、ヴェレッタは装備を持ってそれについて行くと、それを見たレイチェルが。

「ふふっ、寝坊助さんね。それじゃ、おやすみ」

 と、ヴェレッタを茶化すように笑って、ヴェレッタが何か言い返す隙も与えず洞窟の闇に消える。

「……何か、皆が俺の事を子供扱いしている気がするな」

 ヴェレッタが溜め息を吐きながら一人言を呟く。

「実際そうでしょ。ぼやかないで見張る」

 ぼやくヴェレッタを、カタリーナが叱咤する。

「ッ……それより、朝に神父さんに聞いた事、まだ聞いてなかったよな? 聞かせてくれよ」

 ヴェレッタは無理やり話を変えるように、ネイサンに話を振ると、彼は少し肩をすくめながらも話に付き合ってくれる。

「私は奴を追い続けて長い。始まりは些細な事だった。私は君達と同じく冒険者で、同業と同じようにパーティを組んでいてね。私達のパーティはカシュカーンではそれなりに成功していたよ。名の知れた蛮族達も倒してきた」

 月を眺めながら話すネイサンは、何処となく懐かしそうでも有った。

「……だが、それは長く続かない。名誉にこだわる者、物欲を求める者……。思想の違いから、何時しかパーティは自然に解散した。それ以来、私はカシュカーンで神父をして、彼らの事は時折聞いていたが……ある時、一人が仕事をしくじって行方不明になった」

「冒険者が行方不明って……つまり」

 カタリーナが呟くと、ネイサンは。

「察しの通り。死んだという事だ」

 何て事のない、当たり前の事を、当たり前の様に話す。そして、元の話を続ける。

「行方不明になった彼は、腕の立つ剣士だった。気になった私は仲間達にまた声をかけて、彼が受けたという仕事を探った。そこに現れたのがロングストライドの一味だった……仲間に化けていた彼に、一瞬気が緩んだ。ほんの一瞬だ。その一瞬で、私以外の仲間達は殺された」


「……すまん。軽く振って良い話じゃなかったな」


 ヴェレッタは謝るが、ネイサンはどうという事は無い様子で

「気にするな」

 そう言った。それが気遣いからなのか、本当に今となっては何も感じないのかは、彼のみぞ知る事だが。

「仲間達を殺してから、彼は私を嘲笑ったよ。あの調子の笑い方でね。そして言ったんだ」

 ネイサンは此処で、一旦言葉を区切って。

「”生かしておいてやる、俺を邪魔してみろ”とね……。私はそれ以来、奴の目的を追いかけている。今となっては神の声も聞こえなくなって、私に何が出来るのか分からないけれどね」

 そこまで話して、ネイサンはゆっくり息を吐く。

「少し話し過ぎた。これで話は終わりだ」

 そう言って、ネイサンは洞窟の外を眺める。ヴェレッタとカタリーナはこれ以上は何か聞かず、また、他の話もせずに見張りを続け、沈黙が支配する中で、日が見え始めるまで見張りを続けた。

 幸い、この日の晩は何も危険な事は発生せず、次の日の朝を迎えた。





 出発して、二日目の朝。軽い朝食を取った村人と冒険者達は、また馬車に鮨詰めになりながら乗り込み、前日と同じ陣形を整え、カシュカーンに向かう旅路に戻る。

「可能なら、今日中にカシュカーンにつきたいわね」

 馬車に揺られつつ、カタリーナは呟く。早馬を飛ばせば可能だろうが、大型の馬車やや難しいかもしれない。

 日が昇って行く中、ヴェレッタが周囲をの様子を窺っていると、遥か遠くに数人の影が見えた。その影もこちらに気がついたのか、それはまっすぐこちらに向かってくる。

 四本の逞しい足に、軽快な蹄の音を鳴らして駆けて来るその影の正体は、一見して馬のようにも見える。だが、探していた得物を見つけて雄雄しく唸り声を上げながら突進してくるそれは、鍛え上げられた屈強な男のようでも有り、事実それは両方だった。鍛え上げられた肉体を簡素な皮鎧で身を包み、手にガンを構え、肩にガンベルトをたすき掛けしたその戦士達は、下半身が馬のそれであり、四本の足で荒野を駆け、迷う事無くこちらに向かってくる。

「あれは……追っ手の蛮族か?」

 ヴェレッタが後方から馬車を追うネイサンとウサダにその存在を伝え、示された方向を見たウサダはこう返す。

「ケンタウロス……蛮族の中でも戦士の一族と知られ、正々堂々名乗りを上げて戦う事に誇りを持つという」

 ケンタウロスの集団は全部で三体。それらが馬車の後方に付き、雄叫びを上げながら突進してくる。

 彼らの得物はサーペンタインガン。こちらの得物と射程は同じ。つまり、お互いの射程内に入っての正々堂々の勝負となる。

 ヴェレッタ、カタリーナ、ウサダはそれぞれの武器を構え、虎視眈々と射程内に入るのを待ち構える。

 そこで突如、ケンタウロスの集団の先頭を走るリーダーらしき一体が、歩を緩めて他の二頭と足並みをそろえつつ、空に向けてガンを放つ。放たれた弾丸は上空10m地点で発光し、音と共に周囲にその存在を知らしめる。空に放たれた弾丸は【シグナル・バレット】だった。

「信号弾!?」

「……恐らく、機動力を買われた奴等の斥候だろう。来るぞ」

 ヴェレッタの驚く間も無く、一列に並んだケンタウロスは武器をこちらに構える。距離は、20m、15m、そして10mまで接近する。

「…………すぅー………『【ソリッド・バレッド】、リピート!!』」

 ヴェレッタは呼吸を整え、体内のマナを活性化させつつ、射程内に入った瞬間を狙い、二発の弾丸を一体のケンタウロスに撃ち放つ。命中した弾丸に血を流しながら大きく仰け反る、絶命させるまでには至らないが、その一撃で一体は歩みを止める。

『【エフェクト・バレット】……モード・アース』

 ウサダは別の一体にすかさず狙いをつけて、弾丸を撃ち込む。それは【ソリッド・バレッド】とは威力はさして変わらない魔法弾……だが、ケンタウロスに取っては、あらゆる弾丸よりも苦痛を与える存在。【エフェクト・バレット】は様々な属性付与を行える弾であり、ウサダが付与した”土”の属性は、ケンタウロスにとっては致命的な弱点である。それを受けて、ケンタウロスは痛みに悶え苦しむ。

「遅い馬だ。こっちのポニーの方がよほど名馬だ」

 しかし、もう一体のケンタウロスがガンをウサダに向け、コマンドワードを淀み無く詠唱し、寸分違わぬ狙いをつけて、ウサダの回避運動よりも早く引き金を引き、その弾丸は……撃たれる事は無かった。

「ふふっ、余所見をしちゃイヤよ……」

 レイチェルがジェザイルから放った弾丸が、撃とうとしたケンタウロスの頭蓋骨を割り、その攻撃の寸前に絶命させていたからだ。

 最後の一体が一糸報いようと痛みを堪えてガンを向けたが。すかさずそこに二発の弾丸が飛んでくる。

『【ソリッド・バレット】リピート!』

 撃ったのは、カタリーナ。痛みによろめいていたケンタウロスはその一撃を避けきれず、地に倒れ伏す。

 馬車を追えるケンタウロスは居なくなり、冒険者達は敵の襲撃を退けた……だが。

「……信号弾が撃たれた事を考えると、そう遠くない所から増援が来る恐れがある」

 馬の上で弾丸を込めなおしながら、ウサダは仲間達にそう伝える。それに冒険者達や神父は頷き、村人達は襲撃と追撃の可能性に不安の言葉を口々に出す。

「御者さん! 少し速度を上げてくれ!」

「は、はいっ!」

 ヴェレッタは馬車を駆る御者達に伝え、御者は速度を上げる。ネイサンは何もいわずにその速度に合わせ、後ろからそれを追う。



 日が昇り切る頃合。不安要素であった追撃は無く、もしくは撒けたようで、追っ手の襲撃は無かった。

 しかし、不穏な影は蛮族の襲撃だけではなく、道行く先にも見えていた。

「……あれは、何かしら。ちょっと止まって!」

 前方にあるそれを見たレイチェルが、御者達に一旦止まるように頼む。御者達は言われたとおりに、馬車を一旦停止させる。

「レイチェル、何かあったのか?」

 止まった馬車の後ろからポニーが前方に回り込み、ウサダがレイチェルに何があったのか尋ねる。レイチェルは前方にあるそれを指し示す。

 それは、朽ちた馬車だった。幌には穴が大量に空き、枠組みは崩れ、馬の姿も無い。馬車とその周辺には幾つもの乾いた血痕がこびりつき、壊れた馬車には明らかに人為的に付けられた傷がある事が、そこにあった出来事――野盗や蛮族の襲撃――を、容易に想像させる。

「……先に行って様子を見てくる。ネイサン、頼む」

「了解」

 ウサダはネイサンに頼み、ポニーと共に馬車周辺を自分の周囲50m以内に納められる距離まで接近する。そして、マギスフィアにコマンドを入力する。

「……『【マナサーチ】』」

 与えられた命令コマンドに、マギスフィアが答え、結果を表示する。馬車の辺りにある魔力反応は、一つだけ。

 ウサダは結果を見て、そしてネイサンに進むように伝え、馬車の近辺で降りる。

「……」

 ウサダは無言で馬車を探るが、危険物は存在しないようだ。白骨化した馬や人の死骸が有ったが、アンデッドになっている様子もない。だが、魔力反応の元となった物も見つからない。自分の能力で調べられる限界まで調べると、ウサダは遠くのレイチェルにハンドサインを送る。

”力を借りたい”

 ハンドサインはそれを意味しており、呼ばれたレイチェルは馬車から降りると、ウサダ達の下へ向かった。そこに向こう側からポニーに乗ったネイサンだけがやって来る。

「ウサダから、レディを迎えに行ってくれと頼まれてね」

 ネイサンはレイチェルにそう言い。

「あら、気が利くのね。それじゃあ、お言葉に甘えましょうか」

 レイチェル言いつつ、ネイサンの操るポニーに相乗りして朽ちた馬車の近くまで進む。

 早速、馬車を調べ始めたレイチェルは、目を光らせると、中からいくつかの物を探り当てる。

「……はい、こんな所かしら?」

 レイチェルは数枚の銀貨や金貨の入った袋に、更に小箱を一つ見つけてウサダに渡す。

 ウサダが小箱の中身を確認すると、そこにあったのは魔晶石だった。恐らくサーチの反応はこれだったのだろう。

「……神父殿。墓場泥棒の俺が言っても仕方ないが、簡単にお祈りだけはしてやってくれ」

 煙草に火を点け、ウサダはネイサンに頼む。

「そうね、この馬車に乗ってた人達、これらだけは必死で隠してたみたいだもの」

 レイチェルも、自分が盗掘したそれらに目をやりつつ言う。

「ああ。きっと太刀打ちできない蛮族にあってしまったんだろうな」

 印は切らないものの、ネイサンは目を閉じて黙祷を捧げる。

「……行こう、私達も彼らのようにならないうちにね」

 祈りを捧げたネイサンはそう言い。ウサダとレイチェルは頷くと、自分達の馬車に戻って再び持ち場につき、朽ちた馬車を回避するように先に進んでゆく。





 朽ちた馬車を後にして、冒険者達はカシュカーンへの道を進む。

『あの馬車のように、朽ちる訳にも、朽ちさせる訳にもいかない』

 それぞれの持ち場を守る四人は、同じ思いを胸に荒野に沈み始めた日を眺め、静かに、力及ばずに朽ち果てた者達へ祈りを捧げた。

 まず、第四話を読んでくれて、ありがとう。




 今回は鉱山村からの脱出回だが、この話は少し長かったりする。

 実際のセッションも、一回だけではなく、二回に分けて行われた事から、それが分かると思う。


 今回の話は鉱山村脱出前編~後編開始直後のシーン位まで。後編開始後から後編最後までは、次回を待って欲しい。









 ……決して、執筆中にメランコリックな気分になって、筆が遅れただけじゃないんだ。最後まで一週間で書けなかったのは物理的な量からなんだ、信じて欲しい。





 後書きで何か本編の補足をしようと思ったけど、世界観的紹介は前書きで足りるだろうし、今回は、前述の事以外の何かを補足する必要性もなさそうなので、今回は挨拶だけで勘弁して欲しい。





 では次回。馬車と村人と冒険者達の行く末に何があるのか、乞うご期待、です。

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