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第二話{マルダー農場救出戦~見えぬ真相。まだ見ぬ存在~}

間幕世界観紹介『ガンと弾丸』


 ラクシアにおける<ガン>と呼ばれる武器は、かつて栄えた魔動機文明に大量生産されたものである。

 遺跡から発掘する際に、魔動機術の扱いに必須とされるマギスフィア共々大量に見つかる事から、量産品は冒険者の装備の中では比較的安定した値段で購入することが出来る。


 ガンは例外無く単体では丈夫な金属の筒でしかなく、それに殺傷力を与えるのはマギスフィアと扱い手の魔力、そしてガンにこめられる弾丸である。

 弾丸には魔晶石と呼ばれる鉱石の粉末を加工した物が使われ、質感は陶器に似ている。これがマギスフィアを通して使用者の魔力に呼応し、攻撃や治癒等の力を持ってガンから放たれるのである。





~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

「早く追いかけようぜ。時間を置いたら痕跡が消える恐れがある」

「賛成だ。ルーカスが単独で行方不明。そして、合図を送ってこないとなると、追うべきだな」

 ヴェレッタとウサダはレイチェルの見つけた足跡を追いかける事に賛成。

「この状況じゃあ、追いかけるしかないか」

 カタリーナも異論はないようだ。だがその表情はやや心配そうであり、目線の先にはヴェレッタが居る。

「どうした、姉ちゃん?」

「ヴェレッタ……無茶はしないでよ」

 カタリーナが懸念するのは、魔力切れ。魔法の類は使用者の体内のマナを必要とし、それはガンの扱いにおいても変わらない。

カタリーナは命中精度と消耗のペースの観点から、本来は二丁銃の使い手でありながら片手撃ちしか使用していない。だがヴェレッタは惜しみなく二丁のガンに魔力を絶え間なく注いでいた上に、透明な敵の相手では更に標準機の製作まで行っている。例えヴェレッタが人並み以上のマナを扱えるだけの精神力を持ち合わせていたとしても、全力で戦い続ければそれも直ぐに尽きる。

「わかった、気をつける」

 ヴェレッタはその言葉の意図に気がついたのか、文面通りにだけ受け取ったのかは知らないが、真剣な表情でそう答えた。

「おいら達もついていくっす!」

「兄貴が大変な事になっていたら、助けるのが部下の仕事っす!」

 テッドとセオはそう言って冒険者達について行こうとするが、それをカタリーナは嗜める。

「ダメ! セオはまだ怪我が治りきってない。それに、こう言う時だからこそ農場に残ってするべき事も沢山ある」

「でも……っ」

「でもじゃないわ。貴方達は残ってヴィンセントさんや保安官事務所にルーカスが行方不明になった事を知らせて」

 カタリーナの話に、うつむく二人に、ウサダは目を見ながら言う。

「冴えないお姫様だが、必ず助ける」

 静かな自信に満ちたその様子を見て、ようやくテッドとセオは了承する。

「……わかったっす」

「兄貴を頼んだっす」

 テッドとセオはそういって小屋に戻ってゆく。それを確認して、冒険者達は足跡を追っての移動を始める。




 足跡を追跡しつつ進み、月が沈みかける頃、レイチェルが追跡する足跡の異変に気がつく。

「これは一体……、どういう事か、解るかしら?」

 レイチェルは指で異変の先を示しつつ、ウサダに向かい振り返る。

レイチェルが指し示す先には、二足歩行をする大型の生物一体と一人の人間の足跡が見える。しかし、指し示す先からは二つの足跡が見えるのは今までと変わりがないが、一体の足跡が小さくなり、人並みの大きさに変わっている。

「なんじゃこりゃ、急に足跡が変わってやがる」

 ヴェレッタは足跡の変化に驚きを隠せない。レイチェルに頼まれたウサダは屈んで足跡を調べだし、顎をつまみながら呟く。

「……恐らく、オーガ族の仕業だ」

「オーガって言うと、人の心臓を食す事で、その人間の姿に変身する事が出来るっつうあいつだろ?」

 ウサダの話に、ヴェレッタは納得した様子で話す。

「ということは、ルーカスは既に……」

 カタリーナが、最悪の可能性を考える。ウサダは立ち上がりつつ言う。

「まだ足跡は2つ。生きている可能性はまだある」

 此処で一旦区切り、全員に向かって振り返り、帽子をかぶり直しながら。

「……だが、ここから先は人の姿を持つものでも、撃つ覚悟を忘れるな」

 そう、残酷な覚悟を決める様に伝えるのだった。




 空が白んだ頃、清水が湧き出す岩あいに、崩れた遺跡がある。このあたりの土はぬかるみ、足跡はもうなくなっているが、他に潜めるような場所はない。遺跡脇には、探索済みと書かれた古ぼけた看板がかかっている。どうやらここは過去に発掘が済んだ場所のようだ。

「……恰好のアジトという訳か」

「水場もあって、雨風日差しを凌げて、こりゃまぁ贅沢な場所を選ぶもんだぜ」

 ウサダとヴェレッタはそう言う。

「まともに乗り込むのは危険そうだね・・・・・どうする?」

 カタリーナはそう言って、相談を持ちかける。

「あいつらがあの中に居るとしたらだ、また悪さをしに出てくるだろう。近くに隠れて、張り込むのが良いと思う」

 ヴェレッタがそう言ったが、ウサダは首を横に振りつつ。

「……待っている内にルーカスが食われる恐れがある。却下だ」

 最もな理由で却下した。だがヴェレッタは食い下がらない

「でも、迂闊に入り込むのは危険だよな……」

「だったら、私に任せてくれるかしら? 先に入って様子を見てくるわ」

 そこで、そう提案したのはレイチェルだ。

「一人で大丈夫?」

 心配そうに聞くカタリーナに対し。

「大丈夫よ、隠れてこっそり見てくるだけだから。そ・れ・に、見つかったら逃げちゃえばいいのよ」

 何故か、少し楽しそうにレイチェルは答える。ウサダはレイチェルを見つつ、話す。

「……頼めるか?」

「ええ」

 レイチェルはそれだけ答え、遺跡に向かう。何処となく状況を楽しんでいる様子にも見えるが、その足さばきや身のこなしかたは一朝一夕で身に着けた技術では無いようで。レイチェルは音をまったく立てずに注意深く、遺跡の中に入り込む。


 遺跡の中の照明は機能していないようだが、ところどころから差し込む太陽光によって、夜目の利く種族でなくともあたりを窺う事は可能だった。

 レイチェルは忍び足で通路を進み、曲がり角で壁に身を寄せて通路の先をこっそりと窺い、敵が居ない事を確認しつつ進む。

遺跡は北側と東側に通路があり、レイチェルは東側に進む。テーブルと椅子が置いてあり、部屋の隅に食料の入った木箱が乱雑に詰まれた部屋に当たり、その奥の部屋からは明かりが見える。その部屋からもれる話し声にレイチェルは耳を傾けるが、蛮族の言語のようで内容を知る事は出来ない。ウサダなら分かったかも知れないが、此処に無い物を強請ってもしょうがない。レイチェルは声の聞こえる部屋に入る事はせず、分かれ道まで引き返し、北側に行く。

北側の通路の途中には倉庫があり、外から中を窺ってみるが、めぼしいものはなさそうな上に、今は時間が無いので中には入らず通路を進む。通路の奥は広い部屋になっているようだが、物音が聞こえたのでそこで引き返した。結果、敵と遭遇せずに調べられそうな場所がなくなると、レイチェルは帰り道で敵と出会わぬように注意を払いつつ、遺跡から出てくる。

「ふふっ。ただいま」

 まるで年頃の娘が家に帰ってきたかのような気軽ささえ見せつつ、レイチェルは遺跡の前に待つ仲間の元に戻る。

「……首尾はどうだ?」

 ウサダの問いに、レイチェルはガンのグリップを使い、砂に図を描きながら説明をする。

「入り口から入って東側には食料が大量に積んである部屋があったわ、恐らく食料庫でしょうね。その奥の部屋で蛮族が何かを話していたみたい。北側には倉庫と広間があったけど、倉庫は外から見ただけだから中身までは解らないわ。奥の広間は物音がしていたから、何人か動いている者があるみたいね。さすがに見つかりそうだったから、さっさと引き返したけど」

「……それだけ解れば上首尾だ。流石レイチェル」

 ウサダはぽむぽむと手のひらの肉球を鳴らしながら拍手をする。

「あら、今頃お気づきになったのね」

 レイチェルはそれに対して、やたら演技っぽくよよよと泣き真似をする。ウサダはそれを帽子を深く被ってあえて見ないことにした。

 冒険者達は突入するべく立ち上がるが、そこで後ろから声をかけられる。

「みんなー」

「小屋で兄貴の救急箱をかりたんでもってきたっす~」

 声の主は、一度は帰った筈のセオとテッドだった。

「セオ! テッド! 良く追って来れたな」

 ヴェレッタは驚きつつも、振り返り二人が来た事を喜ぶ。が、カタリーナは若干表情をしかめつつ注意する。

「貴方達は農場にいなさいっていったじゃない……」

「すまないっす……でも、やっぱり心配で……」

 申しわけなさそうにする二人をみつつ、ヴェレッタが間に入る。

「まぁまぁ姉ちゃん、そんなに怒るなよ。それに、二人は町にルーカスの行方不明の件は伝えたんだろ?」

「えぇ、保安官事務所に言って来たっす」

「なら、二人は言われた事はしたじゃないか」

「まぁ、それはそうだけど……」

 カタリーナは注意したのを注意されたことで、あまりいい気はしていないが、ヴェレッタの言っている事には筋が通っているので、年上として反論は自重した。

「ところで、救急箱に魔香草はあるのか?」

 ヴェレッタは早速、お目当ての物が無いかを二人に聞く。

「えっと、中身は救命草と魔香草が三つづつっす。兄貴のものっすけど、兄貴を助ける為につかうなら許してくれるっるよ」

「おっ、ありがとな」

「……地獄に仏とはこの事だ。感謝する」

 ウサダも、二人に礼を言う。

 救命草はラクシアではポピュラーな薬草で、簡単な怪我の治療に対してある程度の即効性が有る事で、冒険者も良くこれを活用する。また、戦闘中でも即座に使用できるように加工したヒーリングポーションの原料としても知られる。

魔香草は魔力を活性化させる作用のある香草で、正しく使用すれば非情に優れたマナ回復効果が期待出来る。

「俺が使うよ。こう言う薬草の使い方は、故郷でみっちり教え込まれたからな。怪我はないから、魔香草を俺とおっさんと姉ちゃんが使って良いか?」

 ヴェレッタが確認を取り魔香草を配るが、ウサダは首を横に振り、渡された魔香草をヴェレッタにぶっきらぼうに返す。

「俺の分はヴェレッタが使え。俺には必要ない」

「そうね、貴方は特にマナの消耗が早いから」

 カタリーナもそれに同意する。

「ありがとな、夜勤慣れしてなくて、疲れてたところだ」

 ヴェレッタはウサダの気配りに素直に感謝し、魔香草を自分に使用し始める。

「セオ、貴方はまだ怪我が治りきってないから、こっちに来て。ヴェレッタが魔香草を使ってる間に、救命草使ってあげるから」

「へへっ……了解っす」

 二人が薬草を使用している間、ウサダはテッドにある質問をする。

「…1つ聞きたいことが有る。お前らの兄貴は、なにか特徴のある癖はあるか? もしくは、お前らしか知らない兄貴の個人情報を簡単でいいから教えてくれ。兄貴に化けてる敵がいる恐れがあるのでな」

 ウサダが懸念する事態は、ルーカスが既にオーガに食われ、その姿に化けられているという事態だ。ただし、オーガ族の変身は姿以外は真似する事が出来ず、記憶や行動の癖までは完璧に再現は不可能の為、それを利用する事でその正体を暴く事が出来る。

だが、ウサダは昨日知り合ったばかりのルーカスの行動の癖までは流石にわからないため、付き合いが長いであろうテッドに聞き出す事にした。

「癖っすか…? 先ず、スケベっすよね。それと、イライラしてると、下唇を噛むことがあるっす……って、兄貴に化けてる敵ってどういうことっすか?」

 質問に答えつつも、テッドはウサダの言った言葉に反応し、質問を返してくる。ウサダはルーカスが蛮族に食べられたかもしれないとは言えないので、どのように説明するか少し思考を巡らせていた所に。

「オーガっていってな、心臓を食った奴の姿に化ける鬼さんが居るのさ」

 ヴェレッタがそのまんま、何のオブラーゼにも包まずに伝えてしまい、ウサダは慌てて帽子で表情を隠す。ウサダの顔を見れた人物ならわかるだろうが、その時のウサダは面食らったような顔をしていた。

「!? て、てことは、兄貴は……」

 テッドと、そして治療中のセオが慌てだすが、直ぐにウサダとヴェレッタがたしなめる。

「まて、まだそうって決まったわけじゃねぇよ」

「……あくまで可能性の話だ」

 だが、ルーカスの部下二人はもう居ても立っても居られないといった様子で言う。

「決まってないってどういうことっすか? そのオーガってのがいる可能性があるんすよね?」

 特に、セオはもう治療中だと言うのに、今にも飛び出しそうな位だった。

「こらっ、暴れないの!」

 カタリーナはやや強引にセオを止め、レイチェルも二人を止める為に声をかける

「気持ちは解るけど、考え無しに突っ込んだら無駄死にになるだけよ。せめて治療が終わるまでは待ちなさい……いいわね?」

「……レイチェルの言う通りだ。兄貴を助けたいなら、落ち着くことも覚えるんだ」

「……」

 それを聞いた二人は黙り込み。そして、治療が終わるまで何も言わなくなった。


 治療が終わり、遺跡内部に冒険者とルーカスの部下達は潜入する。

先頭にはヴェレッタ。軽装で隠密行動が出来て、尚且つ至近距離への火力が高い事から先頭が任された。

そこから少し離れてカタリーナが何時でも前に出れるように待機しつつ、セオとテッドがその近くに。ウサダとレイチェルは万が一に備えて殿で警戒する。

 一応、前もってのレイチェルの潜行偵察から、北側通路の奥の広間が怪しいとされたが、銃声を聞きつけてきた援軍からの挟み撃ちを警戒し、先に西側通路の先から制圧していく事に決まった。

ヴェレッタは食料庫の部屋の外から様子を伺い、食い散らかされた食料が床に散乱し、羽虫がそれに集っている以外は動いている者がいない事を確認し、後ろの仲間にハンドサインを送る。そのサインを見た全員が動き、ヴェレッタと共に部屋に突入する。

報告にあった通り、奥の部屋からは明かりが漏れており、そこから声が聞こえてくる。ウサダはそれに長い耳を動かしながら、聞き耳を立てる。

「……たちと合流…」

「手下達がやられ……どうしたら」

 が、元々隠密や偵察の技術を嗜んでいないウサダには、会話内容を完全に聞き取る事は出来なかった。だが、その切羽詰った雰囲気を察しとり、おおよその内容を仲間に伝達する。

「……どうやら、俺達が手下を倒したのは想定外だったらしい。かなり切迫している」

「それじゃ、姉ちゃんと俺の出番だな……」

 ヴェレッタは得物を抜き、獰猛な笑みを浮かべつつ言う。つまりは、さっさと始末してしまおうという提案だ。一同はそれを聞いて各々の得物を手に持ち、肯く。異論はないようだ。

 ウサダが扉に手をかけ、開け放つ。それと同時に冒険者達は走って部屋に駆け込み、その最後尾にウサダも続く。

 部屋に踏み込むと、そこではテーブルを囲んで肉を食いちぎりながら、二体の蛮族たちが座っていた。侵入者を見ると蛮族達は立ち上がりつつ武器を手に取る。

「ダレダ、キサマラハ!」

 汎用蛮族語での問いかけに、ウサダはサーペンタインガンを構えつつ答える。

「通りすがりのただのウサギだ」

 二匹の蛮族は、ウサダの知識に間違いがなければボガードと呼ばれる人型の蛮族で、連続で攻撃する技術に長けた下級蛮族の中でも脅威度の高い存在だ。となれば、戦いは先手必勝になる。

 そして、ボガードが武器を構え襲い掛かるより先に、ヴェレッタとカタリーナが動く。

『コマンドワード入力【ソリッド・バレッド】、同一コマンドリピート!』

『コマンドワード入力【クリティカル・バレッド】、同一コマンドリピート!』

 ヴェレッタとカタリーナが両手に構えたガンでそれぞれ片方を狙い、二匹は弾丸を体に受けて突進が止まる。その隙をウサダは逃さず、損傷の大きい方に狙いをつけ、撃ち放つ。

「天国までの駄賃だ、持って行け『【ターゲットサイト】【ソリッド・バレッド】』」

 サーペンタインガンが火を吹き、ボガードの胸を貫き絶命させる。だが、体勢を立て直したもう一匹が素早くカタリーナに襲い掛かる。

「甘い!」

 カタリーナは横っ飛びでそれを避け、間髪いれずにガンを向け、撃つ。だがボガードは体を捻りそれを避ける。

「……ヴェレッタ、頼んだぞ」

「さぁ、テメェの血の色を教えろ!」

 しかし、避けた先を狙いウサダとヴェレッタが撃つ。二つの弾丸はボガードの体を貫き、抉り、急所にめり込み、その生命活動を停止させてゆく。弾丸が体を貫通しきった後、ちょっと前までボガードだった者は、ボガードの死体になっていた。

 ヴェレッタはそれを確認した後、弾をガンに込めなおしつつ言う。

「まったく、雑魚だったな」

 ウサダもガンに弾を込めなおし。カタリーナは装弾した後、即座にボガードの死体を調べだす。

「何やっているんだ姉ちゃん?」

「組織的に動く蛮族なら、重要な情報を形で持っている事もあるからね……」

「例えば、指令書とかかしら?」

 ボガードの腰巻を剥いでポケットが無いか見ていたカタリーナの後ろから、レイチェルがひょっこり顔を出す。その手には筒状に丸められた羊皮紙が一枚ある。

「貴女、それを何処から……」

 カタリーナは驚きつつ、探していたそれを。もっと詳しく言えば、レイチェルが手に持っている、蛮族の指令書を指しつつ言う。

「皆がそこのお二人を相手している間に、ちょこっと部屋を調べてたの。どう、読めるかしら?」

 しれっと答えるレイチェルは蛮族の指令書を広げて、全員に見せる。だが、それは蛮族の言語で書かれている様だ。

「生憎、あいつらとお喋りをした事はあるが、文通は経験が無い」

 ウサダは肩をすくめつつ答える。他の全員も解らないようであり、この言語を解読出来る人物はこの場に居ないようだった。

「さて、派手に銃声を鳴らしたんで、手厚い歓迎をしてくれるだろう」

 ウサダは煙草に火をつけ、自分が開け放った扉の方向を向きつつ言う。この部屋の奥に部屋や通路は無く、挟み撃ちの危険は無くなったが、侵入者に気がついた敵が待ち伏せをしている可能性は大いに有る。

 ヴェレッタは耳を済ませて、隣の部屋に聞き耳を立てる。

「隣には居なさそうだ、行くぞ皆」

 ヴェレッタが先頭で息を潜めつつ進み、扉の向こうからOKのハンドサインを送る。全員がそれについて行く。

「さて……どこで待ち構えているかね?」

「……囚われのお姫様がいるとしたら、一番奥だろうな」

 ヴェレッタの言葉にウサダが北側の通路を示しつつ言う。つまりは、北側通路最深部の広間の事だ。

 ヴェレッタは進む先々で聞き耳を立て、安全を確認しつつ進む。だが、倉庫前まではずっと敵が待ち伏せている様子は無かった。

 倉庫前で倉庫と奥の広間に聞き耳を立てた所、倉庫からは一人の息遣いが感じ取れ、広間の方向からは複数の生物の息遣いを感じ取れた。

「……倉庫の何所かにルーカスが閉じ込められている可能性がある。先に此処を調べよう」

 長い耳をぴくぴくと動かしつつ、ウサダは提案する。それに頷き、カタリーナを先頭に倉庫の中に突入する。

「姉ちゃん! 右だ!」

「!?『【ソリッド・バレット】』」

 ヴェレッタが叫び、カタリーナは言われた方向に即座にガンを向け、放つ。そこには今にも襲い掛かろうとしていたボガードが居た。

 だが、そのボガードは何故か剣やメイスと言った武装ではなく、ガンを構え、腰にマギスフィアを装着していた。

 カタリーナの射撃はボガードに避けられるが、無理に体を捻って動かした為か、直ぐには狙いを付けられない。

『【ソリッド・バレット】』

『【ターゲットサイト】【ソリッド・バレット】』

 姿勢を崩したボガードにすかさず弾丸を撃ちはなったのはウサダとレイチェル。二発の弾丸がボガードの胸を貫き、沈黙させる。

「うふふ、そのままいい夢見てなさい?」

「……美女に殺されるなら、奴も本望だろう」

 レイチェルは含み笑いと共に言い、ウサダはやや皮肉めいて手向けの言葉を言う。

「じゃあ、手早くこの倉庫から目ぼしい物を探そう」

「さすが姉ちゃん、目敏い」

 カタリーナが倉庫を調べだし、ヴェレッタはやや呆れつつもそれを手伝った。レイチェルとセオも探索を手伝い、ウサダとテッドが倉庫の入り口で襲撃に備え警戒する。



「どうやら、此処は武器庫らしいな」

 つばに犬の足跡のような意匠を凝らした片手剣を持ったヴェレッタが言う。この倉庫には店では売れないような粗悪品から、蛮族の剣匠が意匠を凝らしたような一品まで、様々な武器が乱雑に詰まれてあった。

「……その中に、ガンはあったか?」

「ええ、察しの通り、何処にもガンだけは無いわね」

 ウサダが聞くと、レイチェルがそれに答える。

「誰かが持ち出したのか?」

「だろうな。俺達が侵入してから此処に来るまでの時間があれば、ガンを持ち出すのは容易い。……おそらく奴らはガンで武装をしているだろう」

 ヴェレッタの質問に、ウサダが帽子を深く被りなおしつつ答える。

 その言葉により警戒心を強めつつ、一行は本命の広間に向かって進む。広間に侵入する直前、レイチェルは列から抜けて背中のジェザイルを取り、息を殺して隠れる。その動きを、ウサダ以外の誰も気がつかなかった。

 広間に潜入すると、そこは長方形の形状で、奥に長い部屋だった。部屋の中央には段差があり、向かい側には三匹のボガードがサーペンタインガンを構えて待機している。

「……姿が無いな」

 ウサダが呟く。ウサダが探しているのは、ルーカスと、足跡の主らしきオーガ。だが、見える位置にはボガードしか居ない。

 ボガードはこちらに接近せず、ただこちらが射程圏内に入るのを待っている様子だ。

 サーペンタインガンの有効射程は10m程。現在の相対距離は20m。ウサダ、カタリーナ、ヴェレッタの持つ得物も10mより先に弾丸を飛ばせる物はない。

「どうする……にらめっこしてても仕方が無いし、思う壺だが接近するか?」

 ヴェレッタが言ったが、ウサダは首を横に振る。

「待て……こちらから向こうに行かなくとも、直に奴等は俺達の射程に入りに来たくなる」

 ウサダが言い、ヴェレッタが首を傾げつつボガードの方向に向きなおした瞬間、一匹の腕に穴が開く。

「誰!?」

「どこからだ!?」

 ヴェレッタとカタリーナがあたりを確認する。部屋の後方の隅には闇に隠れたレイチェルが、ジェザイルを構えていた。当然、ガンを撃たれた事に気がついたボガードは、待ちの姿勢から一変して一気にこちらに接近してくる。

 ジェザイルはライフルタイプのガンで、両手で扱う必要があるが、有効射程は50mと長く、制度、威力共に良好なパフォーマンスを誇る傑作型で、この場に有るどのガンよりも遠い箇所から狙いをつける事が出来る。

「……お前達には勝利の女神は付いていない。それがお前達の敗因だ『【ソリッド・バレッド】』」

 煙草を落して靴底で潰しつつ、ウサダは接近して来たボガード達が射撃体勢を取るより早く狙いを付け、撃つ。だが、ボガードはそれを寸前で回避した。

『【ソリッド・バレッド】!』

 ヴェレッタがレイチェルが狙いをつけた者とは別のボガードに攻撃を命中させるが、息の根を止めるには届かない。

「近づかせない!」

 カタリーナが負傷したボガードに向かって接近しつつバスタードソードによる斬撃を命中させるが、首の皮一枚でそれを耐える。

「仕方が無いわね……『【ターゲットサイト】【ソリッド・バレット】』」

 すかさずレイチェルが耐え抜いたボガードに即座に狙いを付け直し、トリガーを引く。ボガードはそれを紙一重で避けた……かのように思えた。

 だが、それは首の皮一枚で耐えていたボガードのこめかみに命中し、止めを刺す。

 ……ラクシアで人族と呼ばれる存在には、古き神々の末裔たる種族も多く、とりわけ”世界で最初の神”と名高いライフォスに深く関係する人間は、限られた状況で運命を覆す力を発揮すると言われている。

[剣の加護]と呼ばれた古代神の恩恵。その内人間が持つ”運命から愛される”才能の事を、ラクシアに住む者達は[運命変転]と呼ぶ。

その加護によって”運命から愛された者”の放った”普通ならば外れるはず”の弾丸はボガードを貫き、確実に一匹を仕留めたのである。

 だが、残り二匹は冒険者達が殲滅しきる前に射撃の姿勢を取り、それぞれがウサダとヴェレッタを射殺せんとガンを撃ち放つ。

「弾丸を避けるのは俺にも無理だ。だが避ける手は他にもある」

 銃の向ける先と撃つタイミングを読み、ウサダは体をずらしてそれを回避する。ヴェレッタを狙った弾丸は、相手の射撃の腕が悪かったのか、はたまたガンが粗悪品だった性で弾が思ったように飛ばなかったのか、まったく違う方向に飛んで広間に無意味な弾痕をつける。馴れない回避運動を取っていたヴェレッタからは思わず溜息がこぼれる。

「俺がお前程度の腕だったら、師匠の拳骨食らっている所だ……お前が食らうのは弾丸だがね」

 ヴェレッタ自分に狙いを付けたボガードにデリンジャーを向け、容赦無く撃ち放ち、カタリーナの斬撃が浴びせられる。ボガードは剣を避けるが弾丸を避けきれず食らってよろめき、その隙にウサダが追撃を食らわせて射殺する。

 最後の一匹は果敢に攻撃しようとするが、その武器を持った腕をレイチェルが撃ち、ボガードは武器を落してしまう。

「ウウゥ……」

「……まだやる気か? それとも、降参するか?」

 硝煙の上がるサーペンタインガンを向けつつ、汎用蛮族語でウサダは話しかける。が、ボガードは素早く踵を返して逃げ出す。

「逃がさない!」

 しかし、それをカタリーナが立ちふさがり逃走を封じる。そして、目の前から剣を突きつける。

「ヒ、ヒィィィ……」

「……最後にもう一度聞く、降参する気はないか?」

 ウサダが最後の警告をすると、ボガードは頭が飛びそうなほど激しく首を縦に振りつつ、手を上げて跪く。

 最後に残ったボガードも完全に戦意を挫かれたようで、目に見える脅威は全て去ったかの用に思えた。

「どうする、殴りかかられても面倒だし適当にロープに縛っておくか?」

 ヴェレッタが余裕そうに聞く。が、部屋の奥から足音が聞こえ、こちらに向かって来る音が聞こえると、そちらを振り向く。

「これだから蛮族って奴はなぁ」

 そう言いつつ、現れたのはルーカス。そして、後ろには大柄な蛮族が一体構えている。

「……生きてたか、ルーカス。ところで俺が貸した100G何時返す気だ?」

「……何を言ってんだ?」

 ウサダは自分の身にも覚えの無い約束の話をして、ルーカスがそれに”訳が解らないといった様子”で有る事を確認した。

「ルーカス……やっぱり蛮族と……」

 ヴェレッタは蛮族と共に現れた事に怒りを隠せない。ウサダとカタリーナはルーカスの様子を伺うが、ルーカスはやれやれと肩をすくめつつ。

「違うって言ったら聞いてくれるのか?」

 と、どうにも話をする気が無い様子で答える。

「兄貴! どういうことすっか!」

 広間の入り口にいる部下二人はルーカスを必死に呼びかけるが、ルーカスは一瞥し。

「うるせぇ! なんでてめぇまでここにきやがった!」

 質問の答えになっていない怒鳴り声を返すだけだった。

「……残念だ」

 ウサダは帽子を被りなおしつつ言う。このやり取りから”ルーカス本人が””こちらと話をする気が無い”事を確信せざる負えない状況になってしまった。

「ルーカス。無駄口はそこまでにしておけ」

 後ろに構えていた蛮族が、流暢な交易共通語でルーカスに話す。

「レッサーオーガか……下位種とはいえ、やはりオーガがいたか。」

 その言葉、姿形見たヴェレッタが、その正体を言う。正体を言われたレッサーオーガは狼狽する事無く、むしろニヤリと笑い。

「お前は人族にしては中々のガンマンのようだな。どうだ、このルーカスと決闘しないか? お前達が勝てば降伏し、俺達の企みも明かそう」

 ふざけているとしか思えない提案を持ち出してくるのだった。

「五体満足の蛮族が降伏?ちょっと考えられないわね」

「蛮族が正々堂々と決闘を進言するとは、今日一番のジョークだな」

 カタリーナとウサダは露骨に疑いを表に出す。だが、ヴェレッタはあえてそれに乗る。

「いいぜ・・・決闘者デュエリストとして・・・受けて立ってやる」

「ははっ! それでこそだ!」

 レッサーオーガは満足そうに笑い。ルーカスは段差の向こう側から降りてきて、ヴェレッタと数メートル離れた位置で向き合う。

「…奴はなかなかの手練れだ、勝算はあるか?」

「無茶は厳禁よ…あんたに死なれたら、私は……」

 ウサダとカタリーナは心配そうに声をかけるが、ヴェレッタは怖気づく事も無く、自信たっぷりに言う。

「大丈夫だ、ガンマンとしての俺の腕は、姉ちゃんは良く知ってるだろ」

「……ああ、私とどっこいだね」

 それを見て安心したのか、笑顔でカタリーナはヴェレッタの背を叩き、送り出す。

「あにき、やめるっす! 目を覚ますっす!」

「うるせぇ、さっさとここから離れやがれ!」

 セオとテッドはルーカスに向かって叫ぶが、ルーカスも叫んで命令をするだけ。……だが、ルーカスが先ほどからチラチラ自分の後方に視線が行っていたり、決闘が不本意そうな様子を、ウサダとレイチェルが気が付き、察した。

「……ルーカスはどういうことかあまり集中できていない。決闘も本位ではないようだ。そして、自分の後ろ、レッサーオーガよりも後ろに気を配っている」

 部下がルーカスの気を引いている隙に、小声でウサダはヴェレッタに囁く。

 そして、レイチェルはレッサーオーガが決闘に気を取られている事を確認すると、闇に紛れ、音も無く広間を駆け抜ける。

「忠告ありがとな。おっさん。立会人を頼めるか?」

「ああ、タビットの戦士、ウサダ。立会人としてこの決闘を見届けよう」

「オレも立会人になろう……そっちからだけじゃフェアじゃないだろう?」

 ヴェレッタとウサダの会話に、ニヤニヤと笑いつつレッサーオーガが口を挟む。

 ヴェレッタとルーカスが向かい合い、中間にウサダとレッサーオーガが向かい合い立つ。ちょうど四角形の点か十字の線の視点と終点の位置になるような位置取りになる。

 カタリーナ、セオ、テッドはヴェレッタの後ろから、心配そうに決闘の様子を見守る。

「……おい。どんな結果になっても怨むなよ」

「お前の方こそ、死んでから文句言いに蘇るんじゃねぇぞ」

 ルーカスが言い、ヴェレッタが返す。

「……二人とも、準備はいいか? このコインを投げる、地面に落ちるのが合図だ」

 ウサダが確認を取り、二人は肯く。

 ウサダはレイチェルがオーガの背中側を通り、奥に進むのを確認し、ゆっくりとコインを高く放り投げる。ゆっくりとコインは上に上がり、上がり、上がり……落ちる。

『『【ソリッド・バレット】!』』

 二人のコマンドワードが重なり、四半秒も立たずに銃声が鳴る。

「ぐぅっ……」

 横っ腹を抱え、片膝を付いたのは……ルーカス。

 ウサダは身じろぎ一つせずそれを見守り、レッサーオーガは依然としてニヤニヤと笑いながら観戦している。ルーカスの部下は今にも飛び出しそうなのを、カタリーナによって何とか押し止められている。

 ルーカスはゆっくりと体を持ち上げ、ふらつきながらももう一度立つ。そして、何かに気が付いたように呟く。

「……いない」

「何だって?」

 ヴェレッタは何が無いのかをまだ理解していない様子だった。ウサダに視線を向けると、ウサダは懐中時計を取り出し、天板を空けずに時計回りに指でなぞる。

”時間を稼げ”

 そのハンドサインが告げる意味はそれで、ヴェレッタはそれに気が付く。

「……ルーカス、勇ましいのは良い事だ。だが、勇気と蛮勇は違う」

「臆病な方が、生き残れるわよ?」

 突然、ウサダとカタリーナがルーカスに長ったらしく命の大切さについて語りだす。

「カタリーナの言う通りだ。ルーカス、お前の命はお前ひとりの者じゃない。子分達を置いて地獄に旅立つ気か?」

「ここで、負けを認めても恥ではないわ」

 楽しみの途中でいきなり説教が始まったためか、レッサーオーガは苛立った顔になり、催促するように足先でトントンと音を立てだす。

「黙れよ。一撃で仕留められなかったことを後悔させてやる」

 ルーカスはそう言いつつも、決闘を継続せずに話をより長くさせようとする。

「仕留められなかった? 仕留めなかったんだよ、バーカ」

 若干のハッタリと共に、ヴェレッタも少し言葉を遅くしながら返答する。

「けっ、同情か? ずいぶんブレた射撃だったじゃねぇか」

「俺の本気は二丁銃でね……、俺はまだ一丁残している、この意味が解らないガンマンじゃああるまい?」

 ヴェレッタとルーカスはにらみ合いながら殺し合いをする仇敵に挑発をする……ように見せかけて、時間を更に稼ぐ。

「始めろ!!」

 レッサーオーガが業を煮やして焚きつける。これ以上長々と時間を稼ごうとすれば、今にも襲い掛かりそうな様子であった。

 ルーカスは利き手でサーペンタインガンを構えなおしつつ、こっそりと逆の手で人差し指と親指を立て、残る指を握り、レッサーオーガに向ける。

「……降参をしないとは、残念だ」

 ウサダはコインを構え、投げる。

 ヴェレッタとルーカスはそれを目で追わず、両の手で得物を握り締め、レッサーオーガに向ける。それと同時にカタリーナとウサダもガンを抜き、全員で一斉にレッサーオーガに向けて撃ち放つ。

 突然の一斉射撃に対応しきれず、レッサーオーガは体にいくつもの風穴を開ける。

「き、貴様等ァ!!」

「決闘のショーは楽しめただろう?」

 先ほどまで立会人だったウサギは、肩をすくめて言う。

「ルゥカスぅぅぅ忘れたかぁ!! オレには取って置きの交渉材料があるって事をナァア!」

 レッサーオーガは激昂し、スイッチの付いた魔導機械を取り出す。が、そこに良く通る声が聞こえる。

「取って置きの交渉材料と言うのは、この方かしら?」

 レッサーオーガが振り向くと、遺跡の奥から壮年の男を連れたレイチェルがそこには居た。レイチェルは右手に持っているロープにくっついた小型の爆弾を見せびらかすようにひらひらさせ、それをレッサーオーガの足元にほおり投げる。

「マルダーさん!?」

「捕まって居たっすか!?」

 セオとテッドがその男の名を呼び、驚く。ルーカスは勝ち誇った顔でレッサーオーガに言い放つ。

「取って置きの交渉材料が、どうしたって?」

 レッサーオーガは歯軋りをし、顔を真っ赤にしてわなわなと震え。そして、懐に手を突っ込んでガンを一丁引き抜きルーカスに標準を合わせる

「死ネェェエ!!」

「テメェがな!!『【クリティカル・バレット】ォ!』」

 ルーカスはレッサーオーガとほぼ同時にガンを構え、引き金を引く。




ターン! と、良く通る銃声が一つ、遺跡内に響き渡る。




「お、おのれぇぇ……」

 胸から血を流し、レッサーオーガはうつぶせに倒れ、血反吐を吐いて死に絶える。

 ボスが目の前で死んだのを見て、降伏したボガードも表情を絶望に染めつつ失神する。

「あにきー!」

「信じていたっす!」

「お前ら、雇い主の安否ぐらい確認しろ!」

 ルーカスの部下二人は年甲斐も無く泣きながらルーカスに飛びつき、ルーカスは頼りなくも甲斐甲斐しい部下二人を叱咤する。何時もの用に。

「……また、勝利の女神に助けられたようだな」

 ウサダはレイチェルの活躍を見つつ、煙草に火をつけながら呟いた。

「姉ちゃん、見たか俺の実力?」

「危なっかしい弟分ね。次までにもっと腕を上げておきなさい。ルーカスさんがオーガの時と同じぐらい真剣だったら、あんたは負けていたわ」

 ヴェレッタとカタリーナは勝利に喜びつつも、兜の尾を締めるように弟分に渇を入れる。



 遺跡からは蛮族の脅威が去り、冒険者と農場のガードマンは、いつの間にか誘拐された農場の経営主であるマルダー氏の救出に成功した。

冒険者達の黄昏の大陸での初仕事は紆余曲折の末に成功を収め、冒険者達は傷の応急手当をした後に、マルダー農場に戻る。

組織的な襲撃を行っていた蛮族達の脅威を払いのけた冒険者達は、マルダー農場でゆっくりと仕事の疲れを癒したのであった。




 これからも四人は様々な脅威と相対し、戦う事となるのだろう。

その冒険の行く末は、まだ誰も、知らない……。

 第二話を読んでくれて、ありがとう。




 個人的に、今回の話は難産だった。理由を箇条書きすると。

・レイチェルのプレイヤーが遅刻していたため、ログ中では前半部分で透明人間だった。だが、いないという描写にするわけにもいかなかった。

・ルーカスの部下二人の描写が元のログに少なく、遺跡突入から対ルーカス戦まで空気。

・オーガとのやり取りではあっちこっちに色んなキャラの台詞が飛び交っていたため、整理しつつ執筆するのが難しい。


 その分、スニーキングミッションや戦闘シーンはそれなりに自分も楽しみつつ書いていた。

 セッション(TRPGにおける一回のプレイの単位。またはTRPGをプレイする行動の事)中の盛り上がりや、執筆中の楽しみ等が、読者さんにも伝わっているといいな、と、勝手ながらに思っています。




 ちなみに、作中で人質に取られていた農場の経営主ヴィンセント・マルダー氏だが、彼がいつから誘拐されていたのかは、実際の所、筆者自身にも分からない。

次話の執筆中、ログを読みつつ「前回、君達はまだ見ぬ雇い主も救出に成功した」という一文にモニタの前で噴出しつつ、セッション中もかなり面白いと思っていた記憶がある。

何故こうなったのか、ゲームマスターにも問い合わせた事ががある。


曰く「だって誰も挨拶しに来てくれないんだもん」


……TRPGはこのような場の展開によって、キャラクターの行く末や運命が変わったり決まったりという事は、ままあったりする。

それが面白いところでもあるが、今回の雇い主マルダーの件は非常にレアなケースだろう。




 今回のあとがきでの余談はこのあたりにして、積もる話は間幕や次話の後書きでする事にしよう。

これからも末永く、マギシューキャンペーンをよろしくお願いします。

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