プロローグ~そして、冒険者達は黄昏の大陸を歩く~
剣と魔法の世界を、冒険したくは無いだろうか?
TRPGは……特に、ソードワールド2.0というゲームは、それを可能にする。
だが、この物語はソードワールド2.0のリプレイ小説だが、剣は殆ど出てこない。
魔法も、主人公達は皆そろって魔動機術と呼ばれる術の他、多少の錬金術程度しか活用しない。
そして、魔動機術で主に行う事、それは<ガン>に魔力を込め、魔弾を撃つ事だ。
この作品には、幾つかの注意すべき要素が存在する。
・警告に出すレベルの残虐描写。
・一部主人公のやや異常な趣味趣向。
・セッションログを基にした、プレイヤーによる小説作品。
・剣と魔法の世界を舞台に、銃と硝煙の物語を展開する。
以上を許容出来るのであれば、拙い作品であるが、楽しんでほしい。
では、ご覧くださいませ。
『世界は、三本の魔剣から生まれた。
そして、その剣の内一本に触れた最初の人間が、神様になった。
別の剣に触れた人間もまた、神になった。
二人の神と、その眷属達は争い、神々の戦いが始まった。
始まりの神、ライフォスの眷属であり、文明を築き、協力し生きる人々を人族と呼び。
戦いの神、ダルクレムの眷属であり、力を重視し、弱肉強食の世界に生きる人々を蛮族と呼んだ。
その戦いに決着は付かず、神々は永き眠りについた。
それでも人々は剣を手に取り、神々の名の下に仇敵と殺しあって生きてきた。』
こんな事は、この世界”ラクシア”に生きる者なら、誰だって知っている常識中の常識だ。
人族は蛮族を憎み、蛮族は人族を憎む。
蛮族は人族の敵であり、戦いを生業とする者は、多くが蛮族を狩るのがお仕事だ。
俺も戦いを生業にして、悪い敵さんをガンガン撃ち殺すべく、人族と蛮族の戦いの最前線にやってきた。
憧れた力を手にいれた俺は、その力を降るうべく、此処までやってきた。
少なくとも、乗合馬車に乗って北上している頃の俺は、そう思っていた……。
「いやはや、まさかカシュカーン行きの馬車で姉ちゃんと再会するとは、俺も運が良いな」
「そうね、ひ弱なあんただけじゃ、のたれ死んでいたかもね」
「そりゃないな、俺だって姉ちゃんと離れていた数年間、修行を積んでいたんだ、頼りにしてくれよ。」
人類の戦いの最先端、エイギア地方行きの乗合馬車は、わずかに暗く、乗っている人間は御者を除けば4人。
その内、エルフの青年と妙齢のナイトメアが、思い出話とこれから行く場所への思いを馳せて、会話に花を咲かせる。
向かい側に座る人間の女性は、会話に混ざる事は無いが、何処となくこれから行く場所を楽しみにしている様子である。
一方、その女性の隣に座るタビットの中年は、深く被った帽子で目線を隠し、表情は読めない。
「それで、そっちの二人も俺たちと同じ冒険者で、カシュカーンの街をこれから拠点にしようって所だろう? 同業者だし、此処で自己紹介しようぜ」
そう切り出したのは、エルフの青年で、その提案に対して他の3人は無言、もしくは肯く事で肯定する。
それを見て、エルフの青年はまずは自分からと前置きし、自己紹介を始める。
「俺はヴェレッタ・スミス・ウェッソン。人間とエルフのハーフで、あるガンをつかうハンターに憧れて、この通り二丁ガンを得物にしてる。」
ヴェレッタは自己紹介と共に腰のホルスターから素早く二丁のデリンジャーを抜き、くるりと回してガンプレイを見せつつ、素早く元の位置に戻してみせる。
それに続き、妙齢のナイトメアが立ち上がり、自己紹介をする。
「で、あたしがその紹介にあったハンターのカタリーナ。この通りナイトメアだから故郷じゃ肩身が狭くてね、そういう偏見の無いヴェレッタは、あたしにとっては弟のように可愛い奴よ」
”種族”という言葉を、種を増やし繁栄する族と解釈するならば、厳密にナイトメアという人族は、種族ではない。
人族に分類される他の種族の突然変異によって生まれ出るナイトメアは、例え子供を作ったとしてもナイトメアが確実に生まれる訳ではないのだ。
だが、魂に穢れを持つ事を禁忌とする人族文明に生まれつつ、生まれつき魂に穢れを帯びると言われるナイトメアはそれだけで迫害の対象となり、更にはナイトメアの特徴たる頭部の角は出産時に母体を傷つけ死の危険に晒す。
そうした背景もあり、ナイトメアとして生を受けた人族の多くは、迫害と偏見の目で見られる生活を強いられる。
「まぁ、それで故郷に居難くなって、ある日両親と喧嘩した日に村を出て冒険者になったわけ」
あっさりと悲しい身の上を話すカタリーナだが、彼女の故郷での生活は想像を絶するもので有る事は想像に難くないだろう。
二人の自己紹介を聞き、中年のタビットは煙草に火をつけ、自己紹介を始める。
「……タビット族の戦士、ウサダ。この銃で生きていく以外、生き方を知らない。よろしく頼む」
それだけを言い、窓際に移動しながら煙草を吸い始める。
肉球の付いたコミカルなタビット特有の、それでいて古傷だらけの歴戦の戦士の手を出し、先程まで隣の席にいた女性に自己紹介を促す。
「あたしはレイチェル、まぁその辺の貴族さんたちに一夜の夢を見させてやるのが仕事ってところかしら。ふふっ…まぁ、それが最期の夢になる御仁も多いようだけど」
含み笑いをしつつ話すレイチェルは最低限の皮鎧こそ装備しているが、ドレスを身に纏ったその姿は冒険者には見えにくい。
だが、皮鎧では隠し切れぬ美貌を纏った彼女は、その美貌の奥にも何かを隠し持っているような、そんな凄みがあった。
全員の自己紹介を聞き終えて、ヴェレッタは改めて全員に向けて話す
「これで全員自己紹介が終わったみたいだな……これからよろしくな、皆」
「えぇ、よろしく」
「……」
「ふふっ…よろしく」
それに答え、四人の冒険者達が自己紹介を終える頃、御者が冒険者達に話しかけてくる。
「直に人族の戦いの最前線に有る開拓村カシュカーンに着く……この村を拠点とするなら、保安官に顔を売っておけ…あいつの機嫌を損ねた冒険者は長く持たない。それと、この村にはより蛮族領域に近い北、人族領域よりの南に二つの冒険者の店がある。どっちに行くにしても、口利きが必要だ」
御者の忠告とも取れる言葉に、ヴェレッタは素直に感謝の言葉を返す。
「そうか・・・忠告ありがとよ、御者さん」
肩をすくめるウサダも、御者に感謝する。
「……機嫌を取るのは得意じゃない。だが、助言感謝する」
目的地に着き、四人の冒険者を下ろした黒塗りの乗り合い馬車は、変わりに暗い目をした数人の男を乗せて、村を後にする。
冒険者達は今、人族と蛮族の戦いの最前線に立ち、これから起こるであろう様々な戦いに各々の思いを抱き、黄昏の大陸”レーゼルドーン”の大地を歩き始めた。
今回は、投稿機能実装直後という事もあり、機能確認もかねて、セッションログで言う1話冒頭部分をプロローグとして投稿させて頂いた。
リプレイ作品を幾つか読んだ事の有る人ならわかるとおり、この作品はセッションログを元に書いているリプレイでありながら、極力遊んでいるプレイヤーの描写を入れないようにしている。
これは、小説家になろうと同時投稿するに当たって、純粋にリプレイとして書く事の需要があるのかを考えたのが一点。
それに加えて、書いているのがゲームマスター(TRPGの進行役。シナリオを用意して、複数人のプレイヤー相手に冒険の舞台を提供する)では無く、プレイヤー(TRPGで固有のキャラクターを動かす)で有る事から、通常のリプレイ形式が好ましいとは思えなかった事が二点。
この二点の理由から、このような形式で連載させていただきます。
今後、あとがきでは本文中で語られる事の無い、プレイしているゲームマスターやプレイヤーの裏話。ソードワールド2.0のゲームシステム的な観点からの補足説明等を中心にしていこうと思う。
TRPGを知る人でも、知らない人でも。
ソードワールド2.0を遊ぶ人でも、遊ばない人でも。
楽しませることが出来るような素敵な作品を目指し、今後とも精進していきます。