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EX09「はぐれエルフ 時間を重ねる」


「旅だ! 旅に行くぜよ!」


「まったく。アッシュは子供だなぁ」


 ユグレンジ大陸を西へ東へ無秩序に練り歩く日々のなか、俺は当然のようにテイハの隙を探っていた。が、結局分かったことはテイハさんにはまったく隙が無いという絶望的な事実である。なので、遅延のために旅に引っ張り出すぐらいしか今は手がなかった。


『寝ていようが起きていようがアレに関係なぞあるかっ!』


 悪夢だ、とだけ言った悪魔はもう完全に匙を投げていた。

 そうやって開き直ってしまえば、もうヤケになったように振舞い始めているところが逞しい。


 さもありなん。

 何せ念神のアーティファクト化が彼女の目的だ。

 もうアーティファクト化しているこいつにとっては、ある意味終ったような話しだったのである。問題はリストル教の信者が全滅することによる想念の供給源の喪失だが、そこでこいつはツクモライズに眼を向けた。


『ぬふふ。世界の終わりがこようが知ったことか! だいたい、妾はよくよく考えてみれば神の敵たる悪魔ではないか。糞ッタレなリストルとその信者共が地獄を味わうのじゃからもう知らん! このまま嬢ちゃんに取り入って一人勝ちしてやろうぞ!』


 最近はツクモライズもされずに専ら剣だが、本人が納得したのならばそれでいいのだろう。畜生。こっちは命が掛かってるってのにな!


「ズルいぞ、世界を裏切るのかイシュタロッテ」


『妾、わるーい悪魔じゃからの』


 裏切りは悪魔のアクセサリーだそうだ。ちくしょうだぜ。


『――が、お主が手伝えというなら手伝ってやってもいいがの』


「しゃー、行くぞ!」


 とりあえず、言質を取ったことに満足して手のひらを反しておく。

 で、結論としてユグレンジ大陸の念神はダメだ。

 リストルとか言う奴はまだ出会っていないが、その部下の天使や敵対する悪魔じゃあテイハさんのひと蹴りで終わる。


 もうダメだこの大陸。

 雑魚神しかいねぇよ。

 というわけで、テイハさんをけしかけて別の大陸へと飛ぶことにする。


 しかし、である。


「こいつも邪魔だなぁ」


 跳躍し、炎をまとって飛び蹴りである。

 その結果として、ヨトゥンとかいうデカイ巨人の神を瞬殺した。

 街道を塞いで寝転んでいたからという理由だけで、だ。

 あ、凍ってた道が融解してグチャグチャになってやがる。


「話が違うぞ! 強い神じゃなかったのでせうか!?」


「はっはっはー。巨人の神だろうとボクに敵うわけないじゃんか」


 ティタラスカル、役にたたねぇ。


 しかも危険だ。

 巨人連中はどうやらホビットと共生しているようだが、それ以外は敵視しているのだ。


 肉食系巨人なんか、何も知らずに俺たちを襲ってくる。

 その度にテイハさんが蹴り飛ばし、ぶん殴って大立ち回りする日々。

 そしてそれに飽きると、彼女は俺に巨人を狩れと言い出す始末だ。


 勿論、丁重に辞退したが。


「もう、強くなりたいんじゃないのかい?」


「自殺ダメ、絶対!」


 今だにクマを剣だけで倒せない俺に、四メートルサイズの巨体相手にいったい何ができるというのか。

 クマの二・三倍はでかい巨人も居るんだぞちくしょうめ。


「まったく。ボクの若い頃はさ、あれぐらい余裕だったけどなぁ」


「お前と一緒にするな破壊神!!」


「いやいや、外気魔法と内気魔法を覚えたら意外と行けるって」


「じゃ、それ教えてくれよ」


「えー、めんどいからパス」


 飯を作ってくれることより面倒なのかは謎だが、そんな感じで俺達の旅は続いている。


 転移で現地に跳び、足で歩いて時には悪魔の翼で空を飛ぶ。

 夜になれば家に帰って寝て、また続きから進む。

 目的地にたどり着けば話し合って次を決める。


 そうしてほぼ一年が過ぎただろうか。

 気が付けば、なんだかあっという間に時が過ぎ去ってしまっていた。




「さーて、それじゃあ次はジーパングだ」


「あいよー」


 家のテーブルにて作戦会議だ。

 何処を見て、何をするのか。

 大抵は街の観光と絶景を眺めて終る。勿論文化や土着の念神についても探るが、そんなものは事前にテイハさんが調べてプリントアウトしてくれているので時間はあまり取らない。が、前情報を聞くだけでも結構楽しい。


――思えば、奇妙な関係だった。


 なんだかんだいって、彼女はサービス精神に溢れている。

 そして楽なのでそれに甘える俺である。

 おかげで報告に行く度にリスベルク様にスマイルをもらえてしまう。困ったもんだぜ。反面、帰りには何故か変な奴らが俺を追跡してくるがな。

 

 アクシュルベルン陛下曰く、どうもエルフのお偉いさんが暗躍しているらしいとのことだが、鬱陶しいことこの上ないぜ。リスベルク様にも報告しているが、怪しい奴らは知らぬ存ぜぬで、賊は何故か毎回違う顔の連中だ。


 どうなってやがるんだ?

 もっと訳が分からないのはクルセルク王だ。


『実力を隠していたとはな。何が雑魚だ小賢しい男め! そんなに取り入りたいか!』


 などと吐き捨てられる始末だ。

 実に意味不明である。

 俺が雑魚なのは変わっていないはずだが……実力を隠すってのは何だ?

 最近では、一部のエルフ族がどうやってそれだけの武を身に着けたのかと問うてくるし、

アクシュルベルン陛下まで本気を出しても良いですよ、などと訳の分からないことを言って来る。


 もう本当に訳が分からん。

 偉い人の考えはサッパリ分からんとですよ。

 皆、仕事のし過ぎで疲れているのかもしれないな。

 エルフ族の未来が心配だ。こうなったらリスベルク様だけが頼りだぜ。


「そういえばユグドたんってどこに居るんだ?」


 協力者らしく、彼女に頼んでは速攻で情報をまとめて貰っていることまでしか分からない。随分と親しそうなのだが、な。俺は一度も彼女の姿を見たことが無い。


「空の上に居るよ。直接会いに行く意味はないね」


「ていうか、お前一人ぼっちだって言ってたじゃないかよ」


「あ、もしかして勘違いしてるのかい? 一人っていっても、ボクにはクロナグラの外に知り合いがそれなりに居るんだよ」


「へぇ、そうなのかー」


 その割には、会っているところは見たことが無いが。


「まぁアレだね。A計画を発動させたら、久しぶりに爺の道楽にでも付き合ってあげようかな?」


「爺?」


「子供の姿をしてるショタ爺だよ。性格は捻くれてるけど、腕は確かなんだよねぇ」


 少しだけ嬉しそうに笑い、彼女はその男のことを教えてくれた。

 なんでも、彼女を無敵足らしめるレーヴァテインとかいう兵器の開発に一役かっている人物だそうだ。


「なぁ、もしかしてその人お前より凄いのか?」


「勝てる気はしないね。アレは『希望の聖女』並にギャグ時空に生きてるから」


「ふーん」


 ギャグ時空ってなんだ?


「多分、爺ならボクが道半ばで死んでもに計画を引き継いでくれるんじゃないかな?」


 さらりと笑えないことを言って、テイハは俺を流し見た。

 こいつは偶に、こういうドキリとする発言で俺を揺さぶってくる。

 スリル満点だ。分かっていて俺を放置している節がある。というか、十中八九分かっていてそうしている。その上で楽しんでいるのだろう。だがそれはこっちも同じだ。


「馬鹿野郎。滅多なことを言うんじゃない。お前は殺しても死なないような女だろうが」


「はっはっはー! 冗談だよ冗談。そもそもボクをどうこうできる奴なんてこの星にはいないしね」


 冷や汗が出た。

 絶望的な情報だ。

 こいつをどうこうしたら、もっとヤバイのが来るなんて。

 何それ笑えない。


「ん? どうしたんだいアッシュ。顔色がなんだかとっても悪いぞ」


 人の内心を見透かしたかのようにニンマリと笑う。

 こういう時のこいつが、俺はたまらく嫌いだ。


「お前に死なれたら困るだけだっての。考えても見ろよ。今死なれたら明日から俺は美味い飯が食えないじゃあないか!」


「……ボクの価値はご飯だけかい」


「この俺が適当に保証してやるですよ。お前、良いお嫁さんになれるぞってな」


「お嫁さん………ねぇ。なんだろ。一々調子を狂わせてくれるなぁ君は」


「それはお互い様だ」


 村の誰とも違う反応。

 森の誰とも違う価値観と雰囲気。

 そして、憧れさえ抱くその力。

 一挙手一投足に眼が離せず、オマケに最低最悪の計画まで引っさげている。


 なのに何故だろう。

 どうしてか俺は、心の底からこいつを嫌うことができないでいた。


「ん? へぇ……そうなんだ」


「おい、なんだその顔は」


「さーあねー」


 席を立ち、少女は冷蔵庫へと向かう。


「機嫌が良いので君にもアイスを分けてあげようじゃあないか」


 言うなり、紙で出来たカップの中身を半分を切り分けて差し出してくる。

 ガラスの器に盛られたそれを見て、イシュタロッテが食わせろと言って来る。

 が、剣のままなので手も足も出ない。


 不貞腐れる悪魔をそのままに、俺はバニラとやらを味わうことにする。


「ふむん。あ、そうだ」


 スプーンを握ろうとする俺の目の前で、何故かテイハさんはそれを手にとった。そうして、何故か俺のバニラを掬って差し出してくる。


「どうだ!」


「どうってなんだよ。食えばいいのか?」


「その通り。さぁボクの手づから食らうがいい!」


 偶に、人間という奴が分からなくなる時がある。

 なんかこれに意味があるのだろうか?


「くれるというなら貰うのが俺!」


 臆する必要などないわけで、ガブリと行く。

 しっかし、赤子じゃないんだぞ俺は。


「ふふーん。お味はどうだい」


「普通に美味いですよ?」


 エルフにはとても作れない、とても甘くまろやかなデザートだ。

 くそう。また一つ短い耳族<ニンゲン>に対しての敗北感が湧いてくる。


「そうでしょそうでしょ」


 凹む俺。

 反対に破壊神様は機嫌が良くなられる。

 本当に調子を狂わせてくれる奴だ。


 気に食わなければ怒り、嬉しければ笑う。

 酷く分かり安いと同時に、感情を伝染させてくる。

 きっと、今の俺は自然な顔で笑っているだろう。

 なんでもない表情でも、笑ってる方がやっぱり良い。


 気のせいだろうか。

 最近、彼女の顔から寂しさが見て取れなくなってきたのは。


「ところで」


「ん?」


「そのスプーンは何時返してもらえるのだろうか」


「なんだい? もっと食べたいって?」


「人の話は聞けってんだ真っ黒透明っ!」


『……アッシュよ。お主、もう既に負けておるぞ』


 おかしな事を言う奴だ。

 勝ちも負けも何もあるか。

 何せまだ勝負さえしていないんだからな!


『いやお主、どう見ても嬢ちゃんに飼いならされておるではないか』


 なん、だと?!








「でね、ジーパングは妖精と竜に気をつけないといけないっぽいよ」


「ほほう?」


 まず妖精。

 とにかく悪戯が大好きで、お菓子に弱い。

 反面その隠密性能は人類種最強だとか。

 あとちんまい。


「で、竜は言わずもがな人類最強種だね」


「でかいんだよな」


 家ぐらいあるとか聞いたことがあるな。

 その翼は嵐を呼び、角は雷光を呼び、口からは火を吐く。

 で、普通の剣で切りかかっても切れずに刃こぼれするらしい、と。

 うん。どうやって倒すんだそんな化け物。


「ちなみに、ユグレンジ大陸に出てくる念神としての竜と、あそこの竜族はちょっと性質が違うんだ」


「というと?」


『念神としての竜はのう、大抵は竜殺しの武器を持った英雄や神に倒される運命にある』


「決定的に違うのは倒して消えるか、死体が残るかだね。あとは強さかな?」


 念神の方が当然強いが、倒すならば竜族の方が有用だという。何せ皮や牙、爪や鱗が金目の物になるからだそうな。つまり、でかいトカゲは金になるわけだ。

 だから偶に、大陸からドラゴンスレイヤーの称号を得るべく戦士や軍隊が動くとか。


「ま、ボクたちには関係ないけどね。……挑戦してみるかい?」


「冗談じゃない。巨人より強いならお手上げだ」


 勝負にさえならないしな。


 うむ。

 やっぱり俺はテイハさんの後ろでコソコソと見学していよう。

 もしかしたら急に腹が痛くなるかもしれないしな。


 あ、でも待てよ?

 強いんなら可能性ぐらいは――


「ん?」


「――ないわー。竜もひと蹴りで倒すテイハさんの勇姿しか思い浮かばないわー」


「そりゃそうだよ。よほど特殊な奴じゃないとボクには傷一つ付けられないんだってば」


「なら安心だな。俺は何時も通り逃げ回ってれば良いんだし」


「そうだね。頑張ってアッシュは隠れててねー」


 投げ槍に言うテイハさんは、しかし何故か勝ち誇るように笑っていた。








「――で、だ。ジーパングとやらに来たわけだが……」


 今まで見た人間の家より、文明レベルが低い。

 なんとなくエルフのそれと比べるとうちが勝っているような気がするが、食で負けていた。途中の店で食べたすき焼きが美味い。

 ついでにテイハのカレーで出てくるライスもあるとは。


「くっ。木造は同じだが、食文化で負けている気がするぞっ!」


 しかも連中、生魚まで食うとか。

 チャレンジャーだ。

 飽くなき食への探究心には頭が下がるぜ。


「ここの人たちはさ、毒持ちの魚まで食べられるように挑戦しているからねぇ」


 なんて恐ろしい連中だ。

 エルフ族にはそんなガッツはない。


 しかしどうもここの連中はテイハの顔立ちにとても似ている気がする。

 というか大陸系と比べると顔が平たい感じだ。

 耳は人間らしく短いし丸い。

 あと、髪型や服装も独特だし、武器の刀とかいうのも大陸のそれと違う。


「それにしてもなんだ? 俺、滅茶苦茶見られてるぜ」


「ガイジンだー!」


「違うよ鬼だよ! 人間に化けてるんだ!」


「おに?」


 子供たちの話が気になったので声をかけようとするが、彼らは一斉に悲鳴を上げて逃げていった。が、家の隅から首を出してこっそりと俺の様子を伺っている。


「大陸の人間は珍しいのさ。後、君はエルフだしね」


「ふぅん?」


 森にいきなり人間が現れたら、こんな感じになるのかもしれんね。


「で、鬼ってのはなんだよ」


「ここら土着の念神というか、化け物だね」


「なんだと? おいこらそこな餓鬼んちょ共。エルフは化け物じゃないぞ!」


 両手を挙げ、わーっと近づいてみる。

 すると、キャーキャー言いながら子供たちは逃げていった。

 うむ。元気でよろしい。


「機嫌良さそうなところ悪いんだけどさ。向こうの子供たちが泣いてるぞ」


「ど、どこだ! 家の息子を泣かした悪い鬼は!」


 親御さんらしき男がクワを手に現れた。


「ひ、ひぃぃ! 耳の所に角がある! ほ、本当に鬼だ!?」


 男は、俺と眼が会うとすぐさま走り去っていった。

 俺、そんなに怖い顔をしているのだろうか?

 解せぬ。


「ば、馬鹿な! 俺のチャーミングな耳をどうやったら角と見間違えるんだ!?」


「さぁ? ところで、向こうから侍がやってきたぞ」

 クスクス笑っているテイハは、俺の服の袖を引っ張って見せる。


「ええい、怪しげな奴! そこの男よ名を名乗れい!」


 着流しとかいう、独特の服に帯に吊るした男が叫ぶ。

 ジーパングの戦士には名乗りあう風習とやらがあると聞いたが、これがそうなのか。


「あー、俺ははぐれエルフのアッシュだが……」


「ほう。面妖な顔立ちだが、言葉を解するということは物の怪の類ではないのか」


 黒髪黒目の、ちょっと痩せた男は唇を吊り上げて名乗る。


「やーやー、我こそは竜牙一刀流の剣士ミナヅキなり。アッシュとやら、この地にどのような理由で参ったのか!」


 なんだか大仰な言葉を使う奴だ。

 そして声もでかい。周りに人が集まってくるじゃあないか。


「観光だ。この近くに妖精の住む島があると聞いたんだが、どこにあるか知らないか?」


「ぬ? さては妖精を襲うつもりか!」


「いやいや、襲わないって」


「ふっ。ガイジンは皆そう言うのだ」


 なんだこれ。

 話しがかみ合ってないぞ。


「ここであったが百年目! 辻斬り剣神を討伐する前に我が愛刀の錆びにしてくれよう。その腰元の剣を抜けい悪鬼!」


「いや、だから俺は鬼じゃなくてエルフなんだってば」


「アハハハ! 本当、アッシュと居ると妙なイベントが発生するよね!」


『妾にも狙われたし、この前の巨人にもよく追いかけられていたのう』


「全部俺のせいじゃねぇ!」


 どちらかといえばテイハさんのおかげだと思うが、男は白昼堂々と刀とやらを抜いた。


 薄い。

 なんて薄く、美しい刃だ。

 なんだか頼りない武器だが、切れ味は凄いと聞いている。

 しかも上段に構えられたそれは、知っている誰かさんの構えにそこはかとなく似ていた。

 ミナヅキはそのまま鞘を投げ捨てると、両手で柄を握り締める。


「……つかぬ事を聞くが、縮地が使えるとか言わないよな?」


「縮地だと? 使えないわけがあるまい!」


 やべぇ。ジーパング人やべぇ。

 このままだと勝ち目がねぇ。


「イシュタロッテ!」


『良かろう』


「ぬ!? この冷めるような冷気は! おのれ化け物め、正体を現したな!」


 形振り構わずに神気を纏った俺を見て、ミナヅキは血相を変えた。

 俺は鞘から抜き放った刃をダラリと下げ、自然体でジッと見据える。ぶっちゃけ、化け物なのはイシュロッテであって俺ではないのだが、説明するのも面倒だ。

 周囲では見物人がヒソヒソと話しているが、それさえも思考から追い出す。

 陛下に一泡吹かせるためにも、ここで縮地対策の練習をさせてもらおう!


「――」


「――」


 風が吹く。

 互いに構えたまま動かずに様子を探る。

 が、先に焦れたのはミナヅキだ。


 ジリジリとすり足気味に移動して間合いを詰めてくる。

 対して俺は、悪魔の眼を起動し縮地の出がかりを理解するべく瞬きを繰り返す。

 だが、そこへテイハが空気を読まずに乱入した。


「ぬっ、どけい小娘!?」


「はっはっはー! ミナヅキ破れたり!」


「な、なんだとっ!」


「勝って仕舞うべき鞘を道に捨てるとは何事だぁぁ!」


「ええい、鬼の仲間ならば婦女子といえど容赦はせぬ!」


 縮地が、来る。

 悪魔のおかげでようやく俺の眼は出がかりを視た、と思ったら予想外の映像を俺は視た。

 そしてそれは現実と成る。


 パンッと、乾いた音が一つ響く。

 やがてそれはざわめきを呼び、人々に畏怖を呼び覚ます呼び水となった。


「な、なんとぉぉぉ!?」


「なにやってんだお前ぇぇぇ!」


「およ?」 


 テイハは、両手を何故か頭上に合わせた状態で斬られていた。

 ただ、鋭い刃の切っ先は彼女の頭で止まっている。

 なんだこれ。

 石頭でも限度があるだろ。


「あ、そうか摩擦係数か。まったく考慮してなかったからすっぽ抜けたんだ! ゴメン、もう一回今の奴お願い」


「ぬ、ぬぅ!?」


 ミナヅキという青年は弾かれたように下がり顔色を悪くする。


「き、気のせいだったのか? 今、拙者の剣に完全に合わせられた気がしたがっ!」


「いや、それ以前に斬れなかったことを驚けっ!」


 あいつじゃなかったら人が一人死んでいるところだ。

 いやまぁ、念神様と殴りあいできる人間だから、こいつに刃がたたなくてもしょうがないのかもしれない。だが疑問はそれだけではない。


 解せぬ。

 何故か周りの野次馬が次々とひれ伏し始めたのだ。

 そして男も、何かを悟ったのか地面に座り込むや否や、頭を叩きつける勢いで謝罪を始めた。


「ま、まさか竜の方とは露知らずとんだご無礼を! 平に、平にご容赦を!」


 うん、こいつらの文化は訳が分からん。

 竜と妖精の島国ジーパング。

 そこは、大陸文明から切り離されたカオスな国であった。


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