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第八話「闇夜の行軍」

 塔の上。

 魔物同士の抗争を見ながら、俺は呆然と呟いた。


「なんだアレは」


「ティラルドラゴン……肉食の魔物です。自分たちよりも少々体が大きい程度なら喰らいつく、獰猛な奴らです。ドラゴン系の魔物にしては小さく、また言葉を解しません」


 逃げ切れないと悟ったオークやゴブリンたちが応戦するも、少しずつ数を減らされていく。見れば、剣や槍では余り傷がついていない。


「オークたちがここを目指してきたのはこいつらのせいか」


「おそらくは」


 てっきり、ハーフエルフやラルクたちのせいか思っていたが違うようだった。


「それにしても戦士たちに扉を作らせておいて正解でした。アレがなければ、連中は一気に塔の中へ押し寄せてきたでしょう」


「奴らの鱗は並みの武器では厳しいからな」


 ラルクが面倒そうな顔で言う。


「ですが、アレはアレで放置する訳にもいきません」


「どうしてだ? 魔物同士殺しあってくれているんだから放って置けばいいだろう」


「奴らはとてもよく食べるのですよ」


「しかも足は決して遅くはない」


「それに何より鼻が効くのです。我々のことも気づいているはずです。それに加えて、仮に塔に侵入できなくても次に狙うのは森の中の動物、そしてエルフ族でしょう」


「警告するにしても奴らの群れを突破しなければならない。だが……」


「そんなことをしたら、エルフたちの所に道案内するだけ、か」


 実に面倒な話だ。

 ラルクが苦虫を噛み潰したような顔をしているのも頷ける。


「普通の弓は効かないのか」


「アーティファクトで直に攻撃するか、魔法を使うのが効果的ですよ」


「……アレに切り込むのか?」


 正直、あんなのと接近戦などしたくない。

 だというのに、タケミカヅチさんだけはニヤリと笑みを浮かべて頼もしくも言うのである。


「切り込みましょうか」


「さすがはハイエルフ様の武器。頼もしいですね」


「まだ俺はやるとは言ってないが……」


「どの道、外に出てあれらとまともに戦える方の数は限られていますし、留意するべき点はそれだけではありませんよ」


 まるでそれ以上の厄介ごとがあると言いたげである。

 正直これ以上聞きたくないと心底思うが、やはりというべきか。アクレイは嫌な顔をしただろう俺に言う。


「アレは一体どこから来たのでしょうね?」


「……森の外からだろ」


「ティラルドラゴンは本来、平原で活動することを好みます」


「何者かが森におびき寄せたとでも言うのか?」


 聞き捨てなら無いとでも言う様子で、ラルクが唸る。


「でなければ、答えは一つしかありませんよ」


「まさかエルフが管理しているモンスター・ラグーンか!?」


 それを聞き、驚いたのは俺だ。

 けれど、よくよく考えてみれば辻褄は合う。

 ラグーンは森の奥深くの聖域にあると聞いていた。

 そんな場所に魔物が平然と出没するのだ。

 これは明らかに不自然だ。


 そして、エルフだって自分たちを守るために軍事力は持っていなければならない。

 そのための要がこの世界ではレベルホルダーだというのなら、それ相応の訓練施設が必要になる。適切に運用できるのであれば、そのために一つぐらい抑えていても不思議ではない。


「私の記憶が確かであれば、聖域の近くに一つあったと思います。確か、今のエルフの男女は成人するとそこでアーティファクトを渡され、修練する掟があるのでしょう? もしかしたらこれは不測の事態という奴かもしれませんね」


「……守備隊も一緒にやられた、とでも?」


「推測が当たっていたなら元を断たなければ彼らは延々と来ますよ」


 そして、そのためにエルフと合流することはできない。

 合流すれば奴らを餌場へとトレインしてしまう可能性が消えないからだ。

 つまり結論としてはこちらに気が向いている間に、敵がわんさか出てくる森の中を抜け、どうにかするしかないわけである。


「……勘弁してくれ」


 心の底から滲み出た言葉を吐き出しながら、俺は思わず額に手を当てた。




 深夜。

 早めに寝ていた俺たちは塔の三階へと集合し、そっと下を覗き込んだ。

 塔の外には、夥しい数の魔物たちの死骸をそのままに、飽食の限りを尽くしたティラルドラゴンたちの群れが寝息を立てているのが伺えた。

 さすがに昼間に起きていた魔物も夜は眠るものらしい。


「鼻が曲がりそうだなこりゃ」


 夜風によって上がってきた血の匂いと死臭だ。

 鼻を摘みたくなるのを我慢して、俺たちは最も奴らが少ない位置を探す。


「ここだ」


 ラルクが足を止めるので、俺はハーフエルフが持っていたレイピア型のアーティファクトを差し出す。


「昼間試してもらった通り、姿は消せるが匂いはそのままだから気をつけてくれ」


「問題ない」


「では、あの木を射ます」


 ロープを結びつけた矢を、アクレイが射った。

 矢は夜闇を引き割いて飛び、一本の大木へと飛んでいく。

 タッと幹に刺さる音が響くが、下で魔物たちが起きた気配はない。


「行ってくる」


 ラルクは姿を消すと、眼前から風だけを残して消えた。

 今頃は、音も無く飛び降りて闇夜の中を走り抜けているのだろう。マップで確認していた俺は、その凄まじい度胸を素直に尊敬した。

 途中、匂いに気づいて何匹か起きて周囲を窺う魔物が月明かりの下に見えたが、この血臭だ。気のせいとでも判断したようだった。


 はたして、闇夜の静寂の中で矢の刺さった場所から変化があった。

 姿を現したラルクだ。

 彼は突き刺さった矢を抜くと、慎重に木に巻きつけて結び、完了の合図として決めておいた通りに、両手で円を作った。


「では、こちらも」


 アクレイが器用な手つきで逆側のロープを塔の窓よりも大きな木に結ぶ。

 その際にできるだけロープが弛まないように気を配っている。やがて、三階から向かいの木に向かってロープが完全に繋がった。


「これは、下を見たらダメだな」


 モンスター・ラグーンに向かうのは俺とラルクの二人だ。

 武器娘たちは全員がインベントリ。

 俺は布の服と、ネタ装備であるゴム手袋以外の装備を外したままロープを掴む。

 落ちたら恐竜のようなドラゴンの餌だ。その時はもう、ショートカットで武器を呼び出して応戦するしかないだろう。


「じゃ、俺も行くぞ」


「お気をつけて」


 不恰好でも渡りきれればそれで良い。

 とにかく落ちないようにするため、俺は両手でロープを掴むと、今度は両足で挟み込むようにして進む。その際、すぐに俺は上下逆の状態に陥ったが、これで下を見ずにすむ。開き直って移動を継続。


「ッ――」


 夜風でロープが揺れる。

 ギシギシと唸る音が妙に怖い。だがそれでも、俺はなんとかラルクが待つ場所までたどり着く。きっと、生身の人間だったら途中で体力が尽きていたのではないだろうか? そうと思わせるほどに、移動を終えた俺は大きく息を吐いていた。


「ふぅぅ。これなら昼間に戦ってた方がマシだったかもな」


「俺もそう思わないでもない。だが、今度戦士たちの移動や訓練のために取り入れるように陛下に進言しようかと見ていて思った」


「……好きにしてくれ」


 真面目な顔で冗談のようなことを本気で言う少年は、先導するように降りていく。 

 俺は服をミスリルクロークに変え、その上にミスリルコートを羽織るとその後を追っていく。ここでも、滑り止め用にと嵌めていたゴム手袋が役に立った。

 着地すると、マップで魔物たちの様子を伺い、索敵しながらラルクの後を抜けていく。


 どうやらラルクにとってはこの森は庭のようなものらしい。

 木々が星明りと月光を遮って視界が悪いというのに、明りを点けずに進んでいく。

 とはいっても、視界に関しては俺の渡したアイテムが効いているのだろう。万全を期すために俺たちは夜に視界を確保するためのアイテム『暗視のメガネ』をつけている。


 昼間の様にとはいかないまでも、サングラス越しに昼間を歩く程度の視界は確保できていた。これなら暗闇はもう俺たちの敵ではなく味方だ。


 少年と二人、休むことなく走り続ける。

 時折、マップに敵が映るので迂回しながらやり過ごす。

 鬱陶しいのは夜行性の魔物だ。そんなときは、パックの蓋を開けたオークの肉を遠くに投げて喰らいついている間に抜ける。


 向かう方角は北。

 半日も歩けば、モンスター・ラグーンへと繋がるゲートがあるらしい。


「ラルク、やはり魔物の数が増えているぞ」


「だろうな」


 居るのはティラルドラゴンだけではない。

 他にも、クマのような奴や一つ目の牛なども発見された。

 同時に、それらの死体と思しきモノまでところどころで見つかる。おそらく、奴らの移動跡だろう。中には当然、オークやゴブリンと思われるものまで散乱している。


「そろそろ休憩しなくていいのか?」


「問題ない。その気になれば二・三日ぐらい通して戦える」


「それもアーティファクトの恩恵……か」


「レベルホルダーとはそういう者だ」


 淡々と言い切る彼は、逆に尋ねてきた。


「アッシュには必要か?」


「あの娘たちを含めて必要じゃない。ただ、精神的には疲れるからやりたくないな」


「なら早く終らせよう。オレも出来る限り早く終らせて帰りたい」


 若干、彼が走る速度を上げた。

 置いていかれないよう、俺も速度を上げて応える。しばし、無言が続く。


「俺はまだ、お前たちのことは正直よく分かっていないが――」


「ん?」


「これが無事に終れば、ハイエルフ云々はともかくとして、一先ずはエルフの戦士であると認めたいと思う」


 それは、彼なりの歩みよりだったのだろうか?

 中身がただの日本人でしかない俺には、その基準がよく分からなかったけれど、なんとなくむず痒いような気がした。


 アクレイたちは俺をハイエルフ扱いしてきたが、彼は一度だってそんな素振りを見せていなかった。冷静に俺を見極めようとしていたのだろうが、逆に言えばアッシュという得体の知れないエルフを過大評価するつもりもないのだろう。よく分からない神様扱いされるよりは気楽で済む分ありがたい。


「なら、そのお礼にそのレイピアをやるよ」


「なに?」


「俺には無用の長物だが、ラルクなら有用に使えるだろう。エルフ族のために使ってくれればそれでいい」


「……変な奴だな、お前」


「はぐれになろうって奴を戦士扱いしてくれようとする奴も十分に変だろうさ」


「ふっ――」


 お互い、変な奴同士で構わない。

 口を小さく歪めて笑うエルフの近衛剣士殿と共に、俺はそのまま夜の森を駆け抜けた。




 戦闘を永遠に回避することは不可能だ。

 塔が見えてきた頃、遂に俺たちは回避できなくなっていた。単独ならまだなんとかなったが、そいつは雄たけびを上げて群れを呼んだ。

 識別名称ブラックウルフ。

 名前の通りに黒い体毛を持つ、夜に潜む狩人だ。


「げっ、他のも来たぞ」


「ここまで近づければ十分だ。お前は彼女たちを呼べ!」


「了解」


 ラルクの声に答え、俺は黒い柄と白い刀身を持つ長剣『イシュタロッテ』とミスリルシールドを展開。更に周囲に武器を次々と取り落として擬人化させていく。


――レヴァンテインさんにはミョルニルさん。

――タケミカヅチさんには草薙さん。

――エクスカリバーさんにはグングニルさん。

――ロングソードさんにはカラドボルグ。

――ショートソードさんにはバルムンク。


 出し惜しみ無しの五人編成。

 MPはゼロになるが、ここは数が欲しい場面だ。


「こっちの準備は完了だ」


「なら行くぞ」


 全員を周囲に配置し、七人編成で塔を目指す。

 タケミカヅチさんがすぐに先行。

 魔物を引き付けていてくれたラルクと共に最前線の敵を捌いて進む。その後ろを、すぐに俺とレヴァンテインさんが、両脇をロングソードさんとショートソードさんが固め、エクスカリバーさんが投擲でフォローできるように殿を務めて突破していく。


 どいつもこいつもレベルは無い。

 警戒するとしたら、単純な生物としての強さとその数だろう。

 ブラックウルフの遠吠えに混じって、森に木霊する魔物たちの悲鳴。そして、倒すときに生じる血臭が夜行性ではない魔物の安眠まで妨害し、その凶暴性を呼び覚ます。


 低く唸りながら地を疾走するブラックウルフ。

 タケミカヅチさんとラルクがどれだけ強かろうと、完全に捌けるわけもない。

 間を縫うように突破したそれへ、俺は長剣を容赦なく振り下ろす。

 喉笛を食いちぎろうと迫った狼が、俺の剣を真正面から頭部に受けて地面へと叩きつけられる。陥没した頭蓋から飛び散った脳漿も、瞬きをした次の瞬間には掻き消える。


 イシュタロッテの切れ味は、思いのほか悪くない。

 数値的なモノは生憎と分からないが、不壊なら俺の腕力で誤魔化せる部分が在る。

 最悪は壊れないことを良いことに打撃武器として使っても良かったが、これならカンスト武器の代わりに振り回しても問題はないだろう。


――塔まで、残り百メートル。


 ダークエルフの集落と同じように、塔の周囲を壁が覆っているのが見えた。

 ただしこちらは石を積み上げて作った立派な作りをしていて、外壁の外側には塀程度の高さの小さな石壁と、木造の家屋が存在している。

 作りから見て取れるのは、外壁は魔物用であり、そして塀のような壁は動物避けということだろうか? 更に外壁には上に上って戦えるようにするための階段まで見える。


 モンスター・ラグーンへと繋がるゲートを内包する塔であるが故に、魔物を外へと出さないために堅牢な作りにしたのだろう。

 だが、どれだけ外壁が立派だろうとどちらの門も開け放たれていては意味が無い。


「これは……何故だ!?」


 ラルクが信じられないモノを見たかのような声を上げた。

 遠目ではあるが、どちらの門も開け放たれたままで傷一つない。

 逃げようとして閉められなかったのか、それとも別の理由かは今はまだ遠すぎて分からない。

 確かなことは、門は破壊されたわけではないということ。

 そして、エルフたちの死体がまるで存在しないことだ。


 魔物に食われたのかもしれないが、それにしたって骨一つ無いのは異常だ。

 ティラルドラゴンならオークの骨が残った。

 喰らうのは肉であって骨ではないのだ。

 なのに何も見えないし、レベル上げに使っていたはずのアーティファクトの類も落ちていない。


「オークやゴブリンに連れ去られたのか? いや、それならそれでやっぱりおかしい」


 あのダークエルフの村を思い出せ。

 男は無残にも殺されていた。女も、手加減できずに死んでいた者はいたのだ。

 奴らなら男の死体が確実に残る。

 それが無いということは何を意味する?


「どけぇぇ!」


 ラルクがシャムシールだけでは手数が足りないとばかりに、レイピアを左手に抜いた。 

 彼の手数が増し、破竹の勢いで門への道を切り開いていく。


「やりますね、近衛剣士ラルク。私もアッシュ様の前で負けてはいられない――」


 それに呼応するかの如く、全身に雷を纏ったタケミカヅチさんもまたペースを上げた。

 彼女の攻撃は基本雷属性付きである。

 当然、麻痺判定はある。

 攻撃と同時に迸る雷光が、剣閃に紫電を呼び込んだ。

 切り裂かれた一部の魔物が時折、痙攣したかのような不自然な動きを見せるのはそのせいだ。

 致命傷以外でも麻痺したなら放置され、それを後を追う俺たちが蹂躙。

 進軍を物理的に邪魔するそれらをインベントリの肥やしにしつつ、更に塔へと接近を試みる。


――塔まで残り五十メートル。


 益々濃くなる魔物の壁。

 もはや、恐怖さえ麻痺しそうだった。

 全周囲から聞こえてくる咆哮が、彼らの悲鳴なのか憎悪なのかさえ分からない。

 マップを見れば、俺たちの周囲を魔物たちが覆っている。

 背後では、ラルクが惨殺した死骸が別の魔物たちによって貪られる。さらにそこから獲物を取り合う戦いさえ始まったようだった。


「ごめんアッシュ君、一匹抜けたよ!」


 左側から、ショートソードさんに持たせた大剣、バルムンクの洗礼を潜り抜けた影がある。ブラックウルフではない。

 彼らとは違い、単純な突撃しか行わないその正体はビッグボア。

 人の身長程はあろうかという全高を持つ猪だ。

 避けようと考えるも、その向こうにレヴァンテインさんがまだ子供サイズのティラルドラゴンを打ち据えているのが目に入る。

 俺は咄嗟にミスリルシールドを両手で押さえ込み、腰ダメに構えて踏ん張った。


 やって来るのは当たり前のような重い衝撃。

 ガツンと体全体に響きそうになるそれを、地面を抉るようにして構えた両足で耐え忍ぶ。

 はたして、俺の体はその剛撃に耐え切った。


 驚くべきはゲーム補正か。

 倒せば倒すほどに蓄積されていく経験値は、この前のハーフエルフたちを武器娘さんたちが倒した時の恩恵と相俟って、俺の体を強化している。

 おかげで踏み留まることが可能となった。


「お前、絶対に後で焼肉にしてやるから覚えてろっ!」


 食えるかどうかなど知らないが、俺は盾を逆に押し上げてやる。

 ビッグボアの体が、僅かに浮く。

 その瞬間に間髪入れずに右手を引き、前に突き出す。剣の切っ先は容赦なく巨体へと突き刺さり、内臓をかき乱す。苦しそうな咆哮を前に、剣を抉りながら引き抜く。零れる血と共に、ビッグボアの体が掻き消えた。


「アッシュ!」


 そこへ、足を止めたせいで開いた穴からティラルドラゴンが前から抜けてきた。

 振り向いた俺の眼前で、大口を空けた恐竜の牙が見えた。

 どうやら肉食獣は歯が命らしく、歯並びは最高に良いらしい。

 咄嗟にそんなアホなことを考えていた俺の眼前で、ティラルドラゴンが下顎からレヴァンテインさんによって槌で打ち上げられて宙を舞った。


 明らかに百キログラムを軽く越えるだろう巨体だ。

 それがいきなり縦回転して吹っ飛んでいった衝撃映像は、違う意味で俺を動揺させた。


「た、助かった。ありがとう」


「ん!」


 レヴァンテインさんは頷き、すぐにもう一匹をかっ飛ばす。

 今度は斜め下から飛来した鉄槌により、その一匹は森の茂みへと消えて行った。

 当然、インベントリ直通である。


「あの子だけは何かジャンルが違うな」


 他の武器娘さんたちとは一味違う。

 持たせた武器のせいかもしれないが、一人だけ鈍器のせいで激しい打撃音の嵐だ。


「我が主、距離が開いてきています」


「お、おう!」


 エクスカリバーさんの諌めの声。

 それに頷き、切り込んで行く二人の元へとひた走る。

 二人は、既に手前の門の前で待っていた。


「やっと来たか」


「悪い、待たせたな」


「手はず通りまずこの門を閉めるぞ」


 ショートソードさんとロングソードさんの二人に閉めるのを任せ、レヴァンテインさんに閂を持たせる。

 その間残りで魔物を駆除。タケミカヅチさんだけは門の外で追手を刈る。


「よいしょっと!」


「閉めましたよレヴァンテインさん!」


「ん!」


 閂が差し込まれ、後ろの魔物が分厚い門に激突。

 体当たりしてくる音が響いてくる。

 その向こう、塀を飛び越えるようにしてタケミカヅチさんが戻って来たので再び突入時と同じようにフォーメーションを組む。

 次は最も頑丈そうな門だ。

 アレを閉めさえすれば一段落は着く。


「やはり死体が無い。これではまるでっ――」


 その先の言葉をラルクは発さずに前に出た。

 冴え渡るその動きは、惚れ惚れするほどのキレがある。

 俺のように武器や単純な腕力に頼っているのではなく、しっかりと経験や技術に裏打ちされているからだろう。まるで暴風のように死を量産する彼は、近衛剣士の肩書きと相俟って頼もしさを感じさせる。


 俺は置いていかれないように後を追い、一応は索敵しながら周囲を見る。

 マップが示すとおりに生き残りは居ないだろうに、せめて痕跡だけでもと思って目で探してしまうのだ。

 木造の家屋は、無残にも扉が壊されている。

 きっと、オークやゴブリンなどの、獣ではない類の魔物が暴れたのだろう。

 食い荒らされた食料や、ぶちまけられた道具や家具などが散乱しているのが扉の外から見える。畑も、魔物たちに食い荒らされたらしく酷い有様だ。


――ここにはもう、生き残りは居なかった。


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