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第三十三話「塔、再び」


 やはり、空を高速で飛翔できるというのは絶大なるアドバンテージである。

 広大なエルフの森を、きっかり三日で往復してのけたディリッド。

 彼女の手により届けられた許可証により、ついにモンスター・ラグーンでのレベル上げが可能になった。

 その頃には会議もなんとかまとまり、ルース王子の一団もまた翌日にはエルフ・ラグーンを去ることになった。


「忘れるな、貴様はもう私のものだということを」


 去り際、リスベルクが堂々とのたまってキスをしてくる。

 擬人化スキルを解こうとしていた俺は、その不意打ちに目を瞬かせたが好きにさせた。

 至近距離でルース王子が俺を睨んでくるが、彼女は知っていても無視である。


「ん……今しばらくはこれで我慢しておいてやる。だから、早く我が元に来い」


 熱が入った視線に頷き返し、スキルを解く。

 元の姿に戻った彼女が、地面に落ちる前に柄を握ると王子に返却した。


「リスベルクを頼む」


「言われるまでもない」


 そうして外套を翻し馬に乗った王子は、一団を率いて東に去っていった。


「さて、それじゃあ俺たちも行くか」


「あいよ」


 さりげなく左腕に手を絡めてくるナターシャと一緒に、レベル上げのためにモンスター・ラグーンへと向かう一団へと混ざる。


「ハイエルフ様とイチャイチャしていた癖に、すぐにナターシャのごきげんとり? 貴方も大変ね」


「茶化すなよイスカ」


「だったら、アクレイが貴方のところに嫁げっていうのどうにかして」


 それとこれとは話が別だと思うが、「がんばれ」とだけ告げて容赦なく出発した。

 そんな俺の胸中では、面倒くさいのは一箇所にまとめてしまえとでも考えているだろうあの男の笑みが脳裏に浮かんでいた。

 当然、空想の中のアクレイには弁解のチャンスはない。

 遠慮なくぶん殴っておいた。




 北のゲート・タワーで許可証を見せた俺たちは、拠点に赴任していたエルフの戦士たちによって迎え入れられた。

 ラルクと来たときは人の姿一つなかったのに、重要拠点であるということからきっちりと人員が派遣されて警備体制が強化されているようだった。


 ただし、その分俺たちを見る目は余りよくない。

 下と上の温度差というのもあるのだろう。

 仕方なくといった風情の者もチラホラ見える。

 拠点の警備隊長もその空気は感じていたらしく注意していたが、本人もおざなりだ。


「なんか、空気が良くないな」


 ヨアヒムがぼやく。


「おいおい仲良くしていけばいいさ」


 さすがに喧嘩を吹っかけてきたりはしないだろう。

 ナターシャを見る目が少し心配だが、これはもうある意味ではしょうがない。


「ではアッシュ様はこちらへ。他の者は宿舎へと案内させますので」


「ヨアヒム、イスカ。できるだけナターシャのフォローを頼む」


「おう」


「ええ」


 念のために声をかけてから、俺だけは警備隊長と共に単身で塔を登る。


「しかし、本当に修復できるのですか?」


 半信半疑という様なのはお約束だが、俺だって確実ではない。


「八割がた何とかできると思う。もし、一日経っても俺が戻ってこなかったら失敗したと下の者たちに伝えてくれ。またラグーンから飛び降りて戻ってくる」


「それは構いませんが、本当にお一人でよいのですか?」


「問題ない」


 最上階、ゲートの手前でレヴァンテインさんとタケミカヅチさんを擬人化して見せれば警備隊長と警備の戦士が仰天した。

 それにニヤリと笑みを返し、俺たちはゲートの向こうへと消えた。


 一瞬の浮遊感。

 その気持ち悪い感覚の後には、やはり塔に入り込んだ魔物と遭遇した。

 ハイオークとゴブリンたちだった。

 拠点としてゲート・タワーを利用しているのだろう。

 可哀想だが、邪魔なので排除させて貰おうか。


「レヴァさん、タケさん、やっておしまいなさい!」


「ん!」


「御意!」


 気分は印籠を持っているご老公だった。

 俺も自らイシュタロッテを抜いて切りかかる。

 たった三人だが、十分にオーバーキルできる戦力だ。

 奴さえいないなら、怖いものなどこのラグーンには存在しない。

 案の定十分も掛からずに最下層まで制圧することができた。


「おお、さすが雑草だな」


 戦鬼を落とすためにぶち開けさせた壁の穴からも見えてはいたが、塔の入り口から外を見れば焼き尽くしたはずのラグーンの大地に草が生え出していた。

 そしてその上には、沢山の魔物の姿がある。


「一旦戻すぞ」


 そうして、レヴァンテインさんを手に俺は火の精霊を召喚する。


「来い、イフリート!」


 赤い色をした半透明の幼女が、虚空に突如として現れた炎のエフェクトより来たる。


「ちょっと、塔の中に居てくれ」


 無言でコクコクと頷くその幼女をそのままに、俺は再びこの大地を『終焉の炎』で焼き尽くす。


 久しぶりのMAP全域攻撃スキル。

 繰り出せば当然、業火が俺を中心に広がって全てを焼き尽くしていく。

 何度体験しても思わず身震いするようなその圧倒的な火力こそ、レヴァンテインさんの真骨頂だ。


 脳裏を過ぎ去てっていくログが、猛スピードで流れていく心地よい疾走感。

 そして、召喚しているイフリートのレベルアップ音が当たり前のように何度も俺に聞こえてくる。

 当然、その中には俺のレベルアップ音も混じっていたが今はどうでもいい。


 振り返れば、幼女だったはずの火の精霊が少女を通り越して美女にまで進化していた。

 より存在が増し、輪郭がヒトのそれに近づいている。

 レベルを上げ成長させることで精霊別に成長していくそうだが、驚くべきレベルアップ速度には違いない。

 まだカンストしては居ないが、繰り返せばすぐに到達するだろう。


「ダメージ判定はどうだった?」


 声は無いが、彼女は首を横に振るった。

 元々精霊は、己の属性と同じ属性攻撃を無効化できる仕様だ。

 だからレヴァンテインさんの火は彼女には通じないが、当たり判定はあるはずだった。

 ただし、あの塔の中はダンジョン扱いなのでMAPが切り替わり、全域攻撃の射程範囲からは外れる。

 そして、それは俺が真っ先に確認したかったことだった。


 当たり判定が無いということは、攻撃が届かないということである。

 問題は熱波だろうが、工夫すれば戦わせずに経験値を稼がせることができるだろう。

 パーティーメンバーが増えればその分経験値が分割される。

 しかしこれができるのとできないのでは育成効率が圧倒的に違ってくるのだ。

 この発見は大きい。


「よし」


 これで精霊は元より、カンストしていない武具娘さんたちの促成強化の目処も付いた。

 調子に乗った俺は、ゲートを修復する前に八種類の精霊全てをカンストさせた。

 きっと今はホクホク顔に違いない。

 エクスカリバーさん、レヴァンテインさん、そして光の精霊『ウィスプ』に一階を任せた俺はタケミカヅチさんと一緒にゲートを修理する。



「またこの糸を繋げばいいのですね」


「頼む。俺はその前にサンリタルをはめ込む」


 アクレイに預けておいたそれを球体を嵌めこみ、タケミカヅチさんの仕事を待つ。


 程なくして修理は完了した。

 ゲートの魔法陣が輝きを取り戻し、天地を繋ぐ架け橋としての力を取り戻したのだ。

 すぐに下に戻ると、まだ律儀にも待っていた警備隊長さんたちが驚いた顔をして俺を出迎えてくれた。


「ほ、本当に戻ってくるとは」


「完全に修理したわけじゃなくて応急処置にすぎないがな。それと、向こう側の一階に仲間を配置して死守させている。一応は注意してくれ」


「仲間? ああ、あの武器の……了解しました」


 頷いた警備隊長は安堵のため息を吐くと、遠慮がちにもう一つ頼み込んできた。


「実は、我々もローテーションを組んでレベル上げを行いたいのですが」


「いいんじゃないか? ここはエルフ族のものだろうし、上も下も関係ないはずだ」


「ありがとう御座います。すぐに部下にローテーションを組ませます」


 元はといえば俺のせいだというのは、ゲート復活の喜びで忘れているようだ。

 思い出されてもアレなので、ついでに胃袋を攻めることにした。

 取れたてホヤホヤの豚肉を大量に提供したのだ。


「こ、これだけの肉を全て提供してくださるのですか?」


「遠慮するな。どうせここで戦う限りは無限に調達できる」


 一応食料はある程度自前で持ってきたとはいえ、大所帯になっているので消費は早いはずだ。上で焼き払えばすぐにいくらでも調達できるので、連中が呆れるぐらいに提供しておくことにする。

 これで少しは風当たりが良くなれば良いと考えながら、俺はもう一つの計画を思案した。


 そう、ここにはアレが無いのだ。

 俺が重要視する風呂が!

 なら用意するしかないじゃないか。

 誰もどうにもしないだろうから、この風呂エルフたる俺がやるしかないのだ。


 レベル上げのために死に物狂いで戦うだろう連中が、返り血と汗の匂いのまま大量に過ごすのはさすがに看過できない。

 今の季節は夏だ。

 モンスター・ラグーンでは関係ないが森の中といえど気温はそれなりにある。

 その破壊力を想像すると眩暈がしそうだぜ。


「そうだ、俺は上に住むか」


 温度が一定なので、寒すぎず熱すぎないのがラグーンである。

 ある意味快適な生活ができるので、あそこに住むめばいい。

 それに、夜には誰も居なくなった頃を見計らってレヴァンテインさんで他の武器のレベル上げもしたい。

 呆れる警備隊長殿に交渉し、部屋のベッドを一つ貰った俺は夕食までの間に塔の掃除を行った。


「今日も頼りにしているぜ、レヴァンテインさん」


「ん」


 すっかり掃除の補助役が板についてきた彼女は、こっくりと頷いた。

 レベル上げは明日からだから、今日のうちに済ませてしまおう。




 到着二日目。

 朝食を終え、しばらくまったりした後である。

 ラグーン組がレベル上げにやってきた。

 ラグーンの戦士たちは、隊長格以外はほとんど若い者が選ばれているようだった。

 数は三十人にも満たないが、集中的に鍛え上げるにしてもアーティファクトの数に限界がある。


 その問題は、ナターシャと俺がロロマ帝国で回収したそれを貸し出すことでなんとかした。後はある程度レベルが上がると交代で順次入れ替えていく方式だ。

 その際、最初期の第一陣には今後の指導教官としてだけではなく、センスがあると判断された選抜組みの優先強化がある。

 これは所謂エリート戦士の育成で、入れ替え組みとは違ってここに残りとことんレベル上げに励んでもらうことになるようだ。


 質と量。

 この二つの早期充実をアクレイは計画しているのだろう。

 四人一組で構成された彼らが二組と、残りの順次入れ替え組が三組。

 後はナターシャとイスカ、そしてヨアヒムの一組で計六組の計算だ。


 勘定の中に俺が入っていないのは、好きに動いて構わないという意思表示に違いない。

 アクレイは俺を遊撃のサポート要員にするつもりなのだ。

 俺はナターシャのサポートと精霊と武器のレベル上げもするつもりだったので、これはありがたい。

 まぁ、戦士部隊を教導しろなんて言われても、俺には一匹でも多く魔物を倒せとしかいえないから当然といえば当然か。


 今は武器娘さんたちが一階の入り口を死守しているその場所で、六組の小隊が代表の戦士に大まかな指示を受けている。

 俺は壁にもたれてそれを遠目に見ている形だ。

 正直、欠伸を堪えるのに必死だ。


「それではアッシュ殿、皆に訓示をお願いします」


 隊長格のエルフ戦士がいきなり俺に言葉を振ってきやがった。

 おい、聞いてないぞ。

 しかし、一斉に向けられてくる若いエルフ族の戦士たちの瞳が、俺に狼狽を許さない。

 偉そうなことを言うのは得意ではないから困るのだが、場を白けさせて士気を低下されても困る。俺は覚悟を決めて口を開く。


「あ、あー、皆はここにレベルを上げるために来たわけだが、先ず第一に仲間と自分の身の安全を最優先に行動して欲しい。つまりは、潔く引く勇気を持てということだ」


 無理をして死なれても困る。

 命は一つしかないのだ。


「そこに居る白い光の精霊……俺の守護精霊『ウィスプ』は傷を癒す力を持っている。ある程度なら治療することができるから、負傷したらすぐに引いてくれ」


 ちょっとだけ、若い戦士たちからムッとした雰囲気を感じた。

 プ、プライド高いな。

 やはり、フォローは必要か。


「それは何故か? 君たち一人一人がエルフ族にとって大切な財産だからだ。君たちの命は黄金にも勝る価値があり、そしてこれからレベルを上げていくことで更に価値を上げていくだろう。つまらないミスや、実戦経験の不足程度の理由で失われていいはずがない」


 一旦言葉を貯めながら、顔色を窺う。

 さすがに不服そうな顔はなくなった。


「そしてこれは無茶をする場面ではない。無茶をしなければならない場面は来るかもしれないが、どうか間違えないで欲しい。そしてその上で強くなり、エルフ族の戦士として自らを高めてもらいたい。以上だ」


「よし、今の言葉を皆肝に銘じておけ! アッシュ殿が言うように、我々戦士の命はもはや自分だけのものではないのだ! エルフ族の財産だという覚悟を持って励め!」


「「「了解!」」」


 威勢の良い声と共の後、小隊ごとに出発していく。

 と、エリート部隊の一組を率いる隊長殿が礼を言ってきた。


「ありがとうございます。今回は実戦経験が少ない奴らが多いので、ああして釘を刺してもらえて助かりました」


「そ、そうか。なんだか浮き足立っているように見えたからな」


「さすがですね、そこまで見抜いていらっしゃっるとは」


 すいません、そんなあからさまな尊敬の念を向けないで下さい。

 口から出任せでした、言えない。


「また何かアドバイスでもあれば彼らに言ってやってください。皆の励みになるでしょう。では、失礼します」


 慇懃に礼をして去っていく隊長殿は、すぐに部下と合流し塔の外へと出て行った。

 残ったのはナターシャの組だけだ。


「アタシらもそろそろ行くかい」


「そうだな。とはいっても、初日から飛ばすこともないがまずやるべきことがある」


「やるべきこと?」


 イスカが眉根を寄せるが、俺は視線をヨアヒムに向けた。


「単純に効率の問題だが、朝はできれば集中的にヨアヒムに止めを刺させてくれ」


「お、俺が? いいのかよ」


「一応三人一組だが、仲間を出して後々は小隊にする。そのうち俺は適当に動く予定だから、最悪大群は無理でも一人である程度戦えるようになってくれ」


 ナターシャとイスカは問題ない。

 レベルで考えても、モンスター・ラグーンでの実戦経験からいってもそうだ。

 しかし、ヨアヒムはどちらもないから心もとない。

 きっと二人も気を使って効率が落ちるだろう。

 これは早期に解決するべき案件だ。


「私は別にかまわないわよ。最近戦っていなかったから慣らす必要あるしね」


「アタシも別にいいよ」


「よし、それじゃあ行くぞ」


 俺たちもまた、レベル上げに出陣した。




「おい、あの二人滅茶苦茶強くないか?」


 半殺しにされたハイオークに大剣で止めを刺しながら、ヨアヒムが引き攣った顔で言う。


「レベルだけで見れば、お前より圧倒的に高いからな」


 レイピア型のアーティファクトでオークに突きかかるイスカ。

 一瞬の隙をついての攻撃は、分厚い脂肪で守られたはずの胸を突き抜ける。

 瞬時に引き抜いた胸部から、ごぼりと血が滴るのも気にせずにイスカは後退。

 そこへ、ナターシャが代わりとばかりに前に出る。


 仲間をやられた怒りからか、別のオークがイスカを狙ってなぎ払おうとしてきた槍に、俺が渡したミスリル製のソードブレイカーで跳ね除けた。

 掠れる金属の悲鳴。

 擦れあう箇所から火花が散って、矛先が空を突く。

 その技量に感嘆するヨアヒムの目の前で、ナターシャが槍を引き戻されるよりも先に踏み込む。

 翻るは右腕のショートソード。

 銀閃は容赦なく喉を突き、巨体の主を後退させる。

 その末路は決まっていた。


「次いくわよナターシャ」


「あいよっ」


「……なんか、ヨアヒムが忘れられてるな」


 イスカとナターシャの二人は、時折思い出したかのように半殺しで止めそれ以外は競い合うように倒していく。

 二人とも、俺が近くに居るから任せればいいとでも思っているのかもしれない。


「その癖、互いにフォローしあってるな」


「し、信じられねぇ。こんなのを毎日続けるのか……」


 全周囲に魔物が居るというこの状況。

 ビクビクしながらヨアヒムは止めを刺していく。


「しかしこれだと効率が悪いな。どうせならこう、もっと大群で来て欲しいぐらいだ」


「た、大群って……」


「初めは雑魚の群でいいんだが……んー、あそこのは遠いしまだ無理か」


 塔でのレベル上げといっても、それほど離れることはできない。

 何せ、遮蔽物など無いから放って置いても魔物がこちらを発見して襲い掛かってくるのだ。そうでなくても血の匂いで引き寄せる。

 この場合、一番危険なのは群れる魔物だ。


 数の暴力を捌ききるには、まだまだ新人には荷が重い。

 アデル王子のときは無理やり武器娘さんたちが守っていたが、護衛戦力が足りない今そんな無茶はできない。


「いかん、ティラルドラゴンの群れだ! 引け、引けぇぇーー!」


 ベテランらしき小隊の隊長たちが、遠くから土煙を上げて迫ってくる一団を見つけ避難させていく。

 俺も一旦三人を塔の中へと避難させるが、ヨアヒム以外は不服そうだった。


「チャンスだと思うけど」


「アタシもそう思うよ」


「まぁ待てって、二人が大丈夫でも他の新人たちにはあの物量は無理だろ」


 数は三十は越えているだろうか。

 五十はいないと思うが、どちらにしろ大群だ。


「ウィスプと一緒に他の連中を死守しといてくれ」


 タケミカヅチさんとエクスカリバーさん、そしてレヴァンテインさんを引きつれた俺は全員を動けない程度に半殺しにする。


「こんなものか」


 数分後、呻くティラルドラゴンを新人たちに始末させようと塔に戻ると、新人たちが呆れたような目で俺たちを迎えてくれた。


「だ、大丈夫かよアッシュ」


「問題ない。その内、レベル上がったら皆アレぐらいはできるようになる。ただ、ティラルドラゴンは普通の剣だときついってことだけは覚えといてくれ」


 ただのロングソードが刃こぼれしまくっていたので、それだけは忠告して新人たちに止めを刺させる。


「なんか戦ってるって気がしないぞこれ」


「レベル上げなんざ作業だよ」


 命を掛けた修行であり、同時に命を刈り取るおぞましい作業でもある。

 ハイエナ気分に浸っているだろうヨアヒムの背を叩く。


「ほら、次が来るぞ」


 レベル上げを始めてから、死体が流す血の匂いに引かれた魔物が動き出している。

 遠吠えに、無言の疾走と移動。

 魔物同士で喰らい合うよりも、ある意味では弱そうな俺たちを狙おうと魔物たちが集まってくる姿が遠目に見える。

 こうしてヨアヒムの過酷なレベル上げの日々が幕を開けた。


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