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第三話「風呂」


 昼過ぎ、再び塔へと俺たちは戻ってきた。

 レヴァンテインさんを打ち壊された門へ、そしてタケミカヅチさんを塔の最上階に配置すると、当たり前のように死体の処理に明け暮れる。

 さすがにコレには人手が必要なので、この前の戦いでも世話になったショートソードさんを擬人化。武器として二メートルはある大剣『バルムンク』を持たせた。


「私もがんばるよアッシュ君」


 鋼色のショートヘアーを揺らしながら、纏ったレザーアーマーの胸元を軽く叩いてみせる。

 小柄だが、見た目は完全に少女剣士と言った具合だ。

 どうも、レア武器でないと武器の素材によって容姿や纏った防具のグレードが変わる法則があるようだ。

 元になった素材のせいか、ロングソードさんと並べば姉妹のようにも見える彼女は、体格に似合わない剣を片手でひょいっと持ち上げると、さっそく周囲を見回して首を傾げた。


「……何をすれば良いの?」


「とりあえず俺の手伝いをしてくれ」


「はーい!」


 元気よく返事をした彼女は、死体を見て「うっ」と唸るも手伝ってくれた。

 ロングソードさんとグングニルさんは穴堀りだ。


 ショートソードさんと二人で戦士たちの亡骸を一箇所に集め、その穴に死体を埋葬していく。

 それが終れば、井戸水で手を清めてから生活環境を整えることにする。

 まずは戦士たちが使用していただろう木造の家屋の中から、出来る限り損傷が少ない家を選んで拝借。そうして、次に夕飯の準備をしようとして気づいた。


「俺、料理なんてほとんど知らないじゃないか」


 しかもここは異世界だ。

 何が食べられるのかさえ知らない。

 元々俺の持つ料理の知識など高が知れている上に、俺自身は情報系専門学校の学生寮に住んでいた。食事は基本、寮母さんの手料理かコンビニで賄っていたのだ。


「狩りでもするか? いや、だが捌いたりできないしどこが食えるかもわからん」


 サバイバル技能が、致命的な程に俺にはなかった。

 既に村に戻っても誰も居ない。

 焦りながら、俺は縋る思いでインベントリを漁る。


 無限転生オンラインにはよくある倉庫や銀行などはなく、アイテムや金はカンストするまで無限に所持することができた。ただし、そのメリットは死に戻った後にデスペナで所持金が半分になるというルールをより際立たせた。

 そのせいで、プレイヤーは一瞬で近くの街に戻るアイテムの使いどころだけは間違わないように調教されてしまっていた。


「売る必要がないからずっと放置していたわけだが……これは食べられるのか?」


 インベントリの肥やしになっていたドロップアイテム。

 その中から豚肉を取り出すと、不思議なことにスーパーなどでパックされている状態で出てきた。


「何故だ!?」


 ゲーム時代はこんな包装は無く、肉を出せば肉だけが出た。

 不満に思うよりはありがたく思うべきなのだろうが、廃エルフといいパックされた肉といい、とても妙な気分になる。


 更に詳細を読むと、オークの肉と書かれていた。

 因みに製造日は昨日であり、賞味期限ではなく、タイマーがあった。

 どうやら、インベントリの外に出しておけば減っていくらしい。

 きっとゼロになると腐るのだろう。


「――ってこれ、まさか昨日倒した奴らの肉か?」


 食えるのか少しだけ悩むも、この世界で生きていくために捌く必要はなさそうだ。よくよく考えれば、狩りをすれば獲物もドロップアイテムとして収納されるかもしれない。

 なら後は毒があるかどうかだ。


 調味料系のアイテムも持っていたので、塩を振って焼いてみる。その後は適当にインベントリの中にあるパンを取り出し一緒に食べる。

 腹に入れば良いというだけだが、やはり色々と工夫する必要はあるようだ。無理やりに詰め込み、MPが回復する野菜ジュースで胃に流し込む。


「……一応、狩りをすればなんとかなるか」


 オークの肉は、非常に大味だったが豚肉の味がした。

 贅沢は言わない。

 とにかく服は装備から、住居はこの家、食事もなんとか目処はたった。

 安全も皆に任せれば一応は確保できるはず。


 なら、後の問題はたった一つだ。

 家屋の中から大工道具を探し出すと外で思案する。


「何をお考えですか」


「風呂が欲しいと思ってな。少し悩んでいたんだ」


「そういえば、どの家にもありませんでしたね」


「井戸か、或いは近くの川で身支度を整えていたのでしょうか」


「もしくは湖さんだね」


 ロングソードさんとショートソードさんも会話に混ざってくるが、そもそも武器に入浴するという概念があるわけもない。うんうんと唸る二人は、最終的に布で拭うだけで良いじゃないかと言ってくる。


「いや、さすがにそれはないって」


「そっかー。アッシュ君がお願いしてくるなら全身綺麗に拭ってあげたのになぁ」


 ショートソードさんは天真爛漫だ。


「……気持ちだけ貰っておくよ」


 やはり、この分野は俺がなんとかしないとならないのだろう。

 湯と水のあてはある。

 だからバスタブさえ作れば良いと思うのだが……どうやってだ?


 考えてみれば、木造の風呂になんて入ったことが無いから作りが分からない。

 露天風呂は修学旅行で入ったが……アレはどうみてもプロの犯行だ。

 穴を掘って石を並べるだけではさすがにダメだろう。

 やはり、ド素人が思いつきで作れるわけがないということか。


 どうやら、何気なく使っている風呂は、人類の叡智が結集した素晴らしき贅沢品のようだ。一番簡単そうなのは五右衛門風呂だが、そんなでかい鍋が都合よくあるはずもない。

 当然、ドラム缶もここにはない。

 くそっ、ネットに頼れないと、俺という現代人はこんなにも弱いのか。


「でかい鍋がないなら一から作るのはどうだ? 鍛冶スキルを使えば……」


 良い思いつきのようにも思えたが、やはりこれも不可能だった。

 ゲームではスキルを行使すればよかった。

 だが、それで作れるのはあくまでも武具だけ。

 大鍋など作れるはずがない。

 頭に被れる程度のそれであれば兜扱いのネタ装備として作れるし、鍋の蓋も盾として作れる。けれど人が入れるような大鍋はどう考えても無理だ。


 結局、最後に頼れるのは知識と知恵。

 そして行動力と発想力というわけか。


「グングニルさん、レヴァンテインさんと交代してきてくれるか」


「かしこまりました」


 とにかく、俺に出来る方法で実現するしかない。

 何事も工夫だ。

 見てくれや見栄えなどこの際必要ではないのだから、求めるべき機能さえあればそれで良い。

 インベントリから大量のストーンブロックを取り出すと、俺は二人に手伝ってもらいながら地面に並べていく。

 横幅は大人十人が余裕で入れるぐらい、縦の長さは丁度大人が足を伸ばして二人入れるぐらいだろうか。

 この際、後からやってくる戦士たちも汗を流せるように景気よくやることにした。


 少ししてから、レヴァンテインさんも加わる。

 すると、今度は売却アイテムでもある陶芸用の粘土を取り出してストーンブロックとストーンブロックの間に強引に押し付けるようにして敷き詰めていく。


「レヴァンテインさん、粘土を炎で焼いてくれ」


「ん」


 遠くに俺たちが避難したことを確認してから、彼女は全身に炎を纏うと鉄の上をただ歩く。しばらくそうしてもらうと、粘土が素焼きにされて固まっていた。

 所謂、縄文時代などの土器のような状態だ。

 要するに風呂というのはお湯さえ貯められれば良いのだからこれでいいだろう。


「わぁ、凄いですねレヴァンテインさん!」


「ねー!」


 鋼色の髪を持つ二人が仲良く驚いているが、俺はなんとか使えそうなことに安堵した。




「何処からどうみても風呂だな」


 ストーンブロック同士を接着させる方法が思いつかなかったので、やはり粘土で無理やりにくっつけてでっち上げた風呂が完成した。壁を作る作業は勿論、全部レヴァンテインさんがやってくれました。


 というか、彼女以外は無理だ。

 ロングソードさんやショートソードさんは見学だ。

 手伝おうとして近づいたら間違いなくダメージが入るだろう。

 ゲーム的に考えればそうなるという予測だが、さすがに試してもらうわけにもいかない。

 そうして出来た風呂は、素朴だが風呂らしき体裁を整えている。


「できた」


「ありがとう」


 いつもの無表情が、今なら誇らしげな顔に見える。

 俺は彼女が作業中に作った木の栓で、排水用のために明けておいた穴を塞ぐ。

 うん、それから気づいたけど、湯を捨てるための排水路を作ってなかったな。まぁ、それは明日にしてとりあえず湯を張ろう。


 五人を擬人化したせいでMPがない。なので、三叉の槍であるトライデントを取り出した後はロングソードさんにスキルを行使してもらう。

 普通は水を操って押し流したりするのだが、かなり手加減して水を出してもらい、最後にやはりレヴァンテインさんに頼んで湯に変えた。


「よし。後は入るだけだが……三人は先に入ってくれ。後で警備の二人と交代だ」


「アッシュ君は入らないの?」


「ちょっと作る物があってな。それが出来てからにするよ」


「ん」


「了解です」


 三人は頷き、おもむろに装備を脱ぎだした。

 当たり前の話だが、武器には羞恥心というモノは無いらしい。

 ギョッとした俺は、そそくさと大工道具をインベントリに収納。

 家屋へと逃げ込んだ。


 だが、そこでまたも頭を抱えてしまった。


「籠って、どうすれば作れるんだ?」


 衣類を入れるものを作ろうと思うのだが、頭に浮かんだのは旅館などにある竹の籠。

 火で炙れば曲がるとか聞いたような気がするのだが、完成形が思い浮かんでもその製作過程がさっぱりだ。


 そもそも編むって、どうやってだ?

 仮に曲げられても編み方すら俺は知らない。

 仕方なく木の板で籠を作る。不恰好だが、要は衣類が入れられれば良いのだ。


「アッシュくーん、拭くもの下さーい」


 ……逃げた意味がねぇ。

 出来たばかりの洗濯籠モドキに布を入れると、風呂の側において逃げ去ろうとする。

 だが、完全にノーガードのレヴァンテインさんが、俺のコートの裾をちょこんと掴んで止め、見上げながら言うのである。


「アッシュも入る」


「……」


「どうせならアッシュさんも一緒がいいですよね」


「ねぇ、入ろうよアッシュ君」


 俺はちっぽけな良心しか持たない弱い人間だ。

 間違っても自我がダイアモンドのように強固だったりはしないし、品行方正でもないのである。致命的なほどに不真面目でこそ無いが、それでも普通の男でしかないのだ。


 だから、そう。

 彼女たちの無垢な言葉に流されるまま、混浴などという生まれて初めてのお誘いを断るなんてことはできなかった。


(しかし、よくよく考えてみれば武器と混浴って、それは本当に混浴なのか?)


 これはとても難解で、そして哲学的な問題ではないだろうか。

 気持ち良さそうにしている三人の側で、俺はそんなことを考えながら荒ぶる気を静めた。

 三角座りで。



 翌日、一人だけ朝食を食べた俺は、またもスコップで穴掘りに精を出していた。

 ショートソードさんは剣に戻し、今は俺の装備として腰元にある。後の四人はゲート組みと門組みに二人ずつに分け、交代で警備してもらうことにした。


 ゲートはタケミカヅチさんとグングニルさん。

 そして門はレヴァンテインさんとロングソードさんが担当だ。

 片方は休憩で、警備していない間は好きにしてもらう。


 どうやら昼間はあまり魔物が来ることはないようだ。

 その代わりに夜には何度かゲートの方で戦闘があったらしい。

 門の方は動物が顔を出したことはあったそうだが、脅威ではないとのこと。レヴァンテインさんが炎を纏うだけで逃げるそうだ。


 逆にロングソードさんの場合は組しやすいと見たのか仕掛けてくるらしい。当然、そいつらは俺のインベントリにドロップアイテムとなって眠っている。

 ログも見たが、どちらもたいした相手ではないようなので問題はないだろう。


「何をしているのですか?」


 励む俺に、レヴァンテインさんと見ていたタケミカヅチさんが問いかけてくる。


「風呂の水を捨てるための排水路作りだな」


 この体、何故か疲労するということが無い。精神的にならともかく、体力が無尽蔵らしいのでせっせと穴を掘る。


「そうだ、二人でその風呂持ち上げられるか?」


「どうでしょうか。まぁ、やってみますか」


「ん」


 冗談だったが、二人がかりで簡単に持ち上げられてしまった。

 まだ水が入っていたはずなのだが、信じられないほどの力だ。華奢そうな見た目なんて本当にあてにならない。


「……そのままで頼むな」


 排水口の真下当たりを掘ると、今しがたまで掘っていた場所に繋げる。後はゆっくりと下ろしてもらい、試しに木で作った栓を抜く。


「どうやら、問題は無いようですね」


 流れた水は、やがて先に作っていた水路を勢いよく抜けて行った。その水は水路の先にある溜め池へと流れていく。


「さて、次は何を作るかな」


「いつものように戦いに赴かれないのですか?」


 ゲーム時代なら、確かに俺はレベル上げに励むだろう。

 けれど、そもそも戦うにしてもダンジョンやフィールドで敵が無限に出現するわけではない。それに労力を割くよりも、まずは居住環境を整えたかった。


「ダークエルフの戦士たちが来るまでは積極的に動くつもりはないよ」


「そうですか」


「彼らが来たら一度地上に降りようと思う。多分、そのときにタケミカヅチさんたちには暴れてもらうことになるはずだ」


「御意」


「ゲートの先、魔物一杯?」


「一杯かどうかは分からないな。ただ、居ないとは考えられない」


 おそらく、ガーディアンのゴーレムはここと同じで破壊されているはずだ。でなければ魔物がここに来れるはずがない。


「警備してもらっているとはいえ、英気は養っておいてくれ。必要なら二人で訓練してくれてても良いし、狩りに出てもらってもいい。ただ、訓練は武器を変更してくれ。多分訓練用の剣とかがあるはずだからそれで頼む。真剣はダメだぞ」


「分かりました」


 言うなり、タケミカヅチさんは木剣を探しに行く。

 レヴァンテインさんは付いていかず、残って俺の手伝いを申し出てくれた。


「次は何を作る?」


「背中を流すときに使うスペースや、椅子かな。囲いとかも欲しいな」


 とりあえず一番初めに必要なのは囲いだろうか。

 色々と思案するが、まずは囲いからにした。

 やはり、ここは適当に木の杭を撃ちこんでベニヤ板あたりで囲ってしまうのが一番だろうか。


 欲しいのは見てくれではなく機能。

 インベントリから薪にするための材木を取り出し、取り出したトマホークやらバトルアックスなどを使って適当に先端を削る。後はベニヤ板の大きさに合わせながら地面に打ち込んで囲いを作るだけだ。


 そのさい、やはりレヴァンテインさんが大活躍だった。

 擬人化により攻撃力を力に変換されている彼女は、その人外の力を発揮して杭を打ちこんでくれる。タケミカヅチさんが訓練に誘ってもお構い無しだった。


 「嫌」の一言で断られた彼女は、「むぅ」と唸ると仕方なく草薙さんを手に取って素振りを始めた。何故か、チラチラと俺の顔を見るのは、まさか訓練相手をして欲しいからだろうか? 俺は自分の身の安全のため、心を鬼にして見なかったことにして作業を続ける。


 これは現実逃避なのだろうな。

 異世界に自キャラでトリップしてから、単独行動するなり最初に始めるのが入浴施設の充実ってなんなんだ? 普通はもっと他にやることがあるんじゃないだろうか。


 俺の中に微かに残っていた冷静な思考が不審がっているが、これはしょうがない。

 そもそも、一体何をすればいいのだ。

 ここを離れるには、魔物を退治できる戦士が来てからだと決めている。

 誰かダークエルフの人が居てくれたらこの世界のことを聞いたりと情報収集もできるが、ここには俺と彼女たちしかいないのだ。


 食料はインベントリにデスペナ対策で色々と買いだめしているのが沢山ある。

 無いのは住居環境だけ。

 ここでできることは限られているのだから、生活を充実させるための行動に出て何が悪いというのだろう。


「掃除や洗濯もしなきゃいけないしな」


「乾かすの手伝う」


「……燃やさないでくれよ」


「ん」


 しかし、洗濯か。

 勿論手洗いになるな。


 電化製品など無いこの世界、如何に工夫して家事による負担を軽減するかの生活力が必要だ。洗濯に関しては特にだ。まさか、彼女たちが従順なのを良いことに俺の衣類を洗わせろと? ありえない答えだそれは。


 だって彼女たちは武器だぞ。

 そんな生活スキルを持っているだなんて、俺にはとても信じられない。それにきっと、それをするのは俺自身のためにならないだろう。


「ここで生きるってのも面倒だなぁ。あ、ストップだレヴァンテインさん!」


「ん?」


 俺は、ミョルニルさんでベニヤ板への釘打ちを手伝おうとしてくれる少女を止めた。

 役に立とうとしてくれるのはありがたいのだけれど、さすがにミョルニルはダメだと思う。ギリギリで止まったハンマーは、何故か当たり前のように紫電を纏っていた。


「はぁ。何をしているのですレヴァンテイン」


 見かねてタケミカヅチさんがやってくる。

 彼女は釘を一本手にとると、左手で杭を押さえ指で掴んだそれを突き刺し、人差し指で最後には押し込んで見せた。それはまるで、豆腐に釘を刺したかのようなほど呆気ない釘打ちだ。見ていた俺は、ポカンと口をあけたまま、しばし言葉を失ってしまった。


「こんなもの、我々なら素手で十分でしょうに」


「ん」


 こっくりと頷いた少女は、それに習って釘を刺しこむ。

 作業効率が当たり前のように上がったが、俺の常識もまたそれに比例するかのように砕けそうになった。だが結果はきちんと出ているのだから、何も問題などない。


「さ、さすがタケミカヅチさんだな」


 なんとか搾り出したその言葉に、彼女は得意げに微笑んで作業を手伝ってくれた。

 もしかして、一緒に作業がしたかったのだろうか?

 機嫌よさ気にハミングまでする彼女のおかげで作業は更に捗った。

 もう、そのままベニヤ板の貼り付け作業は二人に任せ、俺は木材で椅子を作ることにする。


 本当に適当な作りだが、やはり機能さえあれば良いのだ。

 そうやってしばらく作業に没頭していると、塔の方から凄まじい轟音が響くのが聞こえた。作業をしていた二人が、俺の元に駆け寄ってくる。俺も咄嗟に腰元のショートソードさんに手をやり、何事かと思って塔を振り仰ぐ。


「見てきましょうか?」


「頼む」


 タケミカヅチさんは頷き、すぐに駆け出した。

 俺とレヴァンテインさんは作りかけの浴場から出ると、ゆっくりとその後を追う。その間、グングニルさんのHPを脳裏に浮かぶ体力ゲージから確認する。はたして、確認した体力ゲージは削られている。


 ダメージはあるようだ。

 けれど、彼女に持たせている剣はエクスカリバーさんだ。

 所持しているだけでHP・MPが回復していく治癒スキルが備わっているおかげで回復量が上がり、すぐに回復してしまう。


「強敵?」


「今のところ問題は無さそうだ。だが――」


 数度塔から轟音が響き、そこに甲高い雷鳴が混ざった。

 反射的にショートソードを抜いた俺は、それ以上塔に近づくのを止めて入り口を見据える。


「……来る」


 レヴァンテインさんが呟いた次の瞬間、俺たちの頭上の壁をぶち破って人影が躍り出た。

 飛び散る塔の残骸に混ざる人影は一つ。

 だが、一人ではない。

 その影は、二人の人物が重なっていただけだった。


 その女が着地する。

 陽光の下に晒されたフードからは茶髪の髪と気丈そうな人間の女性の顔があった。

 人間と思ったのは、エルフ族特有の長耳が無いからだ。


 若い。

 恐らくは二十代前後。左手には刃の反対に剣を受け止めるための凸凹のある剣、ソードブレイカーと思わしき剣を持ち、右手には茶色い輝きを放つショートソードを持っている。

 それは、間違いなくアーティファクトだろう。でなければ塔の壁をあんなにも容易くぶち破れるとは思えない。


「エルフに……人間? なんだってつるんでるんだい」


 少しばかりハスキーな声で、その茶髪の女は困惑を露にした。

 その背には、必死にしがみ付くダークエルフの少女が居た。



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