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第一話「転生」

この物語はフィクションです。

実際の団体、人物には関係ありません。

 誰かに頼られるのは面倒だ。

 何故ならそれを受諾するということで、他人のために労力を割く事であるからだ。けれど、頼られることが少しばかり嬉しいことであるとも俺は知っている。


 翻れば頼られるということは、誰かに認められているという証明でもあるのだ。

 ただの打算であれ、切実な願いであれ同じだ。必要だとされることは、存在を肯定されることにも等しい。ならそれはきっと悲しいことではないのだろう。

 今までは、それらが輪となってこれまでの俺を育んできた。頼り、頼られるという互助社会の恩恵。きっと、それを受諾するのはこれからも変わらない。


 そう、だから――、


(これっきりの神様を始めよう。どっちにしろ、戦うしかないわけだしな)


 受け入れたわけではなく、今だって違うと思っている。ただの勘違いだと言っているのに、それでも後ろに居る耳の長い子供たちが聞いてくれない。


 正直、俺はまだ夢だと思っている。

 でも、だったら一仕事終らせてから気持ちよく寝て、そうして夢から覚めたいと願っても良いはずだ。


 外から耳に入ってくるおたけび。

 喧騒と叫び声。

 そして、時折混じる耳を塞ぎたくなるような悲鳴。

 それらは外で行われている戦いの激しさを物語っている。


(転生直後でレベル1だが、後ろの子たちに逃げ場はない。なら、やることは一つだ)


 脳裏に浮かぶメニュー画面の中から、装備を変更。まずは転生前に作り上げた手持ち最強の全身鎧に一瞬で着替えてみせ――その余りの重量に耐え切れず、俺は後ろに倒れた。


「ハイエルフ<始祖神>様!?」


 ログハウスにも似た木造の家屋の中、倒れた俺に子供たちの心配そうな声が届く。


「し、心配ない。少し足を滑らせただけだからな」


 くっ、どうやら身体能力が足りないようだ。

 やはり転生の影響でステータス値が足りないのだ。

 身の安全が気になるが、俺はしかたなく別の装備に着替えることにした。


 試しに軽そうなミスリルコートにしてみる。

 すると、妙に光沢のある白銀の外套が俺を包み込んだ。装備成功だ。ただ、中は全裸だった。とても危ない。変質者もかくやの状態だ。


 間違って大人たちが避難させるべく呼びに来たら、俺はきっと変態扱いされるだろう。

 急ぎ、適当な布の服も装備。防御力は仕方なく二の次にしてなんとか起き上がるが、やはりこのコートのペナルティのせいか妙に体が重い。

 立ち上がり、背後を振り返ると、とても心配そうな少年少女たちの無垢な視線が突き刺さる。思わず顔を引き攣らせそうになりながら、怖がらせないように震えを堪えて微笑む。


「だ、大丈夫だ。それより、俺が外に出たらしっかりと戸を閉めるんだぞ」


「は、はい!」


 年長と思わしき十代前後に見えるダークエルフの少女が、赤子をあやしながら頷く。

 俺はドアの前で今度は愛用してきた武器、通称『タケミカヅチ』さんと『草薙』さんをインベントリから取り出し、やはりその余りの重量にそのまま床に落としてしまった。


 ゴトリッと、どこか鈍い音が木造の建物に響く。

 予想よりも喧しいその音のせいで赤子が泣き出し、背後の子供たちも軽く悲鳴を上げた。

 だが、今度は違う。装備できなくてもそれで構わないからそうしたのだ。


「付喪神顕現<ツクモライズ>!」


 瞬間、右手から落ちたタケミカヅチさんが俺の発動したスキルの光に照らされ、2.7メートルの直刀から長身の黒髪美少女に変わった。再び、子供たちから驚きの声が上がる。


「――お呼びでしょうかアッシュ様」


 片膝をついた状態で、如何にも当然のように彼女は問うた。ゲーム時代と同じ澄んだ声であり、見慣れた姿だが、そこにはまったくNPC臭さがなかった。


 白い鉢巻を巻き、可愛いというよりは凛々しい顔で片膝をつくタケミカヅチさん。

 胸元の大きく開いた、着流しとはまた違う古代神話に出てきそうな白い服に、両手両足を黒い篭手と具足で覆っているその姿。それはどこか、武神のような佇まいを感じさせる。


 そんな彼女が、俺をまるで主君のように見上げていた。

 これは確かに異常なのだろう。けれど、これは想定していた異常だ。


「これから草薙さんを持って敵を蹂躙して欲しい。敵はこの村を襲う魔物全てだ」


「御意」


 はたして、頼みを聞いてくれるかという俺の心配は取り越し苦労だった。

 頷いた彼女は、俺が持てずに落とした草薙さんを軽々と持ち上げたのだ。


「アッシュ様、今日はエクスカリバーを装備しないのですか?」


「見ての通り転生したてでな。レベル1しかないから持てないんだ」


「……では、せめて誰か他にも護衛を呼ぶのはどうでしょうか」


 頷き、今度は『ミョルニル』さんと『レヴァンテイン』さんを取り出し、床に落とす。 

 瞬間、ミョルニルさんのせいで左の床板が砕けた。

 少し後悔しそうになるも、レヴァンテインさんにスキルを行使。すると、まるで炎その者にも見える刀身を持つ剣が、燃える真紅の髪を靡かせる無表情な少女に変わった。


「ボクに用事?」


 炎を宿す赤い髪は、ただのエフェクトだったはずだが、今は妙に熱気を感じる。


「できるだけ火は使わず、ミョルニルさんを持って護衛して欲しい」


「ん」


 こちらも超重量武器であるミョルニルさんを軽々と持ち上げ、小さく頷く。

 そこには不満そうな気配は感じられない。

 目の前の二人に反逆されたら、いまなら間違いなく一撃で俺は死ぬが、当たり前のような様子で俺に従ってくれる。


 その従順さに頼り、これから危険な仕事を押し付けるのだ。

 間違いなく、俺は恐れている。

 安全地帯から外に出るということが怖いのだ。

 だが、それでもやらねばなるまい。


 インベントリからショートソードさんを取り出して鞘から抜くと、俺はタケミカヅチさんを先頭に出陣した。

 そんな俺のMPは、彼女たちの維持のために最大値諸共四割程減っていた。




 外に出た瞬間、タケミカヅチさんが草薙の剣を振るった。

 まるで雷光の如き剣閃が、豚面の魔物が突き出した槍を弾き飛ばす。

 その一撃で容易く砕けた槍の一部が、松明で赤く染まった夜空へとしばし舞う。破片はやがて重力に捕まって落ち、闇の中に埋没して見えなくなる。


「識別」


 呟くなり、MPの減少と共に俺の脳裏にその魔物の情報が一瞬だけ表示された。

 どうやら、オークと呼ばれる魔物らしい。


 豚面の癖に体はピンク色ではなく、体は緑。体毛はなさそうだが、脂肪がたっぷりとありそうな巨体だ。中々に重量感のあるその魔物は、武器を破壊されて動揺し後退した。そこへ残像を残す程の脚力で懐に飛び込んだタケミカヅチさんが一気呵成に攻撃を仕掛ける。


 紫電交じりの剣閃が奔る。

 振り斬られた刃は呆気ないほど簡単にオークの巨体を真っ二つに両断。すると、死体が数秒もせずに空気に溶けるように姿を消した。


「他愛も無い」


 草薙の剣についた血糊を振り払いながら、彼女が呟く。

 同時に、ゲーム時代と同じく脳裏のログにダメージと入手した金、アイテム、経験値などが表示される。


――無限転生オンライン。


 そんな名称の、所謂VRMMOという区分のオンラインゲームがあった。

 そう、俺はそれのプレイヤーだったのだ。

 25世紀の地球日本のゲーム業界は、リアルに迫るほどのレベルのバーチャル世界を作り出すまでに進歩していた。

 無限転生オンラインもその恩恵を受けたネットゲームだ。


 メーカーが推奨するのは、色々な種族に転生しながらプレイすること。

 タイトル通りのそのゲームは、転生を繰り返させることで長期的に資金を得ようとする目論見が透けて見える。細かく分類すればやり込みゲーということになるのだろう。


 俺はドワーフで鍛冶師の職業を選び、最上級職の魔法鍛冶師<マジックスミス>になってからレベルがカンストしてもそのままプレイし続けた。

 その後はひたすらに武具の蒐集と、武具を擬人化し、敵を倒させることで経験値で武器レベルを上げることができるスキル『付喪神顕現<ツクモライズ>』による武具強化に嵌っていた。


 初めは色々な武具を蒐集するコレクター魂に火が付いたからであった。が、スキル取得後、擬人化後の姿まで知って初めて真にコレクションしたことになると思い直したのだ。

 そのためにも高レベル帯でレアアイテムを集めるために戦う必要があった。

 だから俺は転生を一先ず見送って、ただひたすらに武具の蒐集に励んだ。


 男の俺が擬人化可能なのは武器娘だけだが、これがゲームの仕様なのだからしょうがない。その過程で、ついに武器と防具の一部のレベルをカンストさせることにも成功。

 更に、壊しては可哀想だと『不壊』スキルをコレクションした武器に付ける作業に、無駄に膨大な時間をかけて費やしていた。


 気づけば、プレイ時間だけはかなりのものになっていた。

 俺はサービスが開始された高校時代からコツコツとプレイし、十八になった今でも専門学校に通いながらひたすらにプレイする日々を過ごしてきた。

 そんな、他人には理解されない楽しみをこのゲームで見出した俺は、きっと圧倒的少数派<マイノリティ>だったのだろう。


 通常は転生するが、武具の蒐集とレベル上げの効率を維持のためだけにそうしなかった。

 だがさすがに満足するぐらいには武具を集めたので、遅すぎる転生を決意。エルフに転生した――はずだったのだ。


 普通なら転生後はビギナー用のチュートリアルステージへと移行する。

 けれど俺は、何故か見たことも無い木造の家の中で必死に祈るダークエルフの子供たちの前に、ゲームで登録していた『アッシュ』という名のアバター姿で現れた。


 子供たちが言うには、エルフ族にとっては神でもあるという始祖神『ハイエルフ』に祈っていたそうなのだ。メルヘンに言えば、子供たちの無垢な祈りが奇跡となって俺を呼び出したのかもしれない。


 そのせいで今の俺は、金髪碧眼の見目麗しいエルフ様である。

 だから子供たちにとって俺は、村を救いに現れた偉くて強い神様……らしいのだ。


 意図した異世界召喚ではなく、祈ったらそこに現れたというのも不思議な話だ。

 神というのを否定しても彼らは信じず、泣きじゃくりながら村を助けてくれと懇願してきたわけである。


 ちなみに、何故か俺が転生した種族はエルフのはずなのに、ステータスの種族の項目に書かれている文字は『廃エルフ』の四文字。


――俺、ハイエルフじゃなくて廃エルフじゃん。


 プレイ時間だけを友達や仲間内で考えれば多い方だ。

 冗談で廃人と呼ばれたことは確かにあるが、本物の廃人や廃神には敵わない。

 そんな俺が廃エルフとは。

 これを見つけたとき、俺は素直に頭を抱えた。

 しかもログアウトの文字がメニューから色を失っていて選択できない。


 最悪だ。

 もしこの状況で救いがあるとすれば、それは転生前の武具や金、そしてスキルはそのままだといういうことだけだろう。





「ん!」


 背後でレヴァンテインさんが気合の入った声を上げ、柄の短いハンマーを振るった。

 凄まじい打撃音が聞こえたので振り返れば、今度はオークとは違う子供より少し大きなサイズの魔物がグロテクスな肉片になって飛び散ったのが見える。

 それは正に、子供たちに見せないで済んでよかったと思うような光景だった。


「識別」


 呟くと同時に魔物の情報が頭を過ぎる。

 死体は、オークと同じですぐに消えた。


「ゴブリンか。でもこれは――」


 妙だった。

 ゲーム世界にトリップなどという嘘臭い都市伝説かと思いきや、どうやらそれも微妙に違うのだ。

 こんな村など俺は知らない。武具蒐集のために無限転生オンラインの世界を駆け回った俺の知識にまったく無いのだ。

 極めつけは、敵のビジュアルの差異と識別時の情報。

 これもやはり違っていた。


(やっぱり俺は、自キャラでの転生と同時に異世界トリップした……ということか?)


 訝しむ俺の周囲では、タケミカヅチさんとレヴァンテインさんが獅子奮迅の活躍をしている。

 二人ともレベル99でカンスト武器様である。

 擬人化時のそのスペックは、転生前のプレイヤーに勝るとも劣らない。ましてや、その二人が握るのはやはり不壊スキルを初めから持つレアなカンスト武器。

 おかげで凄まじい程の戦果を上げていた。


 一撃で敵を倒していることから、彼女たちに任せればこの戦いは問題ないだろう。

 逆に言えば、彼女たちが勝てないなら俺は安全のために逃げるしかなかった。

 けれどもう、その心配はしなくてすむようだ。

 経験値もちゃんと俺に入ってきており、レベルアップもしている。なんだか養殖されているビギナーの気分だが、今はこれで良い。身の安全はこれでなんとかなる。


 ならば次だ。


(二人が倒せば死体は残らない。しかし、村人が倒した連中の死体はそのままというのはどういうことなんだ?)


 ここがゲームの世界ではないというなら、死体は残るべきなのだ。しかし、彼女たちが倒せば死体は残らず売却用のアイテムや金などに変わっている。

 脳裏に過ぎるメニューから所持金や入手アイテムを確認すれば、確かな変化が伺える。


 もしかすると、俺たちだけゲーム設定が適用されているのかもしれない。であれば、例えば俺が所持している回復アイテムは俺には効くのだろうと予測できる。では、それらは現地人に対しては効力を発揮するのだろうか?

 これは当然のように湧き上がってくる疑問の一つだった。

 他にも疑問を上げていけば限がないが、今もこうして戦っている二人の武器娘さんたちにしても疑問は多々ある。


「アッシュ様、お側を離れて攻めましょうか」


「いや、一応は目の届く範囲で攻めてくれ」


 一先ず、子供たちが隠れている小屋の周囲に居る魔物を掃討し終えただろうか。タケミカヅチさんが問いかけてきた。

 まず、それがおかしい。


 NPCであった彼女たちは、命令されなければ自分で考えて動かない。

 けれど、今はまるで生きているかのように尋ねてくる。

 武器に宿したスキルの使用と、攻撃しかしなかった彼女たちのこの変化。

 これはゲームとは違う明らかな相違点だ。


 擬人化スキルとも呼ばれる『付喪神顕現<ツクモライズ>』は、設定上では武具に宿った付喪神の魂を呼び覚まして成されるという。だったら、それが本当に作用したとでも言うのだろうか。

 まぁ、タケミカヅチさんだけは布都御魂<フツノミタマノツルギ>に剣化した姿という設定の存在を、更にスキルで擬人化させたのだから付喪神と呼ぶのは変なのかもしれないが。


「分からないことばっかりだな」


 タケミカヅチさんが遠くに見えた敵に襲い掛かる背中を見送りながら呟く。

 あと気になるのは敵を識別したときにレベルが表示されないことか。


 転生したとはいえ、その前に得たスキルはアイテムやお金と同じでそのままそっくり継承している。つまり、カンストレベル帯の識別スキルが俺には備わっているのだ。それでも表示されないということは、初めからレベルが存在しないということだろうか。


 やはり、あの魔物たちは俺と同じゲームの枠組みの存在ではないのかもしれない。

 なら、そんな土着の敵性存在が居る世界において、村を囲むようなバリケードなり防壁なりが無いというのは不自然だ。考えれば考えるほどに辻褄が合わない。


 村は木造家屋の点々と立ち、畑などが見える。

 周囲は森で囲まれているようだし、文明的というよりは自然と一体化したような素朴な様子が見て取れる。ただ、それほど大人数が住んでいるという風には見えない。


「アッシュ」


「どうした」


「新手が来た」


 レヴァンテインさんが淡々と言う方向を見れば、俺たちが居ない方から木造家屋へと忍び寄る魔物の影がある。


「行ってくれ。追加でグングニルさんを呼ぶから、子供たちの居る家を護衛して欲しい」


「ん」


 素直に頷いてくれた少女が、その身の丈程もありそうな巨大な槌を持って移動するのはどこかシュールだ。が、それを見ている暇は無い。何よりも優先しなければならないことはこの身と子供たちの安全だ。


 インベントリから、握りがトネリコの木で出来た巨大な槍『グングニル』と、豪華な鞘に収められた剣『エクスカリバー』さんを取り出す。

 やはりまだ持てるほどのレベルではない。

 そのまま地面に落とし、音声入力のスキルを発動。


「付喪神顕現<ツクモライズ>!」 


 グングニルさんが擬人化され、右目に眼帯をつけた茶髪の美女に変化。

 一つだけある左眼からは、知的な光が垣間見れる。

 その身に纏うボロの布切れの隙間からはルーン文字が直接に柔肌に刻まれており、実にセクシーだ。


 一応ステータスをチェックすると、俺のMPが更に最大MP込みで二割削れていた。

 擬人化は最大MPごと一律で二割削る。

 これは所謂維持コストという奴で、解除しない限りそのまま。三人目だから今は六割削られた計算になる。


「お呼びですかマスター」


「エクスカリバーさんで俺の護衛を頼む」


「かしこまりました」


 微笑を浮かべながら会釈し、彼女は両刃の片手剣を鞘から抜いた。その鞘は、腰元の布に差し入れられる。

 俺はそのまま子供たちの居る小屋の前で待機。

 メニュー項目を操ってマップを表示する。

 はたして、マップは確かに表示された。


 徐々に拡大しながら村を確認する。

 やはりそれほど大きな村ではないようだ。

 百人もいないのではないだろうか。

 そこで俺は、ふとあるスキルの存在を思い出す。


「索敵」


 スキルを起動すると地図に変化が起きた。

 それほど広い範囲ではないし、盗賊系の隠蔽スキル行使者に長距離から見破れるような性能はそれにはない。けれど、それでも隠蔽していない者たちを周辺範囲五十メートル程マップに表示した。


「これは……ダメだ。多勢に無勢だ」


 まだ生きている反応を見つけた。

 呟くや否や、俺の体は自然と動いていた。

 そこらの死体の間を、マップを見ながら現地へと走る。それをグングニルさんが追い、更に俺を追い越した。


 意図を汲むような軽やかな疾走。

 投げ放たれた槍のようにその速度は早い。

 その向こうには、一人のダークエルフが家屋を背にしながら十匹以上の魔物に囲まれている。


「加勢する!」


 俺が言うや否や、先にたどり着いたグングニルさんが背を向けていたオークに背中から切りかかる。オークは気づいて振り返ったが、行動を起こすよりも先に背中から両断されて崩れ落ちる。


 オークの体が掻き消えるが、彼女は止まらない。

 加勢に驚いたダークエルフの男性はおろか、囲んでいた魔物たちなど構いもせずに集団へと次々と切りかかっていく。

 やや遅れて到着した俺は、彼女の背後に回りこもうとしたゴブリンにショートソードを振るった。放った袈裟斬りは、呆気ないほど簡単に肉を切り裂く。

 血飛沫が飛び、纏ったミスリルのコートと服をただ汚す。

 そいつは、振り返る事無く倒れて消えた。


「また消えた……だと?」


 ダークエルフの青年が、斬られただろう左手を押さえながら驚愕の表情を浮かべる。

 だが、驚いたのは俺も同じだ。

 予測していたとはいえ、それでもその不自然さに思うところはあった。


 脳裏に浮かぶマップを意識しながら、グングニルさんと一緒に敵を斬る。

 ゴブリンはそれほど強くはなかった。

 手に持つ武器がビギナーご用達のショートソードさんでも、やはりレベル99だと破格の威力があるようだ。

 三匹ほど狩ると、右手に握った剣の柄から左手を離し、HP回復アイテムであるポーションの瓶をインベントリから取り出す。


「傷に効く薬だ。気休めだが飲んでくれ」


「あ、ああ……」


 敵ではないことは分かったのだろう。男は、言われるがままにそれを飲んだ。すると、ゲーム時代のような淡い光のエフェクトが男を一瞬包み込んだ。


「な、なんだこれは……」


 男は、傷が消えた左腕を見て驚いている。当然、俺も驚いていた。


「な、直ったか?」


「ああ……凄いなこれは」


 おっかなびっくり左手を動かして調子を確認するその男に、俺は小さく呟き識別。

 すると、ヨアヒムという名前と種族がダークエルフであることだけは判明した。随分と中途半端な効力だが、やはりレベルは感知できない。


「俺はアッシュ。あんたは?」


「ヨアヒムだ。しかしなんだってエルフがここに? 住んでるのはもっと東だろう」


「……偶々通りがかっただけだ。それよりこいつらはなんなんだ」


 詳しく説明できないせいで、言葉を濁す。

 今はのんびりと話している時間が無いことはヨアヒムにも分かったようだった。

 彼は頷き、悔しげな顔で話し始める。


「恐らく、ゲートのある塔から来た奴らだ。レベルホルダーの守備隊が居たはずだが全滅したんだろう。ちくしょう、あいつらのせいでこの村は……」


「ゲート……レベルホルダー?」


「なんだよ。その不思議そうな顔は」


「いや、その二つを俺は知らないんだ。説明してくれないか」


「……本当か? こんなの常識だろ」


「悪いな、何せ少し前に来たばっかりなんだ」


「まさかお前、ラグーンの下から来たのか?」


 また、分からない単語が出た。眉根を寄せた俺を見て、男は言う。


「ゲートは、この空に浮かんでいるラグーンと地上の大地を繋ぐ装置だ。レベルホルダーは、アーティファクトの所有者か元所持者。千年ぐらい前の戦争で、星の魔力が極端に減ったんだと。そのせいで神や悪魔が存在を維持するために武器になった。これがアーティファクト。それを使って生き物を殺した奴はレベルアップして強くなれる。それを繰り返せば武器になった奴らの力を、少しずつ引き出せるようにもなる……という話だ」


 かなり端折ったのだろうが、なんとなく俺は理解した。今重要なことはやはりゲートだ。そこから魔物が来るというのならば、どうにかするしかない。


「そのゲートはどこにある」


「この村の北の道を真っ直ぐに進んだ先だ」


「なら、村の中の魔物をどうにかしてからそこを攻める必要があるのか……」


 方針を決めた俺は、インベントリから蘇生用の回復薬――リザレクションボトルを近場の者に振りかける。

 だが、それはポーションと違ってまったく効果を発揮しなかった。


「……そいつはもう死んでるよ。その薬がどれだけ凄くても、死者の蘇生は無理だろう」


「なんてことだ……」


 ポーションで傷の回復は出来る癖に、蘇生ができないなんてこれじゃあ理屈に合わないじゃないか!


 俺は、当たり前のように回復すると思って安堵していたのだ。

 予想を裏切られたせいで、怒りに身を任せ空瓶を地面に叩きつける。

 瓶が割れる音が、虚しいほどに胸を突く。

 そこで俺は、気づかなければ良いことに気づいてしまった。


(あの子供たちに、俺は何て伝えればいい?)


 諦めきれず、今度は蘇生薬としては最上級の代物を試すがそれもやはり死者には何の効果も発揮しない。

 叩き付けた空瓶が、また無意味に中身を消費されて不貞腐れたように不快な音を奏でて割れた。


「マスター、まだ戦っている方が居るかもしれません」


 冷静なグングニルさんの声。

 気が付けば、付近に魔物の姿はもうない。

 いつの間にか彼女が片付けてくれていたようだった。


 彼女の心配するような表情から、大人びた優しさが垣間見れる。

 俺は動揺していることを確かに自覚しながら、インベントリから最後のカンスト武器である『ロングソード』さんを取り出して擬人化させる。


「お前、まさかアーティファクト持ちだったのか? いや、剣が元の姿に戻ってもそのまま従うってことは……まさか上位の神そのものかっ!?」


 驚くヨアヒムに説明するのが面倒なので無視し、彼女に頼み込む。


「これを頼む」


「わわっ、アッシュさん!?」


 鋼色のポニーテールに、ブレストアーマー。軽装の剣士にも見える彼女は、俺が新たに取り出して落とした両刃の剣『カラドボルグ』を慌てて受け取ると、俺を見上げた。


「そこの彼と一緒に、子供たちを守ってやってくれ。それと、レヴァンテインさんをこっちに呼んできてくれ」


「了解しました!」


「待て、俺も――」


「ほらほら行きますよ」


 喚こうとした彼を引きずって、ロングソードさんは移動する。


「生き残りは俺たちが探す方が効率が良い。子供たちを頼む」


「くっ――確かに貴方の方が強いか」


 俺は更にタケミカヅチさんを呼ぶ。


「お呼びですか」


 それにやや遅れて、レヴァンテインさんが凄まじい速度で駆け寄って来る。


「到着」


 俺は二人にそれぞれポーションを持たせると、グングニルさんと一緒に生き残りを探して村を走った。

 悠長に探す時間は、もうない。




 何匹、敵を斬っただろうか。

 敵の返り血に塗れながら、索敵を繰り返して生存者の反応がある場所を探して走っていく。その度に目に入るダークエルフたちの男たちの死体は、無残な最期ばかりだった。


 中には首だけが切断された者もある。

 けれど、不思議なことに死体は男ばかりで女性の死体は子供を含めて存在しない。

 その先の事実を、俺はまた考えないようにはしていたのだろう。

 けれどそれは、この世界をよく知らない俺が願うただの理想に過ぎなかったのだ。


「マスター。やはり、繁殖用に連れ去られたのではないかと」


 グングニルさんが言った。

 声色は柔らかいが、どうにも気分が良いものではないらしいことだけは見て取れる。

 その当たり前のように覚えた嫌悪感は余計に俺の精神を圧迫する。

 それがこの世界の生態系の中に組み込まれた不可避の摂理であるかどうかなど、この際この俺には関係が無いのだ。


 問題なのは、心の底からとめどなく溢れてくる怒り。

 こんなにもどす黒い感情が、自身の中に隠れていただなんて、俺はこれまでの人生の中で一度も経験したことはない。


「――見つけた」


 ダークエルフの男たちの死体から、ゴブリンの亜種と思わしき連中が首を刈っている。


「識別」


 種族はホブゴブリン。

 個体名などどうでも良い。

 問題は、彼らはどうやら倒した敵の首をコレクションするというおぞましい習性があるらしいということだ。


 また、子供たちの泣き顔が脳裏を過ぎる。

 これから俺は奴らを倒して首を取り返し、首だけを持って俺はあの子たちに伝えなければならないというのか?

 そうと考えるだけで、胸が張り裂けそうになった。

 いつの間にか、俺は当たり前のように彼女たちを呼んでいた。


「レヴァンテイン、タケミカヅチ、グングニル!」


 敵に気づかれるのも構わず、いつものように『さん』をつけることさえ忘れて大声で叫ぶ。いや、むしろ来るなら来い。マップから方角を推察し、そこへと攻められる。


「奴らを一匹たりとも逃がすな!」


 言うなり、今目の前にある現実から逃避するかのように、俺は剣を握り締めて走った。

 これが悪い夢であれば良いと、心の中で願いながら。




 ゲーム時代、疲れというモノを感じることはなかった。スタミナという要素を排除されていた仕様だからか、この廃エルフの肉体は疲れ知らずだ。

 今はその恩恵がただありがたい。

 息を荒げることもなくその場でのことを終えた俺は、そのまま休む間もなく増援らしき一団が来た方向へと四人で向かった。


 どうやら、俺の戦闘能力は今この村を襲っている魔物たちに通じるレベルであるようだ。

 ショートソードさんのカンストレベルの恩恵が生み出す破壊力があってこそだとは思うが、こうしてちゃんと戦えている。

 敵の武器を剣で受け止め、時には避けて反撃。それら全てを遅滞無く当たり前のように行えることは、きっと不幸中の幸いに違いない。


 激情に身を焦がしながら、それでも自身を正確に見つめるのはゲーム時代に鍛えた恩恵だろうか。VRゲームはほとんど現実のように脳を騙し、現実にさえ錯覚しそうな程のリアルさでプレイヤーに体感させる。

 結果としてそれは、高々ゲームを模擬戦闘機<シミュレーター>へと変えていたのだろう。軍などでは、民間のそれとは比べ物にならない程にリアルさを表現できる高性能なネット接続機を開発し、訓練をしているとも聞く。

 それは脳に干渉し、サーバーと直接アクセスしてプレイさせる脳量子接続機『バーチャルダイバー』の仕様を利用した恩恵。


 俺がプレイしていた無限転生オンラインは、ゲーム的な要素として魔法やスキルなどといったモノはあったが、近接職として当たり前のように武器を振るってきた。

 膨大なプレイ時間を鍛冶師職でこなしてきた俺にとって、様々な武器を振るうイメージは、当たり前のように脳髄に染み付いていた。だから、なのだろうか。彼らを倒すことに、一片の良心の呵責さえ抱けないのは。


 命のやり取りをしているというのに、どこか冷静に俯瞰している自分が居る。

 また、死体さえ残さない敵の姿が余りにもゲームと酷似しているせいで、命を散らす罪悪感さえ軽減されているように思う。

 それには当然のような怒りが多分に影響していることは認めよう。

 でも、だからこそ余計に淡々と武器を振るえるのか。


「……居た、生き残りだ!」


 村の北。

 マップを見れば、森へと続く道の手前に反応がある。何人も生き残りが集められていることから、一度そこへ集めているのだろう。増援も其処から来ているようだった。

 その数は多い。

 まだ、五十匹は居ただろうか。それでも、俺は悩むことはない。


「この先に捕まった人たちが居る。最優先は捕まった人たちだ。誰一人連れて行かせないように立ち回ってくれ」


「御意」


「ん」


「かしこまりました」


 三人を連れて、俺はそこへと踏み入る。

 木造家屋の影に隠れていたその場所は、森から少し離れているせいか広場のようにもなっていた。家々の前に炊かれた松明の明りも、今はどこか薄暗い。

 けれど、俺には関係ないのだ。

 ここには雷神であるタケミカヅチさんと炎の魔剣であるレヴァンテインさんが居る。


「二人とも、火と雷を纏えるか? 暗闇をもっと照らしたい」


 はたして、二人は照明器具のような役割さえ受け入れてくれた。

 全身に炎を纏う少女と、雷を纏う武神の輝きは、当たり前のように敵の戦意さえ殺いだ。

 その眩さは、この暗鬱な夜を引き裂いて余りある。


 だから、だろうか。

 一箇所に集められ、武器を取り上げられた状態で縄で拘束されていた血まみれの女性たちが、呆然とした様子でこちらを見ている。


 と、そこで一際大きなオークが現れた。

 二メートルは当たり前に越えた体を揺らしながら、手に似合わないほどに流麗な武器を持っている。黒い刀身を持つその大剣は、オークの体格にあわせたほどに長大だ。


「GURUOOO!!」


 威嚇するようなその叫び声が、騒がしくも夜に木霊する。

 恐怖を喚起するかのようなその声に、彼の仲間たちが炎と雷に気圧されないように追従して叫んだ。まるで恐怖から逃れようとするかのような大音声。

 煩いほどのおたけび<ウォークライ>が、対峙する俺たちの耳朶を打つ。

 けれど、怒りで胸が一杯だった俺はただ呟き、そして純粋に驚いた。


「識別――ッ!?」


 オークキング。如何にも強そうな奴だが、問題はそこではない。

 こいつには、他の奴には見えなかったレベルが存在したのだ。


(レベルホルダーか。なら、手に持ったのがアーティファクトって奴か)


 レベルは31。

 簡素な説明文には戦闘に役立ちそうな情報はない。

 弱点属性などもない、ということだろう。これはきっとゲームではないのだから、なるほどそういうお約束はないのかもしれない。


 ならば――、


「――タケミカヅチさん、あのでかい奴を頼めるか」


「はっ。お任せを」


 草薙さんを構え、彼女が前に出る。

 オークキングは、それを見て自らも前に出た。部下を鼓舞するためか、それとも他の者では勝てないと本能的に悟っていたからか。

 まさか力比べがしたかった、などという低次元の話ではないと思う。

 オークキングは紫電を纏う彼女に気圧されることなくやってくる。

 その歩みは重く、そして見た目相応の重厚さがあった。


 嘲笑するように歪められた唇は、対峙する彼女を見て勝利を確信したような面をしている。それを見上げながら、一歩一歩遅滞無く進むタケミカヅチさんは、そんな敵の様子とは対照的にあまりにも静かだ。


 このとき俺は、不思議な安堵感に包まれていた。

 その背中が嫌に心強いのはやはり、付き合いが長いからだろうか。 

 当たり前のようにある身長差と重量差。

 普通ならこれは、絶望的なほどの戦力差になる。


 そもそも、敵のレベルとこちらのレベルがどれだけの重みを持つのかさえもあやふやなのだ。ゲームならば、戦闘能力はステータスの数値と武器防具に戦術や数などで決まるけれど、それだって有る意味では対等な数値を基準にして比べられる。


 一グラムと一キログラムが、もし大きさが違うにも関わらず同じ一グラムとして機械に計量された場合、比べるにはもう実際に持ってみるしかない。

 この戦いは、レベルとステータスの重みを計る上でも重要な意味を持つ試金石になる。


――そして二人が、当たり前のように激突した。


 初めに切りかかったのはオークキングだ。

 手に持ったアーティファクトと思わしき大剣を、真上からただ振り下ろす。

 その身に宿す見た目相応のパワーを、余す事無く叩きつけるような剛撃。

 それに対して、彼女はただ横に軽く飛ぶだけで軽やかに避けた。


 大剣が地面へと叩きつけられる。

 その一撃は、当たり前のように雷光で照らされながら土を容赦なく斬り削った。

 十メートル以上離れたこの場所まで、振動が伝わってくるのではないかと思える程の迫力。思わず、俺は息を呑む。


 着地したタケミカヅチさんがすぐにしゃがみ込む。

 その上を、地面を砕いたばかりの大剣が翻って虚空ごと頭上を凪ぐ。空振り音が盛大に響き、生まれた風圧が肌を撫で抜ける。


「GURUOOO!」


 彼女を狙う三撃目。

 オークキングの咆哮と共に、手に持つ大剣が淡く輝く。

 途端に、奴の全身から闇色の光が放射された。

 瞬間、爆音と共に衝撃が大気を揺さぶった。


 スキルか、それとも魔法かを定義する知識は今の俺にはない。

 だが、攻撃範囲は狭いのか離れていた俺たちは無傷。その代わり、オークキングを中心とした地面が抉れている。

 見るからに凶悪なその一撃。

 舞い上がった粉塵の向こうで、捕まっていたダークエルフの女性たちから絶望の悲鳴が上がる。

 配下のオークや、隷属していると思わしきゴブリンたちがはしゃぐように咆哮した次の瞬間、粉塵ごと吹き飛ばすかのように雷光が皆の眼に彼女の存命を焼き付ける。


「面妖な――」


 攻撃範囲の外側、土砂を被ったタケミカヅチさんが少しだけ顔を顰めながら服の汚れを振り払う。その様子からは致命的なダメージは窺えない。

 無傷というわけではないのだろう。

 俺の脳裏に表示されて見える彼女のHPに減少が見られる。だが、それはあまりにも僅かだった。一割さえきっと削っていない。


 結果から予測されうる推測により、大きな安堵が俺を包む。

 最悪はもう、回避されたと思っても良いだろう。


「問題ないなら遠慮なくやってくれ。スキルを使ってもいい」


「御意」


 彼女は握り締めた草薙さんを手に、離れた距離を一足飛びで詰めた。

 その移動速度に敵はついて来れていない。

 恐らくは、瞬きをした瞬間には彼女が目の前に居たようにも感じたに違いない。

 今の低レベルな俺では完全に捉えきれない程の移動速度。次の瞬間、間合いへと飛び込んだ彼女の姿が忽然と掻き消えた。


 その姿、正に疾風迅雷。

 剣が宿した雷光が、けたたましいまでの雷鳴を呼んで光の後に追い縋る。

 その後に舞うのは、血飛沫と巨大な体躯。

 構えた大剣を振り下ろすことさえできず、彼の者の体が放物線を描いて地面に落ちる。その向こう、刃を振りぬいたままの姿勢でいたタケミカヅチさんが、血糊を振り払うや否や敵の下半身もまた地面に倒れ、そして初めから居なかったかのようにかき消えた。


――固有スキル『神鳴る剣神の太刀』。


 タケミカヅチさんだけが持つ固有スキルであり、目にも留まらない速度で切り抜ける高速斬撃だ。エルフへの転生前、ドワーフ時代においては鈍重な鎧で武装していた俺にとって、敵との距離を詰めるのにとても重宝したスキルである。

 魔物たちはおろか、捕縛されていたダークエルフたちもその一撃で完全に言葉を失っていた。心なしか森さえも彼女の勇猛さにひれ伏したように静寂に染まっている。


「歯ごたえは?」


「まったくありません。あの妙な攻撃だけは知識外なので気にするべきなのでしょうが」


 ふてぶてしいというよりも、まるでそれが当然とさえ思える態度で彼女は言った。その覇気のある姿は、武神としての顔だったのか。


――雷神であり、剣神であり、武神でもある神。


 それがタケミカヅチという神が持つ側面。それをモチーフにしてデザインされたであろう彼女は、まるでそれその者のような神々しさを持っていた。


 なんと頼もしい味方か。

 その言葉に、俺の最後の憂いが立ち切られた。ただ自然と頷き、自分でも怖いほどの冷たい声で三人に告げる。


「残りをやる。行くぞっ」


 そして、一方的な蹂躙が始まった。



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