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魔法使いの勇者様  作者: 枕と御布団
魔法学園編
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序章[偉大な功績の裏面]

 西暦3440年。


 魔法が世界に公表されてからおよそ一千年がたち、世界はその在り方を大きく変容させていた。

 建物と建物の間に透明なチューブが走ったのも一瞬のこと、火星も金星もテラフォーミングが済んでいて月まで届く夢の軌道エレベーターすら古いといわれ、気候さえ操作し人の手に完全掌握して、再生医療と医療魔法の進歩によって人間は好きなだけ生きることできるようになった。


 そうでなくても少し街並みや地図を眺めるだけでも西暦2300年以前の旧時代に生きる人々からすればおよそ信じがたいような技術が横行していることは明らかだろう。


 自転車がなくなった代わりに魔法使いの乗る箒が飛ぶようになり、土地の問題も解決したというのに単に広く使えるからとそれだけの理由で都市を丸ごと浮かせ、魔力で動くゴーレムが人間の代わりに仕事をして、翻訳の魔法をかけられたヘッドフォンが言語の壁を取り払っている。


 時代のターニングポイントで人類が得たのは一人の天才と莫大なエネルギーだ。


 それだけで世界は一新された。環境汚染、食糧問題、領土紛争、人口増加、貧富格差。世界が何世紀も抱えてきた誰も解決できない問題さえ今や跡形もなくなっている。

 海水も泥水も汚染された水も汚染されていない水も電気で分解して浄化装置にかけて片っ端から飲用可能な真水に変える。

 食料はすべて生産プラントで循環しながら供給できる。植物も、それを捕食する草食動物も、さらにそれを捕食する肉食の動物も循環に必要な量からあふれた『余剰』を取り出していけば食糧問題は解決する。


 食糧問題が軒並み解決すれば今度は土地だ。用済みになった、今まで農地だった場所を使う。海面上昇で沈みかけていた島も沈んだ島も魔法で持ちあげて空中都市にする。動物の棲み家を無理に奪う必要もない。無暗に生態系の破壊を広げることもない。近くに居すぎて異なる思想、主義主張をぶつけ合ってきた宗教家や対立民族たちは一度離れることでやがて冷静さを取り戻した。


 電気や熱のエネルギーが行き届かずに熱中症や凍えで死ぬ人間もいなくなった。魔力エネルギーを使うのだから石油を燃やしたときにできる燃焼ガスだって生じないため、大気汚染も食い止められ、酸性の雨も白いスモッグも消えている。

 食糧と生活に必要なエネルギーがそろえば自然と極端な貧富格差の問題点も薄くなり、個人の努力によって解決できるレベルの問題へ鎮静化してしまった。

 食糧と土地と燃料を確保できたならいたずらに木を切り、自然回復が追い付かないほど森を傷つけ砂漠を広げることもない。

 温暖化は森林面積の増加と石油燃料の不使用によって止まり、魔法によって世界規模に働きかけることで意図的に制御することができる。海面上昇や凍土の融解の問題も収束する。


 もはや旧時代のような泥沼の戦争はなく。

 陰謀を巡らすまでもなく満ち足り。

 誰かの成果を誰かが奪うということもなく。

 みんながこの時代に生まれてよかったと言う。


 ああ、まったく吐き気がするね!!

 ふざけやがって。

 ファ○ク!

 ぶくぶく肥え太ったブタめ。

 漫然と生きているだけの生ゴミめ!

 この世界はもう魔法使いによって支配されてしまったのだとなぜ気づかない!


 今の世界には何も問題など起こらない。

 それはもう世界が死んでいるということだ。

 旧時代の戦争賛成論推進派が唱えていた「技術は戦争によって進歩する」とかいうボケたことを言っているわけではない。

 逢坂様、逢坂様、逢坂様!!

 周りを見るたびに僕は痛感させられる。どいつもこいつも寄生するように寄食するようにかの偉大なる魔法使いに寄りかかってしまって自分たちで何かをしようという考えを持ってなんていやしない!

 停滞して淀んでしまっているのだ。


 世界が変わったのは2400年、魔法が世界に公表されてからおよそ六十年後のこと。かの大魔法使いアレイスタークロウリーの興した『銀の星団(A∴A∴)』を組織の前身とする『祝福された夜空(S∴S∴)』の天才魔法使いが余計なことをしやがった。


 そのせいで強固なシステムが出来上がってしまって、僕は学校の最下層から這い上がれないでいる。

 すべてあの腐れ魔女が、稀代の天才、逢坂恋愛が悪いのだ。


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