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首吊り

作者: 長谷川

 今、わたしの教室では問題が起こっている。

 胸が悪くなる臭いが教室全てを包む。何も考えたくない環境は、わたしの足首を掴んでいる。まるでいつものお説教のようだ。一刻も早く帰りたい。

「誰か、本当に、誰も、気が付かなかったのですか」

 さっきからこれの繰り返しだ。いじめなんてなかったと、何度言っても信じてもらえない。いじめによる自殺者の多い昨今とはいえ、青少年の自殺イコールいじめという思考回路は単純すぎやしないか。

「こういうことになった責任を、誰も感じていないのですか」

 そういう先生も感じているわけじゃない。今のこの質問は、生徒に責任を押し付けるためのものだ。感じてもいない責任から逃れようというのは、これまたなんとも馬鹿馬鹿しい。

「取り返しのつかないことをしたのですよ。平気な顔をしていられるのはなぜですか」

 堂々巡りというのだろうか、こういう状況を。

「佐々木さんが首を吊ったのは、一昨日という話ですよ」


 昨日の朝、わたしはカーテンに包まれてちょうど誰からも見えないところで、首吊り死体を発見した。

 垂れ流しの類は無く、彼女らしかった。

 そこでなぜかわたしは、彼女が首吊りの際蹴り飛ばしたのであろう椅子を元の位置に片付けたのだ。

 その椅子はわたしのものだった。気持ち悪くてかなわないので、名前のプレートをわたしの嫌いな子と付け替えておいた。わたしは今、大嫌いな子の椅子に座っている。なんとも奇妙で面白い。

 そしてさらに面白いことに、彼女の死体は発見されなかった。いや、見つけた人はいるのだろうが、みんな何も見なかったかのようにふるまっていた。わたしは試しに「無断欠席マジないわー」と言ってみた。みんな口元をクイッと引き上げ、眉間に面白く皺を寄せ、厭らしく笑ってみせた。おそらくみんな気付いていた。

 

 どうやら先生は、わたしたちに気付かなかったのはなぜか聞き出そうとし、そして気付かないということに罪の意識をもつべきだと言いたいらしい。

 わたしは先生に怒られるようなことはしていないはずだ。

「みんなは佐々木さんのことを友達だと思っていないのですか」

 いえ、週末にテレビのことでおはなししましたよ。先生。先生が佐々木さんを呼び出したんで、おはなしがとぎれちゃいましたけれど。

 そしたら彼女、言いました。「先生マジうぜえ」って。笑っちゃいますよ。ね、先生。


「ねえ、佐々木、なんで自殺したのかな」

「大方、先生へのあてつけじゃない?」

「命軽すぎい」

「ま、レイプでもされたんじゃない? プライド高かったし、あの子」

「そう? 寧ろ襲われるくらいかわいいんだって自慢したがるタイプだよ」

「そうかなあ」

「きっとそうだよ。多分」



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