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小さな神社

比奈子の実家は恭一達の住んでいる街から車で30分ほど離れてる。海から山がほど近いこの街が比奈子は大好きだった。


恭一はとても懐かしい気持ちになった。今日は2人の子供達も一緒だ。


恭一と比奈子は2人の子宝に恵まれた。長女の名前は奈緒子。小学六年生だ。次女の名前は恭花。恭花はまだ5才になったばかり。 せっかく比奈子の実家まで行くのだから孫の顔を見せようと連れて来たのだ。


「ママの所のおばあちゃん家、久しぶりだろ?」


恭一が奈緒子に尋ねた。すると


「そんな事ないよ。毎週来てたよ。ね〜恭花。パパが知らないだけなんだよ。パパはずっとお仕事だし帰って来るのも遅いし。」


「そうだったのか・・・。」


「でもママはいつもパパのお話してたよ。パパは頑張ってるんだよ、パパなら今日は何を食べたいだろうな、とか。ママはいつもパパの事・・・。」


車の 後ろのシートで奈緒子は目に涙を溜めて言葉をつまらせた。


「奈緒子・・・」


「グスン、グスン。」


恭花の鼻をすする音も聞こえる。5才の女の子が泣くのを堪える姿に恭一はかける言葉が思い浮かばなかった。


「ゴメンな・・・」


恭一はそう呟くのが精一杯だった。


程なく車は比奈子の実家に着いた。


「ごめんください。お母さん。こんにちは〜。」


比奈子の実家はインターホンもない昔ながらの古民家だ。


「居ないのかな?連絡せずに来ちゃったからなぁ。どうしよう。」


「いいじゃん。どうせすぐ帰ってくるって。それまで散歩でもしてようよ。パパ久しぶりなんでしょ?」


「そうだな。少し探検でもするか!」


「わーい!たんけんたんけん‼」


嬉しそうにはしゃぐ恭花を見て恭一は少しホッとした。


恭一達はとりあえず海まで出ることにした。季節は冬だが今日は風もなく天気もいい。比奈子が大好きだったこの街の海をまず一番に見たいと思った。


「そうだ、いつもとは違う道で行ってみようか。その方が探検ぽくて楽しいだろ?」


「賛成‼」


「わーい‼」


子供達もただ海へ行くよりその方がいいだろう、と遠回りにはなるが今日はいつもとは違う道で海を目指す事にした。比奈子を想い、感じながら・・・・。



少し歩き 見慣れない坂を降りた所で恭花が誰かを見つけた。


「おじいちゃんだぁ‼おじいちゃ〜ん‼」


ずいぶん先にポツンと見える程度だったが確かに比奈子の父だった。遠目だったが何か作業をしている様に見えた。





「こんにちはお父さん。すみません連絡もせずに。」


「かまわんよ。ありがとうな来てくれて。」

比奈子の父がいた場所には小さな社があった。


「へ〜。こんな所に小さな神社があったなんて。知りませんでしたよ。」


「そうだな。あまり人が通る所でもないしな。」


「所でお母さんは?」


「ああ、お供え物を買いに行っとるよ。もう来るころだろう。私も草むしりが丁度終わったところだ。しかし今日はいい天気だねぇ。」


「そうですね。ところでこの神社って何を祀ってるんです?随分と古いですけど・・・。」


「ここか?ここは鬼を祀ってるんだよ。」


「鬼⁉ですか?」


「ああ。昔この辺りでは人間に悪戯ばかりする鬼がいたという言い伝えがあるんだ。」


「悪戯する鬼を祀ってるんですか⁉」


「あはは。おかしいと思うだろ?

言い伝えではなぁ、その鬼は昔この辺りを襲った流行り病から村人を守ったらしいんだ。それからというものこの辺りではその鬼を祀るようになったんだよ。」


「鬼・・・悪戯・・もしかして・・・いやまさかな。考え過ぎだろう。」


「ん?どうしたんだ恭一君?」


「いや、なんでもないです。」

そうしていると比奈子の母が何か荷物を抱えてやって来た。


「あら‼みんないらっしゃい‼よく来てくれたわね‼丁度良かったわ。さぁみんなでお供えしましょう。」


比奈子の母はそう言うと一升瓶に入った日本酒を取り出した。


「これをお供えするんですか?」


「そう。ここの鬼はねぇ日本酒が大好きなのよ。」


恭一は理解した。間違いない。俺の前に現れた男はこの神社の鬼だと。

ただ恭一にはまだわからない事があった。ここの鬼が比奈子の事が好きだという理由がわからない。


「さぁ帰りましょう。恭一さん、夕飯食べて行くでしょ?」


「ハンバーグ‼」


恭一が返事をする間もなく恭花がメニューを決めてしまった。


「あ、はい・・・。いただきます。」


「ハンバーグね。早速帰って作りましょう。

奈緒子ちゃん、お手伝いよろしくね。」


「うん‼私ハンバーグ上手なんだよ‼」


「ふふふ。楽しみね。」


「あっ、・・・お母さん・・」


「どうしたの?恭一さん。」


「いや・・なんでも。」


恭一は比奈子とこの神社の関係が知りたかったが子供達の前では今は比奈子の話はよそうと聞くのをやめた。


「じゃあ帰りましょうか。」



比奈子のお母さんと手を繋ぎ歩く子供達は久しぶりに楽しそうな笑顔をしていた。











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