最後の後悔
恭一には疑問があった。これは自分が後悔している事を振り返ってるはず。どんな事を後悔しているかは自分が1番よく知っているはずである。
恭一は他に後悔している事が思い出せないでいた。
「さぁ恭一さん。行きましょうか。あなたが今までの人生で一番後悔した瞬間にね。クククククク。」
恭一の背中に強烈な悪寒が走った。どんな後悔かも理解していない不安と、またそれを味わう恐怖。
男に問いただしたかったが言葉すら発する事が出来ないでいた。
「ククク・・・」
男の笑い声が遠のいていく。そして少しずつ辺りを光が包み込んでいった。
「こ、ここは⁉俺の家⁉」
光が消えるとそこは恭一達家族が住む家の前だった。
「そうです。恭一さん。ここが最後の後悔の舞台です。そして今日は比奈子さんが倒れる日です。何をするべきか・・・わかりますよね?ククク」
「そんな・・・・・お、俺に比奈子を見殺しにしろと言うのか⁉倒れるのがわかってんのに・・・ん?まてよ・・もし比奈子を助けたら・・・おい‼もし人生をやり直す事を選んだらそのままその人生を歩み続けなきゃならないんだよな⁉それなら比奈子は死なずに済むんだよな⁉」
「ククク。そう考えるのは当然ですよね。ククク。恭一さん。そうなさりたいならどうぞご自由になさって下さい・・・ただし、貴方が比奈子さんを助けようとした所で比奈子さんが助かる保証などどこにもありません。倒れる前に無理やり病院に連れて行ったとしてもです。貴方はそんな賭けに出れますか?ククク。実に楽しいですよ恭一さん。」
「そんな・・・また比奈子を・・・二度もだぞ‼‼何でだよ・・・無理だ・・・・・・・。」
恭一は泣き崩れた。
「恭一さん、時間がありませんよ。もうすぐあの日と同じ朝がやってきます。なぁーに簡単な事です。あの日と同じ様にお仕事に出掛けるだけじゃないですか。ククククク。それとも・・・」
男の話を割る様にして恭一がスッと立ち上がった。目は虚ろで真っ赤だ。
「比奈子・・奈緒子・・・恭花・・・」
恭一は無意識に家族の名前を小さな声で呟きながら重い足取りで家に向かっていった。