手紙
「ハァハァハァハァ。」
いつの間にか男と恭一は比奈子の実家にいた。
恭一の息はまだ荒い。青ざめた顔で汗もびっしょりかいている。
「よく逃げませんでしたね。恭一さん。よく頑張りましたよ。ククククク。」
「ハァハァ、あの人・・・あの人は・・・俺はまた跳ねたのか・・・?」
「さぁ?どうでしょうか?まぁあのスピードで走っていたらね・・・。ご想像にお任せしますよ。ただ貴方が壊れてしまうとゲームが続けられませんからねぇ。上出来ですよ恭一さん。ククク。楽しいですねぇ。」
「・・・まだ後悔は・・ゲームは残ってるのか?」
「ククク。恭一さん。限界ですか?ククククク。いい表情ですよ。もっともっと貴方を苦しめたくなって来ましたよ。」
恭一の精神はもう限界だった。もう自分の後悔している事が何だったのかを思い出せないでいた。
塞ぎ込む恭一の目にテーブルの下のカバンが目に入った。恭花のいつも持ち歩いているカバンだった。 子供達を思い出しふと我に帰った。
「恭花、奈緒子、すまない。パパはもうダメだ・・・。」
恭一は何気なく恭花のカバンの中身を見た。そこには一通の手紙が入っていた。
「ん?・・・パパえ・・パパへか・・。」
恭花の字の書き間違いが恭一の心に少しの落ち着きを与える。
恭一は何かに導かれるように思わずその手紙を見てしまった。
『パパへ きょうかね おねちゃんといつしよにがんばておるすばんできるからね おしごとがんばて かぜひかないよにね』
いつ書いたのだろう。だが、手紙の内容から最近だという事がわかる。
恭一は情けなくなった。恭花はまだ五才だ。母親がいなくてさみしくない訳がない。そんな子供でも自分に心配かけまいと前を向いて頑張ろうとしているのだ。
恭一はもう一度自分の後悔に耐える覚悟をした。もう迷わないと。必ず娘達に比奈子をプレゼントしようと。
「クククク。恭花さんの思いやりは比奈子さん譲りですね。さすが比奈子さんのお子さんです。素晴らしい。」
恭一の様子を静観していた男が嫌味ったらしくそう言った。
「恭一さん。先程のゲームは辛かったでしょう。いい表情でしたもんねぇ。ククク。では次のゲームに行きましょう。恭一さん。いよいよ次が最後です。」
「最後⁉次で終わるのか⁉それを耐えたら比奈子が生き返るんだな⁉」
「クククク。約束は守るといったではないですか。でも寂しいですねぇ。せっかくの楽しいゲームがもうすぐ終わりだなんて。そう思いませんか恭一さん?」
「うるせぇよ。こっちはさっさと比奈子を生き返らせたいんだよ。さぁ早くゲームを始めようぜ‼」
「ククク。最後と聞いた途端元気になりましたねぇ。ですが貴方は最後の後悔に耐える事が出来るでしょうか?私は非常に楽しみですよ。」
恭一は男の口調がいつも通りに戻っている事に気付いた。そして本当にこのゲームが終わる事を悲しんでいるかのようにも見えた。