謎の男
年季の入ったとある田舎の居酒屋。店の中に飾ってある鬼の面が何とも不気味な店だ。
そこには今日も一人虚ろな表情で酒を飲む男が隅っこの席を陣取っている。
「恭一、もうその辺にしといた方がいいんじゃねえか?」
店の大将が心配そうに一声かける。
「大将・・・ちゃんと金は払うよ・・・もう一杯だけ頼む・・」
「恭一、早く家に帰ってやれよ。子供達にはもうお前しかいねぇんだよ⁉いい加減しっかりしりよ!!」
「うるせえよ!!!!おっさんに何がわかるんだよ!!もういいよ!!」
恭一はテーブルに一万円札を叩きつけるとにおぼつかない足取りで店を出ようとした。
勢いよく店の引き戸を開けるとそこに一人の男が立っていた。歳は30ぐらいだろうか。こんな居酒屋に飲みに来たとは到底思えない様なインテリ風の男だ。スーツ姿も決まっていて度がキツそうな眼鏡も印象的だ。
男は恭一をじっと見つめていた。10秒程だろうか。
「一杯付き合って頂きませんか?」
男はニコニコしながらそう言った。
「兄ちゃん、そいつにもう飲ますんじゃねえよ!!」
大将が怒鳴る。
「少しだけです。私は比奈子さんの事で恭一さんにお話があって来たのです。」
「比奈子の事・・・?」
恭一の妻比奈子は一ヶ月前に急な病で他界している。
「取り敢えず座りましょう。」
男は淡々とした口調で恭一を隅っこの席へと促した。
「日本酒を冷やで頂けますか?」
「あいよ・・・」
「恭一さんは何になさいますか?ご馳走しますよ。」
「俺はいい。比奈子の事ってなんなんだ⁉話って⁉なんで俺たちの事を知ってんだ⁉」
恭一はさっきとは別人のようだ。
「そうあわてないで。私にも一杯だけ飲ませて下さいよ。好きなんです。日本酒。」
そう言うと男はニコニコしながら日本酒を口に運んだ。
「美味しい。やっぱりお酒は日本酒に限りますね。」
「早く言えよ!!お前は誰なんだ⁉比奈子とどういう関係なんだ⁉」
声を荒げる恭一に対して男は相変わらずニコニコしている。
「そうですね。ではお話を始める前に大将には少し席を外して頂きましょう。」
男がそういうといつの間にか大将の姿が無い。
「あれ⁉大将?さっきまでそこにいたよな⁉あれ⁉飲み過ぎたか・・・」
「ククク。まあいいじゃないですか。今からお話する事は恭一さん以外の方に知られては困る話ですし。もとより誰も信じないでしょうけどね。」
そういうと男は軽い口調で話始めた。