最良の選択
ーー人類は危機を感じた。
それは直感というよりも、神からの宣告のように、全世界の人々に降り注いだ。
『20年後、人類は消滅する』
人々は大いに混乱し、絶望が世界を覆った。
しかし、宣告はもう一つあった。
『この星で1番素晴らしい人間が人類を救うかもしれない。その人物は今日生まれる。それを発見する機械をくれてやろう』
世界政府は、その日に生まれた全ての赤ん坊を回収し、その機械で検査した。
ほどなくして人類を救う素質を持った乳児Nが特定された。
しかし、学者達には一つ疑問があった。
「どのように素晴らしくさせれば良いのだろうか」
「20年後に何が起こるかは分からない。全ての面で最高の人物にしよう」
こうして政府は20年に渡り、考え得る最高の教育をNに施した。
その頃にはNは文字通り世界で1番素晴らしく優秀な人物になっていた。
彼は常に最良の選択をし、世界中のどの学者よりも賢かった。
地球上でNの事を知らない者はいなくなり、その神懸かり的な彼の能力の前に、各地で彼を信仰する団体まで出来ていた。
ーーそしてついにその時が来た
世界中の人々にまた、20年前の如く、神の声が聞こえ始めた。
『時間だ。20年前の事を覚えているな。ちゃんと世界で1番素晴らしい人間を用意したか』
Nはその声に答えた。
「私が世界で1番素晴らしい人間だ」
神の声と同じように、Nの言葉もまた、世界中の人々の頭の中に響き渡った。
人々は不安に押し潰されそうになりながらも、N達のやり取りの行方を見守った。
『そのようだな。お前に選択肢をやろう』
神は続けた
『人類が消滅するのと、人類が創り上げて来たものが消滅するのならどちらを選ぶ』
その言葉を聞いた人々は口々に
「人類が創り上げてきたものが失われる事になるのか」
「大丈夫さ。また原始時代に逆戻りする事になっても、我々が培ってきた技術や能力は失われない」
「そうだな。また多くの山を掘り返し、森を切り崩すことにはなりそうだが、いつか今のような文明に戻る事が出来るさ」
「仕方が無い。何物も命には代えられんな」
と、これから失われるであろう自分達の文明のことを嘆いた。
『答えは決まったか』
神はN問いかけた。
「そんなもの選ぶまでもない。私はこの星にとって最良の選択をするだけだ」
こうしてこの日、地球から人類が消滅した。