えぴろーぐ
――そして変わらぬ日常が始まる
眼が覚めると白が印象的な部屋にいた。
僕の部屋じゃない。
つまりは病室。
清潔で軽い布団の下、もぞもぞと上体を起こそうとして、
「……痛っ」
関節が痛い事に眉をしかめる。
痛みを感じても、まだ夢を見ているように頭がボーっとしている。
夢?
夢だったのか? いや、今それはどうでもいい事だ。今は何故こんな事になっているのかを思い出すんだ。
随分長い間寝かされていたようだが。
くそ。思考がうまくまとまらない。
そうこうしているうちに看護師さんが入ってきた。
なんか僕ってば事故を起こしたらしい。
それで入院から昏睡のコンボ。
じゃあさっきまで見ていたのは夢か。
夢オチって奴ね……ハハハ。
看護師さんは僕の両親や、友人知人その他
関係者の人々がどれだけ僕の事を心配していたかを告げ、深夜にバイクを飛ばす事の危険性を切々と語ってくれた。
ああ、何か思い出してきたぞ。
深夜に友達の家からバイクで自分のアパートに帰ろうとしていたんだ。
その日は凄い雨が降っていて、タイヤは滑りやすかった。山道のカーブを越えようとして、対向車のライトがこう――
ガードレール突き破って、崖から落ちたらしい。それでこのザマって訳か。
看護師さんが去った後、僕はボンヤリ退院した後の事を考えていた。
どうしようか。
まずは報告だ。
その後、大破したというバイクの廃車手続きだ。
そうして――次は?
タクシーから降り、松葉杖をついた僕は、久々に見る自分のアパートの前で大きく伸びをした。
下敷きになって折れた右足は痛いけれど、腰は痛くない。
右膝に縫合の跡があるけれど。
晴れた青空。
僕はカバンから携帯を取り出した。
電話をかける。
「もしもし。ああ、俺。そうオレオレ詐欺じゃないよ。うん退院した。んでこれからどっか遊びに行かないか? みんな誘ってさ。いや、別にどこかアテがあるって訳じゃ――いや、待て。そういや入院中変な夢見てさ。それで思ったんだ。ああ。大丈夫。んでこれから行くトコだけどさ――」
ボクはニヤリと笑った。
僕は生きている。
「――ペンギン狩りなんてどうだ?」
終わり