婚約破棄なんて、時代遅れですわ!!
「あら、婚約破棄だなんて時代遅れですわ」
私は、目の前にいる王子様を見つめながら、そう言った。
「……なぜだ?」
「なぜって……今は、自然消滅の時代ですもの」
かつて、この国では舞踏会の場で婚約破棄を宣言するのが流行していたらしい。
大勢の貴族を前にして、
『お前との婚約を破棄する!』
と叫ぶ。
そして婚約者だった令嬢が、
『そんな……!』
と泣き崩れる。
それが一種の伝統だったという。
しかし、今では違う。
恋人同士でも婚約者同士でも、別れたいと思ったら、少しずつ連絡を減らしていく。
昨日まで毎日届いていた手紙が、三日に一度になり、一週間に一度になり、そのうち届かなくなる。
そして一か月ほど連絡がなければ、
「まあ、自然消滅ね」
で終わり。
実に平和である。
ところが、ここには一つだけ妙な法律がある。
**婚約してから一年以内に、正式に「婚約破棄」を宣言した場合、その二人は逆に正式な婚約者として認定される。**
意味が分からない。
だが、法律なのだから仕方がない。
「つまり殿下。今ここで私との婚約破棄を宣言すると……」
「……私たちは正式な婚約者になる」
「そういうことです」
「では、なぜそんな法律があるんだ?」
「私に聞かないでくださいませ」
私だって知らない。
昔、婚約破棄を巡る騒動があまりにも多かったため、王国が面倒になって制定した法律らしい。
婚約破棄を宣言する者が多すぎる。
ならば、婚約破棄を宣言した者同士を婚約させてしまえばいい。
そんな雑な発想から生まれた法律だという。
「では、私はどうすればいい?」
「簡単ですわ」
私は紅茶を一口飲んだ。
「私と連絡を取らなくなればよろしいのです」
「……」
「三日ほどで結構です」
「三日?」
「ええ。三日間、一度も私に連絡をしなければ、私は『ああ、自然消滅したのね』と判断いたします」
「そんなものでいいのか?」
「今の時代は、それが普通ですわ」
王子は頭を抱えた。
「しかし……私は君にきちんと話したいことがある」
「やめてくださいませ」
「なぜだ?」
「そのような真面目な話し合いは、今の時代では非常に面倒ですもの」
「婚約破棄を宣言するよりか?」
「比較になりませんわ」
そもそも、婚約破棄を宣言するだけで正式な婚約になってしまう。
そんな世界で、わざわざ真正面から別れ話をする人間など、ほとんどいない。
だからこそ、私は思った。
――この人、もしかして時代に取り残されているのでは?
「殿下」
「なんだ?」
「一つだけ忠告しておきます」
「……何だ?」
「今日から三日間、私に連絡をしないでくださいませ」
「それで自然消滅なのか?」
「ええ」
「……分かった」
王子は立ち上がった。
そして、そのまま部屋を出ていった。
翌日。
手紙は来なかった。
二日目。
来なかった。
三日目。
やっぱり来なかった。
「……完璧ですわ」
私は満足して頷いた。
これで婚約は自然消滅。
面倒なことにはならない。
そう思った、その日の夕方。
侍女が一通の手紙を持ってきた。
「お嬢様。殿下からです」
「……」
嫌な予感がした。
封を開ける。
『三日間、連絡をしなかった』
そこまではいい。
『しかし、三日間ずっと君のことを考えていた』
「……」
『私は、このまま自然消滅という形で君との関係を終わらせることが、本当に正しいのか分からなくなった』
「……」
『明日、話をしたい』
私は手紙を閉じた。
「……時代遅れですわ」
そう呟いた。
けれど。
翌日、私は王子のところへ向かった。
自然消滅で終わるはずだった関係を、わざわざ終わらせないために。
どうやら私は、もっと時代遅れだったらしい。
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