二度目の初恋
水水ありさ(みずみありさ)(26)。
さくらのアパートの上の住人。
ポニーテールがよく似合う、どこかミステリアスな雰囲気が漂う女性。
東雲さくら(しののめ)(24)。
根暗で何の取り柄もない女性だが、好きなものに対する情熱は誰にも負けない。
♦︎
ああ、神様。こんなことってあるのかしら。
初恋を拗らせまくった私が最近好きになった相手は、
アニメの男の人だった。
しかも、そのキャラクターの完璧なコスプレをしていた人に、イベント会場でぶつかって一目惚れしてしまった。
「大丈夫?あれ、君は・・・。」
紳士的で、低めの優しい声。
その声が、どことなくアニメのキャラクターに似ていて、私の心が一気に沸点に達した。
「は、はい。大丈夫で・・・わああ!!その格好!! レイ・フランメルですよね!?」
「うん?そうだよ。」
「好きです!!もうめちゃくちゃ似合ってます!!
好き・・・てゆーか、好き!!」
「ありがとう・・・。」
(あまりの勢いに気押されている。)
イベントが終わった後、帰り道がやけに被っていた為、
気になって、つい後を付けてしまった。
すると、その人は私のアパートの上の階に住んでいる水水ありささん、女性だ。
確かに、私の好きなキャラクターは女顔で、 長い髪を高い位置で結んでいる。色は青だ。
友人達とは「配役を決めるなら女の人だよね!!」と話していたけど・・・。
まさか、本当にこんなことが起こるなんて。
なんて声を掛けたらいい?
そもそも、声なんて掛けたら後を付けていたことがバレてしまうのでは!?
♦︎
一方、水水ありさは気づいていた。
いつも暗い顔をして部屋を出ていくあの子と、今日ぶつかった。
あの子もレイ君が好きなのか。知らなかった。
それに「好きです」って言われた。マジか。
・・・いや、あれはレイ君のコスプレ姿の私が好きなだけで、本当の私が好きなわけじゃないよな。
気付いてないみたいだったし。
あれだけメイクが濃かったら無理もないか。
♦︎それから数日後の土曜日。
私は勇気を出して、水水さんの部屋のインターホンを鳴らした。
「あの、こんにちは。えと・・・この間のコスプレ衣装、水水さんですよね?」
「気付いてたの?」
「いえ・・・同じ方角だったので後を付けてみたら
まさかの同じアパートで・・・三階の水水さんだと気付きました。ごめんなさい。」
「いや、同じアパートなんだから、後を付けていたことにはならないよ。」
「ありがとうございます・・・。」
「それで、何か用事があって来たんじゃないの?」
「あ!そうなんです。私、あなたと仲良くなりたいんです!」
「私と?ああ、オタク仲間が欲しいってこと?」
「はい!」
目をキラキラさせながら言うさくらを見て、クスッと笑うとありさはすんなりOKを出した。
「いいよ。」
♦︎そして、何度か会った後。
「好きです!」
さくらの突然の告白に、ありさは目をまん丸くさせた。
「さくらは女の子が好きなの?」
「え?いえ、そういう訳では・・・女の人を好きになったのは初めての経験です。
あの、困りますよね。急に呼び出してしまってごめんなさい。
返事がノーなのは分かってますから。聞いてくれてありがとうございました。」
椅子に座ったままペコリとお辞儀をする。
「いや、私まだ何も言ってないんだけど。」
ありさが困ったように笑う。
「初めてなのに、どうして私を?やっぱりあのコスプレ?」
「きっかけは確かに・・・。」
「素直だね。そんなにあのコスプレ気に入ったの?」
「はい!そりゃあもう大大大好きです!!」
「そう。」
数秒の沈黙。
「あのー、ありささん・・・?」
さくらは不安気な声色でありさの名前を呼んだ。
「付き合おうか。」
ありさが片手で頬杖を付きながら顔を少し傾ける。
「ええ!?付き合うって、でも、そんな急に、え!?」
「はは、驚き過ぎじゃない?」
その瞬間、ありさの表情が柔らかくなる。
初めて見る笑顔に、さくらの胸がキュンと高鳴った。
「振られる予定だったので・・・。」
「予定って(笑)」
さくらはぷしゅ〜ッとゆでダコみたいに真っ赤になって俯いた。
ありさは、そんなさくらの頭を目を細めながら優しく撫でた。
さくらが顔を上げる。
「あの、よろしくお願いします。」
「そんなかしこまらないで、ラフにいこうよ。」
「は、はい・・・。」
「これからはタメ口でいいから。」
「う、うん。」
「あ、そうだ。」
「?」
キョトンとしているさくらに、ありさは小さく手招きをした。
さくらがテーブルに身を少し乗り出すと、耳元で囁いた。
「御所望なら・・・コスプレ姿見せてあげる。
この後、部屋においで。」
私は、涙で耳を押さえると体を元に戻した。
「可愛いなぁ♪」
東雲さくら。
私は今日、初めて女性の恋人ができました。




