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NOT THE GAMEと現実の時間は剥離している。
そんな奇想天外な仮説が万が一正しいとして、気になってくるのはゲーム開始時に聞いた言葉。
NOT THE GAMEは現実とリンクする―――。
それも、【努々忘れるな】という念押しまでして、だ。
現実的に現実世界とゲームがリンクするか?
常識的に考えて、答えはノーだ。
しかし、あれだけに現実世界に似せて作り込まれたゲーム世界だけに、常識という物差しで考えるのは危険と思わざるを得ない。
なので、一つの実験を行うことにした。
一度ログアウトして戻った現実の部屋。
ここにある物の状態を変化させてみて、NOT THE GAME内の部屋に反映されるのかという実験だ。
1つだと偶然の可能性もあるので、念の為3つ仕掛けをしておく。
1つ目。
部屋に貼っている巨乳グラビアアイドルのポスターを剥がす。
幼い頃にめちゃくちゃ嵌って、結婚発表で完全に冷めたグラドル森川玲々のポスター。
さっさと剥がしても良かったのだが、何となくそのままにしてたってだけのものだ。
2つ目。
ノートに文字を書いて学習机に広げておく。
文字は何でも良いが、分かりやすいようにマジックでNOT THE GAMEとでも書いておくとしよう。
3つ目。
ベッドの下に隠してあるエロ本を、ベッドの上に置いておく。
母親に見付かったのかな?ってぐらい堂々と、ベッドの上に鎮座させる。
見付かるリスクは気にしない。
後は昼飯を済ませて、2時間ぐらい潰してからログインすれば良いだろう。
「あら、まだいたのね。今日はお出掛けしないの?」
「ちょっとしたら出掛けるよ。母さん、何か食べる物ある?」
「お母さんさっき食べちゃったから、これどうぞ」
手渡されたのは、薬局の紙袋?
「これは?」
「1本で満足なカロリーバーよ」
「ああ…いただきます…」
代わり映えの無い会話。
1本で満足出来たので家を出る。
検証実験の一つとして、出来れば【今】の東雲鈴音と接触してみたいと思っているが、恐らく【今】の東雲鈴音は、何処かに出掛けてしまっている。
東雲鈴音の家は近所でも有名なので、訪ねる事は可能だが、『君は娘のストーカーかね』とかって疑われてお縄につく事になったら目も当てられない。
あそこの親父さん、すげぇ怖いって有名だからな。
【まだ】友達でないかもしれない東雲鈴音を訪ねていくのは、少々リスクが高過ぎる。
戻って来るまで張り込むってのも、大分問題があるだろう。
「となると、ただ時間を潰して戻るだけか…」
それなら別に、外に出た意味なくないか?
部屋でスマホを弄っていた方が、余程気分転換になるかもしれない。
うーん、うーんと唸っている間に、気付けば隣の家の前に来ていたらしい。
扉が開いて、幼馴染の柊京香が現れた。
柊は俺に気付くと、NOT THE GAMEのNPCと同じ感じで近付いて。
「裕ちゃん?家の前で何をしているの?もしかして私に用かな?」
「え…?」
俺の記憶違いでなければ、現実の柊がNPCの柊と同じ台詞を言った…?
「い、いや…。ちょっと散歩でもしようかと思って」
少しばかり動揺してどもってしまった。
「柊の方こそ、俺に何か用か?」
「あはは。ほら、お買い物だよ。お米が切れちゃったから買い物に行かなきゃいけなくて」
「は…?」
2度目だ。
現実の柊がゲームの柊と同じ事を言った…?
これは一体、どういう事なんだ―――?




