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「ただいま」
「おかえり。と言っても本当に一瞬なのだな」
昼食、柊と買い物、SNSでの情報収集。
これらを終えて1時間以上の間を開けてログインした。
なのにステータス画面に映る時間は進んでいないし、東雲鈴音も目の前にいる。
やはりNOT THE GAMEは現実離れした技術でもって、【どの現実時間にログインしてもログアウトしたNOT THE GAMEの時間からゲームが再開出来る仕様】になっているらしい。
一応東雲鈴音が虚言を吐いている可能性も完全に消えてはいないが、【この東雲鈴音が実はプレイヤーを偽装したNPCでした】ってオチでもない限り、可能性は高いのではと思われる。
おっと、自分一人で至高を巡らすよりも集めた情報を共有しておくかな。
NGワードに引っ掛かりまくるかと思ったが、どうやらNOT THE GAMEの仕様について口にするのは問題にならないみたいだった。
「フレンド機能か。早速私とフレンド登録してくれるかい?私達はほら、リアフレだからね」
「別に良いけどリアフレって…。まだリアルで友達になった覚えはないんだが?」
「そんな事を言わないでくれ!悲しくって泣いちゃうぞ…?」
端正な顔立ちで俺を見つめながら、黒金剛石の瞳を潤ませる東雲鈴音。
正気か…?
この程度の発言で泣いちゃうのか…?
「ごめん。意地の悪い事を言った。フレンド登録しよう。リアフレとして」
「ありがとう!これが私のプレイヤーIDだ!」
謝罪してから僅か3秒だ。
東雲鈴音の手にある名刺サイズの紙には、びっしりと英数字記号を使ったプレイヤーIDが書かれていた。
確かにこれを暗記して現実の方で伝えるのは難しそうではある。
伝えられた側も暗記しないと打ち込めないだろうし。
さっき俺がしておいた検証実験の結果によっては、伝えられた側の手間は省けるかもしれないが。
「立ち直り早っ!えっと、紙を受け取って、登録をタップ、っと。これでフレンド登録完了みたいだな」
「やった!リアフレとゲームでフレンドになるなんて、にゃんにゃん以外では初めてだ!にゃんにゃんとも是非フレンド登録したいな。成木原君ともフレンドになってくれたら最高だ」
「そんなに喜んでくれると、こっちとしても悪い気はしないけれど…。にゃんにゃん…招木さんは所属エリアが違うのか?」
見えない壁の向こう側に行けない仕様上、壁を跨いでしまうと直接手渡ししての登録は不可能。
もし同じエリアに所属しているなら、東雲鈴音と招木猫は一緒に行動していてもおかしくない。
そうなると、俺と東雲鈴音が友達になる世界線はなかったかもしれない。
「そうなのだ。にゃんにゃんは埼玉28エリアだった。本当ならにゃんにゃんも一緒に遊びたかった。にゃんにゃんも成木原君なら大歓迎と言っていたからね」
「招木猫さんもNOT THE GAMEに登録したんだな。そんな事より、大歓迎…?」
俺も招木猫と遊ぶのは嫌ではない。
嫌ではないのだが、大歓迎と言われる程の関係性ではないと思うのだが。
「にゃんにゃんはおもしれー人?を好むらくてね。私はおもしれー女と言われている。私には良く分からないけれど、にゃんにゃん曰く成木原君はおもしれー男なのだそうだ」
東雲鈴音がおもしれー女ってのは、一毛すら反論の余地なく同意する。
同意するが。
俺がおもしれー男と言われるのは理解が出来ないな。
まあ、あの奇天烈猫女の感性で何か感じるものがあるのだろう。
逆に平凡過ぎておもしれーとか、そういう何かが。
ところで。
「埼玉28エリアがこの埼玉30エリアと隣接してるなら、案外容易にフレンド登録出来るかもしれないな」
「本当かい?一体どんな方法で?」
東雲鈴音は見えない壁の向こうへは通れない仕様を知っていた。
槍投げの如く刀を投擲して、上空から通り抜け出来ないかと試しても不可能だったらしい。
ガチで何やってんだよ、この女…。
だが、例え通り抜け出来なくとも、隣接さえしていれば、プレイヤーIDを伝える抜け道はある訳で。
「プレイヤーIDの書かれた紙を見せて手入力すれば良いんじゃないか?これなら入力の手間は掛かるが、暗記して現実で伝えるよりも、よっぽど楽だし現実的だ」
「なるほど、それは名案だ!」
矢鱈と長い…ぱっと見で100文字以上はある英数字記号の羅列を暗記する。
瞬間記憶を持っているとか一流大学にトップ合格する様な秀才だったらば可能だろう。
しかし少なくとも俺は、完璧に覚えるまでに少なく見積もっても7日は掛かると断言出来る。
そういった秀才達には厚底ブーツを履いて背伸びしたって届かない凡人は、躍起になって抜け道を探してやればいい。
凡人が秀才と並ぶには、小賢しく、狡賢くあるべきだと俺は考えている。
俺が提案した交換方法は正攻法ではないが、取れる手段としては最善に近いものだろう。
まあ、この方法だと一度ログアウトして待ち合わせをしなければならないから、今すぐのフレンド登録は不可能なんだけどな。
NOT THE GAMEの仕様上、やるとしても明日以降になるだろう。
「早速にゃんにゃんのところへ行こうか!」
「は…?いや、だから、壁の通り抜けは出来ないって…」
「大丈夫、私を信じてくれ!」
「ちょっと…引っ張るなって。ちょっと!」
東雲鈴音に強引に腕を引かれ、割合全速力で壁沿いを走る羽目になった。
東雲鈴音、招木猫ばりに行動が読めな過ぎて先が思いやられる―――。




