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 スーパーからの帰り道。


 幼少期から感じてはいたが、どうやら俺と柊は相性が良いらしい。

 自然と会話が途切れないし、相手の反応なんて気にせずに下手な冗談も言える。


 NPCは別にして、こんなに長い時間話したのは久々だったが、喋っていて疲れない。

 喋っていなくても気を使わない。

 そんな関係性の相手は、近頃出会った事がなかった。

 思春期特有の恥ずかしさで突き放してしまっていたが、得難い友人は存外近くにいるのもなのかもしれない。


「そんでずっと気になってたから食べてみたんだよ。あご出汁納豆チョコミントクレープ」


「えー本当に?どうだったの?」


「天にも昇る味わいだったぜ…。悪い意味でな…」


「あははっ!当たり前じゃんっ!どうして裕ちゃんは見えてる地雷を踏みに行くのよっ!」


 幼馴染との買い物が思いの外楽しくて、俺はすっかりと忘れていた。

 それと遭遇したのは、コンビニの前だった。


「お?おうおう、齋藤じゃねぇか。休みの日に会えるなんてツイてるぜ。ちょっとパチンコで擦っちまってよぉ。折角の休みなのに金がねんだわ。ちょっとばかし金貸してくれよ。あとコンビニで煙草買ってこい。おら、さっさとしろよぉ!おい、齋藤ぉ!」


「か、勘弁してよぉ!どうして僕が君にお金を貸さなきゃいけないのさっ!」


 頭が疑念の渦に飲み込まれる。

 いや、引き戻されたと言っていい。


 NOT THE GAMEでも見た光景。

 鬼ヤンキー鮫島に眼鏡君齋藤がヘッドロックを極められていた。


 NOT THE GAMEでは、この後激昂したプレイヤーの齋藤が、NPCの鮫島を短剣で刺し殺した。

 流石に同じように刃物を所持してはいないだろうが、果たしてどう展開するのか。

 興味深く見守る必要があるだろうな。


 立ち止まり、動向を見据える。


「裕ちゃん…」


 柊に袖を引かれて我に返った。


 いかんいかん。

 虐めの現場を見て野次馬になるなんて、褒められた行動ではない。

 柊は虐めにトラウマでもあるのか、袖を持つ手が僅かに震えている。


 幼馴染の女の子が震えているのに黙って見過ごす?

 そんなのは男のする事じゃないだろう。

 それに、目の前で起きているのは虐めなんて生温い言葉で済ませられるものではない。

 恐喝…歴とした犯罪行為だ。


 頭を使え。

 どうして普段は不真面目に振舞っている鮫島が、休校日に制服を着ている?

 今の時間は…これだ。


「よぉ、朝はパン派でお馴染み俺の登場だ」


「裕ちゃんっ!?」


 柊は下がっておいてと手で制する。


「あん?なんだ、成木原かよ」


 鮫島は顔だけこちらに向けて俺を見遣る。

 お楽しみを邪魔されたからなのか、かなり不機嫌そうな顔をしている。

 耳、眉、鼻、唇、ピアスの穴がボコボコ開いた痛々しい顔だ。


 耳ぐらいならまだわからなくもないが、どうしてこうも体に穴を開けたがるのか理解に苦しむ。


「何か文句あんのかよ」


 顔をジロジロみていたからか、輪を掛けて不機嫌になった。

 沸点が低過ぎて生き辛そうだな。

 何だか可哀想に思えて同情心すら湧いてくる。


 おっと、あまり黙っていると、ターゲットをこちらに変えそうだ。

 さっさと追い払ってしまうとするか。


「鮫島、お前今日英語の補講じゃなかったか?ケイティ先生待たせると、生活指導の上田がガチギレするぜ?」


「あ?ああ?」


「スマホで時間見てみろよ」


「あああ?」


 鮫島がヘッドロックを解除して、ポケットから引っ張り出したスマホを確認する。


「マジじゃねぇか!ヤッベェ!成木原、サンキュな!」


 ふっ…悪は去った…。

 なんて中二病の奴だったら変なポーズ決めながら言うんだろうか。


「あ、あ、あ、ありがとう」


 齋藤が首を擦りながら礼を言う。

 既に頭が下がっているので、頭を下げて丁寧にお礼をした様に見えなくもない。


「どういたしまして。まあ、俺の事は気にするな。それから…」


 齋藤が顔を上げたタイミングを見計らって、とある言葉を掛けておく。


「俺は、お前には勇気があると思っているよ」


「えっ…?」


 NOT THE GAMEの中での話とは言え、NPCだったとは言え、いじめっ子の鮫島に対して一矢報いた齋藤の勇気は称賛に値するものだった。

 少なくとも、俺はそう思う。

 やった事は褒められるものじゃないとしても、その勇気は誰かが称賛されるべきだ。

 少なくとも、俺はそう考える。


 その誰かが偶々今回は俺だった。

 ただ、それだけの事だ。


「柊、帰ろう」


「う、うん!裕ちゃん凄かったねっ。勇気あるなぁ」


 家まで送ると、やはり柊のおばさんが家に帰っていた。


 これは偶然か?

 いや、偶然で片付けるには無理がある。


 だとしたら、これは…。


 起こり得る未来を知った上でNOT THE GAMEに落とし込んでいる―――?


 いや、まさかな。

 それこそ、起こり得る筈ない現実だ。

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