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偶然か…?
偶然の線は…大いにあり得る。
柊がスーパーへ買い物に行く姿は、部屋の窓から頻繁に見掛ける。
だが、NOT THE GAMEのNPCとは違う、現実の柊が同じ理由で、同じ口調で、同じ言葉を口にするなんて。
そんな事が有り得るのだろうか?
何故だろう…。
何故だか冷や汗が止まらない…。
まさか、本当に…?
一も二も無く、俺はこんな言葉を口にしていた。
「柊、俺もついて行って良いか?」
覚えている限りで、同じ言葉をなぞって。
「珍しいね。どういう風の吹き回し?」
また同じ。
「それは、あれだよ。今日はそういう気分なんだ」
頭の中が真っ白で、咄嗟に理由が出てこなかった。
俺が魔物から守ってやるだなんて、頭がおかしくなったと思われかねない。
「変な裕ちゃん。それじゃあ、久しぶりにお買い物に付き合って貰おっかな」
「あ、ああ。行こうぜ」
「うんうん、裕ちゃんとお買い物だなんて、小学生の時以来だよね」
「そう…だったか?」
「そうだよー。調理実習の食材を買いに行った時。あの時の裕ちゃん、私も半分持ってあげるって言ってるのに、これは男の子の仕事だって絶対に袋を放さなかったんだよね」
「そんな事あったか?」
「あったよ!私、子供ながらに男の子って頼りがいがあるんだなーって思ったもん!結局途中で限界になっちゃって、私が袋の底を支えながら帰ったけどさ」
「そんな事…あったか?」
「あったあった!次の日腕が上がらないとか言って、裕ちゃん以外の班の子で作ってさ。裕ちゃんは試食係とか言って点数つけて回ってたのがバレて先生に怒られてたでしょ?」
「そんな事…あったかな…?」
「あったじゃん!そのあと先生に罰として家で料理を作って皆に振舞いなさいって宿題出されてさ、お酒に梅入れたので先生買収しようとして、もっと怒られてたじゃんっ!あれ、今思い出すと当時よりも面白くって笑っちゃうんだよねっ。あははっ!意味わかんないよっ!どうして小学生がお酒で買収しようって発想になるのよっ!面白っ…お腹痛いっ…」
「そんな事…あったな…」
あの頃の俺は、怖いもの知らずで、今よりもファンキーな事を平然とやっていた気がする。
恐れを知らない子供って無敵だからな。
あの担任教師、梅酒を没収したくせに子供の俺に雷落とすなんて、なんて理不尽な大人なんだ。
名前は確か…柴沢だったか。
思いだしたらムカムカしてきた。
どこかで遭ったら一言言ってやるぜ。
「梅酒代、980円になりますってなぁ!」
「あははっ!急にどうしたのよっ…。はあ、おかしいっ…」
道すがらの会話はNPCとした会話とは違う内容で、現実の幼馴染との会話を心の底から楽しむ事が出来た。
やっぱり偶然だ。
NOT THE GAMEと現実がリンクするだなんて、そんな事が起こる筈もない。
そう考えを改めかけた俺が疑念を深めたのは、買い物を済ませたすぐ後の事である。




