赤い魔女の休店日
手慰み、第数弾でございます。
ちょっぴり、方向転換してみました。
そのため、ただでさえ露骨描写が多いのに、BL要素まで兼ね備えてしまったので、苦手な方はご注意ください。
王都の町の目立つ位置にあるそこは、何でも揃う雑貨店だと言う。
町に住む平民が利用する品々が主だが、手に入りにくい薬剤も処方してくれるため、時々貴族の客も訪れているようだ。
その日も、お忍び姿の貴族が、少ない連れを伴って、店を訪れた。
が、店の扉にかかる札を見て、躊躇っている。
連れの一人が主の代わりに扉に手を伸ばすと、手が触れる前に、内側から開いた。
思わず手を引っ込めた連れの横で、その主も身をすくめて立ちすくんでしまう。
中から顔を出したのは、若い人物だった。
薄色の金髪の、中性的な顔立ちのその人物は、静かにそこに立つ人物たちに告げた。
「申し訳ありませんが、本日は休店日です」
「そ、そんな……」
声なく衝撃を受ける主人の代わりに、連れの一人が声を上げる。
妙齢の中肉の女性で、屋敷の使用人と言うより、家庭教師に見える。
女は、自分より少し上背がある店の者を、キツく睨み言った。
「休店日があるなど、聞いたことがありません。火急の要り用があったら、どうするのですかっ?」
責めるような問いだったが、答える方は全く動じない。
「その為の留守番が、私なのですが。火急の要り用ですか? 先触れは出されていますか? 先触れされた分は、取り置いてありますが」
その上、鋭い指摘を返され、女は詰まった。
代わりに、もう一人の連れが、扉の前に進み出た。
こちらは、主人の護衛らしく、店番より遥かに大きい男だ。
その男が威圧を込めて、店番を見下ろした。
「先触れする余裕もなかったのだ。急な要り用には、対応出来ないのか?」
剣をこめた問いにも、店番はただ首を傾げただけだ。
投げられた問いを反芻し、すぐに答えた。
「在庫があれば、出来ます。ただ、薬剤の処方は、店主しか出来ませんので、後日の引き渡しになると思います」
「それで、構いません」
平坦な声の答えに返したのは、細い声だった。
男女の連れの後ろに立っていた、貴族らしき人物だ。
小さくか弱い声だったが、フード付きのケープを羽織った小さな体から出た声にしては、力強い。
「至急、手に入れたい薬があるのです。在庫を確かめてくださいませ」
覚悟を決めてフードを取った貴族は、店番の人物を真っ直ぐ見つめた。
その一連の洗練された動きを見ても、店番は頷いただけだった。
これ以上入店を拒否するのも可笑しいと思ったのか、扉を大きく開く。
「分かりました。どうぞ、中にお入りください」
三人が招かれて、薄暗い店内に足を踏み入れると、すぐ灯りが灯る。
カーテンが閉まった店内には、細々とした日用雑貨が陳列されていて、その奥にカウンター席がある。
そこに、一人の男がいた。
赤みがかった黄色い短髪の、長身の男だ。
端正な顔立ちのその男に、店番の人物が平坦な声をかけた。
「お客様だ。扉番を代わってくれ」
眠そうに目を上げた男はすぐに頷き、立ち上がった。
欠伸を噛み殺しながら、扉の方に向かう男と入れ違いにカウンター席に座ると、店番は改めて客を見た。
貴族の客も、明るくなった店内の中で、ようやく店番の容姿の良さに気付いた。
育ちの良さだけではなく、自分もそれなりに整った顔立ちをしているし、年齢をとっても性別をとっても、賞賛される事が多いが、店番はそんな自分を軽く上回る容姿をしていた。
癖のない腰までの髪を、軽く結わえて方に流した姿は女性にも見えるが、細身の男性にも見える。
ぼんやりと見ほれる客に席を勧め、店番は在庫表を取り出しながら切り出した。
「どのような品を、御所望でしょうか?」
平坦な声で問う店番は、その声と同じような無感情の目でこちらを見ていた。
その目は、瞳孔と見分けがつかないほどに黒く、見つめていたら吸い込まれそうだ。
背後に立つ連れの一人が、小さく咳払いをして主人を我に返らせる。
気を抜くと再び見入りそうになる自分を励ましながら、客は答えた。
「惚れ薬とは逆の作用がある薬が、出回っていると聞いているのですが、それを……」
「ああ……」
途中で恥ずかしくなって、消えそうになる声を拾い、店番は平坦に頷く。
「精力抑制剤ですね」
「っ」
あっさりと言い切られ、客が激しく動揺したが、店番の方は全く頓着しない。
在庫表を開いて頷き、言った。
「本日お持ち帰りできるくらいは、用意できると思います」
「そ、そうですか」
さっさと話を進め、事務的な手続きに入る店番は、メモ用紙を傍に手繰り寄せながら質問した。
「どなたが服用するのでしょうか?」
「……私の、婚約者候補です」
「年齢は?」
「二十歳です」
「大体の身長と体重も、いただけますか?」
客がそれに答えると、店番は他にも細かな質問を繰り返し、その答えをメモに書き出していたが、最後の質問の答えで手を止め、顔を上げた。
見返してしまった客が怯む前で、ゆっくりと確認する。
「一年間の使用、ですか?」
「はい」
真剣に頷く客に、慎重に問う。
「それはなぜなのか、お訊きしても?」
「わたくしが成人するのが、一年後なのです。成人すれば、爵位が継げます。そうすれば、その方との婚約を、拒否することができます」
「……そこまで、嫌っておられると?」
深く踏み込んだ問いにも、客はしっかりと頷いた。
それを見た店番は、静かに言った。
「この薬は、確かに万能ですが、持続性はありません。大体一週間が限度とあります」
「……」
「お相手の方は薬の耐性があるとのことですので、分量もそれ相応の物になると思われます。そうすると、今ある分の薬では、到底足りませんので、その都度買い足していただくことになります」
頷く客を見つめ、店番は平坦に続けた。
「それから、これが一番問題なのですが、長く服用していますと、それこそ耐性ができてしまい、どんどん量が増えていくことになります。それに、もし持続期間を間違ってしまって、薬の効果が消えてしまった場合の反動は、一時期の服用の時よりも大きく出てしまうようです。つまり、抑えていた欲が、爆発してしまう可能性がある、という意味なのですが、その辺りの覚悟は、おありですか?」
「……っ」
平坦な声に問われ、客は詰まった。
覚悟を決めてきたはずなのに、改めて言われて決心が揺らいでしまった。
元々、行き当たりばったりのような計画で、同行してくれたメイドも、その辺りを心配していた。
もしもの場合、高位に位置する婚約者候補の愚行を、成すすべなく見ているしかなくなる未来も有り得ると、後ろで聞いていた護衛も改めて思い出し、主人の小さい背を見ながら、歯がゆい気持ちで唇を噛みしめた。
余計な不安を植え付けた店番は、黙り込んでしまった客たちを見回し、無言で天井を仰ぐ。
そして、再び平坦な声を出した。
「……私は、この店の者でも、この国の者でもありません。ただの店番で、これから先も、店の外に出る予定は全くないと、まず申し上げておきます」
まだ暗く黙り込んでいる客たちを見回し、店番は少しだけ声を和らげた。
「ここで聞く話は、外に漏らさないとお約束しますので、少しだけ深い事情を尋ねることを、お許しいただけますか?」
平坦だった声が、優しく響くのを聞いて、客が思わず顔を上げると、店番は微笑んでいた。
少し首を傾げて答えを待つその姿に見ほれ、客は考えることなく頷いてしまっていたのだった。
母が亡くなったのは、数か月前だ。
領地の方で災害があり、復興のための活動で領地入りしていたのだが、数か月前にめどが立ち、王都に戻る途中の事故だった。
公爵だった母は、もしものために父親を、長女が成人するまでの、中継ぎにする手続きは済ませていたらしく、その辺りはスムーズだったのだが、そこに横やりを入れてきたのが、婚約者候補だった。
現国王陛下の弟であるその男は、元々女癖が悪く、その噂が広まってしまったがために、縁談が進まずにいたというのに、何故か自信満々に公爵家への婿入りを申し出てきた。
中立の立場にある公爵家への婿入りに、国王本人は難色を示しているが、何故か令嬢の父親は乗り気で、事あるごとに王弟を屋敷に呼ぶようになった。
爵位を継ぐまでの辛抱と、令嬢は王弟が屋敷に訪れるたびに、適当に相手をして帰していたのだが、徐々に接触が増えてきた上に、二つ年下の妹にまで嫌な目線を送っているのに気づき、段々耐えられなくなってしまった。
日に日に憔悴していくお嬢様に、赤い魔女の店を教えたのは、通いで料理長をしている平民の男だ。
不思議な日用使いの物を、平民中心に販売している、色鮮やかな魔女の店だ。
そんな目立つ店で店名も怪しいのに、国からも黙認されている謎の存在で、どうやらその理由が、貴族の後ろ黒い依頼も、聞き届けているかららしい。
それを聞いて、気休めでもいいからと場所を聞き訪れたのが、その日の昼間だったのだが、生憎休店日と重なってしまったのだった。
「……で、こちらの事情を全てお話した後、その店番さんから頂いたのが、これなの」
夕方、屋敷に戻りすべての変装を解いた姉が、部屋に訪ねてきた妹にそう告げた。
親指ほどの大きさの、小さな透明な小瓶に、白い粉が入った物が二つ。
「これを、目の前で作り出して、粉々にすりつぶしてくださったの」
「……これが、その、あの変態の可笑しな目を抑える薬、なの?」
興味津々で見つめる妹に、姉は何とも言えない顔になって首を振った。
「嫌いも好きのうち、を現実化する何か、ですって」
「……?」
目が点になった妹を見て、そういう反応になるわよねえと、深く頷いてしまった。
だから、話の流れを詳しく話し出す。
「私たちの家の事情を話したら、二三質問をされて答えた後に、これを作り出してくださったの」
文字通り、カウンターの上に両手をかざし、一握りした後に作り出した、白い結晶だった。
「白く濁った、そうね、月光石みたいな、真四角の石よ。それを、相手に飲ませるのは大変だろうって、粉にして小瓶に入れてくれたの」
店番曰く、初めて作ったので、うまく作れたかは分からない。
もし、効果がなかったら、この店で薬を買い求めてもらうしかないが、効果があったら少なくても一年は保つ。
突然そんなことを言われつつ、そんなものを見せられて困惑する客たちに、店番はそれの効用を説明した。
「好意を寄せる者を憎み、嫌悪する者を好むようになる、呪いみたいなもの、だそうよ」
「呪い? それはっ。あの男には効かないでしょっ」
「ええ。そう反論したら、あの人、本当に綺麗な顔で笑うの」
王家の方が使う魔除けは、呪いや魔法をはじきます。
これ自体には、元々弾かれるほどの呪い気質は、ありません。
「……っ」
「体内に入ってから、個々の感情に反応して育つ呪いだから、外についた魔除けは、本人の魔力と勘違いするんですって」
店番はそこで再び、ちゃんとできていればと念を押した。
もし、気休めのこの品ではなく、件の薬を使う覚悟が出来たのなら、これはそのままごみとして出しても害はないし、もし効かなかった場合のために、一年分の薬も取り置くように準備すると、伺いを立てられた令嬢は、これをもらって帰ることにしたのだった。
「もし、何かの不具合で薬が切れてしまった時に、あなたがあの男の傍にいたとしたら、後悔してもしきれないもの」
試作品だからと無償で貰ったので、それが効かなくても損はしない。
「問題は、どのタイミングで、誰と顔合わせさせながら、これを飲ませるか、なのよね」
「無味無臭なら、お茶に入れてもよさそうね。二つで一年分なの?」
「いいえ。一つは、あの男の分よ」
自分より幼い顔に、驚きが浮かんだ。
「え? あの男の話も、したのっ?」
「ええ。だからこそ、ちょっと慎重に飲ませなきゃいけないの。飲ませるときの注意事項が、結構難しくて」
店番は、薬を擂粉木で粉にする間に、二つの注意事項を口にしたのだが、それを令嬢はメモをもらって記していた。
姉が出してきたメモを、妹は真剣に読む。
「えっと、服用させるとき、自分たちの味方や親しい人を立ち会わせない」
「大体、あの人が嫌いなのは、私たちに優しい人や親しい人でしょう? その人たちが執着されると思うと、嫌よね」
「成程、そう言う事」
うまい忠告だと、姉妹は頷き合い、妹はもう一つの注意を読む。
「服用者の前で、身近な人が現実を口に出すことを控えさせる? どういう事?」
「単純に、呪いが解けるから、ですって。それで解ける呪いが、本当に一年も持続するのか、ちょっと不安だけど……」
店番のあの人には、逃げ道をもらっている。
だから、気楽に試してみようと思ったのだと、姉は困ったように妹に言った。
一年後、その日はきた。
「公爵令嬢、私は、真実の愛に目覚めてしまった。この人にしか、もう目がいかない。どうか、婚約を白紙にしてほしい」
譲位式の後、王弟殿下が申し訳ない顔で声を張り上げた。
その隣には、真実の愛の相手が絡みついている。
令嬢姉妹は並んでそれを見やり、扇子で口元を隠す。
姉は、平坦な声で答えた。
「承りました。どうか、お幸せに」
その後ろで、必死で目のやり場を探す中年の男は、父方の叔父だ。
そして、王弟の後ろの玉座の上で国王が、その隣で王妃が、驚愕の顔で弟を見下ろしていた。
「……お前、自分が何を言っているのか、分かっておるのか?」
完全に、正気を疑っている顔での国王の問いに、王弟は心外とばかりに反論した。
「分かっておりますとも。私はこの愛らしい方と、領地内の静かな別宅で暮らしたいと存じます」
怒りよりも、衝撃の方が強いらしく、国王は豪胆なその印象とは裏腹に、体を揺らして倒れそうになっていた。
王妃の方も、青ざめて二人を見下ろしている。
「報告は、本当だったのかっ。元、公爵代理とっ、淫らな夜を過ごしている、というのはっ?」
吐き捨てた国王の声に、令嬢二人が眉を寄せた。
同時に、王弟が正気に戻る。
「は? 陛下、何を言って……」
「事実でございます、陛下。私と姫は、愛し合っているのです」
元公爵代理で、令嬢たちの父親として公爵家にいた男は、そっと王弟の方を抱き寄せ、熱のこもった声で国王に告げた。
「は? ひ、姫?」
混乱して周囲を見た王弟を見て、国王は一瞬安堵したが、王妃の意味ありげな目線に気付き、顔の表情を引き締めた。
そして、一気にセリフを告げる。
「双方が愛し合っておるのならば、致し方がない。幸い、王弟の領地は、手のかからない土地だ。そこで幸せに暮らせ」
「有難き幸せに、ございます」
「は、はあっ? 待てっ。お前なんぞと、誰がっっ」
「早急に、領地に帰るがいい」
「へ、陛下っっ?」
元公爵代理につかまったまま、王弟は騎士たちに引き立てられ、そのまま用意されていた馬車へと押し込まれてしまった。
譲位式に参加していた令嬢と妹とその後見、立ち合いの貴族と国王夫婦は、謁見の間でそのまま動かず、騒動が去ってからようやく、誰からともなく溜息を洩らした。
「……長い間、そななたちには苦労を掛けてしまったな」
「いえ。我が家の問題が、そもそもの始まりでございましたので。陛下を含む沢山の方々に、ご迷惑をかけてしまいました」
国王陛下のねぎらいの言葉に、令嬢は妹と叔父と共に、神妙に頭を下げた。
話は、令嬢たちが生まれる前にさかのぼる。
令嬢たちの母親は、元々とある侯爵家の次男を、婿として迎えるつもりだった。
幼い頃からそう決まっていたから、長い年月の間で、信頼も愛情もはぐぐまれていたのに、彼らが結ばれることはなかった、表向きは。
侯爵家の長男は、普段は大人しい男なのだが、まだ発育途上の女児を愛でる趣味があることが分かったのだ。
しかも、婚約者として縁づけられた令嬢には、全く見向きもせず、隙をついては幼いメイドを部屋に連れ込もうとするようになってしまった。
侯爵家の領地は、今や国の特産物として有名な、陶芸品を扱う土地柄で、その長女を王太子の婚約者に据えた後だったから、醜聞を作るわけにはいかない。
長男を何とか後継者から降ろし、次男をその位に据えるしかないが、当時から貴族間で中立だった公爵家と仲も、必要以上に悪くするわけにもいかない。
次男と長く婚約していた公爵家の後継ぎは、相思相愛であったから、猶更引き裂く事が躊躇われる。
そこで国は、特別措置を出した。
侯爵家の長男を公爵家の婿に据える代わりに、次期公爵、次期侯爵の血が残るならば、多少反則技で子を得ても構わないと。
極少数の貴族の間ではよく知られるその措置で、次期公爵と次期侯爵の間には、三人の子供が儲けられた。
侯爵家には、令嬢たちの弟がいる。
令嬢の姉妹が、女児趣味の男のいる屋敷で育ったのは、王家から定期的に頂いていた薬で、欲を抑制されていたせいだった。
それも、妹が学園に通い始めた頃から、服用させなくてもよくなっていたのだが……。
まさか王弟殿下が、公爵代理の趣味をかぎつけて脅しをかけて、姉の婚約者にねじ込もうとしてくるとは、思わなかった。
しかも、一年前からは、妹にまで色目を使い始め、あわよくば両手に花状態になろうなどと、目論んでいるとは。
家の簒奪の危機よりも、そちらの方に危機感があった。
魔女の店から戻った時、姉妹は一石二鳥の方法を考えついた。
姉は、婚約者候補と自認していた王弟が訪ねてきた時に、実は伯父に当たる男を引き留め、お茶に誘ったのだ。
その後、妹を呼び寄せて、その変化を確認した。
それは、目に見えるほど明らかな変化だった。
二人が、前とは違う反応で見つめ合うさまを見て、姉妹はそそくさと客間から撤退したが、使用人たちの話では、淑女が説明するには難しい描写の光景が、あの場で繰り広げられ始めていたらしい。
ここまで効果が出るのならば、店番の忠告は守るべきだと、頻繁に連絡を取り合っていた実父とも、一定期間距離を置いた。
そしてこの一年で、譲位に向けた手続きも済ませて王室とも話し合い、二人を王弟の領地に押し込める計画になったのだった。
「……あいつには、悪いことをしてしまったな」
国王は、しんみりと呟いた。
自分が、現実を口にしてしまったせいで、王弟は我に返ってしまった。
どうせならば、呪いが切れるまでは、幸せに浸っていた方がよかっただろうに。
そんな国王の言葉で、令嬢が溜息を吐いた。
王弟が伯父に当たる男から隙を見て逃げ出し、公爵家に押しかけられるのではと、心配しているせいだ。
「大丈夫です。王弟殿下は、既に逃げられませんわ」
王妃は、自信満々で言い切った。
彼女は令嬢時代、兄である男の目下の少女たちへの所業で手を焼き、王太子妃時代、義理の弟の執拗な接触に手を焼いていた過去があり、この若い令嬢たちの計画に積極的に協力してくださった。
「あれで兄は昔、柔の武道に精しておりましたし、先程も、ただ腰を抱かれていたのに、びくともしていませんでしたわ。逃げ場のない馬車での長旅ですから、領地に到着する頃には、別な境地に達しているかもしれません」
王妃の弟であり、令嬢たちの実の父の侯爵は、複雑な気持ちで苦い溜息を吐いた。
令嬢の賢い弟も、黙ったまま天井を仰ぐ。
いずれ伯父も、正気に戻るだろう。
その時、王弟がどう反応するか、伯父がどう反応するか、想像することはできるが、それを警戒する必要はない。
領地につき次第、彼らは揃って病死する手はずになっているのだから。
兎の暇つぶしは、タイムループでしたが、こちらは事が起こる前に対処する、お話となっております。
話の経緯
現代の商品を、異世界で安く売りさばく、赤い魔女→ある世界で、酔っぱらった冒険者に、店の扉の鍵を破壊される→結果、休店日に誤って入った客が、店を出た先が知らない世界で、迷子になる事案が発生→件の冒険者が修理費用を捻出するまで、鍵ができないが、休養は欲しい→そうだ、最近暇そうな、ひ孫に店番頼もう→結果、重客を取り逃がす




