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世界を救う唄  作者: 葛葉龍玄


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3/4

世界を救う唄──陰陽──

  宇宙に広がる神々の意思。

 それは完璧なものを作る事。

 0から自分たち、神に近しい存在を創造すること。

 幾億年かけて数多の星を作り、環境を整えても理想の世界を作ることはできなかった。


 数多の塵芥から作られたこの星も、最終的には神の気にいる生命などできやしなかった、

 遊び飽きた子供のように、神々はこの星を一切の未練ももたずに手放した。

 一応、神がいなくともこの星を運営していけるようにして。


 少年は一昼夜走り続けた。

 そしてついに天界と人の世の狭間にある、理を司る塔を見つけ出した。

 いかなる物質で作られてるのかは、皆目見当もつかないが、それはまさに神がお作りになられた物であると思わせる佇まいだった。

 どこまでも澄んだ青い空。


 霊峰から流れ来る清らかな風。

 ここは、人の世ならざりし平和がある世界。

 その門を開けて少年は中にはいる。

 本当ならこのまま少女を助けに行きたい。

 しかし、少年は約束したのだ。

 暗闇で泣き続ける女の子も、この世界も助けると。

 だから少年は塔の上ではなく、下を目指した。

 そこには封印された扉がある。命の巫女でも大司祭でも開けることができなかった扉。

 少年はこの奥に、夢に見た女の子がいるのだと確信した。



 その時、多くの神官が武器を携えて少年を取り囲んだ。

 高官が一人抜刀し、少年に切っ先を向ける。

 ここは神に選ばれた者のみがはいることを許された塔。

 どうやってここにはいった!

 少年は答えずに楽器を構える。

 侮辱されたと思った高官は剣を振り上げた。



 しかし、剣が振り下ろされる前に、少年楽器から、温かなメロディが流れた。

 優しく、楽しく、軽やかに心踊るような旋律は、その場にいた神官たちを呆然させるには十分だった。

 剣を振り上げた高官もその動きを止めている。

 そして。

 今まで開くことのなかった最後の扉が開いた。


 その向こうから漏れ出たのは闇。

 神官たち顔を背けた。

 しかし少年は臆することなくその闇に身を投じた。


 塔の最上階。

 少女は気がついた。

 少年が助けに来てくれたのだ。

 少し聞こえた少年の奏でる音には一点の曇りもなかった。

 その音を聞いて、少女は確信する。

 少年は自分のみならず、世界をも救ってくれるのだろうと。



 そして少女は再び唄い始める。

 今までとはまったく違う程、力強く、さらに繊細に、そして、歓喜に。

 もう少しで、世界は救われる。

 二人の手によって。


 時間の感覚も曖昧。前に進んでるのか、後ろに進んでいるのか。上下の感覚さえも全てがわからなくなるような深淵のなか、少年は歩く。

 そしてやっと、明かりが見えた。

 その光の下には、数えきれぬほどの墓標があり、その中心で女の子が旋律を口ずさむ。

 血の涙を流しながらこの世の不条理を言葉にせずに音に乗せる。



 罪、咎、穢れ。

 神に吐く呪詛。

 だからこそ、女の子は闇の中に閉じ込められたのか。

 しかしこの女の子もまた、神の御子なのだ。

 世界中の人々の負の感情を一身に受け、それを歌うことによって浄化する。

 だからこそこの世界は滅びを遅らせることができている。



 少女が光だとするのなら、女の子は闇。

 この墓標は歴代の神の御子の墓なのか。

 女の子が口ずさむメロディーは、確かに少女が唄っている世界を救う唄のコードそのままだった。

 少年はその旋律を聴き覚える。

 そしてその場で楽器を構え、演奏をする。



 今まで少年がいることにも気づかなかった女の子だが、少年の奏でる音を聴き、こちらを振り向く。

 少年は女の子が歌うのやめても演奏を続けていた。

 女の子は生まれて初めて、言葉を口にする。

 ありがとう。と。

 そして、女の子と墓標は闇に溶けて消えた。

 女の子の使命はこの曲を弾ける相手にそれを伝えること。



 神代の時から闇で唄い続けた女の子は、ようやくその役目を終えて死ぬことができたのだ。

 少年はそのメロディーを弾く。

 女の子の長年の闇が少年に降りかかる。

 闇に飲まれそうになる心。しかし少年は楽器を演奏することでそれを浄化する。

 この空間は崩壊する。闇の御子がいなくなって存在する理由がなくなったからだ。

 崩れゆく闇の世界をあとにして、少年は塔へと戻される。

 

 塔の最上階。その祭壇の中心で歌い続ける少女。

 そしていきなり現れた少年。

 明らかに侵入者であり少女の唄を邪魔する不信得者。

 塔中の神官たちが集まっていたが、誰一人止められないでいた。



 少年は堂々と祭壇へ上がると、少女に微笑みかける。

 少女も泣きながらその笑顔に答える。

 背中合わせに立つ二人は大きく深呼吸をした。 

 村の花咲く丘でいつもやっていたように。

 少年が弾くメロディー。それに合わせて少女が唄を紡ぐ。



 それは奇跡。

 世界中に鳴り響く光と闇の賛歌。

 この星中の人々の心に届く唄。神へささげる調べ。

 すべての善と悪は表裏一体。しかし、どちらもこの世界にあるものなのだ。

 どちらかが欠ければそこから歪み、壊れていく。

 だからこそ歌うのだ。本当の世界の姿を。

 だからこそ歌うのだ。世界のすばらしさを。

 人々の心にある絶望のすべてが霧散する。

 歪んだ歯車が正しい形となり、正常に動きだす。

 この広い宇宙のほんの小さい星。しかし、少年たちにとってはかけがえのない世界。

 奇跡。



 神に祈り続けてきた神官たちでさえなしえなかった神の御業。

 どのように表現したらいいのかもわからず、二人の演奏に涙を流した。

 暖かな調べは陽だまりのように人々に温もりを与え、その凍てついた心を取り戻していく。

 世界が慈愛の手のひらに包まれていく。

 神に見放された世界は再び神の息吹にその身を震わせた。



 人間が、植物が、動物が、海が、空が。

 本当の生命力溢れる魂を取り戻していく。

 全世界の人間が感謝をこめて歌に耳を傾けて、跪く。

最後の1音が弾けたあと、少年と少女はようやく対峙した。

大きな瞳を涙で濡らし少年の胸に過去を埋める。

少年はそっと少女抱きしめると、闇の御子のことを思い出していた。



その彼女らが背負った、何千、何万の負は少年が祭壇から全て、この星に散らばらせた。

その場で、数多の神官の前で、少年は少女につげる。

「向かえに来たよ。世界も救った。

もう何も恐れることはないよ」

「ただいま。私は信じてた。貴方が世界を救ってくれるって」

そして少年と少女は抱き合う。

神官達の目にはまるで世界を抱き締める神に見えていた。


その後。

神の軛から解き放たれた世界は、完全に人間の手によって運行されるのだ。

もしかしたら、遠い未来にまたこのような事態が起きるかも知れない。

しかし、絶望から這い上がることが出来たのだ。

この世界は救われたのだ。

光である命の巫女と、闇である闇の御子の聖なる唄で。

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