第8話:「原初の記憶と孤独からの解放」
最終話の第8話完成しました!
1話から読んでくださっていた方、本当にありがとうございます!
読みづらいと思いますが、この物語はここで完結です。
光が――玉座の間を包み込んでいた。それは優しいようでいて、痛いほど眩しい。
ザバロスの魔力が、ノエルの小さな体を包み込む。
その身を削るような儀式の光は、父の祈りそのものだった。
ザバロス「ノエル……聞こえるか……パパだ……」その声が、光の中に溶けていった。
ルカは、ノエルに広げたお絵描き帳を落とさぬよう、必死に声を張り上げ続けた。
ルカ「ノエル! 頼む! 思い出してくれ! マグマクッキーの味を! お空の色を!
君が教えてくれた、世界で一番甘くて、優しい時間を!」
――ノエルの精神世界。
そこは、無限に続く図書館のような空間だった。
天井も壁もなく、果てしない本棚が闇の中へと消えている。
ページのめくれる音だけが、静かに響いていた。
ノエルは立ち尽くしていた。
「……ここ、どこ……?」
返事の代わりに、声がした。
幾重にも重なった、古びた響き。
「さあ、全てを受け入れよ。お前は我となるのだ。知識こそが、お前の居場所だ」
黒い霧のような手が、本棚の間から伸びる。
それは、ノエルの小さな腕を掴み、引きずり込もうとした。
「いやっ! いやぁああっ!」 「パパ!ママ!助けて……!」
泣き叫ぶノエルに、亡霊は囁きかける。
亡霊:「無駄だ。お前は誰からも求められていない。前世を見ろ! ブラック企業の薄暗いオフィスで、お前はたった一人で死んでいったではないか! 誰もお前の過労を気にも留めなかった! 孤独がお前の本質だ! 知識は裏切らない。お前を孤独から救う!」
前世の記憶――
徹夜明けの冷たいデスク、倒れこんだキーボードの感触がノエルの脳裏にフラッシュバックする。
恐怖にノエルは身を縮こませた。
その瞬間、遠くから、何かを叫ぶ声がこだました。
『お空の絵を!』 『世界一ノエルらしいクッキー!』
ルカの必死な叫びが、知識の渦をわずかに切り裂く。
ノエルが顔を上げる。
闇の中に、淡い光が差し込んだ。
光の中、ふわりと落ちてきたのは、一枚のクッキー。
焦げて、少し欠けて、でもどこか懐かしい匂いがする。
「……これ……」
パパの優しく、不器用な声が響いた。
ザバロス「ノエル、パパだ。パパのクッキー……まずかったか……?
でもな、お前が『おいしい!』って笑ってくれたから……パパは……」
その声は、温かくて、涙が出るほど懐かしかった。
「パパ……!」
ノエルの目から、涙がこぼれた。その瞬間、黒い霧が一歩、後ずさる。
亡霊「何故だ!知識の喜びには勝てぬはず!」
ノエルは、前世の孤独な記憶と、今目の前にある温かいクッキーの記憶を対比させる。
ノエル「違う! 孤独なんかじゃない! わたしには、パパとママがいる!
マズイけど、あったかいクッキーを焼いてくれるパパがいる!
わたしを呼んでくれるルカくんがいる!」
目の前に広がる記憶の光景。
小さな厨房、粉だらけの床。
大きな魔王が、不器用にボウルを混ぜていた。
焼きすぎて真っ黒なクッキーを前に、途方に暮れる背中。
けれど、その時のノエルは笑っていた。
「パパ、まっくろ! でもパパ!、これ、おいしいよっ!」
ザバロスはぽかんとしたあと、泣き笑いのような顔をした。
――それが、ノエルの“原初の記憶”だった。
ノエル「パパのクッキー、あたたかかったのです。 わたし、それが、だいすきだったのです……!」
ノエルは、知識の渦に背を向け、光の中へと駆け出した。伸ばした手が、闇を切り裂く。
ノエル「もう、わたしは誰にもなりたくない! わたしはノエル! パパの娘なのです!」
現実世界。
玉座の間で、黒い魔力が叫びを上げた。
ノエルの身体から、影のような魂が引き剥がされ、空中で霧散していく。
一瞬の閃光、そして静寂。
ノエルは、ザバロスの腕の中に、ゆっくりと意識を戻した。
「……パパ……?」
「ノエル!!」
ザバロスは、崩れ落ちたノエルを抱きしめる。
儀式によって疲弊しきった彼の体からは、魔力がほとんど失われていた。
「ノエル、無事か!?」
アストレアが駆け寄る。
「……ママ……」
ノエルは小さな手で、パパとママの顔に触れた。
「よかった……わたし、パパとママのこと、ぜんぶ覚えてるのですっ!」
その時、ノエルは、床に座り込んで涙を拭っているルカに気づいた。
ルカの手には、ボロボロのお絵描き帳。
「……ルカくん! どうしたの? そんなに泣いて!」
「……っ! ノエル!」
ルカは泣き笑いの顔で立ち上がり、ノエルに飛びついた。
「よかった……よかったよ、ノエル!」
エピローグ
事件から数日後。
魔王城には「スイーツ(チョコ)禁止令」が出され、
ザバロスは仕方なく、ノエルと一緒にマグマクッキーを焼いていた。
「ノエルよ……世界征服はまだ諦めていないぞ……!」
「もう、パパってば、うるさいのですっ!」
いつもの日常が戻ってきた。
ノエル「ルカくん! このマグマクッキー、焦げてるけど、すっごくあったかいんだよ!」
ルカ「へへ、知ってるよ。世界一、マズくて、世界一あったかいクッキーだもんな。」
二人は笑い合った。
ノエルは、もうパパに振り向いてもらうために『すごい知識』を探す必要はない。
お絵描きとおやつ、そして大切な家族と友達がいるだけで、充分幸せなのだと知ったから。
今日も、ノエルはルカとお空の絵を描いている。
パパは相変わらず世界征服を唱えているが、その声は以前よりずっと小さく、優しい。
――魔王の娘に転生したけど、パパが世界征服しろってうるさいんです!
(それでも、わたしは世界征服より、パパのいる今が一番いいのですっ!)
完
最後まで読んでいただいた方
ありがとうございました!
その後談を書くかもしれませんし
書かないかもしれません。
1話から読んでくださっていた方、読みづらいストーリーで申し訳ありません
と同時に、ありがとうございました!




