47話(目覚め)
昼寝から目覚めた元美優で今のステーシアが
『あら、わたくし疲れていたのね。珍しくお昼寝をしてしまったわ』
と独り言を言ってから、先ほどまで見ていた夢について考えていた。あれは夢かしら? それにしてはとても現実めいていたわ。もしかしたら、こちらの世界に来た経緯を神様が教えてくれたのかもしれないわね。
だとしたら、わたくしの前の世界にいた人たちは皆幸せだったから、わたくしは安心してこちらでの生活が送れる。
それにしてもお兄様がわたくし、いいえ、ステーシアと幸せになったのが本当なら、驚きはしたけれど心から祝福したいと思った。だってあの堅物のお兄様だもの結婚できるかさえ心配だったのだから。
だけど中身はステーシア、でも身体は元のわたくしだと思うと少し複雑だけど、今はその事は考えないことにしましょう。
それにお父様もお母様も、わたくしが生きていたので悲しんでいなくて本当に良かったわ。
あれは夢ではあったけれど、きっと現実だと何故か確信が持てた。だからわたくしは心おきなくこちらの世界で幸せになろうと思えた。誰に言っても信じてはもらえないでしょうが、わたくしだけが分かっていればそれでいい。
『さあ、明日からまた私は皆の幸せのためにも頑張って生きていくわよ』
と気合がはいった。
『あー、よく寝たわ。でもずっと夢を見ていたわね』
と独り言を言った。そしてその割には頭の中はすっきりとしていた。そしてその夢があまりにも現実的で、元ステーシアは、あれはきっとこちらの世界に来た経緯を神様が教えてくださったのだと何故か確信していた。
だとしたらアンが幸せに暮らしていると聞いて、とても安心した。
私だけが幸せになることに、いつも罪悪感を感じていたので、肩の荷が下りた気がした。これからはこちらの世界で幸せに生きていこうと心から思えた。
私はこちらの世界に来れたことを心から感謝していた。だから神様、ありがとうございますと伝えたかった。神様はこれを必然と仰ってくださった。なら私はこの世界で精一杯生きていこうと心に誓った。
こうして二人はそれぞれ幸せを掴み、前の世界に未練を残すことなく未来を見つめて生きて行くことが叶った。
そして愛することを知った二人はとても強かった。
それからおおよそ十年が経った頃、美優の世界とステーシアの世界に大きな変革が起きていた。
元美優で現在のステーシアの世界は、近隣諸国同士の戦争により大きな打撃を受けていた。尤もその事は、前の世界で学んでいたのでこちらの世界のステーシアは知っていた。しかし、それを止めるような行動や、他の誰かに話すことは歴史の改変に繋がってしまうので決してしてはならないことと認識していたし、それは神に対する冒涜だと理解していた。だからせめて、そんな時が来た時に少しでも助けになるようにと
『万が一に備えて国は自給自足を目指すべきです』と言い続け、輸入に頼らず出来る限り自国で賄えるよう陛下と殿下にお願いをしていた。
そしてわたくしの言葉を信じて陛下も殿下も国民生活が輸入に頼らず自国で賄えるよう、動いてくれた。
幸いこの国は戦争中立国なので、領土が直接、戦火に見舞われることはないが、それでも周りの国々が戦争をしているのだから無傷というわけにはいかない。
経済や日々の生活はそれなりの影響は受ける。しかし、この日に備えてきたので何とか乗り切ることが出来た。
皆はわたくしのことを千里眼の持ち主だと崇めてくれたが、わたくしはただ単に前の世界で学んでいたに過ぎない。しかし、それを口にすることは出来ないので、陛下や殿下の成果だと称える側に回った。それに、わたくしのお願いした事を実行に移してくれたのも、やはりお二人なのだから当然といえば当然だった。
お二人にはとても感謝されたが、これも偏にわたくしを信じてくださったお二人のおかげだとわたくしは思っている。色々と大変なことも沢山あったが、今わたくしは三人の子供たちに恵まれて、殿下と共に幸せな日々を送っている。今更ながら、やはりわたくしがこちらの世界に来たことは必然だったと思えた。
元ステーシアで現在の美優の世界は、かつて類を見ないほどの大きな地震に見舞われた。しかし、この国は普段からこんな日に備えて耐震に力を注いでいた甲斐があり、ほとんどの建物は倒壊を免れることが出来た。勿論かなりの打撃は受け、一時は経済も止まってしまったが、この国の国民性も相まって早い段階で持ち直していった。一馬が継いだ朝倉財閥も一時期かなりの打撃を受けたが、幸い海外との取引がそれをカバーしてくれた。
こうして、元ステーシアで現在の美優もまた三人の子供たちに恵まれて、幸せな家庭を築いていた。
一馬は美優に
「君が側にいてくれたからこそ乗り切ることが出来たんだよ」
と言ってくれた。この時、美優は魂が入れ替わったことを必然だと感じずにはいられなかった。
《天から二人を見ていた神様は満足気に『ほら、わしの言った通りこれはわしの手違いではなく必然だっただろう?』と一人言を言っていた》
完




