46話(魂の交信)
二人の魂が本人たちとは違う身体に入ってしまってから、その二人が幸せを掴むまで思った以上の月日が掛かってしまったが、今こうして無事に二人の幸せが確認できて神様はホッとしていた。
これで漸く二人が交信できることになったのだが、二人の世界には時差がある。片方が夜でも、もう片方は昼間である。この交信は二人が寝ている時にしか行えない。
さあ、困った。どちらかと言えば美優こと元ステーシアの方が昼寝の確率が高いと神様は思った。しかし、普段は大学があるので週末しかチャンスは無い。よし、今週にでも試してみるかと意気込んだ。しかし、今週は一馬と過ごしているので昼寝をしそうもなかったので、また次の週に試すことにした。すると珍しいことにステーシアこと元美優の方が仕事の合間にうとうとしだした。これはチャンスと思い、神様は美優こと元ステーシアが夜中にしっかりと寝ついたことを確認した。
さて、始めるか。神様はまず二人にあの日、魂が入れ替わる瞬間を夢の中で見せた。そして二人に語りかけた。
「二人共起きなさい」
と。
すると二人は夢の中で目を覚ました。
「んー、ここはどこかしら?」
と、ステーシアになった美優が目覚める。
「あら、ここは?」
と、美優になったステーシアも目覚めた。
神様は二人に語りかけるように今までのことを打ち明けた。初めは二人とも、恐る恐る神様に質問をしながら確かめていたが、そのうち段々慣れてきて、まず元ステーシアが
「アンはどうしていますか? 継母に酷いことはされてませんか?」
と聞くと、神様ではなく元美優が
「アンは幸せにしています。この前は一緒に船で隣国に行き、わたくしの仕事の手伝いをしてくれたんですよ」
と答えた。そして続けて
「継母にはきっちりと仕返しをしておきました。伯父様に多額のお金を請求してもらい、陛下には王宮への出入りを禁じられ、今では貴族の面目丸つぶれといったところですわ。それからわたくしとアンは今、伯父様と伯母様のいる侯爵邸に住んでいます」
と聞いて
「そんな奇跡のようなことが起こるんですね。きっとこれは美優さんのお力なんでしょうね」
と元ステーシアは喜んでいた。
すると今度は元美優が
「わたくしのお父様とお母様はどうしてますか? あとお兄様はお元気ですか?」
と質問された元ステーシアは
「お父様もお母様もお元気です。
それから私はお兄様である一馬さんと結婚することになりました」
と告げると元美優は
「えー、お兄様と結婚ですか?」
と驚きステーシアに尋ねると
「はい、私はお兄様である一馬さんを愛しています。お兄様も私を愛し、必要としてくれていますし、お父様とお母様も喜んでくれました」
と答えると元美優は
「それはとても驚きましたわ。わたくしはお兄様を本当の血の繋がった兄以外に感じたことはありませんでしたから」
と言ってから
「それは多分貴女だからこそお兄様は愛されたに違いないわ」
と言って
「今、貴女は幸せなんですね?」
と尋ねられ、元ステーシアは
「はい、今私はとても幸せです」
と返した。
そしてまたステーシアが
「貴女は幸せなのですか?」
と尋ねると元美優は
「ええ、わたくしも愛する方が出来て、今はとても充実していてとても幸せです」
と答えると
「お相手は従兄のジャン様ですか?」
と尋ねられ
「いいえ、王弟殿下です」
と答えると元ステーシアはとても驚き
「凄いですね、美優さんだからこそお知り合いになれたのですね」
と返した。そして今度は元美優が
「そういえば大和さんはどうしましたか?」
と聞くと
「大和さんはお元気です」
と答えたが、美優はそれ以上は尋ねなかった。
そんな二人の会話を聞きながら神様は
「ここで二人に聞きたいのだが、今、二人が望めば二人の魂を元に戻すことができるのだが、二人はそれを望むのか?」
と聞くと二人は同時に
「いいえ、望みません」
と答えた。
この時神様は思った。この度のことは偶然の神様の手違いではなく、二人にとっての必然だったのだと。
すると元美優が神様に意地悪な質問をした。
「神様、もしもわたくしたちのどちらかが元の自分に戻りたいと言って、もう一人が戻りたくないと言ったら、神様はどうしたのですか?」
と。すると神様は苦し紛れのように
「そうならぬよう、私なりに見守り、僅かだが二人には各々の世界で不便がないよう計らったつもりじゃが」
と返した。すると二人は笑いながら口を揃えて
「ありがとうございます」
と答えた。その言葉に満足した神様は
「それではこのままということで良いのじゃな」
と言って、天に上がって行った。それを二人は見上げながら手を振った。それから二人は
「お互い幸せになりましょうね」
と握手をして別れようとしたところで
「もう夢の中でこうして会うことは出来ないのかしらね」
と言いながら笑顔で別れた。
こうしてそれぞれまた眠りについた。それを神様は上から見届けて
「これでやっと役目は果たしたぞ」
とホッとしていた。




