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財閥令嬢と伯爵令嬢の魂の入れ替わり  作者: ヴァンドール


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32/47

32話(注目の舞踏会)

 王宮を後にしてから、わたくしは次回の舞踏会に間に合わせるため、薄いゴムシートをたくさん確保するようにカンパニーの方にお願いをした。そしてその社交界で、給仕の方のスムーズな給仕ぶりと、このゴムシートを目にした他の貴族たちの反応を見たかった。

 殿下が仰った通り、確かに貴族たちが使っている食器類も高価なはずだから、一度購入すればかなり長く使用できるこのゴムシートを使い、食器を割る回数を減らすことができた方がメリットがある。

 わたくしは気合を入れて、

「さあ、今度も頑張るわよ」

 と心の中で思っていた。


 それから少ししてから、たくさんのゴムシートが届いた。わたくしは殿下に許可を取っていたので、それを馬車に積んでカンパニーの職人とともに王宮の給仕室へと向かった。そして給仕の方から銀製のトレーを受け取り、連れてきた職人に一枚一枚貼ってもらった。

 それから待つこと一時間。全てのトレーに貼り終えたゴムシートの付いたトレーを、給仕の方々に使ってもらった。すると皆が口々に

「おお、これは良い。背の高いフルートグラスもこれなら安心してスムーズに運べるぞ」

 と言ってくれた。そして他の給仕の方たちも皆、口を揃えて同じような反応を示してくれた。すると、ちょうどそこへ殿下が顔を出された。当然、皆が急に緊張してしまわれたので、わたくしは

「こちらは殿下がいらっしゃるところではありません」

 と申し上げると

「いや、どんな出来栄えかと気になったものでな。すまん」

 と言われたので、わたくしは給仕の方に

「先程の感想を、是非、殿下にもお聞かせください」

 とお願いをした。すると、皆が口々に先程の会話を伝えてくれた。それを聞かれた殿下は、とても満足そうに

「それは良かった」

 と、とても嬉しそうだった。そんな様子を見ていたわたくしは思わず

『殿下ってこんな表情もなさるのね。なんだか可愛らしいわ』

 と失礼ながら思ってしまった。

 その後、殿下は

「せっかく来たのだから、少しお茶でも付き合ってくれないか」

 と言われたので、わたくしは

「では少しだけ」

 と言って、後をついて行くと、そこにはいつから用意されていたのかと思ってしまうほど、色とりどりの美味しそうなお菓子が並んでいた。そして殿下は

「今日はご苦労であったな。それでだが、今度の社交界では私が君のエスコートをしよう」

 と仰った。それを聞いたわたくしは

「なぜ、殿下がわたくしを?」

 と尋ねると

「多くの貴族たちに宣伝しようと思っているのだろう? だったらこの私から頼まれたと言った方が効果があると思わないか?」

 と仰ったので

「確かにそうしていただけるなら大変ありがたいのですが」

 と言うと

「なら決まりだな」

 と仰った。


 そうしてわたくしは、次回の舞踏会に向けて万全の準備をした。


 舞踏会当日、なぜか当たり前のようにわたくしを待っている従兄のお兄様が

「ステーシア、今日も素晴らしく綺麗だ」

 と褒めてくださった。わたくしが

「ありがとうございます、お兄様」

 と言うと

「では今日も私がエスコートをしよう」

 と言われたので、わたくしはお兄様に

「申し訳ございません。本日のエスコートは王宮までとさせていただきます」

 と伝えると

「なぜだ?」

 と不思議そうに言われたので

「今日は殿下が例の滑り止めのついたトレーの宣伝を兼ねて、わたくしのエスコートを買って出てくださったのです」

 と言うと、不機嫌そうに

「何も殿下自ら表に出なくても……」

 と言いかけたら、後ろから伯父様が

「ジャン、大人気ないぞ。仕事なのだから仕方あるまい」

 と言ってくださった。そうしてわたくしたちは王宮へと向かうと、馬車乗り場には、既に殿下が待っていてくださり、お兄様に

「ここからは私が変わろう」

 とわたくしの手を取った。するとお兄様は不服そうに、それでも殿下に

「ではよろしくお願いします」

 と言ってくださった。後ろで見ていた伯父様は、それを苦笑いしながら見送ってくださった。

 その後、殿下とともに会場に入ると、皆様からの注目を一身に浴びた。

 何やら周りからは『何であの方が殿下とご一緒なのかしら』とか

『殿下も殿下ですわ』などなど、あまり歓迎されてない会話が耳に入る。だけど一部の紳士たちからは『何とお似合いなのだ』という声も僅かだが聞こえた。それを気づかぬふりをして、わたくしたちは給仕に飲み物を頼むと、すぐに二人分の飲み物を持ってきてくれた。すると殿下は大袈裟に

「このトレーの使い心地はどうだ?」

 と給仕の方に問われると、給仕の方は

「大変使いやすく、安心して皆様にお出しできます。これを導入された殿下には皆、感謝いたしております」

 と、まるで《殿下の回し者?》と思ってしまうほど完璧に答えた。すると周囲の貴族たちが集まり

「殿下が導入したとはどういうことだ」

 と聞かれたので、わたくしが説明をさせていただいた。

「こちらの商品は天然のゴムから出来ておりまして、それを高い技術によって薄く伸ばしてから、トレーに貼り付けています」

 と言って、近くの給仕の方からトレーを受け取り、皆に見えるようにしてから

「このシートには吸着性と弾力性があり、フルートグラスのような比較的不安定なグラスも安心して運べるのです」

 と紹介した。すると周囲の貴族たちは皆

「確かにこれなら落として割る確率もかなり低くなるな」

 と感心なさっていた。そこでわたくしは

「もし必要な方がいらっしゃるなら、是非わたくしがご紹介させていただきますわ」

 と言うと、我先にと声をかけられた。わたくしは簡単にメモを取り

「後ほど商会の者を向かわせます」

 と約束を取り付けた。

 ひと通り目的を無事果たしたわたくしは殿下に

「本日はありがとうございました。お陰で大変助かりました」

 とお礼を申し上げると

「君の役に立てて嬉しいよ」

 と言ってくださり

「それでは、後はこの舞踏会を楽しむとしよう」

 と仰ってから、わたくしの手を取り急にダンスを踊り出した。

 わたくしはダンスについていくのに必死だったので気づけなかったが、後からお兄様に『かなり目立っていたぞ』と聞かされた。


 そういえば今日の社交界にはいつも嫌味を言っくる殿下の姪のルミーナ様がいらしていなかったわね。とふと気になったがその時はすぐに忘れてしまった。

 この時のわたくしは、後々そのルミーナ様が次の新商品に繋がることとは夢にも思いもせずに。


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