26話(殿下の想い)
その後、無事に帰国したわたくしたちは陛下と王妃様に全てのご報告を申し伝えた。
殿下は、わたくしのしたことを事細かに説明しながら終始褒め称えてくださり、聞いていたわたくしは
「殿下、少し大袈裟すぎます」
と言うと、殿下は
「大袈裟なものか、流暢な発音でおまけに侍女にまであちらの言葉で説明をさせて完璧だったぞ」
と言われたので
「そこは一生懸命勉強してくれたアンを褒めてくださいまし」
と言わせてもらった。すると殿下は
「勿論そのつもりだが、君がその場で思いついた棚の件だって大したものだったぞ」
と仰ると、陛下は
「棚の件とは何のことだ?」
とお聞きになられたので、殿下がこれまた丁寧に説明し始めた。
そして説明が終わると陛下は
「それはすごい。なかなか思いつくものではないぞ」
と仰った。そして感心なさった陛下と王妃様は
「本当にこの度はよくやってくれた。それなりの褒美をとらそう」
と仰って、何か好きな物を考えておくようにと言って下さった。
わたくしはお二人に
「身に余るお言葉、ありがとうございます」
と申し上げてから、少々疲れも残っていたので、本日はこれでその場を後にすることにした。
そして殿下はいつものように馬車まで送ってくださり
「また改めて会おう。長旅だったからな、疲れも残っているだろうから暫くはゆっくりするといい」
と仰ってくれた。わたくしは
「殿下こそお疲れではありませんか? ゆっくりなさってください」
と申し上げてから王宮を後にした。
侯爵邸に戻ったわたくしは皆さんから労いの言葉をいただき、少し私室で休ませてもらうことにした。
そんなわたくしの後ろを従兄のお兄様が追ってきて色々と質問してきたが、伯父様と伯母様に
「ジャン、ステーシアは疲れているのだから話なら後になさい」
と、止められていた。わたくしは思わず笑いながら
「お兄様、ではお食事の時にでも」
と言って階段を上がった。そして私室に入るとアンがお茶の用意をしてくれたが、わたくしは
「アンも疲れているのだから今日はもういいわ。ゆっくり休んで」
と言いながら
「王宮ではアンがあちらの言葉で商品の紹介をしてくれたこと褒めていたわ」
と言うと、アンは
「お嬢様に教えていただいた通り説明したまでです」
と言ってくれた。そして
「疲れはしましたが、なかなか出来ない体験でとても楽しかったです」
とも言ってくれた。
そしてわたくしも
「そうね、疲れはしたけどわたくしにとっても充実した日々だったわ」
と答えた。
夜になりお夕食の時間がきて下に降りると、待っていたかのようにお兄様が階下に立っていたのには思わず笑みが出てしまい
「お兄様、待っていてくださったのですか?」
と尋ねると
「随分と暫くだからな」
と言ってくれた。そうして皆さんで楽しい食事をしながら、あちらの国での話に花が咲き、それは夜遅くまで続いた。食事が終わり最後にわたくしは
「さあ、明日からまたバリバリ仕事をするわよ」
と言うと、またしても皆さんが
「本当にあのステーシアなのかしらね」
と相変わらず笑顔で驚いていた。
(王宮にて)
こちらに戻って来てからステーシア嬢の今回の功績を陛下と王妃様に伝えてから、彼女を馬車寄せまで送った後、お二人の元へと戻り、あちらの国での歓迎ぶりをさらに伝えていると
「なんだか今回の旅は仕事とはいえ、随分と楽しそうだったとみえるな」
と言われてしまった。思わず私は
「彼女が普通の令嬢とは違い、探究心が旺盛なので、話をしていて飽きないのです」
と返すと
「ただそれだけかしら? ウェスタント公爵がそれほど女性を褒める姿を初めて見ました」
と王妃様にも言われてしまった。そして
「もしかしてステーシア嬢のことを特別な存在だと思われているのではなくて?」
とも言われ、私は返す言葉がなかった。すると今度は兄でもある陛下が
「だが、ステーシア嬢はそちのことをどう思っているのだ?」
と聞かれたが、相手の気持ちなど知る由もなく
「さあ? 聞いたこともありませんので」
と答えた。そして王妃様はそんなやり取りを少し呆れたように
「ウェスタント公爵ともあろうお方が女性のことで悩むだなんて想像も出来ませんでしたわ」
と笑っていらした。
確かに今までの自分は女性に対して面倒な存在としか思っていなかったので、今回のような感情は初めて感じたものだった。
そんな私に王妃様は
「ウェスタント公爵にもやっと春が訪れたみたいね」
と言うと、今度は陛下が
「まだ相手にされてないのではないのか?」
と手厳しいことを言われた。図星だった私はただ黙ってしまった。確かに彼女を見ていると、あまり男性には興味があるようには感じられない。だが、あの従兄とはどうなのだ? と、ふと社交界でのあの日の二人を思い出し、少し気になっていた。
するとまた王妃様が
「公爵でもやきもちを妬かれることはあるのですか?」
と聞いてきた。なので私は
「それは勿論、私だって人の子ですから」
と返したのだった。
そんな私に陛下はからかうように
「では、健闘を祈る」
と言って、王妃様と微笑んでいた。
私はそんなお二人の気持ちに応えることは出来るのだろうか? と考えながら取り敢えず出来る限りのことはやってみよう。後悔だけはしないようにと気合いを入れた。だが陛下の言う通り
『彼女は、私のことなど眼中に無さそうだし、尤もそれ以前に人を好きになったことはあるのか?』
あの彼女を見ていると仕事以外に興味が無さそうに感じる。
私は大きな溜息をつきながら
『どうやら先は長そうだな』と呟いていた。




