25話(素直になれなくて)
あの後、香苗を送りながら
「今日は何か仕組んだんじゃないのか?」
と問い質すと
「流石は一馬さん、鋭い!」
と言われた。だから私は
「やはりそんなことだろうと思ったよ」
と返した。そして
「何が目的だ?」
と問うと
「決まっているじゃない、美優ちゃんに私は一馬さんのことが好きだと教えたかったの」
と言われた。だから私は
「そんな回りくどい真似することないだろう」
と言い返した。すると香苗は
「だって美優ちゃんが一馬さんを見る目は、以前とは明らかに違うんだもの」
と言った。それが本当ならどんなに嬉しいことかと思いながら
「そんなことあるわけないだろう!」
と言うと
「私には分かるの、女同士だからなおさらね」
と言われた。そして
「一馬さんはどうなの? 私のことはどう思っているのかしら?」
と聞かれ、どう答えたものかと考えたが、やはりここは正直に伝えなくてはと思い
「ごめん、香苗のことは友達以上には思えない」
と答えた。
すると彼女は
「まあ、分かっていたとはいえ、こうもはっきり言われると結構堪えるわね」
と返された私は
「すまない」
と一言だけ口にした。すると彼女に
「謝らないで、さらに傷つくじゃない」
と言われてしまった。
そして彼女は美優のことを以前とは外見は同じでも中身はまるで別人のようだと言った。それは自分も感じていたことだから
「そうだな」
と同調した。すると香苗は
「一馬さんも美優ちゃんを見る目が前とは違うっなって感じる」
と言ってから
「一馬さんは今の美優ちゃんだからこそ好きになったのよね?」
と言われ、私は言葉を発せず、ただ小さく頷いた。すると香苗は
「美優ちゃんという存在が無くても私のことは友達以上には思えないということかしら?」
と聞かれたので
「初めからそれは変わらない」
と答えた。
すると
「だったら諦めもつくわ。それだったらもう私がこの国にいる理由もなくなってしまったわね」
と言ってから
「私はそろそろ両親のいる国にでも帰ろうかしら」
と言った。
私はもう謝ることはしなかった。
その後、香苗は一人でこの国を後にした。
私はしばらく美優への連絡はしなかった。なんとなくそうすることが、香苗へのせめてもの償いのような気がしたからだ。もちろん、美優のことが気にならないと言ったら嘘になるのだが。
あの後、お兄様たちと別れてからしばらく何の連絡もなかった。
私は、大和さんから香苗さんが一人で自国に帰ったと聞かされた。
多分、自分の気持ちが通じないと分かったからだと大和さんは言った。それを聞いた私は
「何故そんなこと大和さんに分かるんですか?」
と聞くと
「本人が帰国する前に連絡してきて、一馬さんのことは諦めたと言っていたからな」
と教えてくれた。
それを聞いた私は正直ホッとしていた。そして、そんな私を見て大和さんは
「やはり香苗さんが言っていた通りなのかな」
と言われてしまった。私は思わず
「どうしてそんなことを言うのですか?」
と聞くと
「だって美優、ホッとした表情しているよ」
と言ってから
「一馬さんのことが好きなのか?」
と聞かれた。私は何て答えたらいいのか分からず黙ってしまった。すると
「香苗さんが言っていたことは本当だったんだな」
とポツリと言われてしまった。
そんな大和さんに掛ける言葉が見つからず、また黙ったままやり過ごしてしまった。すると大和さんは
「それが答えなんだな」
と一人納得していた。そしてそれ以上は何も言わずに去っていった。後に残った私は
『ごめんなさい』
と心の中で謝ることしかできなかった。
そして大和さんとは気まずい雰囲気になってしまったので、その後は避けるように過ごしていたがある日、ばったり会ってしまった。
「久しぶり、元気そうだな」
と声をかけられて、私はまたも、返す言葉が見つからずにいると
「美優、僕らは幼馴染みなんだから、こらからはせめて普通の友達として接して欲しい」
と言ってくれた。私は謝るのは何か違う気がしたので
「分かりました。ではそうさせていただきます」
と返した。すると
「少し硬いけどそれでいいよ」
と言ってから
「一馬さんとは会っているのか?」
と聞かれたので、正直に
「あの日以来一度も会っていません」
と返した。すると
「え? 本当にあの日以来会ってないのか?」
と聞かれたので
「だからそう言ってるでしょ」
と少しキツイ言い方をしてしまった。すると
「そうなのか」
と言って、何か考えながら
「じゃあまたな」
と言ってどこかへ行ってしまった。
そして、それから少ししてからお兄様から連絡があった。
もしかしたら大和さんが何か言ってくれたのかもしれないと思った。だから、なおさら素直になれなかった。
ずいぶんと久しぶりの連絡だったのにお兄様はいつも変わらない感じで
「美優、食事でも行かないか?」
と軽く声を掛けてきた。それがなんだか妙に腹立たしく感じてしまい
「今、色々忙しいので」
と断ってしまった。そんな私にお兄様は
「分かった、では美優の都合のいい時に連絡してくれ」
と言って電話は切れてしまった。私は後悔しながら、またも素直になれない自分が嫌で『どうして私はいつもこうなの?』と呟いていた。そしていつの間にか涙が頬を伝わっていた。これではまるで、あの日と一緒だわ。本当に私はなんの進歩もないのねと自分で自分が嫌になっていた。




