24話(四人の食事会)
私はお兄様に会い、自分の素直な気持ちを伝える決心をした。
だけど、お兄様の中では、いくら血のつながりがないといっても私のことはずっと本当の妹のように思い接してきたのなら、私が気持ちを打ち明けることによって今の関係は終わりを迎えてしまう。それはとても怖いことだけど、いつまでも今の気持ちのままいるよりは楽になれる。だから私に迷いはない。ないはずなのに、いざとなると躊躇してしまう。そんな想いを抱えたまま、行動に移せないでいた。
ある日の休みの朝、大和さんから連絡がきた。なんでも先日私を寮に訪ねて来た香苗さんが、大和さんに連絡をしてきて、一馬さんと美優さんも誘って四人で久しぶりに食事でもどうかという話だった。
私は大和さんに
「大和さんと香苗さんは連絡取り合うほど親しかったんですか?」
と尋ねた。すると
「というより美優も香苗さんの連絡先、携帯に入っているはずだよ。確認してごらん?」
と言われ、確認すると確かに香苗さんという名を見つけた。すると大和さんは
「美優は香苗さんのこと覚えていないようだけど、実は僕たちと一馬さんと四人でこちらの国に来る前に、三回ほど一緒に食事をしているんだよ」
と言い
「その時にお互いの連絡先を交換し合ったんだ」
と付け加えた。それを聞いて私は納得したが、だったら何故先日連絡もしないで直接私の寮を訪ねてきたのかしら? と思ったが
『私が記憶を無くしていて電話ではわからないと思ったからなのかしら』と考えた。
だけど、それよりどうしても気になっていたことを聞いてみた。
「お兄様は香苗さんという方とお付き合いなさっているのですか?」
と尋ねると、大和さんは
「付き合ってはいないはずだ。ただ香苗さんは一馬さんに好意を持っているのは間違いないと思う」
と言うので
「それはこの間、香苗さんが寮に訪ねて来た時に私も感じました」
と返した。そして大和さんは
「一馬さんがこっちの会社を手伝うと決まってから、香苗さんも自分の両親に頼んでこっちに来たらしい」
と教えてくれた。それを聞き、なんだかモヤモヤする気持ちを隠しながら
「大和さんはなんて返事をしたんですか?」
と聞くと
「いや、僕は美優に聞いてからにしようと思っていたから、まだ返事はしていない」
と言った。私はお兄様が香苗さんと二人だけでお食事に行かれるのは嫌だったので
「では私たちもご一緒しましょう」
と大和さんに言うと
「美優がそういうなら返事を返しておく」
と言った。
それから数日後、大和さんが
「香苗さんから連絡がきて、明後日はどうかと言われたけど美優は大丈夫か?」
と聞かれたので私は
「特に用事もありませんから大丈夫です」
と答えると大和さんは
「だったら今連絡しておく」
と言った。
そして四人で食事をすることになった当日、私と大和さんは二人で予約をしてあるという店に入ると既に香苗さんは着いていて、私たちは香苗さんに挨拶をしてから席についた。そして私が
「お兄様はまだなのですか?」
と香苗さんに尋ねると
「ごめんなさい。一馬さんには三十分時間をずらして伝えてあるの」
と言われた。私と大和さんは顔を見合わせて
「どうしてですか?」
と尋ねると、香苗さんは
「二人にお願いがあって先に来てもらったの」
と言ってから
「実は私と一馬さんのことを応援して欲しくて、二人に協力してもらえたらと思ったの」
と言われた。すると大和さんは
「僕たちは何をすればいいんですか?」
と聞いた。すると香苗さんは
「二人は私のことを応援していると一馬さんに言ってくれるだけでいいの」
と答えた。なんだかそれはただ単に私にわからせる為に言っているようにも聞こえた。勿論私の考え過ぎなのかもしれない。だけど私は
「それはお二人の問題で私たちは関係ありませんから」
と言ってしまった。私は心の中で『どうして私が応援しなくてはならないのよ』と思っていた。
すると香苗さんは私に
「美優ちゃんの言うことだったら一馬さんはなんだって聞くじゃない」
と言われたので
「そんなことはありません。お兄様はいつだってご自分の意思で動く方です」
ときつい言い方をしてしまった。そして、そんなやり取りをしているところにちょうどお兄様が入って来られて
「あれ? 少し早く来たつもりだったけど、三人ともずいぶん早いな」
と言いながら席についた。
私たちはなんとなく気まずい雰囲気になっていた。それを察したようにお兄様は
「さあ、食事にしよう」
と言ってお店の方を呼び、食事の提供をお願いした。そして程なくしてお料理が運ばれてくると私たちは何もなかったように普段の会話を心がけながら食事をした。
香苗さんはなんだかやけにお兄様に馴れ馴れしく接していた。
それに私は気づかぬふりをしながら懸命に自分の気持ちを隠して食事をしていたが、正直少しも楽しくなかった。
そんな私にお兄様がとても気を遣ってくれるのが分かったが、素直になれない私がそこにはいた。
こうしてギクシャクしたままの食事会は終わり、解散することになったが、香苗さんはお兄様に
「もう遅いので一馬さん、送ってくださる?」
と言っている。それを横目で見ながら私は
「大和さん、私たちも帰りましょう」
と言って腕を引っ張った。すると大和さんは
「では一馬さん今日はご馳走様でした。美優は僕が送りますからご心配なく」
と言って二人で店を出た。それを複雑そうな顔で見ていたお兄様。そのお兄様の腕を取って香苗さんは踵を返した。思わず私は『今日はいったい何だったのかしら?』と呟きながら、もう二度と香苗さんに誘われても断ると決めていた。




