21話(騒つく心)
寮に戻りその後は自己嫌悪に陥りながら眠ってしまった。
朝起きて昨日のことを悔やみながら大学へ行くとすぐ後ろから声を掛けられた。
「美優、おはよう」
「あ、大和さんおはようございます」
「寝不足なのか? 目が腫れぼったいぞ」
「昨夜は遅くまで本を読んでしまって」
と嘘をついてしまった。大和さんには
「美優は昔からのめり込むと周りが見えないタイプだからな、程々にな」
と言われ思わず『私と美優さんの共通点発見』と心の中で思った。そして大和さんは
「よかったら今日のランチ一緒にしないか?」
と聞かれたので
「ではお昼にカフェテリアで」
と返した。
そうしてお昼になりカフェテリアへ行くと大和さんは既に着いていて
「何食べる?」
と聞かれたので
「大和さんと同じ物で」
と答えると
「待っててすぐ持ってくるから」
と言って、席を立った。しばらく待っていると両手に沢山の昼食を抱えた大和さんが戻って来た。
「適当に美優の好きそうな物持ってきた」
と言い、手渡された。それを見ると昨夜のレストランでお兄様が選んで下さったメニューと似たような種類の物ばかりで驚いた。思わず『美優さんが好きだった物なのね。美優さんはとても幸せな方だわ』と羨ましく思った。
私は大和さんに昨夜お兄様から聞いた大学二年目からの住まいについて聞くと当たり前のように
「僕は実家が所有する物件がすぐ近くにあるから、そこから通うが尤もその物件があるからこちらの大学を受けたのだが」
と言い
「美優だって一馬さんの住まいから通えば近いからとこの大学を受けたんだぞ」
と言われ
「そうだったんですか」
と答えると
「嫌だな、だからお互いこの大学だったら安心だということになって決めたのに」
と言われた。私は思った『お兄様は決まっていたことなのに私があんな風に言ったから私にも選択肢をくれたんだわ』と。やはりお兄様は優しい。そんなお兄様にどんどん惹かれていくのが分かる。
そしてその後に続いた会話の中で、私にとって天地がひっくり返る様な事実を知ることになった。突然、それも大和さんが発した一言によって。
大和さんは私に
「でも焼けちゃうな、美優と一緒に住むなんて。兄妹といっても血の繋がっていない兄妹なのだから」
と。それを聞いた私は
「お兄様と私が血が繋がっていないとはどういうことなんですか?」
とかなり強い口調で聞いてしまった。すると凄く驚いた表情で
「美優、それも忘れたままだったのか?」
と聞かれた私は
「だから詳しく説明して下さい!」
とまた強く言ってしまった。
それから私は大和さんから長い説明を受けた。その内容は私にとってあまりに衝撃的で頭の中が一瞬真っ白になった。
聞かされた内容はお兄様にとってはあまりに理不尽な話だし、そしてお父様とお母様にとっても辛く、悲しい出来事だった。
たった一日を境に全てが変わってしまったのだから。
お兄様はご両親を同時に亡くされ、たった一人になってしまった。どれだけ辛い思いをしたかなんで想像すら出来ない。子供心にどれだけの傷を残してしまったのだろうか。それなのにいけないと分かってはいても私の心の中は喜びさえ感じてしまっていた。
諦めていたことが、もしかしたら叶う可能性があるのかもしれないと。そして物理的に無理だと諦めていたことがこれで解消されたのだと。
あくまでも独りよがりなのは分かっている。だけど今までは同じスタートラインにさえ立てなかったことがとりあえずはスタートラインに立つことは出来る。
私の想いが叶わないとしても気持ちを伝えることさえ許されるならそれだけで嬉しかった。
だってあのままだったら気持ちの整理ができないままだったから。だけど今はたとえ駄目でも諦めるという区切りはつけられるのだから。
そしてそんな私を大和さんは不思議そうに見ながら
「美優、目覚めてからずっと本当の兄妹だと思っていたのか」
とポツリと言った。それを聞いて私は大きく頷いていた。すると今度は
「なんだ、そうか余計な心配していたよ。美優は実の兄妹だと思って接していたのか」
と言われ、とても申し訳ない気持ちになった。その上、大和さんは
「美優が目覚めてからなんとなく一馬さんと美優の関係が前と違ったように感じて少し心配した」
と付け加えられ、またしても罪悪感に捉われてしまった。それでもその時の私はそれを誤魔化してしまった。
その後、私達はそれぞれの授業に戻っていった。
私は授業も全く頭に入らずただお兄様のことだけを考えていた。
いつ、この気持ちを伝えたらいいのかと。そして私の気持ちを知った時のお兄様の反応を考えると怖かったがそれでもまだ伝えることが許される嬉しさの方が勝っていた。
その時私は考えていた。私の気持ちを伝えて駄目だったならその時は潔く諦め、お父様とお母様に打ち明け、来年からは大学の近くに部屋を借りようと。
そしてその時には大和さんにもきちんと気持ちを伝えなければと。
お兄様とのことが駄目でもやはり大和さんのことは友達以上には思えないのだから。
それにしても鈴さんたら、こんな大事なお話を私に話し忘れるだなんて、もしあの日の説明で聞かされていたらこれほど悩むことはなかったのにと少し腹立たしく思ってしまった。尤も大和さんでさえ私が覚えていなかったことを驚いていたのだから仕方ないのかもしれない。
そう思い直してあの優しい鈴さんを恨むことはやめた。
こうして私はお兄様に気持ちを伝える機会を考えていた。




