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4:バグは活用してこそ



(……結局一週間ぐらいだらだらしちゃいましたね。うん。)



で、でもちゃんと今日は外に出ましたし!


その間準備してましたし!


毎日6時間ぐらいごろごろしてましたけど、ちゃんと誰にも見つからずに出発できた時点でチャラです!


そう自分に言い聞かせながら、ゆっくりと森の中を進んでいきます。面倒になって休んじゃいましたが、今日こそレベリングを実行するのです!



(とと、ちゃんと魔物避けの香は絶やさないようにしませんと。)



そんなことを考えながら、腰から下げている金属の箱の中に追加のお香を放り込んでおきます。


人にとっては無臭ですが、魔物にとっては近づきたくない匂いの奴です。ちょっと高価な品物なので村人は持っておらず、村長であるパパですら普段使いしたくないと言っていましたが……、ちょっとだけ内緒で貰ってきちゃいました。


だってコレないと意図しないタイミングで接敵して死にますもん。大事大事。



(溺愛してもらってますが、バレたらかなり怒られそう……。)



ま、まぁ今はバレてないのです。気にせず目的地に向かうことにしましょう。


今回の標的は、お香を使っていることからご理解いただけるように、魔物ではなく盗賊になります。


当初は盗賊よりも弱い魔物を狙う予定だったのですが、偶々村の広場で日向ぼっこしている時。近所のおばさまたちが『最近盗賊が近くに住みついたらしい』という井戸端会議を行っていたのです。それを聞いて標的を変えた形になります。確かに魔物より強敵ではありますが、その分手に入れられる経験値は多いのです。


だったらもう狙うしかないでしょう?


それに、盗賊を相手にする場合。獣に近くすぐ襲い掛かって来る魔物と違い、“私の背後”を気にかけてくれる可能性が高いのです。利用しない手はありません。



(盗賊もおバカじゃないですからねぇ。)



盗賊と聞くとよくやられ役、雑魚のイメージがありますが、私達ただの村人からすれば決して無視できない脅威です。


この世界の住人は自身のステータスを見ることは出来ませんが、何かを殺すと経験値が溜まり強くなることは皆が理解しています。森という危険な地域に居を構え生存している盗賊たちであれば、これまで多くの人や魔物を狩り、強くなっていることでしょう。


確かにパパの村には防壁も人数もあるので、その二つがそろえば負けることはないでしょうが……。それは盗賊側も、理解しているはず。



(だからこそ、“内通者”を探しているはずです。)



どんなに強い存在でも、人であるならば安全な寝床と安定した食料を欲します。


パパの村にそれがある以上、彼らにとってあの場所はは喉から手が出るほどに欲しい土地でしょう。しかし村を手に入れることを考えれば、邪魔になって来るのがあの防壁です。丸太を立てて囲った簡易なものですが高さがありそこから投石や矢を喰らえばいくら彼らであってもダメージは避けられません。


しかしそれさえなくなってしまえば……。簡単に奪えてしまう。



(定石なら、村の誰かに利益をちらつかせて離反させるのでしょうが……。そこに私が現れれば、話が変わります。)



何せこの見た目は、とーっても簡単に騙せそうな幼女なんですもの。


もし彼らの拠店近くにフラフラと幼女が寄って来るのを見れば、この地域にパパの村以外存在しないことから、村の出身であると考えるはず。そして聡いものがいれば、私を使って村の中に案内してもらおうと考えるはずです。


何せ私の見た目は騙しやすそうで弱々しい子供。『実はおじさんたち困ってるんだ、大人たちには内緒で村に案内してくれない?』とでも言いながら近づいてもいいですし、首根っこつかんで脅迫してもいい。とっても彼らにとって都合のいい存在です。


無論、私の想定通りにいかない可能性もありますが……。



(ま、その時はその時です。)



そんなことを考えながらテクテクと歩いて行くと、ようやく彼らの拠点が見えてきました。


崖の下を拠点とすることで背後からの攻撃を無くし、内部にあるいくつかのテントを囲う様に設置された簡易な木の柵たち。そして周囲を警戒する盗賊。万全とは言いませんが、ある程度ちゃんとした集団のようです。……思ってたよりも人数が多いですね。これ。見張りだけで6人いますし、10人以上の規模になってそう。



(パパの部屋にあった森の地図、そこから盗賊が集まってそうな場所を選んで近寄ってみましたが……。これ、ビンゴって喜んでいいんですかね?)



ちょっと敵の数が多くてパパの村大丈夫かなという不安がありますが……。すぐに思考を打ち切ります。


結局のところ、彼らが村に攻め込んだ瞬間。私のお昼寝を邪魔する敵になります。未来の私の為に頑張るとは決めましたが、今の私が全くのんびりできないのは絶対に嫌です。そんな私の大切なお昼寝タイムを邪魔しようというのなら……。もう許してはおけません。労働同様、私が倒すべき敵です。


どっちみち最初から経験値になってもらう予定でしたし、彼らがいなくなればパパも喜んでくれるでしょう。つまり私が全部倒しちゃえば問題ないのです。


今日は“作戦”的に1人だけ引っ張っていく予定でしたので、当分残りの人たちは放置することになりますが……。



(最終的に消せば問題なし。)



とと、早速行動に移すとしましょう。


物陰に隠れながら、ちょっと小石を拾い拾い。一番近くにいた見張りの門番さんに向かって投げつけます。



「あだっ!?」



うんうん、ナイスピッチング私。んじゃお顔に手を当てましてぇ。



「あっかんべー!」


「てめぇッ!?」


「あはは、おこったー!」



そう言いながら、全速力で“指定の場所”に向かって走り始めます。


正直こういった行為はあまり好きじゃないのですが……、とても分かりやすい挑発行為です。良い感じに怒ってくれましたし、少し後ろに視線を送ってみれば、案の定小石をぶつけた彼だけが走って来てくれています。足音的にも彼だけですし、予定通り一人だけを釣ることが出来たみたいです。


ま、子供。それも幼女がちょっかいかけて来たとして、大の大人が徒党を組んで追って来ることはそうないですからねぇ。



(しかも、盗賊となれば仲間内の結束もそう高くないはず。というかちょっと笑い声のようなものが聞こえてきましたし、子供に煽られてキレた仲間を笑い者にしているのでしょう。)



そんなことを考えながら走っていると、どうしても息が上がっていきます。そして歩幅の問題もあり、近づいてくる足音。ステータス的に考えても、追いつかれるのは時間の問題でしょう。ということで……、唱えますは前世の言葉。



「『アイテム』、『うしのふん』。えい!」



私の手の上に出現する、熱気を保った牛のアレ。


村の子が生み出した奴をアイテムとして回収したものになります。ちょっと素手で触っちゃってるので不快感しかありませんが……。それを払うように、すぐ後ろに投げつけます。



「はッ!? あ!? がッ!? てめッ! このガキぃぃぃ!!!!!」


「あは! おじさんうんち塗れ! あははー!!!」



クソガキをイメージしながら、彼の理性が怒りで吹き飛ぶような言葉を発し再度逃げ始めます。


同時に彼が踏み出す瞬間にもふんを設置。足を滑らせるようにしておけば、背後から聞こえてくる全身を打ち付ける音。色々とみじめでちょっと申し訳なさも感じますが、私のお昼寝を妨害する賊に掛ける慈悲など必要ありません。


とまぁそんなことを繰り返しながら走ってみれば……。



(ついたっ! 『放棄された墓地』!)



村はずれに存在する、原作において戦闘イベントが存在する場所。


本来、ゲームでは主人公が王都でとあるイベントを発生させるまでは何も起きないここは、『天アバ』のとあるプレイヤーたちにとってご用達とも呼べるような所。この世界に住む『私達』、村人からすれば防壁の外にあるせいか人が寄り付かなくなった墓場なんだけど……。


ここには重大なバグが隠れている。



「おじさ~ん、こっちこっち~! 足おそ~い!」


「ッッッ!!!!!」



怒りでもう声が出なくなっている彼を、指定の場所に誘い込む。


重要なのはオブジェクトの位置。


そしてこの世界では、タイミングも追加される。



(そのまままっすぐ、まっすぐ! 3、2,1、今!)



彼が所定の位置、墓石がすぐ横にある場所に到達した瞬間。


全力でその体を押し込みます。


怒りのままに走っていたのが悪かったのでしょう、全力とはいえ幼子のタックル。大きな体を持つ彼が冷静に走っていれば回避、もしくは受け流すことが出来たでしょうが……。簡単に彼の身体は傾き、墓石に向かって倒れていきます。


そして本来、その固い石に強く打ち付けられるはずの肉体が……



“すり抜ける”



製作者に莫大な時間と労力を3Dマップとオープンワールド。故に生まれてしまう、ヒューマンエラー。


そう、ここだけ。本来墓石に存在する当たり判定が甘くなっているんですよ。



「なッ! はッ!?」


「いわば『石の中にいる』を確実に引き起こすトラップ、というべきでしょうか。これでもう、一生そこから抜け出せませんね。……今朝試してみるまで実際に出来るか解りませんでしたが、バグって実在するんですねぇ。」



肩から下、顔を地面に向け首だけをこちらに差し出してくれるような恰好の彼に、ゆっくりと言葉を紡いであげます。あぁちなみにですが、既に実験として村にいたネズミちゃんに石の中へと入っていらっしゃいます。彼の先輩さんですね。


良かったね盗賊さん、寂しくないよ!


して、このバグですが……。単に“敵キャラを固定する”だけでは前世のプレイヤー。縛りプレイヤーの諸兄姉は注目しなかったでしょう。


えぇ、その通りです。


今この瞬間から、彼は『敵MOB』と『設置オブジェクト』の両方の側面を持つことになります。



「名前は知りませんけど……、盗賊さん。ちょうどその視線の先に。ねずみの鼻の先端が飛び出て“動いてる”でしょう? 実はそれ、数時間前に切り落としてるんですよ。」


「な、何が! お、おい! 俺に何をしたッ!?」


「解りませんか? 『時間経過で再生される』んです。」



正直バグの話は専門外なので当時も今も詳しくは解っていないのですが……。


プレイ時にハードへの影響を抑えるためか、敵MOBはプレイヤーの視界。つまり描画範囲から外れ一定期間経つと“元の出現位置”に戻る性質がある様なのです。ですがこのバグを使用すると元々あった『墓石』というオブジェクトと、『敵MOB』の判定が重なるそうで……。敵MOBにとっての出現位置が墓石に移動するとのこと。


まぁ早い話、時間経過で復活する反撃してこないサンドバック。経験値吐き出しマシーンがここに完成したと言うことです。



「ゲームではこの墓地から離れすぎると一旦初期化されるせいか全て元通りになっていたようですが……。今朝放り込んだねずみさんがそのままな以上。ずっと維持されるみたいですね。良かった良かった。」


「何ッ! 何言ってんだ!? おい、おい!!!」


「正直、生き地獄を味合わせちゃうのは申し訳なさがあるんですが……。あの村襲おうとした時点で私のお昼寝の敵ですし、そこまで心痛みませんよね。というか私の経験値になるってことは回り回って私のお昼寝の助けをしてくれるわけですから……。むしろ感謝しないといけないかもしれません。」



んじゃ、『アイテム』から村で拝借して来た『木こりの斧』を取り出しまして。



「やめッ! やめ! やめろぉぉぉぉ!!!!!!」


「とりあえず『村人』のレベルカンスト。10までよろしくお願いしますねー。」



よいしょ、っと!


……ありゃ。


重いせいか変なところに当たっちゃいましたね。あと感触が気持ち悪いですし。


でもまぁこれ終わったらお昼寝好きなだけして良いって考えれば頑張れますねぇ。そういえば今日ママが朝から大き目の物干しざお出してましたし、お日様に干したぬくぬくおふとんが待ってるかも。たのしみ~!




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