2:粉塵爆発って怖い
「う、うわぁ。見事に木っ端みじんに……。」
「か、カーチェ!? 見ちゃダメ!?」
「あぁうん。大丈夫だよママ。」
一回過労で死んだ身だし、人の死体見てもそんなに……。あ、でもちょっとグロいかも。
うーん、そっかぁ。昨日まで話してた子がこんな見事な木っ端みじんになるとはなぁ。
ママに主人公くんの死を伝えられ、この村の粉挽き小屋に飛んで来てみれば、綺麗に吹っ飛んだ建物が一つ。そしてそこに広がる綺麗な赤と肉片。体のパーツと綺麗に取れた頭部らしき部分から間違いなく主人公、ルールくんであることが理解できる。
(死んじゃった、死んじゃったかぁ……。う、うわぁ。)
私の眼を塞ごうとするママと、死体を見て崩れ落ちる彼の両親。その死体と粉挽き小屋をどうするか話しているパパや大人たちを余所に、私の心はしっちゃかめっちゃかになっていた。
だって、この世界を滅亡から救ってくれるはずの主人公が死んじゃったんだもの。
(え、この世界詰んだ? な、なんで勝手に死んでるんですかコイツぅ!)
ゲームのシナリオを知っているからこそ理解できる、主人公の重要さ。
彼が存在していたからこそ救われたのがこの世界であり、彼がいなければ滅ぶのがこの世界。だって主人公様だもの。『天帝の加護』とかいう激ヤバ有能スキル持って敵をバッタバッタと倒し最終的に邪神まで倒すのが彼だったのだもの。
そ、そんな彼が爆散した? まだお話始まってもないのに? 死んだ? 事故で?
というかなんで!? 粉挽き小屋とかこっちの人間でも危険だから子供は近づくなってずっと言われ……。
『ん? あぁあの風車の。危ないから近寄らない方がいいですよルール君。』
『あぶなくないよ! それに、お父さんもお母さんもずっと言ってるんだ、あの小屋のおじさん悪い人って!』
『あ~、まぁ粉挽き料として何割か持っていかれますし、好かれはしないでしょうね。生産者からすれば何もせずに中抜きして来るように見えますし。それに危険な職場で常に事故の危険性がありますから、彼ちょっとやさぐれてますし。お指何本かないですし……。』
『だろ! だからとっちめてやる!』
『やめてくださいね? 真に悪人なら村から追い出してますし、以前お話した時に単に口が悪いだけの良い方だというのは解ってますから。それにそもそも粉挽き小屋自体が危険ですから。必要なく近づかないでくださいね、本当に。』
……そう言えば昨日の彼。あんま納得してない様な顔してましたね。
や、やめろって言ってるんだから素直にやめろよクソガキ……!
(い、いや! 愚痴ってる場合じゃないです! ど、どどど、どうしよ!?!?!?)
べ、別に彼が死のうが生きようが私は正直どっちでもいい。だって他人ですし!
そもそも私が人生を楽しむために必要な存在であるからまぁサポートしてやってもいいか、程度にしか考えていなかった相手が彼です。世界を救ってくれた後はどうせこの国の王女とイチャコラするんだろうし、後は好きにしろ、勝手に死んでくれてもかまわなーい。って感じでした。
でもなんで世界救う前に死んでるんですかバカ! 生き返れ! はよ! はよ!
あぁぁぁ!!! 私の! 余生が! 終わった!!!
主人公消えたおかげでこの村が襲撃される恐れが無くなったけど! このままじゃ魔王とその背後にいる邪神のせいで世界が滅ぶ! 魔物大増殖で人間全員食べ物になるか、邪神が顕現して世界が地獄になっちゃう! なんでわかるかって!? ゲームで見たからだよッ!!!
(私お昼寝して毎日過ごせてたらそれでいいのに! なんで!?!?!?)
お、落ち着け? 落ち着け私。
ままま、まず。私はお昼寝しながら余生を過ごしたい。面倒なこととか厄介なお仕事はしたくない。
う、うん。これはおんなじ。でもそれを担保してくれていたはずの、主人公が死んじゃった。うん、死ぬなクソ。生き返ってもっかい死んで生き返れクソ。勝手に死ぬなクソ。
で、でも死人は生き返らないから……。誰かが主人公の代わりをしないといけない。じゃないと世界が滅んで私の計画が全部破壊されてしまう。お昼寝なんかできなくなっちゃう。
(だ、誰が……? 誰が代わりを?)
一瞬、主人公以外の原作キャラが頭に浮かびます。
ゲーム内ではヒロインである王女だけでなく、様々なキャラと一緒に彼は冒険をしていました。ですが……。彼らは主人公には成れないでしょう。何かしら欠点や問題があり、それを共に解決した主人公だからこそ強さを十二分に発揮できるのが彼らです。確かに戦力には成るでしょうが、主人公の代わりにななれません。
というかそもそも、魔王とか邪神を討伐するには彼の持っていた『天帝の加護』が必要不可欠です。無論なくても何とかなるよう救済措置はありましたが、それも彼の加護前提に存在していました。何度も“この世界”を遊んだ私ならその前提をひっくり返して手に入れることは可能でしょうが……。
(あ、ダメだ。)
何をどう考えても、“介入しなければ”世界の安寧。いえ私のお昼寝が確保できません。
そして“介入”できる存在が、私しかいません。
確かに今私が保有している知識を誰かに流し込んで主人公の代わりとして作り上げ野に放てば、上手く出来るかもしれません。ですが私はせいぜい村長の娘。貴族、それこそ王族であれば適当に引っ張って来て洗脳してしまえたかもしれませんが、村長程度ではそんなこと出来ません。だってこの村でしか権力が及びませんし、その娘である以上父を説得しなければ好き勝手できないのですから。
(今世のパパ、真面な人ですから『村人一人とっ捕まえて洗脳して、全部知ってるルール君に仕立て上げる』とか言えば完全に私が狂ったと勘違いされてしまいます……!)
というかそもそも洗脳なんかできませんし、私の知識を誰かに伝えても信じてもらえないでしょう。
だってまだ魔王の存在は誰も確認できてないのですから。原作開始の数年前に魔王が暴れ出して、正義感に駆られた主人公くんが村を飛び出すんですもの。今から『まおうがー! じゃしんがー!』とか言い出しても頭おかしくなったとしか思われませんッ!
(え、これってつまり……。私が未来のお昼寝を手に入れるには、私が自分で動かないといけないって、ことぉ!?)
や、やだぁぁぁ!!! 働きたくない! 働きたくあぁぁァァァい!!!
死ぬまで! 前世死ぬまで働いてたんですよ! 文字通り! だから今世では死ぬほどゆっくりのんびり過ごすって決めてたのに! それが出来るだけの生まれだったのにッ! なんで! なんでぇぇ!!!
「あぁぁぁぁあああああ!!!!!!!」
「か、カーチェっ!」
「そ、村長の娘さんが!?」
「仕方ないべ、仲良かったもんなぁ……。」
「ほら村長。後は俺たちがやっとくから、な?」
「……すまん。ほらカーチェ、パパもママもここにいるから、な? 大丈夫、大丈夫だから……。」
やだぁぁぁ! 働きたくなぃッ!!!