閉店
〈閉店〉
もっと詳細に書いてあったのだろうけど、その文字しか覚えていなかった。
深夜2時。ぼんやりとネットで動画を観ていたらそんな時間。けれど別に焦りはしない。なぜって? いつものことだから。
小腹が空いたから近くのコンビニへ行く。
ちなみにこれもいつものこと。
アパートを出て、まっすぐ続く大通りに出る。
間隔をあけてコンビニやら牛丼チェーンやらファミレスやらが通りにずらっと並ぶ。いわゆるロードサイド店舗ってやつ。
目的のコンビニは徒歩10分くらい。新しい店舗が徒歩2分くらいのところにできたけど、あえて遠くのコンビニを選ぶ。
そこは、私の思い出の場所だから。
やたらと明るい駐車場に出て、スマホを取り出して写真を撮る。深夜だけど綺麗に撮れる。奮発していいスマホを買った甲斐があったなと思う。
撮った写真を確認する。普通。とても普通の写真だ。
やっぱり、あの子のようにうまく写せない。
深夜だしお腹もすいてるしですこしだけセンチメンタルな気分になる。
少し間をおいて、私はインスタグラムを開いた。
めちゃくちゃ久しぶりに開いたそれに、見知った女の子の自撮りが表示される。
フォロワーもそこそこ多い。だってかわいいもんね。
昔からずっとかわいい。けど、今より昔のほうがかわいかったよ、歳とか関係なくさ。
ほら、こういう気持ちになる。だから見るの嫌だったんだ。
あの子と出会ったのは高校の時。
勉強ができない読書家とかいう悲しき存在だった私の数少ない友人があの子だった。
写真が好きで、しょっちゅうあれこれ撮影してた。
とんでもなく広いハードオフに二人で行ってデジカメを買ったりもした。私はすぐに飽きたけど、あの子は常にそれをもって楽しそうに撮影していた。
なんでかしらないけどあのコンビニがお気に入りで、構図を変えてデジカメとスマホで何度も撮影してた。
すごいのは、その写真がすごくいい感じになってたこと。普通のコンビニなのに、なんだかかっこいいと感じられた。才能ってこういうことなんだろうなって感心したのを覚えてる。
「写真家ってどうやったらなれるんだろ」
まっすぐにコンビニを見つめながらあの子が言った。
「インスタとかにアップしたら?」
「えー。なんかなぁ」
「嫌?」
「そういうわけじゃないけど、見てくれるかな?」
「いい写真だし大丈夫じゃない?」
「いい写真? ほんとに?」
「うん。素人感想だけどね」
「嬉しい。ありがとう」
そう言って笑うあの子はとんでもなくかわいくて、なんでか知らないけどドキドキした。
進路を決めるってなったころ。あの子は東京へ行くことにしたと話してくれた。
東京行き当日。連絡するからねと涙を流す彼女を見て、私も泣いた。
連絡は今でも続いてる。
けど、変化があった。
最初の内は東京のいろんなスポットを撮影した写真が近況を報告するそこそこの長文と共に送られてきた。その写真はすごく魅力的だった。
しばらくすると、写真が妙に味気なくなった。とりあえず撮りましたみたいな。
近況報告もどんどん短くなっていった。
そうして、そのうち送られてくる写真は自撮りになって、メッセージもテンプレになった。
予感がしたんだと思う。そのままで終わらせてもよかった。予感は予感のままにしとくのがいいかもって。
それでも、私は確かめたいと思った。だからインスタを開いて、適当にあの子に関連する名前を検索にかけてみた。
そうしたら、すぐにそれは出てきた。
そこそこのフォロワー数と、「かわいい」であふれるコメント。
私はインスタを閉じて、溜息を吐いた。不思議と憤りはなかった。ただ、そういうもんなんだなと感じた。
あの子の可愛さを、たぶん東京が自覚させたんだろうなって。そりゃそうだよね。かわいいってそういうことだし。
思い出が巡る。
人は変わるものだ。それをどうこう言うのはよくないよね、うん。
そう思ったし、自分の中でそれは過去のこととして処理したはずだった。
駐車場の明りに照らされながら、私は泣いていた。
このコンビニは、「あの頃」のあの子と私を結ぶ大切な繋がりだった。
それが、なくなる。
悲しかった。どうしようもなく悲しかった。
あの子との縁が切れたわけではない。
だけど、違うんだ。
私とあの子があの頃に繋いだ縁は、今のあの子とは繋がっていない。
忘れよう。
けど、あと少しだけ泣いていたい。