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三題噺もどき3

不和

作者: 狐彪

三題噺もどき―よんひゃくろくじゅうきゅう。

 


 薄い雲が空を覆っている。


 雨こそ降っていないが、昨日から危うい天気が続いている。

 いつ降ってもおかしくないような気もするが、そうでもないらしい。

「……」

 そういえば、どこかの地域はついに梅雨入りしたと聞く。

 この辺りもそろそろその時期ではないかと思うが……正直梅雨入りしたとてたいして雨が降ったりしなかったりする。気がしている。

 去年の今頃を思い出すと、まぁ、仕事の記憶が大半だが、梅雨入りした時期よりもその前後の方が雨が降っていたような感じがしている。そんな話をぼやっと誰かとしたのだ、多分。

「……」

 だが、低気圧ではあるのか、頭が痛い。

 頭痛の原因なんてあれこれとたくさんあるが、今日のは低気圧のせいだろう。それと若干の寝不足かもしれない。ズキズキというよりは、ジワジワと絞めてくるような感覚の痛みだ。

 まだ明確な痛みとしてあった方がましだと思う程、気分が悪い痛みだ。下手に薬も飲めないから嫌で仕方ない。

「……」

 それでも動けなくなるほどのものではないので。

 今日もいつもどうりに起きて、朝食を食べて、読書をして。

 しかしどうにも頭痛が気になって、集中が途切れ途切れで、パタリと本を閉じてしまった。

 それで何かをするのかというわけでもなく、ぼうっと座ったまま外を眺めてしまっている。

「……」

 これでもまだ、以前よりはマシだと思いたい。

 ここ2,3日の出来事のせいで、半ば放心状態になっていたようなところから。

 以前ならそのまま沈みかねないレベルだったのに、下手に落ちずにこうして何とか動いているだけマシ。

 ……それでも何も手についていなければ、意味もないかもしれないが。

「……」

 ぼうっとして、考えるのは。

 数日前にあった友達のことで。

 思い煩っている彼女のことで。

「……」

 彼女を最寄りまで送り、家に帰り、何もしたくないとうなだれ。

 そのまま寝落ちをしていた日。

 その翌日に、彼女から連絡が入っていた。

「……」

 どうやら、振られたと言っていた彼氏を仲直りをして、よりを戻したそうだ。

 心配かけてごめんねというメッセージと共に、彼女のお気に入りのスタンプが送られてきた。よかったね、といちおう返事はしておいた。

 まぁ、正直。

 そっかぁ……ぐらいの感想しか表面には現れなかったが。内心は色々とグチグチとごちゃごちゃとうるさかった。

「……」

 ついでに、その彼氏とやらと仲直りの記念に撮ったとかいうツーショット写真も送られてきた。なんてものを……と思うが。私の心情など彼女は知らないのだから仕方ない。

「……」

 そういえば、今回の彼氏は見たことなかったなと思い、ちらと見てみると。

 なんとまぁ、知っている顔だった。それが今回の一番の衝撃だったかもしれない。

 私と彼女の高校の頃の同級生だったのだ。

 その彼氏は、私と部活動もいっしょだったりして、それなりに仲は良かったように思う。たいして覚えていない。高校頃の記憶は割と朧気だ。

「……」

 それで芋づる式に思いだしたのは、今の仕事に就いた時に高校の頃の同級生がいたんだよと、嬉しそうに連絡をしてきたのを思い出した。それがコイツということか。

 なんか……まぁ。もやっとは、したな。

「……」

 それから思いだすのは。

 その日の楽しい思い出のことで。

 年甲斐もなくはしゃいだことも。

 慰めていたあの時、なんとなく触れた手が。

 握り返された手が、震えていたことも。

 沢山話してたくさん笑ったことも。

「……」

 最後の事のせいですべてなかったことにするには惜しいくらいの。

 思い出ばかりで。

 手放すには、あまりにも。

「……」

 だからまぁ。

 綺麗な思い出だけを、綺麗なままに残しておいて。

 最後のあの事とか、彼氏の事とか、そんなことはもう。

 見たくもない記憶のことはもう。

 奥底にしまっておこう。

「……」

「……」

「……」




 なぁーんて。

 上手くいっていれば、今頃結婚でもしてたかもしれないな。








 お題:握り返された手・梅雨・綺麗

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