(後編)
男性がコップの一つを、赤いボールにかぶせた。
「今ボールがあるのは、このコップの中だ」
コップの底を指でたたいて、子どもたちに強調する。
「お兄さんが『ずる』をしないか、よーく見ていてね」
男性の言葉を聞いて、子どもたちは思った。
そうか。この人が『ずる』をするかもしれない。さっきよりも集中して見ていよう。
男性は三つのコップを動かし始めた。
まずは右のコップを真ん中に。次は左のコップを一番右に。
最初はゆっくりと動かしていたのに、どんどんとスピードを上げていく。
子どもたちはがんばって目で追いかけた。
だいじょうぶ。ついていけている。少しだけど、さっきよりもスピードがおそい。
どのコップの中に、赤いボールはあるのか。
男性が手を止めた時、子どもたちの視線は真ん中のコップに集まっていた。
「さて、ボールはどこかな~」
子どもたちから「真ん中ー!」という声があがる。
「じゃあ、確かめてみようか」
男性は男の子の一人にお願いする。
「このコップをゆっくり持ち上げてくれるかな」
右のコップだ。
男の子が言われた通りにしてみると・・・・・・。
なんと、コップの中から現れたのは、王子さまの人形だった。
子どもたちはおどろく。
さらに次は左のコップだ。
男性は女の子の一人にお願いする。
「このコップをゆっくり持ち上げてくれるかな」
女の子が言われた通りにしてみると・・・・・・。
なんと、コップの中から現れたのは、お姫さまの人形だった。
子どもたちはおどろく。
でも、これでボールがある場所はわかった。
残っているコップは一つだけだ。真ん中のコップ。
きっとボールは、そこにある!
「さーて、ボールはどこかな~」
男性が真ん中のコップをゆっくりと持ち上げていく。
その中にあったのは・・・・・・。
「ケーキだ!」
子どもたちの何人かが、思わず叫んでいた。
コップの中にあったのは、お城のような形のケーキだ。三階建てのお城、そんな形をした小さなケーキ。
男性は上着のポケットから、赤いボールを出すと、
「お誕生日おめでとう」
そう。これはお誕生会用の手品だ。
コップを開けた男の子と女の子は、今月がお誕生日である。
お誕生日おめでとう。