使命以上に
「そんなの決まってるじゃないの。剣士の誇りに懸けて弟子を守る。背中を見せて逃げるなどもっての外よ!」
「へえ……自分との実力の差にも気付かないのですか?honestyの幹部である私に敵うとでも?」
その瞬間、妖夢と古鶴の身に纏うオーラが変わった。
「雨を切るには20年、空気を切るには50年、時を切るには200年かかるという。お前はまだ、雨の足元にも及ばない!」
妖夢は祷を背中の後ろに隠し、妖怪の鍛えた業物「桜観剣」を構えた。
「詳しいことは……真実は切って知る!」
「へぇ…私の体を切るつもりですか。無謀なことを……」
桜の花びらが落ちた刹那、妖夢は踏み込み、上段の構えをとり、振り下ろした。しかし……
「カキーン!」
「なぁっ!?」
妖夢の刀は確かに古鶴の首に峰打ちで止まっていた。
しかし、古鶴の首のそれは明らかに人間の硬さではない。
「へえ……峰打ちとは、舐められていますねっ!」
「くっ!」
古鶴は桜観剣を押し返し、強力な打撃を与えた。
「妖夢さん!?」
妖夢が弾き飛ばされたと思しき場所に、土埃が舞う。
「自分の未熟さも理解できないとは……愚かな……」
その瞬間、古鶴の殺気が祷に向けられるがそんなの慣れっこな祷は涼しい顔をしている。
「よくも……妖夢師匠を……!」
正眼の構えをとり、古鶴の姿を捉える。一部の隙もない。が。
「早いっ!?」
そう、古鶴の加速度は相当早かった。
(この打撃をモロに受けたら刀が折れる!)
そう咄嗟に判断した祷は打撃をすんでのところで躱す。しかし……
(急に軌道を変えたっ!?)
急に軌道を変えた小鶴の拳は祷の腹部を正確に捉え……!
「え?」
祷が目を開けると、小鶴の拳は……祷の顔の手前で止まっていた。
「へえ、硬質を変化させる能力……ね。硬質に伴う重量の変化も使い加速をするのは見事ね。ただ……」
そう言って妖夢は刀を鞘に収める。
「妖怪が鍛えたこの桜観剣に 切れぬものなどあんまりない!」
「バカ……なぁっ!」
その言葉を最後に、古鶴は膝から崩れ落ちるのだった。
「クッソ…だがここでくたばる訳にもいかないのですよ!!」
古鶴は身体を突き刺されながらも再び硬度を操作し妖夢をもう蹴りで一度吹き飛ばそうとする…が立ち上がった刹那である。
「ガハッ…!!」
能力で出血まで止めてしまったせいであろう
血の周り方がおかしくなった影響で
負担が臨界を越えてしまい、
血を吐いて古鶴は完全にバタと倒れ込んだ。
「勝負有り。ですね、このまま放っておいても私は構いませんが…どうします?」
と、言いつつも妖夢はかなり心配そうな目で古鶴を見つめていた、ならば答えは一つしかあるまい。
「白玉楼まで運び込んで治してあげましょう
聴きたいこともけっこうありますし」
「はい!」
妖夢は少し嬉しそうであった…先程まで殺しに来ていた相手を許せるその度量は賞賛したい、まあ単に暢気なだけなのかもしれないけどね。
しばらくして日も暮れ始めた頃…
白玉楼
「……はっ!!…そうだ…あの白髪に刺されて
祷を…殺さなきゃ…うぐっ!!」
古鶴は目を覚ますなりそう言っていた。
「あんまり動かないでくださいね…傷口が開くとまた出血しますよ」
祷は本当に心配そうに言う。
古鶴は久しぶりに優しさの篭るような声を聞いた気がした。
「は…ハハハ…随分と暢気ですね…復活させた途端もう一度私が殺しに来るなんてことも多分にあるでしょうに…」
そう言う古鶴の眼は何処か冷淡であり、魂を何処かに置いてきたかのようであった。
「そしたら妖夢さんがやっつけるので大丈夫ですよ〜!」
「ええっ!私!?もう一回やったら勝てるかちょっと怪しいんですけど…」
「ソ…ソーナンダ…まあそっちよりも根拠があってね」
「?」
「貴女、闘う前言ってたよね?処分しろと『言われている』って。
それじゃあ貴女自身は私を殺そうとする気は無いってことだよね?」
古鶴は目でうんと静かに頷いた
それを見て祷はこう続ける。
「なんとなく機械的だったんだよ…ずっと、何かに怯えていて…どこか此処(幻想郷)に来たばっかりの私みたいだったからさ、辛いなら私が話を聞くよ、それが此処から教えてもらったこと」
そう妖夢を指差しながら祷は言った。
妖夢は少し頬を赤らめている、先程までの一人前の剣士は何処に行ってしまったのだろうか。
しばらく思い悩んだ表情をしていた古鶴だったが、暫くすると静かに笑ってこう言った
「負けましたね、これは…もう祷に危害は加えないと約束しましょう」
晴れていた。永い氷が雪解けしたような
陽気が差していた。
それを聞いていた幽々子様はちょっと冗談めいた顔をしながら
「成長したわね、祷。
それじゃあ古鶴ちゃんも帰るところとかなさそうだしここで過ごしなさい」
「良いんですか?」
「ええ!…あっ、食費と食事は妖夢負担ね」
「分かりました!…ってええ…
ええーーーー!!!!!」
妖夢は財布のなけなしの小銭を指差しながら幽々子様に必死の抗議をしていた。
それを見て二人とも笑っていたのであった。