深淵を見つめるとき、深淵もまた……
こうして祷が妖夢と共に修行するようになって数日経つ。日は徐々に長くなる、されど日が強くなればなる度に、陰というものは色濃さを増していく物なのである。
「はい! 今日もお疲れ様です! しかしなかなか祷さんは筋が良いですね 性格通り太刀筋も真っ直ぐです」
そう妖夢が嬉しそうに言う。最初は出会いのせいでちょっと抜けている人物という印象を受けたが、剣術に関しては本当に真剣そのものである。
「いえいえ…お世辞は良いですよ」
祷は謙遜してそう言った
実際そうである、妖夢に自分が及ぶところなどまだまだ一つもないのだから。
「まあまあ 何でも最初から出来る人などいないです! 阿倍仲麻呂さんだって最初から遣唐使になれるほどの知識があったわけではないですよ」
良いことを言っている
妖夢さんは自分に対してすごく優しいんだろうなとは思うのだが…例えが、古すぎる。
修行上がりに幻想郷への慣れも兼ねて、再び人里に向かう事にした。
妖夢さんは飛べるはずなのだが自分に合わせてわざわざ歩いてくれているその手は半霊だから少し冷たいが、握ってくれるとすごく温かい。
本当に優しい人なのである
…なんかズレているが。
掛け値無しに幻想郷一立派な和風邸宅であると言える白玉楼の階段を降り、現世へと向かう。
白く、ぼやりと浅く深い冥界の霧を抜ける。
顕界(幻想郷)が見えてきた。人里がその形を出し始める。
「いやぁ こうしてみると冥界って不思議な所ですよね 常に幻想的と言うか何と言うか…」
そう祷が言う、一方妖夢は同じタイミングで
「いやぁ こうしてみると現世って不思議な所ですよ 常に活気があって羨ましいですね…」
と言っていた
同じ世界でも人が違うと見えるものが違う、忘れられているが重要なことである
そう思っていると
突然それが起きた。
「成る程ね…ただ悪いけどもう一回冥界に戻ってもらいますよ!!!」
そう言って知らない女が突然襲いくる。
拳で吹っ飛ばされた後なんとか受け身を取った。
「痛ッ…!!」
ただ殴られたような痛みではない
鉄の塊で叩かれたかのような独特の痛みがする。
暫しの間唖然としていた妖夢だが直ぐにことを察知し。
「輩か…何が目的だ」
と凄んでみせる、普段はどこかあどけなく緩い雰囲気を見せる事もあるが、普段の妖夢はそこには居なかった。
武人の誇りと魂魄家の意地がそこにはある。
するとその女…黒服とシルクハットのような帽子に身を包んだ以下にも真面目そうな女は事務的にこう答えた。
「ここ(幻想郷)の住民ですね?
私は江野間 古鶴と申します、戦う前に一つ提案を」
文質に勝れば即ち史…というのはこういうことなのであろうか、丁寧で聞き取りやすいのだがどうも面白みがない。
「提案…?」
妖夢が構えながら聴く
「私が処分しろと言われているのはそこの祷だけです 貴女が今彼女を放っておいて逃げるのなら 私は貴女に何も手出しをしません どうします?」
江野間は相変わらず事務的にそう言った
「ふっ…そんなの
決まっているじゃないですか!」
妖夢は薄く笑みを浮かべながら言うのであった…