そこは幻想の郷
「は、博麗…神社?それに終点って…ここは一体どこなんですか…!?」
「あらあら、慌てなくても大丈夫。そこの神社に行けば、全てが始まるわ♪」
その時、一迅の風が巻き起こり、祷は思わず目を瞑った。
「大丈夫、私たちはそう遠くないうちにまた会うことになるでしょう」
その言葉が聞こえ、祷が目を開けると、そこにいた金髪の不思議な女性の姿は消えていた。
「何だったのよ今の……」
祷は頬を再度つねるが、やはり夢ではない。辺りを見回すが、人っ子一人見当たらない。
「私はただ廃電車で寝泊まりしようと思っただけなんだけれどなぁ……」
祷は「はぁ……」とため息をついた。急に知らない土地に放り出されて、あの金髪の女性の手のひらで転がされるのにはいい気がしなかったし、何より……
「神社前って言っても階段の下……これ登らないといけないのよね……?」
祷の眼前には、山の頂上まで続く階段が続いていた。
☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆
「ふう、良い運動になったわね」
祷は、元々それなりには鍛えていた……というか、治安の悪く肉体労働位しか仕事のない場所を転々としていたので、体力は人一倍あった。
辺りを見回すと、それなりに綺麗に手入れされている神社があった。階段にも落ち葉がたくさん落ちている。なんてことはなく、箒で掃かれた形跡があったので誰かしらは住んでいるのだろう。
遠くには人里と思われる場所も発見したので、後で行こう。とか、随分とアクセスの悪いところに神社があるんだなあ。とか思っていた。
祷はキョロキョロと辺りを見回すが、誰がいるでもない。作法に則り参拝することにした。
(えーっと、お賽銭、お賽銭……)
祷が着物の中に手をゴソゴソと動かすが、辛うじてあったのは5円玉位だった。
(我ながら寂しい懐具合だなあ……)
と苦笑しながら参拝した時だった。
「あなたは食べても良い人類?」
祷は咄嗟に危険を感じ、横に跳んだ。
金色の髪、紅いリボン、横に広げられた手。白黒の洋服の幼い少女が「浮かんでいた」
「何者なの!?」
と祷が問う。その手には普段は使うことのない刀が真剣で握られていた。
「私の名前はルーミア、最近人間が襲われてくれないから、あなたを襲うわ」
「そりゃあ、好んで襲われる人間なんていないわよ」
祷が足元を見ると震えていた。無理もない。あの幼い見た目の少女……ルーミアと言ったか……からは超常的な「何か」を感じるのだ。
「はあっ!」
ルーミアがその声をあげると、何をも塗りつぶしそうな漆黒の闇と、まあるい形の何かが飛んできた。
祷がそれらを避けると、地面に触れたその球は「バーン!」と音を立てた。生身であんなのに当たったら、即死とまでは行かずとも、相当なダメージになるはずだ。
「夜符【ミッドナイトバード】」
ルーミアがおもむろに取り出した謎の紙切れを持ち、その言葉を宣誓した瞬間、彼女からの攻撃は激しくなった。
「ハハッ……アハハハハ……!」
玉は切ってしまえば二つに分離するだけなので、峰で切らない程度に祷は弾き返していた祷だが、もう笑うしかなかった。その玉は数が多く、闇で隠された上に、刀は弾き飛ばされ、体にダメージも蓄積している祷に、何とかする気力などどこを探してもなかった。
ああ、ここで死ぬのか。と祷は思った。走馬灯のように今までの記憶が流れる。良いことなんてほとんどなかった。だけれど……
「あの人に、ありがとうって、私言えるのかな……顔向け出来るのかな……天国で……会えるのかな?」
そう呟き、死ぬのを覚悟した瞬間。
「霊符!【夢想封印】!」
祷の体の周りを回りながら、不思議に輝く光球が祷を守り、ルーミアへと飛来していき、ルーミアへダメージを与えた。
「な、何だったの?今のは……」
ボロボロだった祷が最後に見たのは、ルーミアの目の前に立つ、紅白の巫女と「おい!大丈夫か!?しっかりしろ!」と体を抱き抱える白黒の魔法使いのような格好の少女達だった。