探偵はプライベートでも殺人事件に遭遇しまくる問題
ミステリにおける、シチュエーションと謎に次ぐ重要要素。
それは探偵。
個人の感想です。
ちなみにこのエッセイにおける探偵というのは、職業探偵だけでなく、作中で謎を解く係の人全般を指しております。ですから学生や刑事や猫などの場合もあります。
そんな探偵たちに魅力があれば、シリーズ化するのは当然の流れ。そしてシリーズ何冊目かで起きるちょっとした疑問。
探偵、プライベートで殺人事件に遭遇しすぎじゃない?
捜査一課の刑事が探偵役で、毎回殺人事件を捜査するのはいいんですよ。それが仕事なんだから。刑事事件専門の探偵などもそうです。
しかし、そんな刑事や探偵でも、休暇で旅行中に殺人事件に遭遇。
それも、商店街の福引きの特賞が当たって行く旅行。推理小説に限らずよくある展開。
ましてや素人探偵など、福引きに当たって旅行に行けばもちろん殺人事件。普通に学校や職場に通っていても知り合いが殺される。
ありがち。
私、一回も殺人事件に遭遇したことないよ?
そんな事件巻き込まれ能力に、何かしら正当性を付与したい作者たち。
私が過去に見た、彼らのなんかそれっぽい説明をいくつか挙げさせていただきます。
よろしくお願いします。
・セレンディピティ
セレンディピティ。ここでは、意図せずに何かを発見する能力、くらいの意味で使っております。
具体例を挙げた方が分かりやすいかも。
学校を舞台とする日常の謎のミステリは、だいたい他愛もないことから始まります。登校中にこんなことがあったとか、意味の分からない校内放送があったとか。
その意味を探偵と友人が、ああでもないこうでもないと推理しあって思わぬ結論へ、という流れ。
普通なら「何だろう」「ふーん」で終わるような些細なことに興味を持ち、推理しまくって、実はこんな事件につながっていた、みたいな。
本当は、みんなの周りに事件は転がっているけど、気づかず通り過ぎていく。
一方探偵は、そういう事件の予兆やわずかな影響に気づいて、自分から関わっていく能力がある、という解釈です。
ハリイ・ケメルマン『9マイルは遠すぎる』、西澤保彦『麦酒の家の冒険』ってこれかなあ。
・体質
「理由は分からないが、とにかく殺人事件に遭遇する体質」という設定が最初から与えられているパターン。読者がツッコむ前に、作者が明言しておくやつ。
今村昌弘『屍人荘の殺人』のあの人(ネタバレだとまずいので自粛)とか、汀こるもの『タナトスシリーズ』の立花美樹とか。
頻繁に殺人事件に遭遇するので、自分が次の犠牲者にならないよう犯人を推理する術に長けています。
探偵本人ではなく、助手ポジションがこの体質のパターンもあります。笠井潔『矢吹駆シリーズ』の、ナディア・モガールとか。乙一『GOTH リストカット事件』の森野夜とか。
森野夜は助手というよりはヒロインらしいんですが、サイコパス殺人鬼を引き寄せるフェロモンを出している(主人公談)のでカウントしておきます。あそこサイコパス殺人鬼多すぎ。
まあ体質ですから、殺人事件に遭遇しまくるのは仕方ないですね!
だから体質って何やねん。
・ライバル・敵キャラがいる
明智小五郎における怪人二十面相のような、何度も対決するライバル犯罪者の存在です。
まるで作者が「シリーズがマンネリ化してネタが尽きてきたから、難事件を作り出すプロの犯罪者を出そうかな〜」と考えたかのような……「かのような」要るかな……あの展開。
シャーロック・ホームズに対するモリアーティ教授はシリーズ存続のためではなく、シリーズを終わらせるために出したそうですが、大抵はシリーズのテコ入れのために投入されます。
怪盗、殺人鬼、犯罪組織など、犯罪を重ねるキャラたち。基本逮捕されない、または逮捕されても逃亡するため、何度も登場させて使い回すことができます。再利用可能犯人。
「なんでこの探偵って、いつも不可能犯罪とか難しい事件ばっかりに出くわすの?」それは、いつも不可能犯罪とか難しい事件ばっかり起こす奴がいるからだよ! という理由づけにもなります。
たまたま活動範囲が被っている、ライバルキャラの犯罪と分かった途端に警察がその探偵を呼ぶ(そいつの担当だと思われている)、犯罪者が探偵に執着していて、わざわざ解かせるために、探偵を巻き込む形で事件を起こす(嫌なストーカーだ)といった関わり方をします。
最後のやつマジで嫌だ。シリーズ名を言っていいのか。
敵キャラの共通点としては、ハイスペックであることは当然として、たいていは容姿端麗、なんか暗くて重い過去がある、悪党なりに筋の通った主義主張があるなど、読者の好感度を上げる設定がくっついています。
逮捕という名のざまぁがないため、本気で不快なキャラだと作品自体が忌避される恐れがあるのでしょう。少なくとも私は嫌になります。
完全に個人の趣味の話ですが、私はこういう敵役を出すなら1話目から出して欲しい派です。
途中から出されると、「ネタ尽きたんか?」と思ってしまいます。
・有名税
探偵が有名であるがゆえに巻き込まれるパターン。
犯人がわざと探偵を呼び寄せ、事件を起こすと共に偽の手がかりを与えて、自分が思う通りの推理(他の人が犯人だとか)を誘導しようとします。
……マジか? そんなん可能か?
いちおう探偵が有名だから、その思考パターンが犯人に読まれているのかなとは思いますけど。
でも実際はどの作品も、最終的には見破られているわけで。
探偵がどう推理するかを自分のトリックに組み込むのは自殺行為じゃないか?
あとは探偵名指しで犯行予告してくる話もありました(有栖川有栖『火村英生に捧げる犯罪』)が、私は他にあまり知らないパターンです。
何度も事件に巻き込まれる探偵たちですが、過去の事件について言及する人ってほとんどいませんよね。
何事もなかったかのように新しい事件に挑んでます。
例外的に、笠井潔の『矢吹駆シリーズ』では、語り手のナディアが過去作の犯人の名前を後の作品で言っちゃってます。私は3巻→1巻の順で読んだんで大惨事でした。
登場人物が過去の殺人事件を思い出すのは、心の動きとしてはリアルなんですが、未読の作品の犯人の名前を出すのはやめてくれ。
あのシリーズを読む時は、必ず1巻から順に読みましょう。
あと印象深いのは、石崎幸二『ユリ&ミリアシリーズ』(ミリア&ユリシリーズ?)の3作目くらい(記憶があやしい)。
過去2作では孤島の別荘に旅行に行って事件に巻き込まれていますが、3作目でついに「孤島に遊びに行くと事件が起こるから嫌だ」と探偵役の石崎さんが言い出します。
何という学習能力の高さ。全探偵屈指の賢さではありませんか。
「今までの孤島は日本海側だったけど、今回は太平洋側だから大丈夫」とか言われて行ってしまうのですが。
もうちょっと抵抗しようか。
でも、なんだかんだ言っても推しの探偵には大活躍して欲しい。なんならもっと殺人事件に遭遇して欲しい。曲がれ因果律、弾けろ偶然(厨二病)。
私は推しが事件解決するところが見たいんだよ。
それが探偵を推しに持つ読者の本音です。
結論。探偵の皆様は、どんどん殺人事件に遭遇していただきたい。
今までのツッコミの意義は何。