変な館殺人事件はローファン扱いでいい気がする
今回のテーマは『館』。
それも特徴的な構造の館。
館、屋敷、城、山荘など色々ありますが、便宜的に館と総称させていただきます。
まだ続くのかクローズドサークルネタ。
いや館の中で事件が起きてすぐ警察が来て、その警察でも謎が解けないっていう話もあるんで。そういうのもクローズドサークルというのでしょうか。よく分からない。
お分かりの方、ご一報ください。
綾辻行人の館シリーズからこっち、館といえば変な構造というイメージがあります。個人の感想であり偏見です。
実際は普通の豪邸や宿泊施設も沢山あります。被害者と犯人と探偵と容疑者のみんなが寝泊まりできる広い家屋。
ちなみに私がぶっちぎりで好きな館は綾辻行人『霧越邸殺人事件』の霧越邸です。あの何回見返しても飽きない見取り図と、美術品骨董品に囲まれた美しいインテリア。からの殺人事件。綾辻先生ありがとうございます。
私の趣味とか誰が興味あるねん。
閑話休題。変な構造の館の話でした。
まず申し上げたいのは、館に風変わりな要素があれば、それは99%の確率(適当)でトリックに使われるということです。残りの1%は、犯人を追いつめるシーンやどんでん返しに利用されます。
要するに、絶対にシナリオに絡んできます。
むしろ何にも関係なかったらびっくりだわ。
では、思いつくまま張り切って参りましょう。
・間取りが変……いや特徴的
迷路のように入り組んでいる、あるいはやたら幾何学的だったり対称形だったりと、実際の家ではあんまり見ない間取り。
誤認させる系のトリックと相性がいい気がします。
例えば上から見ると円形で、中央がエレベーターや広間、周囲にぐるりと等間隔の個室が並んでいる、という間取りがミステリやサスペンスで散見されます。
現実にもこの構造のホテルがあるので変とは言いません。すごく特徴的なだけ。
あれを見ると殺人事件かデスゲームが始まりそうで怖い。
こういう個室がずらっと並んでいるタイプの部屋は、ネームプレートを入れ替えたり、目印の鉢植えなんかをずらしたりして部屋を誤認させる技が有効です。
・隠し通路・隠し部屋
読んで字のごとし。前項の「間取りが特徴的」のバリエーションとも言えましょうか。
隠し通路を使って密室を作って脱出する、隠し部屋を使って犯行を目撃されないようにする、など非常に便利。
非常に便利なのですが、ラストでいきなり「実は隠し通路が」などと言われても読者がブチ切れるだけですので、注意深いお取り扱いが要求されます。
もしも出すなら、見取り図にそれらしき空間がある、偶然壁を叩いたら他の部分と違う音がする、など伏線を充分張っておくパターン。
または、捜査の途中で隠し通路や隠し部屋を発見させておいて、これは犯行にどう利用されたのか? という謎に移行していくパターンもあります。
ただ現代だと、警察が不動産屋さんとか役所に問い合わせて設計図を入手したら、一発でバレるのでは。
家を大工さんが建てた後で、持ち主がDIYで追加するのかしら。
警察が隠し通路の可能性に思い至らないよう立ち回るのも大事ですね。
・建築基準法が存在を許してくれない家
現代日本では、建築確認申請というのですか、建築にあたって設計図などを届け出て許可を得る必要があるようなのですが……いやこれ無理やろ、という館です。
今回のエッセイの館は、だいたいここに入る気がします。
まず気になるのが窓関係。
密室もので出入り不可能を強調するあまり、窓が全て嵌め殺しだったり鉄格子が付いている、という館ですが……それ火事になったらどうするの? 消防法的にアウトじゃない?
それどころかそもそもほぼ窓がない、という恐るべき館も存在します(綾辻行人『時計館の殺人』の旧館)。半地下なので仕方ないのですが、非常口か何か欲しい。
ちなみに、ある少女漫画家の方がこの作品を「見取り図と登場人物一覧を見ただけで犯人とトリックが分かった」とおっしゃっていましたが……私は分かりませんでしたが……まあ、あり得るのかな……。
火事で困る館なら、知念実希人『硝子の塔の殺人』も中々のものです。
巨大な円錐形をしていますが、個人の住居。金持ちの道楽極まれり。
壁が斜めなので、火事になったらハシゴ車が窓に取り付きにくい。
あまりにトリッキーな構造であるゆえ、作中人物が「建築基準法と消防法はどうクリアしたんだ」「火事になったら困る」などと言ってしまっているほどです。
なんと清々しいセルフツッコミ。見習いたいテクニックです。
火事とか以前のインパクト。
本来なら最初に引用すべきだったほどのオーラを放つ、島田荘司『斜め屋敷の犯罪』。
5度か6度傾いている屋敷です。
これって現実に住める?
さすがに階段に対して直角に傾いている(つまり左右に傾いている)けど、5度の傾きは馬鹿にならないぞ。ここに住んだら、自分は怪我する自信があります。
しかも間取りが複雑で、これも火事になったら、傾いていることとの相乗効果で避難が難しい。
建築確認申請担当者がブチ切れる案件ではないでしょうか。
あまりに不自然な構造なら、建築基準法制定前の時代か、別の世界の話にするのも手かも。
・同じ構造・インテリアの家が2軒
これは建築基準法も許してくれます!
読んで字のごとく、全く同じ構造とインテリアの家が離れた所に2軒あるものです。まず確実に、アリバイトリックに使われます。
まず館Aに証人となる人物を招き、睡眠薬で眠らせる。
眠らせた証人を館Bに移動させてから起こし、時間を確認させつつ犯人と話す。その後もう一度眠らせる。
この隙に館Bの近くで事件(殺人事件多め)を起こし、間をおかず館Aに証人を戻す。
証人は、事件のあった時間は現場から離れた館Aで犯人といたと証言。アリバイ確保。
基本この流れ。バリエーションは色々あります。
この例だと睡眠薬を連発してるが危ないな。睡眠薬の乱用って、下手すると命に関わるんだよね?
・館全体が動く
はい。動きます。現代日本を舞台にした作品で複数確認しております。
今調べましたが、曳屋といって、建物と土台を基礎からひっぺがしてトレーラーに乗っけて移動させることができるんですね。テレビでも見たことがあります。
それが出来るんなら、最初から館を動かせるように設計することも出来る……のか? メンテナンスが大変そう。
このトリックが出てくると、探偵が食い気味に「技術的に可能」と断定してくるので、可能なのでしょう。
その場で回転するタイプと、一定の方向に進んでいけるタイプを確認済み。
それをどうトリックに利用するかとなると、作品ごとに違っているので、紹介=特定の作品のネタばらしになります。よって自粛。
やはり、館の中の人に、色々誤認させる傾向があるかと。
仕掛けとしては大掛かりなので、これもファンタジーやSFとの相性がいいのかも。
魔法とか未来技術とかの一言で、読者に納得してもらえます。伏線は必要ですが。
「実は家が空を飛んだ」というファンタジー風ミステリもありました。
今まで散々ツッコんできましたが、私は実際には、作者の世界観と伏線さえ出しておいてくれれば、その設定が現実的にあり得るかどうかは気にしません。
館が動こうが飛ぼうが「なるほど〜。分からなかった〜すご〜い」です。
伏線さえ出しておいてくれれば(重要)。
別にトリックの整合性をとやかく言えるほどの知識はないし、それを参考にして殺人を犯す予定もないですし。
あれです、数学のテストで線上を移動する点Pが出てきたら「点Pとは何か? 何の意味があって移動するのか?」などと問題作成者にクレーム入れますか?
そんなことはせず、皆さんは点Pの設定を受け入れて問題を解きますよね。
例え脳内では「何やねん点P! 存在が意味不明すぎるやろ!」とツッコミまくっているとしても。
そんな感じです。