なんで犯人はクローズドサークルで事件を起こすの?
クローズドサークル(以下閉鎖空間)の、ちょっとした問題点。
なんで、容疑者が限定されてる状態で犯罪を犯すの?
しかもほとんどが殺人事件。というかクローズドサークル盗難事件とか作品を思い出せない。
警察が本気で鑑定と尋問しまくったら、犯人即バレですやん? 容疑者が数人しかいないんですよ。殺人だったら、ますます人数減ってるんですよ。
街中で通り魔とか強盗に見せかけて殺っちまった方がまだマシじゃない?
答えはシンプル。
このテンプレは楽しいから!
書きたいし読みたいから!
結局そこに尽きるんじゃないですかね?
しかしそんな率直な感想は大人の世界では通りません。何かしらの言い訳というか、物語設定上の理論武装が必要になってきます。
そういう、犯人側から見た事情あるあるを思いつくまま挙げてみます。
・別にバレても構わない
復讐など強烈な動機があり、自己保身を捨てているタイプ。
閉鎖空間を作るのは、標的を逃がさないため。トリックを弄するのは、殺したい人間を全員殺すまで犯人と特定されないため。途中でバレて拘束されたら目的が達成できませんもんね。
だから、その後なら犯人だとバレようが、逮捕されようがどうでもいい。
前もって入念に計画を練り、後のことを考えてないからか金を湯水のように使う。
館を準備したり犠牲者たちに招待状を送ったり、車を壊したり、嵐や大吹雪が起きたり、神懸かり的強運で閉鎖空間を成立させ、連続殺人を1人で(高確率で単独犯)成功させる。
いくら計画殺人でも上手くいきすぎだろ。
「病気で余命幾許もない」
「事件の全貌を綴った告白の記録を残す」
「最後に自殺する」
の3点セットをおさえがちなのも特徴。
・トリックを駆使して逮捕されない(といいな)
あえての閉鎖空間で、完全犯罪を狙っていくスタイル。いい度胸だ。
閉鎖空間構築前にがっつり計画しているタイプと、構築後に決意するタイプがあります。
前もって計画するタイプ。
「皆殺しにして証人を消すことで、何が起こったか分からなくする」
「誰かに濡れ衣を着せ、自殺したように見せかけて殺す」
が、メジャーな解決策です。
複数人殺すことが前提の発想。鬼だな。作者が。
そこまでしなくても、トリックによって犯人や手段が特定できなければ、容疑者がどんなに怪しくても逮捕されないよ! というコンセプトもあります。
が、個人的には1番「何でそれ閉鎖空間でやるの?」と思ってしまうやつ。
密室を筆頭とする不可能犯罪を起こしがち。あからさまに怪しくても、方法が分からなければ公判が維持できないから、逮捕に踏み切れない……といいな。
閉鎖空間構築後に犯行を決意するタイプ。例えば閉鎖空間ができた後に動機が発生する(例・閉鎖空間内で親の仇を発見した)。
天候回復などで閉鎖空間から出てしまうと2度と会えない、殺るなら今しかない! といった、いらん決断力を発揮する犯人の、なんと多いことでしょう(詠嘆)。
あるいは、ここなら完全犯罪が狙える(変な構造の館を利用したトリックとか)、殺るなら今しかない! という天啓が降りてきて、前から殺意を抱いていた相手を殺っちまう。
だから、半額タイムセールがあと1分で終わるから、そんな欲しくないけどこの商品買っておこうか、みたいなノリで実行すんなって。
・閉鎖空間で殺人なんて考えてなかったんです。
事故や過失で殺っちゃう場合。あるいは、殺されかけて逆に相手を死なせてしまうなど。
それだけだと「自首しろや」というツッコミ不可避なので、「薬物などの他の違法行為がバレる」「有名人で、スキャンダルが命取り」など、自首すると非常に不利なことが起こる設定と組み合わせておくと、隠蔽工作に走っても不自然でないでしょう。多分。
やらかした後でトリックを捻り出す割には、恐るべきアドリブ力と神懸かり的強運(たまたま目撃者がいない、たまたま犯人に都合のいい行動を取るキャラがいた、など)で持ちこたえます。
探偵視点で見た場合、動機がない(偶発的な事件なんで)、偶然が重なって謎が成立している(というか、付け焼き刃の工作なので、偶然が味方しないと即見破られる)ので全貌を掴みにくいなど、意外に難事件になりがち。
あるいは、閉鎖空間になっていることに気づかず犯行を行ったパターン。
例。犯人が同居の家族を殺害し、外部犯に見せかける。しかし、その時間帯は犯人の気づかないうちに雪が降っており、家の周囲の積雪に足跡がない。
内部犯で確定ですね、となって犯人は内心 orz こんな感じ。
ここから先はアドリブ力と神懸かり的強運で以下略。
今神懸かり的強運って何回言った?
・警察の力が弱い
大災害や戦争で警察機能が麻痺している、拉致られてデスゲームなど。
警察の介入がすぐには期待できない、あるいは証拠が保全できないほど後の介入になり、事件解決出来なさそうな状況。
時代設定が近現代以前であるなど、警察捜査の質が期待できない世界観のミステリもここですね。犯人はそこに勝機を見出すのでしょう。だから見出すなよ。
このエッセイで紹介した『屍人荘の殺人』『シェルター 終末の殺人』『ダンガンロンパ』などが相当するかと思います。
つらつら書いてまいりましたが。
華やかな舞台とケレン味全開のシチュエーション、それがクローズドサークルの醍醐味。
しかしその裏では、水面下で水を掻く白鳥のように、作者と犯人による必死の辻褄合わせとセルフツッコミが飛び交う魔境が広がっているのです。
そういうところも愛でてあげましょう。