カナちゃんとみどり色のお友だち
近所のゲームセンターのクレーンゲームでお父さんにとってもらったぬいぐるみ。それが、カナちゃんにとっての初めてのお友だちでした。
明るいみどり色のからだに、きいろいくちばし。頭には平べったくてギザギザの縁がついたお皿をのせていて、手足にはうすい水かきがついています。
そう、カナちゃんのお友だちは、やさしい顔をしたカッパのぬいぐるみでした。
ごはんを食べるときも、夜ねむるときも、あそぶときも、おでかけするときだって、いつもいっしょでした。
タオルのようなフワフワなからだはとても気持ちがよくて、いつまでだってくっついていられるほどでした。
ある日、カナちゃんがおひるねから目をさましたとき、近くにカッパのぬいぐるみがいませんでした。
カナちゃんはどこにいるんだろうと家の中をさがしまわって、大きな窓のところにちょこんとカッパのぬいぐるみが座っているのを見つけました。
カナちゃんは窓の近くでカッパのぬいぐるみといっしょにあそんでいて、そのままねむってしまったのです。お母さんがカナちゃんをベッドまではこんでくれたのですが、カッパのぬいぐるみはそのままそこにおいてけぼりにされてしまったのでした。
カナちゃんはカッパのぬいぐるみを抱きあげて、けれど窓の外に何かがいたのにびっくりして目をまんまるくしました。
そこにいたのは、とうめいな窓に水かきのついた手を当てた、みどり色の顔の黒い目をカナちゃんと同じようにまあるくさせたカッパさんでした。
カナちゃんは思わず、自分が持っているぬいぐるみと外にいるカッパさんを見くらべました。
どっちも同じ、花だんの葉っぱみたいなみどり色のからだ。
どっちも同じ、バナナみたいなきいろのくちばし。
どっちも同じ、ビーズみたいなまあるい目。
どっちも同じ、公園の池にうかぶハスみたいなお皿。
何もかもが同じで、カナちゃんはどっちがどっちだかわからなくなりました。
けれど、窓の外のカッパさんが動きだして、それが生きていることがすぐにわかりました。
カッパさんは目をパチパチとさせて、その手をにぎると、コンコンと窓をたたきました。
それが窓をあけてほしいというあいずだとわかったカナちゃんは、カラカラと音をたてて窓をあけました。
「こんにちは」
「――こんにちは」
カッパさんにあいさつをされて、カナちゃんはあわててへんじをしました。
カッパさんの声はそよ風みたいにやさしくて、くちばしでわかりづらいけれど、なんだかにっこりとわらっているように見えました。
「ボクは、この近くの川にすんでるんだ。よかったら、いっしょにあそばない?」
「うん、いいよ」
カナちゃんがうなずくと、カッパさんはカナちゃんのぬいぐるみを抱くほうとはちがう手をひいて、外にかけだしました。
やってきた近所の公園はたいようの日ざしがふりそそいで、ポカポカとあたたかでした。
カナちゃんとカッパさんとカッパのぬいぐるみは、ブランコやシーソーに乗ったり、追いかけっこをしたり、木かげで座ってお話しをしたり……たくさんたくさんあそびました。
カッパさんは頭のお皿がかわいてしまうとたいへんみたいなので、ときどき水のみ場に行って水をかぶりました。
ぬいぐるみにも水をかけてあげたほうがいいのかとカナちゃんがなやんでいると、カッパさんは「その子は水がなくてもだいじょうぶ」とおしえてくれました。
いつもはお母さんやお父さんとあそびにくる公園ですが、カッパさんといると楽しさがいつもとちがうように感じます。
同じことをして、同じものを見て、同じように笑いあいます。それがおなかをくすぐられているときみたいに楽しくて、カナちゃんはからだいっぱいに笑いました。
そうやってあそんでいると、頭の上にあったたいようはあっという間にオレンジ色になって下のほうにおりてきました。
あたりが暗くなりはじめて、すこしさみしい気持ちになってきたとき、公園に立っている背の高いスピーカーから音楽がなりました。
この音楽は、おうちに帰らなければならないあいずです。お母さんもお父さんもそういって、いつもこの音楽がなるとおうちに帰る準備をするのです。
「もう、かえらなきゃ」
カナちゃんがさみしそうにそういうと、カッパさんは目をパチクリさせて、コクンとうなずきました。
「それじゃあ、さいごにひとつだけ」
カッパさんは、またカナちゃんの手をひいて歩きます。
そうしてやってきたのは、川にかかる橋の上でした。いつもお母さんとおかいものにいくときに通る橋です。
そのまん中で立ちどまったカッパさんは、カナちゃんの目のおくをのぞきこむように見つめました。
カッパさんの目はキラキラとして、ビー玉みたいでした。
「ボクはね、ここにすんでるんだ。カナちゃんをつれてはいけないけど、ここにボクがいることをおぼえててくれたら、うれしいな」
「うん、おぼえてるよ。ぜったいにわすれないよ」
「ありがとう」
カッパさんはさいごにカナちゃんの手をにぎると、橋のさくをよじ登って、川にボチャンととびこみました。そうして顔と腕だけ水から出して手をふり、そのまま川にもぐっていきました。
オレンジ色のたいようがキラキラする川を、カナちゃんはずっと見ていました。
「きっと、またあえるよね」
カナちゃんはカッパのぬいぐるみに話しかけましたが、ぬいぐるみは何もいいませんでした。
そしてなぜか、カナちゃんは急にねむくなってきました。どうしても立っていられなくなって、橋の上でコテンとねむってしまいました。
*
つぎに目をさますと、そこはおうちのベッドの上でした。
目をこすって起きあがってみると、カナちゃんのとなりでカッパのぬいぐるみもねむっていました。
ぼんやりとしながら、いっしょにあそんだカッパさんの顔を思い出します。
さいしょのお友だちは、このカッパのぬいぐるみ。
そして二番目にお友だちになったのは、カッパさんです。
みどり色のお友だちがふたりもできて、カナちゃんはすごくうれしくなりました。
「あら、カナちゃん起きたの?」
「おかあさん! あのね」
カナちゃんはいっしょうけんめい、カッパさんのことをお母さんにお話ししました。
お母さんはニコニコしながらきいてくれて、カナちゃんもあそんだときのことを思い出してニコニコします。
カナちゃんは、あの橋を通るたびにカッパさんを思います。楽しかった時間は、いつまでもカナちゃんを笑顔にさせます。
きっとまた会える日まで。カナちゃんはカッパのぬいぐるみを抱きながら、いつもわすれないようにカッパさんのことを思い出すのでした。




