『Ⅲ』大きな決断
森の中を歩き始めてから、随分と経った頃。先導していたお菓子の魔女が不意に地面へ下り、同時にニャーダも止まってしゃがんでしまった。
「⋯⋯? あの、なにかあったんですか?」
「いいえ。ただ目的地についただけよ」
彼女は振り返ると柔らかく微笑み、わたしの手を引いてニャーダの上から下りるように言った。
「目的地、って、まだ村は見えないですよ⋯⋯?」
「そうね。でも、この場所には見覚えがあるでしょう?」
そう言われて、わたしはようやくここが村の採取場所である森の入り口であることに気づいた。よく耳を澄ませば、知っている声が複数聞こえてくる。
「その様子だと、やっぱりこの村であっていたみたいね」
「あの、どうしてわたしがここの出身って、分かったんですか?」
そう問いかけてみると、彼女は箒に再度跨って飛んでから質問に答えてくれた。
「簡単よ。あんな場所にすぐに来られるのは、王都周辺の村の中で一番深い場所にあるヴィラージフォレットに住む人間だけだと思ったの」
「なるほど⋯⋯」
だから他の村には目もくれずにここに来たのか、と納得していると、「それともうひとつ」と言って彼女はとんがり帽子を被り直した。
「⋯⋯今朝この村の少女が行方不明になっているって張り紙が、店の前まで飛んできていたのよ」
パチンッ! と彼女が指を鳴らすとともに目の前に紙が現れ、わたしはそれを掴んで内容を読んでみた。
「⋯⋯⋯⋯」
「貴女、ご家族から愛されているのね」
からかっているのか、彼女はくすくすと笑いながらそんなことを言ってきた。
紙に視線を落とすと、そこにはわたしの名前や年齢などはもちろん趣味や口癖まで書かれていて、一番下には『見つけた方は至急ローラン・メライアにご連絡を!!!』と大きな赤い字で書いてあった。
「お父さん⋯⋯いくらなんでも、これはやりすぎだよ⋯⋯」
「ふふ、それほど貴女が心配だったのよ。ほら、早く元気な姿を見せに行きなさい」
そう言ってひらひらと手を振る彼女は、空中に飛んだまま動こうとしない。⋯⋯わたしは少しだけためらったが、勇気を出して口を開いた。
「あ、の⋯⋯! ミルク、さん!」
初めて彼女の名前を呼ぶと、彼女⋯⋯ミルクさんはとても驚いたと言わんばかりに目を見開いたかと思えば、次の瞬間にはすごく嬉しそうに笑って「なあに?」と聞き返してきた。
「えっと、よかったら、このまま村に来ませんか? お父さんも会いたがるだろうし、村のみんなも⋯⋯」
「ごめんなさい、それはできないわ」
はっきりと断られ、その早さと言葉の強さに思わず押し黙る。同時に悲しくなっていると、彼女は慌てた様子で断った理由を話し始めた。
「ああ、ごめんなさい。貴女のお誘いが嫌なわけじゃないの。ただ、ここのちょうど右隣にある村の風習に面倒なものがあるのよ」
「⋯⋯? 面倒なもの、って」
「⋯⋯平たく言えば、『魔女信仰』ね」
魔女信仰。それは確か、魔女を信仰対象にした宗教で基本の形や活動は他の宗教と変わらないという組織の総称、だったはず。
なぜそれの名前が出てきたのか分からずにいると、ミルクさんは不快そうに顔を歪めて続きを語る。
「本物の魔女が訪れた村には幸福が訪れ、他の村には不幸が降りかかる。⋯⋯そんなふざけた伝承を信じているの」
「でも、本当に起こったりするわけじゃないんですよね?」
「当然よ。それが本当なら、とっくに魔女の村以外の街や集落が滅んでいるわ。⋯⋯そんなことがあるから、安易にお店のチラシを配ったりすることができないのよ」
はあ、と深くため息をつく姿から、本当に困っているらしいことが伺える。だが、その話を聞いたわたしはひとつ引っかかることがあった。
「あの、それなら、どうして訂正したり迷惑だって言ったりしないんですか? 魔女のミルクさんが直接言ったらやめてくれるんじゃ⋯⋯」
その質問を聞いたミルクさんは、困ったように笑いながら答えてくれた。
「そうすることができればいいのだけれど⋯⋯一度、あの村の人間と森の中で会ったことがあるのよ。そしたら⋯⋯私の話を一切聞かずに、無理やり村に連れて行こうとしたわ」
「えっ!? だ、大丈夫だったんですか!?」
「あら、心配してくれるのね。その時は少し距離があったから、すぐに箒で高い場所へ逃げて事なきを得たわよ。それ以来、私の家全体に魔法をかけてた簡単にはどり着けないようにしているし。⋯⋯心配してくれてありがとう」
そう言って嬉しそうに笑ったミルクさんは、少しだけ地面に近づいてわたしを手招きする。誘われるままに彼女に近づくと、手を取られて何かを渡された。
「これは⋯⋯?」
「貴女が手伝ってくれた時に作っていた、イチゴジャムのパイよ。まだ試作の段階だけど、きっと気に入るわ」
ミルクさんの手が退けられると、そこには一口で食べられそうなほど小さな丸いパイが一つずつ入った袋が二つ乗っていた。お花のような形をしていて真ん中にジャムが入ったそれは、わたしの知っているパイと全く異なる姿をしていて少し驚いた。
「ありがとう、ございます」
「ふふ、お礼なんていいのよ。⋯⋯ああ、忘れるところだったわ。私が作ったお菓子には、必ず特定の効果を与える魔法がかかっているの。明日になれば魔力が抜けて普通のパイになるだろうから、『眠りたい』わけじゃないなら明日以降に食べるのをお勧めするわ」
それだけ言い残し、彼女はニャーダとともに来た道を戻っていった。わたしは最後の言葉が気になりつつも、大事にパイを鞄に入れて村の中に入っていった。
____
家の目の前に着いたわたしは、扉に手をかけることができずに立ち竦んでいた。⋯⋯きっと、勝手に森に行ったことを怒られるだろう。お父さんのお説教はすごく長いし、今日完成させて売りに行く予定だったポーションに手をつけられないかもしれない。そうなったらちょっと嫌だし、何より怒られるのは怖い。⋯⋯でも、悪いことをしたのはわたしなんだ。ちゃんと、怒られよう。
「た、ただいま⋯⋯」
意を決したわたしは、恐る恐る扉を開けて中に入る。すると、部屋の奥から何かが倒れる音や割れる音が響いてきて思わず肩を揺らした。そしてバタバタと慌ただしい足音が近づいてきたかと思えば、やつれた顔でぐちゃぐちゃなシャツとズボンを着たお父さんが出てきた。
「⋯⋯アリス?」
震える声で名前を呼んだお父さんは、ゆっくりと近づいてきて目の前でしゃがんだ。そしてそっとわたしの頬に触れると、すぐにわたしの体を強く抱き寄せた。
「お、お父さん⋯⋯?」
「っ、よかった、アリス⋯⋯本当に、無事でよかった⋯⋯!」
鼻を啜る音とともに聞こえた言葉に、じわりと視界が滲んでいった。
「っう、ひ、ごめ、なさい⋯⋯ごめん、なさい、お父さ⋯⋯!」
謝りながらお父さんに抱きついて泣きじゃくり、お父さんはわたしが落ち着くまでずっと抱きしめてくれた。
「アリス、ごめんな。父さんがちゃんとお前を見てれば、お前を危ない目に遭わせることもなかったのに」
泣き止んだわたしを椅子に座らせたお父さんは、わたしの目元の涙を拭いながらそんなことを言った。
「ちがっ、わたしが勝手に森に入ったから⋯⋯!」
「いいや、父さんがお前を気にかけるのをおろそかにしたせいだ。本当に、ダメな父親でごめんな」
「違う! ちゃんと森に行くって言わなかったわたしが悪いの!」
そんな押し問答を続けていると、玄関の方から呆れたような低い声が聞こえてきた。
「おい、お前らそろそろやめねぇとうちのカミさん呼ぶぞ?」
「オリー、来てくれたのか! ⋯⋯リザさんを呼ぶのは勘弁してくれ」
声の主に気づいたお父さんは立ち上がると、そちらに向き直ってオリーおじさんの話に応じる。
オリーおじさんはお父さんの幼馴染で、わたしが小さい頃からたくさん遊んでくれたガラス細工の職人さんだ。この村のポーションや薬品を入れる瓶のほとんどを彼が作っていて、お父さんと難しい話をしているところをたまに見かける。
リザおばさんはおじさんの妻で、よくお父さんとオリーおじさんを叱っている元気な人だ。だからお父さんはあんなに嫌がっているんだと思う。
「とりあえず、この状況を作ったのはお前だってことを肝に銘じておけよ。ロー」
「う、わかったよ⋯⋯相変わらずお前は厳しいな」
「ハッ、なんとでも言え。⋯⋯ところで、アリスちゃん」
話が終わったらしいオリーおじさんはわたしに声をかけてくると、目の前でしゃがんでじっとわたしの目を見ながら口を開いた。
「森で一日過ごして帰ってきたにしては、妙に服が綺麗だが⋯⋯誰か人んとこに世話になってたのか?」
その質問で、わたしはまだお父さんにミルクさんのことを話していなかったことを思い出した。わたしは少しだけそわそわとしながら、お父さんたちに彼女のことを話した。
____
「まさか、この近くにも魔女様が住んでいるとはな」
オリーおじさんは考え込むような素振りを見せながら呟くと、今度はお父さんが身を乗り出して質問してきた。
「アリス、そのお店の場所は覚えてるか?」
「えっと⋯⋯方向は分かる、けど、行けないと思う⋯⋯」
「行けない? どうしてだ?」
「バカお前あれだよ、隣村の」
肩を叩かれながら言われたお父さんは納得したような声をあげて後ろに下がった。どうやら、隣村の魔女信仰に関する話はかなり有名らしい。
「うーん、ならお礼はできそうにないか」
「ま、諦めるのが賢明な判断だな」
そう言ってまた二人は難しい話をし始める。これ以上話せることはないと判断したわたしは、お父さんたちに声をかけてから自分の部屋に戻った。⋯⋯しばらく休んでいた方がいいって言われたけど、明日こそちゃんとポーションを売りに行かないと。
鞄を壁のフックに掛け、ミルクさんにもらったお菓子を机に置いてベッドに飛び込む。一日しか離れていないのに、全てが懐かしいような気分になってしまう。
「⋯⋯あ、そうだ」
しばらくゴロゴロしていたわたしは、机の上にあるお菓子に目を向けた。いちごジャムのパイを手に取り、改めてその可愛らしい見た目を眺める。
『眠りたい訳じゃないなら明日以降に食べることをお勧めするわ』
別れ際の彼女の言葉を思い出す。⋯⋯どうせ今日はもうすることもないし、これを食べて眠ろう。あの言い方からもわかるように、きっとこのパイは食べた人を眠らせる魔法がかかっているんだ。
わたしは袋を開けてパイを指で摘みあげ、そのまま口に入れた。
サクサクとした食感とジャムの酸味と甘みを楽しみながら飲み込むと、少しだけ瞼が重くなった気がした。わたしはそれに抗うことなく、毛布の中に潜り込んで目を閉じた。
____
次に目を覚ますと、外の方からいろんな音が聞こえてきた。まだ寝ぼけている頭を無理やり覚醒させるように体を起こし、いつもの革靴を履いて部屋を出る。キッチンに向かって水を飲み、パンを一口食べてから玄関に向かって扉を開けた。すると、そこには⋯⋯。
「あら、昨日ぶりね。アリス」
村の人たちにお菓子を売る魔女、ミルクさんの姿があった。
「え、ミルクさん!? 村には来れないんじゃ⋯⋯!」
「そうだったのだけれど、お母様があの村にお仕置きをしてくれたおかげでこうして来られたのよ」
そう言って微笑む彼女は、わたしと話をしながらもどんどんお菓子を売っていた。それに面食らいながらも駆け寄ると、足元から「ワンッ!」という声が聞こえてきた。
「⋯⋯! ソフィ!」
わたしが名前を呼んで抱き上げると、ソフィは嬉しそうにしながら腕の中で暴れ回った。落とさないように頑張って腕の中に押さえ込むように抱きしめると、ずっとその様子を見ていたミルクさんはくすくすと笑ってこちらに歩いてきた。
「やっぱり、ソフィはアリスのことが大好きみたいね」
ミルクさんの言葉に返事をするように、ようやく大人しくなってきたソフィは「ワウンッ!」と鳴いた。そうしてミルクさんと話していると、遠くからお父さんとオリーおじさんが声をかけてきた。
「アリス! と⋯⋯え、魔女様!?」
「おっと⋯⋯もしかして、アリスちゃんが言ってた魔女ってのは⋯⋯」
「うん! このひとがわたしを助けてくれた、お菓子の魔女さんだよ」
オリーおじさんが言い切る前に答えれば、おじさんは納得したように頷いてお父さんの背中を叩いた。
「おいロー、お礼言うなら今だぞ」
「え、あ、そうだな!」
はっとしてぎこちない返事をしたお父さんは一つ咳払いをして、ミルクさんに向き直った。
「初めまして、魔女様。俺は、この子の父親のローラン・メライアです。この度は、娘を助けてくださってありがとうございました」
お父さんが頭を下げると、ミルクさんは少し考えるように頬に手を当ててゆっくり口を開いた。
「そう、貴方が⋯⋯私がこの子を見つけてよかったわね。あのまま迷っていたら、きっと悲惨なことになっていたわよ」
「⋯⋯はい」
「はあ、まあいいわ。それよりもアリス、昨日のパイはもう食べた?」
お父さんに向けた冷たい声が嘘かのように優しい声で話しかけられ、一瞬固まってしまう。しかしすぐに持ち直し、わたしは彼女の問いに答えた。
「はい、あれもすっごく美味しかったです」
「そう、よかった。魔法の効果はいつ頃出たのかしら」
「えっと、飲み込んだらすぐに瞼が重くなりました」
「なるほどね⋯⋯今更だけど、貴女で実験するようなことをしてごめんなさいね」
「え、や、大丈夫ですよ! 助けてもらったお礼もしたりないくらいですし!」
そんなやりとりを続けていると、腕の中で静かにしていたソフィが急に腕から抜け出して走り出した。驚いて固まっていまっている間にも走り続けていき、やがてソフィは少し遠くに停まっていた大きな荷馬車の前で止まりミルクさんの方に顔を向けた。
「あら、もう売り切れたのね」
それを見た彼女はそう呟き、荷馬車の方へと歩いていく。それを追いかけながら、私はミルクさんに問いかけた。
「あの、ソフィは何を⋯⋯?」
「今日売る予定の商品が完売したことを教えてくれたのよ。あの子には普段伝達係を任せているから、今回もちゃんと仕事をこなせたわね」
ミルクさんが褒めながらソフィを撫でると、ソフィは心なしかキリッとした顔で胸を張っていた。
やがて彼女はソフィから手を離し、今度は荷台に繋がれた馬を撫でてから荷台の先頭にある座席へと乗り込んだ。
「さて⋯⋯短い間だったけれど、会えてよかったわ」
「え⋯⋯もう、行っちゃうんですか?」
思わずそう聞くと、ミルクさんは「そうよ」と言いながら手綱を握った。
「今日から長い時間をかけて、お母様のいる世界樹まで行くの。ついでに、他の国で私のお菓子を売るつもり」
世界樹。それは、この世にいる魔女の全ての生みの親である『創造の魔女』が住んでいる、世界の中心でもある大木のことだ。ミルクさんがお母様と呼んでいるように、全ての魔女は創造の魔女を母と呼ぶのだと、お父さんが話してくれたのを覚えている。
「それじゃあ、また会えるといいわね」
その言葉を合図に、彼女が手綱を動かして荷馬車が動き出す。わたしはなぜかそれに焦りを覚え、思わず追いかけようとした。しかし、一歩足を前に出す直前で踏みとどまる。
そうだ、どうして追いかける必要があるんだ。ついていく意味が見当たらないし、また迷惑をかけることになるなんてダメだ。
そう思い直したわたしは、軽く頭を振ってお父さんたちのところへ行こうとした。
しかし⋯⋯そんなわたしの足元から、甲高い犬の鳴き声が聞こえてきた。
「⋯⋯!? ソフィ!? どうしてここにいるの!?」
わたしが聞いても、ソフィは首を傾げてこちらを見つめてくるだけだ。急いでソフィを抱き上げて、ミルクさんの荷馬車が向かっていった方に視線を向ける。幸いにも、今なら走れば追いつくことができそうだ。
そう思って走り出すと同時に、荷馬車の動きが止まってミルクさんが降りてきた。彼女はわたしの方を見ると、呆れたような表情でこちらに歩いてきた。
「⋯⋯ごめんなさい、まさかソフィが乗っていなかったなんて」
「いえ、気づけてよかったです」
そう返しながらソフィを渡し、また彼女が戻ろうとすると⋯⋯わたしは、無意識に声を出していた。
「ミルクさん」
「ん? なあに、アリス」
「⋯⋯わたし、ミルクさんの旅に、ついていきたいんです」
それを口にした瞬間、わたしは両手で口を塞いだ。今、わたしはなんて言っていた⋯⋯!?
ちら、と彼女の様子を伺うと、やはりだいぶ驚いたようでまんまるな目を大きく見開いていた。
「やっ、あの、ごめんなさい⋯⋯! 違うんです、元々わたし他の国に行ってみたいなって思ってて、こういうタイミングじゃないともう行く機会がなくなりそうだと思っちゃって⋯⋯!」
焦りすぎて口走った言葉を、頭の片隅で受け止める。
ああ、そうだった。小さい頃に見た、お父さんとお母さんの日記で見た外国の景色を、自分の目で見ることをずっと夢見ていたんだ。⋯⋯どうして、忘れていたんだろう。
「⋯⋯ダメよ」
自分の夢を思い出した直後、静かな否定が耳に届いた。その声の主である魔女を見ると、彼女は何度も見た困っている笑顔を浮かべていた。
「そういうのは、貴女のお父さんに確認を取ってから言うものよ。それに、危険がないわけじゃないから尚更子供を連れていくのは⋯⋯」
「俺は、全然行ってくれていいと思っていますよ」
突然上から声が降ってきて反射的にそちらを見ると、いつの間にかわたしの後ろにお父さんが立っていた。驚いているわたしとミルクさんを横目に、お父さんは話し続ける。
「アリスには、いろんな世界を見てもらいたいと思ってるんですよ。でも今の俺じゃあ、国付近までしか連れてってやれないんです。魔女様、俺からもお願いします。アリスに、いろんな世界を見せてやってくれませんか」
「⋯⋯そうやって一人にしたから、彼女は迷子になったのよ? それが国なんて規模になったら、どうなってしまうか想像して⋯⋯」
「でも、今回は魔女様がいるじゃないですか」
お父さんの言葉を聞いたミルクさんは、一瞬固まってから大きなため息をついた。そしてとんがり帽子を被り直しながら「分かったわよ」と言った。
「どうせこれで最後だし、連れていってあげるわ。その代わり、私の仕事の手伝いをたくさんしてもらうから。⋯⋯いいわね、アリス」
「⋯⋯! は、はい! ありがとうございます!」
わたしの返事を聞いたミルクさんは、また困ったように笑った。
体調不良のため、投稿が遅れております。申し訳ありません