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第九話 二度目の入学式


 僕たち四人は大宮司の推薦で神宮枠と呼ばれる雲丹母俱(うにもぐ)神宮の神職になる者の入学枠で推薦入学させてもらえることになった。

世界一の名門校である常陸国工業高等専門学校の入学年齢制限は18歳で受験組は数年遅れて入学してくる生徒が珍しくない、むしろ16歳までに入学できる生徒は半分推薦組だって言われているそうなので、僕たち四人の表向きの設定は神宮の聖域で育った孤児で大宮司の娘である時子さんの従者という扱いになっている。僕たちの年齢は時子様の従者として入学時期を合わせたことにして僕は17歳で高校一年生になった、年長の絵里奈は本当は19歳になってるんだけど18歳ということにしている、もともと大人っぽいので誤差の範囲だと思う。

佐竹、久保田、北城の苗字は三大公家の人間以外が名乗ることは禁忌なので三人は前の世界の偽名を使って名取桃、寿々代絵里奈、川崎葵を名乗ることにした。


僕たちの目的は伝説のスパイ家族と接触することだ。

僕は同じ学校で人生二度目の入学式を体験することになった。

入学式で校長先生が訓示を述べていた

「我が校は世界最高学府であり、家柄による評価は一切行いません、純粋に成績を評価します」

「高貴なる者も、卑しき者も全て平等に扱うのが我が校の決まりです」

「特に推薦入学組の皆さん、家柄だけで入ってきた無能と呼ばれないように勉学に励んでください」

「我が校は三大公家の者であっても平等に扱います、成績に家柄加点はありません」

「家柄だけで満点が欲しい人はすぐに転校してください…」


校長先生が容赦なく家柄しか能のない生徒をぶった切ってきた。そうか、この発言のおかげで戦後も生き残ることが出来たのかと納得した。

それでも、やっぱり家柄社会なのか、制服の胸には家紋が刺繍され、どこの家の者なのか一目でわかるようになっている。

僕たちの制服には雲丹母俱(うにもぐ)神宮の霊獣雲丹母俱(うにもぐ)をデフォルメしたモルカーみたいなマークが刺繍されている。


入学して違和感を感じたのは、髪の毛を派手に染めている生徒が何人もいる。ピンク色に染めている子がスパイの娘、薔薇園恵麻(ばらそのえま)ことエマ・ローゼンベルグだとわかった。

この世界ではピンクや青なんかの実在しない髪色に染めるのは歌舞伎染めと呼ぶらしく、歌舞伎役者が染めていたことに由来するらしい。


さっそく、入学初日からイジメが始まっていた。

なんか偉そうなやつが「フン、南蛮人が同級生かよ」と嫌味そうに言っていた「おまえ、ピンクに染めてるけど本当は金髪なんだろ、やーい、劣等人種」

伝記によれば入学初日にイジメにあったところを助けてくれたクラスメイトがいたはずで、その人が後の彼女に影響を与えているはずなんだけど、伝記には名前が書いてなかったんだよな。


歴史通りならここで助けが入るはずなんだけど、と思って見ていたら、

「黙りなさい!」桃が大声で怒鳴りつけていた。

ちょっと、桃さん、ここで僕たちがでしゃばっちゃダメでしょう、と思ったけど手遅れだった。

「ケッ、なんだよお前、俺は佐竹大公家の縁者だぞ、神宮の威を借りる雌猿が」とどっちが威を借りてるのかわからない言い返しをしてきた。

桃は家紋と名札をみると「ほう、畠山君、貴方は佐竹大公様の縁者ですか、関ケ原の合戦で遅参して録を減らされたお家が血縁とは存じませんでした」とマウントを取るように聞き返してきた。

畠山は「おまえ、畠山流金棒術で頭カチ割るぞ!」と脅してきた。

桃は見下ろすように「あら、慶応の御前試合でボロ負けした金棒で頭カチ割られるんですか、恐ろしいですわ」とまるで女王のような威圧感で心を踏み潰しにかかっていた。

畠山君、言えないけど桃は宗家の姫様なんだよ、勝てる相手じゃないんだよ。

僕は本物の格の違いと言うやつを見せつけられて腰が引けていた…


「神社のメスざるがぁ、」畠山は怒り狂って桃に殴りかかってきた、この世界って暴力の閾値が低すぎない?

その時、イケメンのクラスメイトが畠山を殴り倒した。

畠山は床に倒れ「おまえ、こんなことして」とうろたえながら虚勢を張っていた。

彼は落ち着いた威厳のある声で「君は畠山のどこの家の者ですか、こんど畠山の御頭首様にお会いした時に君の事をお話させていただきます」と風格漂う物言いだった。

畠山は制服の胸に刺繍された家紋と名札を見てうろたえていた。

周りの生徒も困惑したり、うろたえていた。

彼は「僕が同じ教室にいても気づかないところを見ると、取るに足らない末家の者みたいですね」と言い放った。

畠山は「お許しください、ご尊家様」と土下座して泣いていた。


彼はこっちを見ると、桃に向かって「すまなかった、一族の当主になる者として詫びる」と頭を下げた。

「さすが神の前の平等を教える神宮の神職にならんとするお方です、感服いたしました」と再び頭を下げた。

「僕は佐竹宗家当主、佐竹義栄が長子、佐竹崇と申します、どうか良き級友になってください」と三度頭を下げた。


何があっても動じない度胸の塊みたいな桃が固まっていた。


僕たちはすかさず薔薇園恵麻(ばらそのえま)をフォローして慰めた。とりあえず、友達作戦は成功したのかな?

名門校の人間関係は予想以上に悪かった、家柄マウントなんて日常茶飯事で常に相手より優位に立とうとする、悪い意味での階級社会だった。

桃が畠山の心を踏み潰したのを見たスクールカースト底辺層のクラスメイトは桃を頼りにするようになっていた。

恵麻は桃になついている、実年齢も設定年齢も一歳年上なので同級生なのに桃姉さまと呼ばれている。

本当に世が世なら実力で姫として統治者になってもおかしくなかったんだなと格の違いを見せつけられた。

なお、畠山君は入学三日目に転校していった。

絵里奈は勉強が得意で成績上位争いをするほどだった。

葵は演技力であざとく男を振り回していた。

大宮司の娘である時子さん相手に家柄マウントを取ってくる人はいないけど、時子は家柄が高い人たちに平等を説いては煙たがられていた。

やっぱり、この世界で人間平等は社会常識から外れた宗教思想なんだと痛感した。


 僕は恵麻と仲良くなろうとしてるけど、桃の付属品扱いされているだけだった。勉強についていくのがやっとで、赤点回避に必死になっていた…

クラスメイトが「坂東君、美少女四人に囲まれてうらやましいぞ」と絡んできたけど「僕は神職として生涯童貞を誓った身です、彼女たちも生涯処女です」と言って誤魔化していた。

ついこの前まで妊娠させようとしていた事は秘密だった。

なんか、このままだと本当に生涯インポ童貞になってしまう。


 桃は言い寄られて困っていた、佐竹崇は佐竹大公家の次期当主になる事が確約された嫡男で、前の世界では佐竹大公家最後の当主になった人である。

そして、桃の実の父親だった…

桃は父親が五十を超えてから生まれた最後の子供なので母親はまだ生まれていないはず。

生涯処女を誓った神職になる身だと言って断っているけどしつこいらしく、どうやら桃は自分の父親に惚れられてしまったらしい…

実の娘だとは言えないし、言っても無駄だと思う…


地球上に戦争している国は無く、日本は世界一豊かで強い大国として君臨し、だれも5年後には幕府が滅亡しているなんて考えてもいない平和な時代だった。



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