第七話 隠し本殿の秘神体
校長先生に頼んで僕が受験した入試から夏休み前までのテストまで僕の記録をあるだけ持ってきてもらった。
記憶にない自分が受けたテストを見て確信した、夏休み前の僕、明らかに夏休み明けの僕より成績がいい…
一学期末の試験とかどう思い出しても僕が受けたテストと内容が違う。
明らかに夏休み前の僕は別人だった。
僕は久保田と北城が話していた時間理論と設計図を検証して一つの結論にたどり着いた。僕の推論が正しければ、二人が作ったタイムマシーンは460年たった今もどこかに現存している。それも朽ち果てた残骸とかじゃなくて、形を保っていなければならない。
そして、久保田と北城が僕に美少女ハーレムをプレゼントしたのは純粋な善意や謝意ではなく、自分達が改変した歴史を維持するために必要な処置だったんじゃないだろうか?
そして、二人が僕を現代に残して連れて行かなかったのも説明が付きそうな気がしてきた。
問題はタイムマシーンが現存していると仮定して、どこにあるかだった。
僕は材料集めと並行してタイムマシーン探しをお願いした。
その間、ずっと同じ部屋で軟禁状態の桃と絵里奈と葵は全裸で僕の周りをうろうろしている、僕も全裸になれと服をはぎ取られた。
桃と葵はともかく、最初は真っ赤になって恥ずかしがっていた絵里奈も一週間もするとすっかり裸を見られることに慣れてしまったようで「弟がいる人はこんな感じなんでしょうか」と言い出す始末。
大きな布団に四人で一緒に寝てると抱き着いてきた桃に「初めて私が夜伽をお願いして抱き着いた時はあんなに大きくしてたじゃない」と逆切れされた。
「初めての時と桃さんと人格変わってません?」と聞いたら「あれは幕臣の前での姫としての顔よ、今の私が素なの」と切れ散らかされたので「だいたい、桃が三日で出ていったから悪いんじゃないか」と言い返したら「ゴメン、あの時は本当に処女を捧げるべき相手なのか迷ってた、だから素の私を見せられなくて姫の顔してた」と本音を言われてしまい僕も自分が悪かった気がしてそれ以上言えなかった。
最近は僕が風呂に入ると皆で一緒に入ってくるようになったけど、完全に裸族生活なのでメリハリがない。
葵は下の毛の手入れを手伝って欲しいと僕に自分で見えない場所の毛を剃らせるんだけど、女の子の尻に毛が生えていた事実にかなりガッカリしてしまい、目の前にある物に対して劣情のようなものが湧いてこなくなった。
逆に葵は尻毛剃ってるの私だけ?桃ちゃんも絵里奈ちゃんも尻毛剃らないのって驚いて僕に三人の尻毛検分をさせた、僕も女性の秘密の個人差に驚いてガックリしているよ。
ある日、四人で一緒に大きな布団で寝ていると夜中に激痛を感じて目が覚めた、絵里奈が僕のキ〇タ〇を握っていた、寝ているスキにヤルつもりだったらしいけど、そこが潰れたら子作りできなくなるからヤメテと泣きを入れた。
当然なんだけど、三人とも男性経験ゼロなんで、男の僕から動いてくれないと具体的にナニをどうしたらいいのか分からない言われたんだけど、僕も女性経験ゼロなんでわかりません…
何というか、すっかり見慣れてしまい、刺激にも慣れてしまい、もしかして、子供の時から姉と妹が三人いる男ってこんな感じになるのかな?
僕はなんか付き合う距離感がおかしくて、女性との距離感が良くわからなくなってきた。
チートでハーレムを作った悪影響で機能不全を起こしている気がしている。
タイムマシーン作りも子作りも一歩も前に進んでいない。
なんだっけ、ネットのジョークで「セックスしないと出られない部屋」に魔王と勇者とかセックスできない関係の人を閉じ込めると永遠に出られない封印になるとか真面目に考える話があったっけ。
もしかして、僕はココに封印されてしまうのか?
ヤバイ、なんだか心が病んできた気がしてきた…
地下室にこもって進展がないまま時間ばかりが過ぎていく、入手困難な燃料やエンジンオイルに自動車の部品なんか少し集まった、幸いにしてエンジン関係の部品の規格は前の世界と同じだった。
というより、あの二人が前の世界の規格表をもちこんでそのまま作らせたからなんだろうけど。
このままだと自動車一台作れてもタイムマシーンにはならない。
タイムマシーンを探してほしいと頼まれてもどこをどうやって探したらいいのか見当がつかないと言われてしまい進展がない、タイムマシーンの存在を知っている人は誰も見つからなかった。
僕はふと思いついた。
「桃、絵里奈、葵、ちょっと教えて欲しいことがある」
三人が集まってきた「なに、なんですか、どうしたの」
「久保田と北城の両大公は雷と共に霊獣に乗って現れたそうだけど、その霊獣雲丹母俱はその後どうなったんだ?」
物知りな絵里奈は「天正の時代に神社が建てられて雲丹母俱神宮の御神体になって祭られたはずです」と言った。
桃は「戦後にGHQが草木一本残さず破壊して今は立ち入り禁止の更地のはずよ」と言った。
葵も続いて「そう、そう、御神体だった雲丹母俱様も破壊されちゃったはずだよ」
僕は自分の理論が間違いだったのかと自信が無くなってきた。
桃は「たしか、ここの資料庫に焚書を逃れた雲丹母俱神宮の写真集があったはず」と言って探してきてくれた。
そこに載っていたご神体は木造のモルカーみたいなデフォルメされたトラックだった、大きさも明らかに小さいし、どう見ても久保田が乗っていたウニモグじゃない。
僕はこの写真そっくりな物に見覚えがあった、歴史改変された初日に雲丹母俱神宮の跡地前で出会ったおばあさんからもらったぬいぐるみだ。
僕はカバンの底で潰れていた小さなぬいぐるみを出した、確かに写真の御神体にそっくりだった。
そうだ、おばあさんは子供のころ神社の巫女をしていたと言っていた。
手がかりが見つかったかもしれない、僕は幕臣の人に頼んだ。
「雲丹母俱神宮の跡地前でこれと同じぬいぐるみを売っているおばあさんを連れて来てください」
深夜の学校におばあさんと50代半ばぐらいの男性がやってきた。
老婆は「私は雲丹母俱神宮の巫女だった榊時子と申します」初老の男性は「私は雲丹母俱神宮の神宮衛士長だった近衛権之兵衛の息子で近衛守と申します」と自己紹介した。
事情を話すと二人は雲丹母俱神宮には秘密の御神体を隠してある隠し本殿があり、自分達はその管理人として長年守ってきたと教えてくれた。
言い伝えでは永禄5年から460年後まで守るように伝えられていた、ちょうど今年が460年目にあたるので、最後のお役目になるのかと思っていたそうで、引き取り手が現れたことを天啓だと思ってくれた。
時子さんと守さんは僕たちを神宮跡地から西へ向かった山の中腹にある洞窟に案内した。
そこが雲丹母俱神宮の隠し本殿だった。
ここには400年以上前から秘密のご神体、霊獣雲丹母俱が保存されていた。
あの日、二人が乗って過去へ行ったトラックだった。
保存状態は思っていた以上に良い、神職に伝わる秘儀といって年二回のメンテナンスを欠かさないようにしていたそうだ。
しかも、外観にも中にも錆らしい物が見当たらない、460年も経過しているとは思えないほど良好な状態だ。
時子さんは「雲丹母俱様が錆びないようにずっと秘伝の清めの塩を欠かしませんでした」と神殿の四隅にある小皿に盛られた白い粉を指さした。
僕は「秘伝の清めのしおじゃなくて清めのえん?」と聞き返した。
はい、これが秘伝の清めの塩の製法ですと守さんが古文書を出してきた。
秘伝書には「ジシクロヘキシルアミン亜硝酸塩」と書かれていた、これって気化防錆剤じゃないか、確かに錆びないわ…
これは確かに化学的には「しお」じゃなくて「えん」で間違いない…
意外なほど科学的な神職だったことに驚いた。
僕の仮説通り、久保田と北城はタイムマシーンを動態保存していた。
そして、タイムマシーンの存在を自分たちの子孫である三大公家に伝えずに独立した神社に管理させていた理由もなんとなく推測できる。
自分達がタイムワープした未来の時間になるまで誰かに使われては困るからだ。
僕は時子さんと守さんに手伝ってもらってウニモグのメンテナンスを始めた。
燃料やエンジンオイルを補充して、バッテリーやパッキングなど経年劣化で使えなくなった部品を交換した。
ウニモグのコンピューターを起動しようとしてみたけど、動かない。
バッテリーの電圧はあるし、電気は流れているんだけど、コンピューターのどこが悪いのかわからない。
460年も経過した半導体なんて世界初だろうし、いくら保存状態が良かったと言っても経年劣化に耐えれななかったんだろうか?
三大公家の家老がやってきて、タイムマシーンの完成をせかしてきた。
幕臣達がいろいろと動き回ってご禁制の品の密輸などで逮捕者が出て秘密を守るのが難しくなってきたらしい。
幸いにして、代わりのコンピューターとソフトウエアならここにある、僕のノートパソコンをつないて起動してみた。
僕たちはついにタイムマシーンの再起動に成功した。
僕は永禄5年に戻って久保田と北城を止めたかったけど、家老や幕臣達は戦争が始まる前にいって原爆を阻止するように主張したので目の前でコンピューターの設定値を55年前に設定した。
後で動かす直前にコッソリ変えるつもりだった。
時子さんは手紙を僕に手渡した。
大宮司だった亡き父と神宮衛士長に宛てた物で、戦後に自分達がどうなったのか記してあるから、これを過去の父上様に渡せば協力してもらえるはずだと。
守さんは凝った飾りのついた短刀をくれた神宮衛士長だった亡き父の形見で、これを見せれば未来から来た証拠になると。
僕は申し訳ないと思いつつも、渡せない手紙と短刀を受け取って懐にしまった。
僕が久保田と北城を止めれば、渡すべき相手も、時子さんと守さんも存在しなかった世界になるんだから…
すでに夜遅い時間になっていた、日の出と共に過去へ行くことにして、僕たちは日の出まで睡眠を取ることにした、皆が寝ている隙にこっそり設定値を変えて永禄五年へ行くつもりだから。
その時、外で銃声が何発も鳴り響いた。慌てた顔で見張りの人が駆け込んできた
「GHQに見つかりました、軍隊が来ています!」
北城の家老が「幕臣たち全員で食い止めます、今すぐ過去へ行ってください」と叫んで外へ飛び出していった。
これが最初で最後のチャンスになる、僕たち四人はウニモグに乗り込んでこのまま過去へ行くしかなくなった。
あのバカ二人を殴り倒してでも歴史改変をやめさせる、始動するとウニモグのエンジンは大きくうなりを上げた。
タイムワープするためにはコンデンサーにチャージして一定の運動エネルギーとベクトルを保ちながら時間移動装置を起動させる必要がある。
コンデンサーの容量がゼロなのでチャージに時間がかかるし、ここは狭すぎて必要な助走距離がない、障害物の無い直線道路に出る必要がある。
僕はアクセルを踏み込むと隠し本殿から飛び出した、このままエンジン全開で発電機を回してチャージしながら車道に出てタイムワープに突入するしかない。
真っ暗な山道を駆け下りていくとアメリカ軍の兵士が道をふさいでいた。
兵士がこちらに銃を向けた瞬間、ビキニアーマーの女戦士が鋼の剣を振り下ろして兵士が切り倒された。
着物姿の女性が日本刀を振り回している姿が見えた。
川崎一座の皆だった。
次々と兵士が切り倒される中、マシンガンの銃声が響いた。
「葵姫様、川崎一座最後の公演でございます、お幸せにおなり下さぃ…」と座長の叫び声が聞こえてきた。
葵は走り抜けるウニモグの後ろで暗闇に溶けていく一座を涙を流しながら無言で凝視していた。
悪路に強いウニモグは豪快に山を駆け下りた。
周囲では銃声が鳴り響き、暗闇で銃の発光が点滅している。
ろくな武器もない幕臣たちが命を捨てて抵抗している。
僕は無免許運転もお構いなしにウニモグを走らせた、コンピューターの設定を変えたいけど、慣れない運転だけで手一杯で止まらないと無理だ、
銃弾が飛び交う中、山を下ったウニモグは鉄条網を突き破ると神宮があった更地へ突入した。
そして、広い神宮跡地を疾走しながらチャージが完了した。
これが最初で最後のチャンス、僕は時間移動装置の起動ボタンを押した。
その瞬間、周囲が雷に包まれ、視界が反転してどこの世界でもない光の道へ突入した。