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第五話 秘密基地

 三人の姫がそろったところで幕臣の中でも秘中の秘を知る重臣たちが集まって秘密会議を開くことになった。

今の幕府はGHQに見つからないように半世紀あまり生き延びてきた秘密結社だけに秘密の集会所があるらしい。


 桃が放課後に学校に迎えに行くと言っていたので、僕はいつも通り学校に登校した。

朝礼で先生が今日は午後から講堂で演劇鑑賞があります。

そして、今日の給食は特別にマグロの油漬けが入りますと伝えるとクラス中が「うおー、やったー、魚なんて久しぶりだ」と沸き上がった。

後ろの席の前田が「おい、坂東、聞いたか、俺この学校に入って良かったよ、ここの給食うまいからなあ」と嬉しさのあまり僕の背中をバンバン叩いてきた。

マグロの油漬けが不味い蕎麦粥に入るだけでコレだよ、僕はこの学校の給食がアレでも平均より上だって事実に辛くなってきた。


 夏休みが明けて3週間だってのに授業の難易度が格段にあがったような気がして勉強についていくのが辛くなってきた、このままテストに突入したら赤点回避できる自信がなくなってきた…

昼になり不味いけど、それでも普段よりマシな給食を食べると僕たちは講堂に移動した。

僕はこの世界になってからまだ3週間ぐらいしか記憶がない、夏休み前は普通に売店でコロッケパンとか唐揚げ弁当を買って食べていた記憶しかないんだけど、他のクラスメイトは入学した時からアレなんだよな…


講堂に全校生徒が集まると校長が挨拶を始めた。

「我が常陸国工業高等専門学校は天正元年(1573)に設立された日本で最も古い学校であるだけでなく、世界的にも近代学校の始祖と呼ばれる文化遺産であります」

「昔は首都だった茨城にありながらアメリカ軍が文化的価値を尊重して攻撃目標からはずしてくれました、おかげで民主的な戦後教育の中心地となることができ…」


僕は驚いた、この学校ってまだ創立40年ぐらいじゃなかったっけ?

茨城が首都だったの?

歴史改変に驚くのはいまさらだけど、学校の名前も校舎の構造も歴史改変前と同じなのは偶然なんだろうか?


「…校舎も講堂も天正元年(てんしょうがんねん)に今と同じ形に作られた時は信じられない大きさだと驚かれたそうですが、現代では一般的な学校の形となりました」

「我が校こそ日本のみならず世界の学校の始まりと言える名門校です、皆さんも自覚をもって学業に励んでください」


僕は全力で声に出さないように堪えながら驚いた。

えぇぇぇ、この学校って超名門校だったのぉ!!!

そうか、学校の形が変わってないんじゃなくて、あいつらが現代と同じ形の学校を作ったからコレが学校の標準形になってるのか。

授業についていけなくなったのって歴史改変前より偏差値が爆上がりしてるせい?

そうすると、僕はどうやって入試に合格したんだろう?

まさかタイムパラドックスを利用した不正入学になるのか?

なんか、卒業できるのか不安になってきた…


校長の話が終わると幕が上がって演劇が始まった。


演目は孤児の少女がスパイに引き取られ暗殺拳の使い手の母役の女とニセモノの家族になり日本から機密文書を盗み出す為に日本の学校に通うスパイものだった。

これって学校でやる話なのかって気がするけどいいのかな?

演じていたのは川崎一座で葵が主演だった、意外と演技力が高くて見事に孤児の少女を演じていた。

スパイのお父さん役は座長で暗殺拳使いのお母さんを巨乳ビキニのお姉さんが演じている。

意外といい話で地味に感動した。


 放課後になれば桃が迎えに来ると言ってたので校門でまってるとリヤカーを引いたおじさんと後ろから押している桃がやってきた。

絵里奈もスーツ姿で背広姿の初老の男性と一緒に歩いてきている。

絵里奈は僕を見つけると「バイトの坂東君、いまから搬入の仕事手伝ってください」と声をかけてきた。

僕は「はい、お願いしますマネージャーさん」と返事をした。

よくみるとリヤカーを引いている人はこの前、ウチに来た幕臣の大工さんだ、どう見ても日雇い仕事で荷物運びをしているようにしか見えない。

これから商品の搬入という体裁で秘密基地に向かうんだとわかった。

行先は先頭のおじさんに任せておけば大丈夫ってことなんだなと思い、僕は桃と一緒に荷物が満載されたリヤカーを後ろから押した。

リヤカーの進む先は…

校内?


学校の裏にある給食室に向かっていた。

給食室に到着すると絵里奈は「バイト君、荷物を奥に運んでください」と指示を出してきた。

給食室の奥には校長先生がいた、背広の人と名刺交換している、この人が絵里奈の父親役の社長なんだとわかった。

僕とおじさんと桃は言われた通りに荷物をかついだ、ここからどうやって秘密基地に行くのか見当がつかない。

給食のオバサンが「その箱、地下倉庫に入れて」と言ってきた。

僕たちは箱を冷たい地下室へ運び込んだ、これって完全にタダのバイトじゃない?

最後の箱を地下室に運ぶと、校長先生が階段を下りてきた。

校長先生が給食のオバサンに合図すると、地下室の扉が閉められて外から施錠された。

その瞬間、スーッと地面が下がって天井が高くなっていく不思議な現象が起きた。

しばらく下がると壁に扉が現れた、この部屋自体がエレベーターなんだ。

そうか、この世界は食料泥棒が深刻な問題だから地下室に厳重に鍵をかけて立ち入り制限しても怪しまれない。


秘密の会議場は僕が通っている学校の地下にあった。


 奥へ歩きながら校長先生が僕に向かって説明を始めた

「この学校はGHQから国から独立していた事が認められ、文化財的価値からも戦後も自治が認められ存続した」

「どこの政府機関にも支配されない高い独立性を持ち、どの大公家に対しても公正中立な人材を育成する学校だった事が評価されたからだ」

「そして、この学校は三大公家の中でも上の人間しか知らない秘密基地と言うわけだよ坂東君」


奥の部屋へ入ると葵と川崎一座の座長が先にいた、演劇に呼ばれた名目で学校に入ったわけだ。

葵はすでに奇麗な服に着替えて化粧もしている。

大工のおじさんと桃は奥の部屋で自分が運んできた箱から着替えを取り出して着替え始めた。

絵里奈と社長も別の部屋で着替え始めた。


校長先生は準備が出来るまで僕に説明してくれた

「三大公家が争えば幕府は崩壊する、だから三大公家には争いを禁じる厳格な掟がある」

「しかし、人間が三人集まって争いごとが一切起きないはずがない」

「そこで、三大公家の間に争いごとが起きた時に極秘裏に裁く秘密裁判所が設置され、表では絶対に争わない体裁を保ち続けた」

「ここが秘密裁判所というわけだよ」

「三大公家に対して中立を保つために高い独立性を保ってきたことが幸いしてGHQの目を逃れた」

「この学校の校長は初代からずっと秘密裁判所の裁判長を務めていた」

「そして、私は君に関する秘伝の管理者でもある、分かったかね坂東君」と学校の先生の口調で話してくれた。


僕は自分の学校の信じられない秘密に驚いたけど、よく考えてみると学校を秘密裁判所にしたのは久保田と北城の二人だよな。

あいつらにも愛校精神みたいなものがあったんだな。


 秘密の地下室で僕の前には三人の姫を擁立する三人の家老が集まっていた。

ウチに来ていた大工さんが佐竹の家老だった、今は正装して別人みたいに見えるというより大工の姿が変装なんだろうけど、今にして思えば桃と僕を見に来てたんだな。

久保田の家老は絵里奈の育ての親、寿々代(すずしろ)商会の社長。

北城の家老は川崎一座の座長さんだ。

家老の背後には三人の姫が座っている、そして僕の隣には校長先生が座っている。


校長先生が宣言した「三大公家の皆様、天正元年よりの取り決めに従い常陸国工業高等専門学校校長である花崎馨が議長を務めさせていただきます」

「本日お集まりいただいた議題は三大公家に先祖代々伝えられてきた秘伝についてです」


「永禄5年より444年の後の6月6日に常陸国で生まれた坂東太郎が17歳になった時、三大公家の美しい姫を持参金付きで嫁がせよ」


「皆様方、初めにこの少年が秘伝に伝わる坂東太郎様に間違いございませんか、異議はございませんか」

家老と姫の6人全員が「異議なし」と答えた。

「秘伝の御姿絵と比べ違いなき事、花崎も確認いたしました」


「三大公家の三人の姫を正室とせよと記されております、異議はございませんか」

家老と姫の6人全員が「異議なし」と答えた。


校長先生は僕の方へ向きを変えると

「坂東太郎様、貴方様には幕府再興の秘策があると伺っております」

「幕府再興なった暁には坂東太郎様と三人の姫の間に産まれた子供を三大公家の当主といたします、異議はございませんか」

家老と姫の6人全員が「異議なし」と答えると、校長先生は僕に向かって「坂東太郎様、異議はございませんか」と問い詰めてきた。

僕は具体的な異議が無いので流されて「えっと、そのー、異議ありません」と答えた。


「では、全員異議なしで新たな幕府再興の約定と致します」と校長先生が宣言すると証文を書き始めた。

証文にはここにいる8人全員の署名と血判が押された、血判って地味に痛い…


証文が出来上がると校長先生は僕に向かって「坂東太郎様、幕府再興の秘策をお話しください」と迫ってきた。


僕は三大公家と幕府が親友二人がタイムマシーンを作って無双チートして作った物であることを説明した。

今の時代を生きる人は知らない三大公家の秘密だった。

校長先生も家老の人達も信じられない顔をしていたけど、信じたくなる理由があった。


タイムマシーンこそ、どうあがいても数十年以内に滅亡することが確実な現状を打破できる唯一にして最強の手札だからだ。


根拠が弱くても報酬の大きさが目をくらませて信じさせた。

全員一致で僕たちはタイムマシーンを作ることになった。

話がこじれるんじゃないかと心配していたけど、上手く話がまとまってほっとした。


ところが、本当に話がこじれるのはこれからだった。


 佐竹の家老が「早速ですが当家の桃姫様に子種をお授けください、すぐにでも御屋形様(おやかたさま)御生誕(ごせいたん)いただかなければなりません」と言ってきた。

僕はそうだよね、やっとハーレムができると思った時「お待ちください、当家の葵姫様を先にお願いいたします」と北城の家老が横やりを入れてきた。

そこへ久保田の家老が「何を申します、三人の中で年長者である当家の絵里奈姫様こそ先にしていただきたい」と異議を申し立ててきた。

「いや、一番若い葵姫様こそ先にしていただくべきです」と北城の家老も言い返した。

久保田の家老も負けまいと「そもそも、幕府滅亡の原因は北城の対米政策の失敗でございましょう、当家の姫より先などありえません」と怒り気味になってきた。

「なにをおっしゃる、久保田が共産主義を抑え込むのに失敗したせいで東西二正面作戦になったせいでしょう、アメリカ一国が敵なら北城は負けませんでした」と北城の家老も怒鳴り気味になってきた。

そこへ佐竹の家老が「まずは内政が第一でございます、内を収める佐竹の当主こそ先に産まれるべきです」と割り込んできた。


僕は何を争っているのか、やっとわかった、三人の異母兄弟が三大公家の当主になるということは、誰が長男で次男で三男になるか、兄弟の年功序列が権力問題に直結しているからだ。

表で三大公家が争う事は絶対に禁忌だけど、逆に言えばここだけは三大公家が争うことが出来る唯一の場所なんだ。


 僕は重大な、致命的な問題に気が付いた、三大公家は仲が良くないんだ。

今はお互いの利害が一致した弱者の集まりだから何とかなってるけど、このまま幕府が再建すれば権力闘争が始まるのは目に見えている。

無双チートされた世界は当人が生きている時代は良くても時間が立てばチートによって壊れたゲームバランスが致命的な破綻を起こす歪んだ世界になっていた。

今の時代は400年貯め込んだ爆弾が爆発して廃墟になった状態だ、この世界は不正改造で壊れたゲームの世界みたいにパラメーターがバグっている。


そのとき、三人が「やめて!!!」と叫んだ。


桃が「順番は太郎様に決めて頂きます」と言うと絵里奈と葵が「異議なし」と続いた。

全員の目が僕に集まった。僕に決定権があるのは当然なんだろうけど、誰を選んでも地獄絵図しか見えない…


僕は校長先生に助けを求めたら、校長先生も困ったようで事態を投げてきた。

「子作りという物は一回の行為で成るとは限りません、授かるまでに複数回、数日を要する物です」

「では本日より坂東太郎様には三人の姫と同居していただき、坂東太郎様が選んだ順番で子種を授けて頂きます、異議はございませんか」


6人はコレ以外に落としどころが無いことを悟り「異議なし」と叫んだ…

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― 新着の感想 ―
[良い点] 実際の日本でも冷戦がなければこうなっていたかもしれなかったのか(ハーレムはともかく) [気になる点] 「昔は首都だった茨木にありながら〜←茨城、かな? 茨木が首都になったら松下のテレビ工…
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