第四話 三人目の姫
僕は絵里奈から今日、三人目の姫が来ると言われ、出迎えるために寿々代海産物店でアルバイトをしている。
約束の時間が近づくと町の通りの向こうから音楽が聞こえてきた。
チン、ドン、シャン、ピーヒャラ、ピーヒャラ、ジャカジャカ
店の外に出ると陽気に和楽器を演奏して踊りながらこちらに向かってくる7人組がいた。
ネット動画で見た覚えがある、チンドン屋ってやつだ。
赤いビキニにブーツを履いて羽飾りのついた兜みたいな物をかぶった巨乳の女性が踊りながら先頭を歩いている。
続いて着物姿の青年が「さあ、さあ、みなさん、見てくれ、よっとくれ、寿々代海産物店で大売り出しだよ、やすいよ、うまいよ、お買い得だよ」と口上を述べていた。
その後ろにはピエロみたいな恰好で太鼓と鐘を叩いている青年、ミニスカート姿で笛を吹いている女性、タキシード姿でアコーディオンピアノを演奏している男性、裾の短い着物で三味線を弾いている女性が続いていた。
そして、少年が周りを走り回りながらチラシを配っている。
僕は先頭の女性に目が釘付けになった。街中なのにビキニ姿で踊りながらハリのよさそうなオッパイがプルンプルンしている。
あの人が三人目の姫なのか、スタイル抜群、巨乳揉み放題と邪悪な煩悩で頭がいっぱいになっていた。
絵里奈と桃も音楽を聴いて二階の事務所から降りてきた、巨乳のお姉さんが絵里奈の前にやってくると「マネージャーさん、お呼びにあずかり川崎一座、参上いたしました」とあいさつした。
絵里奈は「お疲れ様です、早速ですが打ち合わせをしたいと思いますので事務所へお上がりください」と事務的に会話を返した。
お互いに大公家の姫だって知ってるんだ、芸人一座と雇い主の会社って偽装関係なんだと納得した。
かなり絞り込まれた良い体をして、きわどいビキニに目が離せなかった、こんな格好で街中を歩くとかヤバイだろう。
桃は美少女だけど少し子供っぽいし、絵里奈はスレンダーすぎて乳が足りなそうだし、セクシーな大人の魅力なら彼女が一番だと思った。
僕と桃と絵里奈に7人の芸人一座が二階の事務所に上がると結構手狭になった。桃は素早く鍵をかけて窓を閉めた。
部屋が閉められたのを確認すると、6人は姫の両側に別れて平伏した。
「我ら6名の幕臣、表向きは姫をお守りするため、芸人に身をやつし川崎一座を名乗っております」
「このお方こそ征東大将軍北城真司の末裔にして北城大公家当主、葵姫にございます」と着物姿の青年が静かに口上を述べた。
僕は残念過ぎる事実にがっくりした。
姫は巨乳のお姉さんじゃなくて、チラシ配りの少年だった…
見た目的には一番残念だったけど「姫が当主なんですか?」と聞いてみると「生き残りは俺一人だけだ」と粗雑に答えた。
喋り方も男みたいと思ったら巨乳のお姉さんが「姫様、今は秘密の場所でございます」と諭した。
「すまない、茜」と臣下に詫びると「失礼いたしました、北城大公家は苛烈な狩にあい、私以外の者はすべて殺されました」と声の調子も口調も変えて「私が北城大公家の現当主にして秘伝の約定に従う姫でございます」と静かに述べた、少年の姿は変装なんだと納得した。
「北城はアメリカ人に恨まられてるからね、酷かったよね」と桃は腕組みしながらうなずいていた。
「よくぞご無事で生き延びられました」と絵里奈は同情していた。
僕は「なんで北城はアメリカ人に憎まれてるの?」と疑問を口にしたら「知らないんだ」と桃に馬鹿にされた。
僕に向かって絵里奈が解説した。
「佐竹は日本の内を守る征夷大将軍」
「久保田は日本の西側を征服する征西大将軍」
「北城は日本の東側を征服する征東大将軍」
「つまり太平洋一帯からアメリカ大陸の太平洋側まで支配を及ぼしていました」
「1775年のアメリカ独立戦争が征東大将軍率いる日英連合軍に粉砕され、1814年に財政難の英国から独立権を買い取り独立を果たして以来、アメリカ人にとって北城大公家を根絶やしにすることは建国前からの悲願だったのです」
この世界で不可解だった幕府解体どころか、三大公の血筋というだけで赤子まで皆殺しにする21世紀の話とは思えない異常なまでの残虐性の原因はソレだったのか…
1775年となると、北城も久保田も生きてないよな、やったのは完全に子孫の世代だ。あいつら、自分達が生きている時代は良くても先のことまで考えてなかったのか、ずっと無双状態が続くと思ってたのかな?
僕が悩んでいると、右手に柔らかい物を感じた、巨乳のお姉さんが僕の手を握っていた。
そして、なんか色っぽい目で僕に訴えかけてきた。
「坂東太郎様、参上するのが遅れてしまい申し訳ございません」
「佐竹と久保田にはすでに子種が宿っていらっしゃるのですか」
「当家はお世継ぎ様がおりません、早く葵姫にも子種をお授けください」
露骨に肉体関係を要求されて困った、しかし、露骨な要求に困ったのは僕よりも桃と絵里奈だった。
桃は焦ったみたいに「まって、順番は私が先」と言い出した。
絵里奈もあせって「桃さんは夜伽をすまされているでしょう、次は私です」と乗り出してきた。
葵はマウントを取るように「もしかして、お二人ともまだ操を捧げていらっしゃらなかった」と言った。
僕は急に三人から熱烈に肉体関係を求められて困惑した。
巨乳のお姉さんは隙ありと見たのか「皆の者、冥土送り」と叫ぶと男性三人の幕臣が布を掲げて目隠しすると、女性三人が影で着替えやメイクを始めた。
1分で着替えが終わると、少年の姿から可愛いフリルのついたミニスカートのメイド服姿になっていた。
葵はスカートのはしをつまむと会釈した
そして、巨乳のお姉さんは「永禄の世より伝わる操を捧げる初夜の正装、冥土服にございます」と言った。
最後に別れてからまだ十日ぐらいしかたってないはずなんだけど、北城がメイド喫茶の常連客だったことを思い出した…
僕があっけにとられていると、チアリーダーみたいなミニスカート姿の女性が「お気に召しませんでしたか、初音や綾波などもございますと言ってコスプレ衣装を出してきた」
よく見ると幕臣6人の服もどこかコスプレっぽい、あれってタキシードっていうよりタキシード仮面?
ビキニのお姉さんもよく見ると剣と盾を持ったらビキニアーマーの戦士じゃないか?
巨乳のお姉さんが再び僕の手を握りしめると「葵姫様との初夜はどのようなコスプレがお望みでございますか」と聞いてきた。
どうやら、この世界には戦国時代からコスプレという概念があるらしい。
そして、僕は重要なことが気になった、この世界にはコスプレの元ネタになった作品が存在しているのだろうか?
僕は巨乳ビキニのお姉さんに「初音や綾波の元になった作品をご存じでしょうか?」と尋ねた。
聞かれた事が嬉しかったみたいで巨乳ビキニのお姉さんが目を輝かせて答えた。
「存じております、あたし十七代目、鳥山茜でございます、安土桃山時代より銅鑼厳倶得巣斗の座を守ってまいりました」
続けてチアリーダー姿の女性も嬉しそうに。
「あたし十九代目初音三久、古より望香炉医奴の座を守ってまいりました、今は亡き庵野屋に代わり新世紀福音戦士の座も受け継いでおります」
ピエロみたいな恰好の人も続かんと言わんばかりに
「それがし、十六代目賀之田玲にござります、願陀夢の座を守ってまいりました、演目でしたら初代より御理仁まで幅広く心得ております」
タキシード姿の男性も負けずと熱く語りだした。
「拙者、月野大地は恥ずかしながら月之水兵の座長をお預かりいたしております、水兵戦士の屋号を継承する娘たちを育てる事が望みでございます」
続けとミニの着物に三味線をかかえた女性も熱く語りだした。
「私は十九代目和付薫を襲名させていただいております、架空の日本を舞台にした流浪剣心の座を預かっております、剣技の舞なら誰にも負けません」
長兄らしい着物姿の男性はうやうやしく
「私、二十二代目宮崎洋二は大公様より風谷乃乙女の座をお預かりしております、いつか上演できる日が来るのを待ち望んでおります」
葵が最後に付け加えた
「この者達は北城大公家から戦国の世より手厚い庇護を受けてきた歌舞伎役者の一族にございます、今は北城大公家より受けた恩顧に報い歌舞伎を復活させるために忠義を尽くしてくれます」
6人は「歌舞伎が禁止され久しいにもかかわらず、お若い坂東太郎様が歌舞伎をご存じとは恐れ入りました」と土下座した。
僕は北城が熱いオタク語りを始めた時みたいな既視感に襲われた。
そうなのか、北城のやつ、戦国時代にアニメを伝えて歌舞伎にしたのか…
この世界だとアニメや漫画が歌舞伎の二次創作になってるのか…
そして、ガンダムは450周年とかきちゃってるわけね…
6人の幕臣は歌舞伎の未来が明るくなったと信じてますます忠義に励んでくれそうだった…
そして、オタク語りに夢中になってしまった葵と6人の幕臣はすっかり初夜の話を忘れてしまったようで、僕の初体験の相手は未だに決まらない…